僕と彼女の七日間

PeDaLu

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【第一夜】

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 ある日、突然、僕に妹ができた。親が再婚したわけでもない。養子をとったのでもない。彼女は最初からそこにいたのだ。
 朝起きると荷物置きに使っていた部屋に名札が掛かっているのに気が付いたのがことの発端だ。
「菜々緒(ななお)の部屋?なんだこれ?」
 開けてみる。
「誰もいないな。でもこれは……」
 ダンボールに入った荷物やらハンガーに掛かった洋服やらが押し込められていたはずの部屋はベッドに机、ラグマットの敷かれたきれいな部屋になっていた。
「母さーん。あれ、なに?模様替えでもしたの?」
 階段を下りながらダイニングに向かって声をかけると予期しなかった返事が返ってきた。
「お兄ちゃん、うるさーい」
 なんだこれは。誰だ。母さんの声にしては幼すぎる。誰かお客さんでも来ているのか?でもお兄ちゃんって言ったよな?
「えっと?その、どちら様で?」
「ひっどい!なにそれ。土曜日の昼過ぎまで寝てると思ったら、どちら様で?」
 ダイニングのイスに座ってリンゴを食べていたその子は生意気な口調で「どちら様で?」と喋っている。
「なによ。リンゴ食べたいの?」
「いや、マジで誰?」
「菜々緒!亮斗(りょうと)兄ちゃんの可愛い妹!もう、何言ってるのさ」
「菜々緒。なるほど。僕はいつの間にか妹持ちになったのか」
「もう、さっきからなんなの?菜々緒がなにかした?なんでそんなに他人行儀なの?へんなの」
 そう言って菜々緒を名乗る僕の妹、は再びリンゴを食べ始めた。
 そんな様子を母さんは何でもないように、お昼ご飯を作っている。父さんは見あたらないから、またゴルフかにかだろう。
 朝ご飯兼用のお昼を食べた後、自分の部屋で何が起きているのか頭を捻っていたらドアがノックされて菜々緒を名乗る僕の妹らしいやつが入ってきた。

「色々と聞きたいことはあると思うけど、まずは私の話を聞いてくれるかな?」
 異論はない。聞くにしても「おまえは誰だ?」位しか聞きようがない。
「まず。私は菜々緒。一応、今は一条菜々緒ってことになってる」
「ことになってるって……」
「そ。なってるの。難しく考えなくても良いから。私は一条菜々緒、お兄ちゃんは一条亮斗」
「名前は分かったけど、そのお兄ちゃんって言うのは?」
「んー、なんか私の方が年下っぽいから?」
「それだけ?」
「そう。それだけ。でね?私がなんなのか、なんだけど。私は案内人です。お兄ちゃん、七日後に死んじゃうんですよ。で、死んでいきなり私が出てきた方がびっくりしちゃうでしょ?だから一週間かけてメンタルフォローも兼ねて、私、菜々緒ちゃんの登場、ってわけ」
「そうなの?もしかして死神、みたいな?」
「あ!信用していないでしょ。本当に死んじゃうんだからね!」
「なにが起きて死ぬの?」
「さあ」
「さあ、って」
「だって、私も知らないし。いつもこんな感じなの。次はあの人ってだけ教えられて来るから」
 目の前の菜々緒を名乗る女の子は、どうやら頭のかわいそうな女の子のようだ。
「あのさ、母さんがなにも反応していなかったのは不思議なんだけど、どうやってこの家に入ってきたの?」
「ん?玄関から?」
「部屋は?」
「昨晩用意したよ?」
「荷物は?」
「一時的に仕舞ってある。はぁ、じゃあ、何をしたら信じてくれるの?」
「そうだな……」
 僕は七日後に死ぬ、そう仮定すると目の前にいる女の子は死神になる?でも普通はそんなの僕以外には見えないものなんじゃ?もしかして母さんには見えていないとか?
「触ってもいい?」
「え……。そういうサービスはないんだけども……」
 なんか汚いものを見るような目で見られている。
「そんなんじゃなくて。手、出して」
 差し出された手を摘まんでみる。暖かい。弾力もある。すべすべしている。
「ちょっと。なんでそんな汚い雑巾を持つような感じなのよ。触りたいのなら触らせてあげるわよ」
 菜々緒ちゃんはそう言って僕の手を両手で包み込んできた。ちょっとびっくりしたけども女の子っぽい感じの手だ。
「あ。もしかして。女の子の手を握るのは初めて、とか?」
 初めてだ。こんなに柔らかいものなんだな。自分の手とは全然違う。
「まぁ、いいわ。で、信じてくれたの?」
「現実に存在している、というのは信じたぞ」
「そ。ありがと。それでね。私は死神じゃなくて、案内人、ね。死んだ人が迷子にならないように案内するの。ちなみに天国とか地獄とかそういう世界はないからね。輪廻天性もないからね」
「じゃあ、死んだ人はどうなるんだ?」
「えーっとね。私みたいに案内人になったり、運命のシナリオを書いたり」
「運命のシナリオ?」
「そう。だからお兄ちゃんの人生も誰かが書いたシナリオ通りになっているのかな。だから、七日後に死ぬって私は知っているの」
「なるほど?ってことはこの後何が起きるのか知ってるってことか」
「ん?知らない。そのシナリオライターが書いた事ってあんまり未来のことじゃないのよ。ただ、結末を決めてから書き始めるルールになっているの。じゃないと案内人が向かえないから」
 どうやら僕のシナリオライターは、あまり長い物語は書けないのか、書くのが面倒くさいのか、兎に角あまり長いものは嫌いなようだ。いや、まてよ?これまでの十七年間書いてくれていたとしたら十分な長編シナリオなんじゃないのか?
「なにをブツブツ言っているのか分からないけども、事情は飲み込めたのかな?お兄ちゃん?」
「そのお兄ちゃん、ってのも僕のシナリオライターの設定なのかい?」
「ん?これは私の設定。ちなみに今は事情を説明するために私のことを、案内人として認識して貰っているけど、この後は、本当に妹にしか感じられなくなるから。だから、聞きたいことは今のウチにね」
「なぁ、そのシナリオっていうのは、操り人形みたいに逆らえないものなのか?」
「基本的にはね。でも亮斗兄ちゃんの事を見てくれているよ。七日後に死んじゃうのは変わらないけど、それまではお兄ちゃんの行動を見ながらアレンジしてくれるともうよ。それが最後の七日間の特権。だから、こうしたいって行動すれば、きっとその通りになると思う。お兄ちゃんの行動だけはね」
「僕だけの行動?」
「そりゃ、相手が居たら、その相手も他のシナリオライターがいるから。思い通りには流石にならないわよ」
 なかなか難しい。というより、自分の思うとおりに行動して、相手がその通りにならないなんて、普通の事じゃないのか。今までの生活と何が違うというのか。
「なぁ、それって普段の生活となにも変わらないんじゃないのか?」
「まぁ、勘のいい人はみんなそう言うわね。でもちょっと考えてみて?今まではあなたのシナリオライターが書いた人生を歩んできたの。だから正確には、自分自身の意志で行動していたことなんて無いのよ?それが本当の自分の意志で行動できるの。これが特権と言わずに何というの」
「そんなこと言ったってなぁ。ちなみに今はシナリオライターの書いた行動なのか?」
「そう。今はね。じゃないと混乱して大騒ぎする人が出るから」
「あー……確かに」
「で!私がこの部屋を出てから、そのシナリオライターからの束縛から解放されるから。準備はいい?」
 準備もなにも。なにを準備すればいいのか分からない。菜々緒ちゃんはそのままこっちを向いたままドアに下がっていって手を振りながら出て行った。
「何か変化は……特にないな。衝動的に行動したいとか。そういうのもないな。出かけてみるか。このまま部屋にいても仕方がない」
 部屋着から着替えていつもの服に手を伸ばそうとしたとき、さっきの話を思い出して、意地悪に手に取る瞬間に別の服を選んでみた。どうだ。シナリオを書く時間なんて無かっただろう。
 結果は、僕の思惑通り。いつもの服じゃなくてとっさに取り出した服になった。までは良いんだけど。
「ダッサ。何この組み合わせ。これが意地悪をした代償なのか。いつもは天のシナリオライター様がコーディネート考えてくれていたのか?だとしたらファッションボキャブラリーの無い奴なんだなきっと。いつも同じものばかり選んでいたし」
 着替えようかと思ったけども、どうせ七日後に死ぬんだ。何の見栄を張るのか、なんて思って階段を下るとリビングに菜々緒が居たので出掛けると声をかけた。
「お兄ちゃん、ダッサ。何その格好。まさかそれで出掛けるの?」
「良いだろ別に。だから今から服を買いに行くんだよ。いつも同じ用な服だし、こんなままってのもアレだし」
 結局、ダサい自分に耐えたれなくて服を買いに行こうと思い立ったわけだ。貯金なんて持っていても仕方がないし。
「それじゃ、お兄ちゃん、私が見立ててあげる。一緒にいってもいい?」
 ふむ。女の子と買い物デートか。それも悪くはない。妹だけども。しばらく、そう言うのはしていない。
「いいぞ。妹様のセンスに期待することにするよ」

 家を出てどこに行こうか迷っている時にふと思った。今までは、こういうのは無かった。買い物に行くときは何も考えずに目的地に向かっていたような。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや。買い物、どこに行こうかな、と思ってさ。どこかおすすめのところあるか?」
 そうして我が妹に連れてこられたのは高級ブティック店。
「こむ?で?なんて読むんだ?」
「ぎゃ・る・そ・ん。知らないの?」
「見たことも聞いたこともない。しかもなんだよあのドアのところにいる店員」
「ドアマン知らないの?ドアの開け閉めしてくれるの。もう、なんか田舎もの丸出しで恥ずかしいからちょっと黙ってて」
 なんと縁のない場所なのか。青山なんて始めてきたぞ。僕の中での青山は紳士服のお店だ。
「そうねぇ……まずは基本を押さえるには……夏だしシャツかな」
 菜々緒はシャツを一枚手にとって広げている。棚、というかガラスのテーブルみたいな商品が並んでいるが、ユニクロみたいに詰み上がっていなくて、菜々緒がとったものも最後の一枚のようだった。
「うーん。おに、ちょっとこっちに来て。うーん……。なんっか違うんだよなぁ。地味」
 菜々緒は手慣れた様子で畳んで棚に戻す。さっき置かれていたときには服の中に隠れていたのだろうか。今は値札のようなものが首のところから出ている。
「は?なんだこれ。八万円?これが?うっそだろ!?」
 試しに隣にあったティーシャツも同じように値札を見てみる。
「は?三万円?ただの布じゃねぇか」
「ねぇ、お兄ちゃん、こっち!」
 今度は長袖の綿シャツのようだ。ってか、穴だらけでボロボロじゃないか。首回りも解れているように見える。
「なんだこれ。洗濯でも失敗したシャツか?」
「は?デザインに決まってるでしょ?早く。こっち」
 鏡の前に連れられてさっきのボロボロシャツを当てられる。これ、下に何か着るのか?
「うん。いいじゃない。色は地味系だけど、デザインが尖ってていい感じ」
 これ持ってて、と手渡されてたそのボロボロシャツ、嫌な予感がして値段を見てみたら五万円。これが五万円。
 結局、そのお店では、そのボロボロシャツだけを買った。そして過剰包装だ。ドアマンのお辞儀も腰が痛くなるんじゃないかってくらいに深々としていた。
「おい、菜々緒。僕が……」
「なに?お兄ちゃんがどうしたの?」
 七日後に僕は死ぬ、と言おうと思ったけども、いきなりそんなこと言うのは変な人だよな。
「いや。こんな高い服、人生で初めて買ったなって思ってさ」
「たまには良いんじゃない?一張羅って必要よ」
 その後も原宿やらを歩き回って頭の先からつま先までのファッションが整った訳で。最後にパンツを買ったお店の試着室で一式を身にまとい、買った靴を履いて新しい自分に変身。
「な、なぁ、これ、なんか意識高い奴みたいじゃないか?それに靴下、買い忘れてないか?パンツも短いし。サイズ、合ってるのか?」
「そいいうファッションなの。いいじゃない。私の見立て、流石だわ」
 店員さんも「とてもよくお似合いです」なんて言ってくるし。
「さて。次は……」
 まだなにかあるのか。と思いながら連れてこられたのは美容院。床屋しか入ったことがなくて、美容院は女の人が行くところだと思っていた。
「あ、菜々緒ちゃん、いらっしゃい。準備できてるよ」
 気さくに話しかけてきた美容師。腰に何本ハサミがぶら下がっているんだ。菜々緒のやつ、僕の買い物なんて口実で美容院の予約をしていたのか。
「あ、今日は私じゃなくて、お兄ちゃんをお願いしたんだけど、そういうのはアリ?」
「いいですよ?そちらがお兄ちゃん?ファッションセンス、いいじゃない」
「そりゃ私が見立てたからね。当然!」
 そんなわけで、人生初の美容院。最初に髪の毛を洗われた。洗ってくれるのはさっきのお兄さんじゃなくて結構きれいなお姉さんだった。顔にタオルをかけられているけど、妙に近い距離で緊張する。
「な、なぁ、菜々緒、こういうのは流行なのか?裾上げだけスースーするぞ」
 全体の裾を刈り上げられて、涼しく感じる。ツーブロックという髪型らしい。軽く茶色になってるし。
「うん、いいじゃない。かっこいい」
 鏡を見ると完全に自分じゃない。なんというか七日後に死ぬと分かっているからってこのタイミングで何かにデビューする必要はあるのだろうか。それに。この髪型で学校に行くのか?
 その日の夕方は最後におしゃれなオープンカフェでケーキなんて食べちゃって。
「菜々緒、いつもこんな場所に来ているのか?」
「なに?彼氏でもいると思った?思ったでしょ?」
 正直思ったけども、妹に彼氏が出来ても特に反対する理由もないし。まぁ、ヤンキーみたいなのが来たら嫌だと思うけど。
「なんだ?やっぱりいるのか?」
「残念ながら。だから、今日はお兄ちゃんでデートの予行練習」
「実験台かよ。でもまぁ、こんなことでもないと、こんな場所には縁も無いだろうし、こんな格好なんて絶対にしなかっただろうし。ありがとな」
「えー……なんか気持ち悪い」
 お礼を言ったら気持ち悪いとか。妹がいるのは羨ましい、なんて言われたけども、ちっとも嬉しいなんて思ったことがない。
 菜々緒に「僕は七日後に死ぬんだ」って言ったらなんて言うのかな。「バッカじゃないの」とか「熱でもあるんじゃないの?」なんて言われるのだろうか。
 でも、なんだかんだで今日は楽しかった。妹と二人だけで出掛けたのはこれが初めてだ。お使いみたいなのはあったけども。ちゃんとしたのは初めてだ。

「今日は土曜日か。七日後ってことは来週の金曜日に死ぬのか。何時頃なんだろうな。このことを知ったのは今日のお昼前だったから、きっちりだとしたら金曜日のお昼前って事になるのかな」
 その後も部屋のベッドで寝ていたら、とか考えたけど、心筋梗塞だのなんだの、シナリオライターさんのがそう書けば、死因なんて何とでもなるもんだな、なんて考えて難しく考えるのはやめた。
「自分の思うとおりに行動ができる、ねぇ……」
 まぁ、とりあえず今日は寝よう。なんか寝るのは残り少ない人生だし、損をしたような気分になるけど、寝不足で頭痛に悩まされるよりはマシだ。でも目覚まし時計はかけておこう。惰眠をむさぼるのは勿体ない。

 ・・・・・。

 寝れない。目が冴えすぎてる。全然寝れないぞ。どうする。いつでもどこでも寝れるのが僕の取り柄だったはずなのに。
 コンコン
「まだ起きてる?」
 菜々緒がドアの外から声をかけてきた。起きあがってドアノブに手をかけて開く。何も言わずに入ってくる菜々緒。
 そして、ドアを閉めた瞬間に、菜々緒は菜々緒じゃなくなった
「さて。初日はどうだったかな?」
「えっと。菜々緒、ちゃん?案内人の」
「そうでーす。菜々緒ちゃんでーす。最初は絶対に疑う人が出るから。こうしてたまに登場して混乱した対象者の心をなだめてあげるんです」
「なるほど。手厚いんだな」
「そうですよ。菜々緒ちゃんは心優しいのです。で、どうでした?」
「正直、実感がわかないかな。今日だって確かに今までと全然違うし。でもシナリオライターがそう書いたのなら、そうなるんだろうし」
「あーもう。疑り深いなぁ。と思って借りてきました」
 そう言って手渡されたのはちょっと分厚めの日記帳のようなもの。
「それ、一年で一冊。で、今は七月だから半分くらいまでは埋まってると思う。で、この辺とか見て」
 そう言ってページをめくると、確かに記憶にあることばかりだ。お風呂の中で密かに潜水していたことまで書いてある。
「ね?ちょっとは信用できた?」
「まぁ、流石に。でもそれ、この先はどうなっているんだ?」
「全部は見せられない、というか、結末はみせられないけど、こんな感じ」
 菜々緒ちゃんに見せられたページは、菜々緒ちゃんが僕の部屋から出ていくところまで、しか書かれていなかった。
「ね?ココから先は白紙でしょ?だから、今日はお兄ちゃんの思うように行動したってわけ」
「正確には菜々緒ちゃんに連れ回された、だけどね」
「あくまで一例としてね。基本的にシナリオライターってあまり奇をてらったようなものを書く人って少ないのよ。後々の複線回収とか面倒になるし」
「元有名ミステリー作家が担当になったら大変だろうな」
「そう。だから殺人事件も起こるし、交通事故も起こるのよ」
 なんとまぁ、色味のない世界だ。
「なぁ、一つ気になるんだけど、Aさんは長生きするはずのシナリオを書いてるのに、交通事故を起こす、ってシナリオを書かれた人がひき殺しちゃったらどうなるんだ?」
「細かいところ突っ込むなぁ。最初に言ったじゃない。渡されるこれ、その人の最期は書かれているって」
 そう言って菜々緒ちゃんは分厚めの日記帳のようなものを肩に抱えた。
「なるほど。いやさ、僕は七日後まで確実に生きてるのかなって思ってさ。何かに巻き込まれて死んじゃうんじゃないかって思って」
「ああ、そういうことか。ちなみにビルから飛び降りても死ねないからね。ベッドの上で最期を向かえたらつまらないでしょ?とにかくやりたいことをパァーッっとやるのがオススメかな」
 結局そうなるのか。やりたいこと、ねぇ。ないんだよなやりたいこと。恋愛とかやってみたいとは思うけど、この残り六日間でどうこうできる気がしないし。しかも、仮に出来ても相手に対して速攻で死に別れとか。ないない。絶対にない。
「うーん。そう考えると対人関係は……」
「なに?もしかして恋人とか作りたいとか?」
 仮にとはいえ、妹に見透かされるなんてなんか複雑だ。
「まぁ、それは思ったんだけど、うまくいって付き合えた途端に僕、死ぬんだろ?そんなの相手に悪いじゃないか」
「優しいのねぇ。そういうのは……」
「あ」
 気がついてしまった。さっきは死んだら、って考えたけども、そうじゃなくて。
「なぁ、さっきは死んだら、って聞いたけど、今みたいに例えば僕が誰かに告白して、すぐに死に別れたとしても、それはその人のシナリオに書かれているのか?僕自身の自由行動だと、その人のシナリオには想定外なはずだ」
「ほんっと、勘がいいのね……」
「あんまり深く考えずに楽しんで貰いたかったんだけど。気になったらそれどころじゃなさそうな性格してそうだし。教えてあげる」
 妙な言い回しを使いながら菜々緒ちゃんは話したけども、要はこう言うことらしい。
『僕の選択が優先される』
 つまり、僕は他人の人生をいくらか操れるって事になる。もしかしたら人生の転機ってそういうのが原因なのかも知れないな。
「どうしたものか」
「なに?ここまで話してまだなにかご不満な部分でも?」
「いや。肝心な相手。好きな人がいない」
 菜々緒ちゃんは下を向いて首を振りながら大きなため息をついている。
「思春期真っ只中なのに、好きな人がいないなんて。そんな人っているんだ。信じられない」
 居ないものは居ないんだ。仕方ないだろ。それに自分の選択が優先させる、って半ば無理矢理彼女にするようなものじゃないか。更に死んでお別れとかどんだけ無責任野郎だよ。
「なぁ、ちょっと脱線するけど、菜々緒ちゃんは何で死んだの?ってか何歳なの?」
「女の子に年齢を聞くのはどうかと思うけど、十七歳のあなたよりは若いかな。あと、何で死んだのかは言いたくない」
「そうか。悪かった」
 さて。ここまで聞けたら、後は自分の行動次第ってことになるのかな。
 菜々緒ちゃんが部屋から出て行ってからも、諸々について考える。
「自分の思うように事が運ぶけど七日後、正確に言うともう六日しかないけど。まぁ、なんにしても好き放題できるらしい」
 ちょっとエッチなことも考えたけど、流石にそれはね。でもそんなことを考える人もいるのかな。
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