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【第二夜】
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「あれ?今日は早いじゃん」
「なんだ菜々緒、休みの日はこんなに早く起きてるのか?まだ五時だぞ」
「流石に毎日こんなに早起きじゃないけど、今日は目が覚めたの。今、朝ご飯作るところだからついでに作る?」
「お。頼む」
さて、今日はなにをするべきか。昨日折角買った服を着ようと思ったけど、絶賛洗濯中だ。学校もあるし、一度きり着るために大枚はたいたのかと思うと、ちょっと勿体ない気分になる。
「ねぇ、どうしたの?なんか難しい顔して」
菜々緒にはこのことを話すべきなのか?僕は来週の金曜日に死にます。
いやいや「バカじゃないの。それとも自殺願望でもあるの?」とか言われるだけだ。
「なぁ、菜々緒。なんか楽しいことってないかな。例えば、明日死ぬとしたらなにをするとか」
「んー。そうねぇ。明日死んじゃうとしたら、私はなにもしないかなぁ。というよりできないと思う。そりゃ好きな人とかいたら一緒にいたいと思うけどね。一緒にいるだけでなにもしないと思う」
「参考にならん。僕は今日、楽しみたいんだ」
「明日死ぬの?なに?遺言?」
まぁ、似たようなことを言われた。仕方がない。自分で考えよう。
「あー、楽しいことかぁ。思いつかねー」
折角早起きしたので、朝食後に散歩に出掛けてみた。家から少し離れた景色の良い場所。坂を登るのが大変で滅多に来ないけど、ここからの景色は格別だ。朝日に照らされた町並みはなぜか新鮮で特別なものに見えた。
「きれいですね。ここ」
ランニングでもしてきたのだろうか。それっぽい格好の女の子に声をかけられた。
「ここ、走るの初めてなんです。お近くにお住まいなんですか?」
「えと。ちょっとだけ離れてます。あの辺です」
「えーっと。近くないですか?走ったらすぐですよ?」
運動をする人の距離感とは隔絶された何かを感じる。僕は部活にも入っていないし、運動なんて家と学校の階段の上り下りくらいだ。
「あ、私、瀬見原高校の坂城京子(さかききょうこ)と言います。いきなり話しかけてごめんなさい」
「いや、いいですよ。僕は同じ学校の一条亮斗。二年生。君は?」
「私は一年生です」
「そうか」
女の子とろくに話したことがなくて次の会話が出てこない。そうか、って。自分で話を切っちゃってるし。
「一条先輩。ちょっと聞いて貰っていいですか?」
僕の返事を待たずに坂城さんは眼下の街を見下ろしながら寂しそうにこう言った。
「私、なんか来週の金曜日に死んじゃうらしんですよ。それで気分を変えようと思ってランニングしていたんです」
「坂城さんもか。僕も金曜日に死ぬらしい。仲間だ」
「そうですね。なんか落ち着いちゃってて。折角だからなにか特別なことをしようかなって思っているんですけど、なにもいざとなるとなにも思いつかなくて」
やっぱりみんなそうなんだな。いきなり一週間後に死にます、なんて言われてもなにをするのかなんて思いつかないよ。
「坂城さんは、信じてるの?この七日後に死ぬって話」
「信じざるを得ない、かな。だってあんなことがあって、こうして同じ事をいう人がいて。正直、信じていなかったんです。自分の思う通りになるなんて」
ああ、この子はこの場所で誰かに出会いたいって思ったのかな。でも相手は指定できなかったみたいだ。僕と彼女は初対面だし。
「案内人、ってやつ?」
「そうです。どんな人だったのかは覚えていない、というか思い出せないんですけど、色々と説明を受けて……」
坂城さんから聞いた話は、僕のそれと同じで真実味が増してしまった。本当に僕は来週の金曜日に死ぬのか。
「それでなんですけど。一条先輩、ちょっと付き合ってくれませんか?」
「いきなりだな」
「あ!その!おつきあいする、の方じゃなくて、今日ちょっと一緒に出掛けてくれませんか、というか……」
さすがの勘違いに自分でも可笑しくなってしまった。まぁ、初対面でもうすぐ死ぬから彼氏が欲しい、なんてね。あるわけがないさ。そんな都合の良い話なんて。
坂城さんは一旦家に帰って準備をしてくる、とのことだった。待ち合わせは駅前。九時。よく考えたら、待ち合わせって初めてかも知れない。学校の集合時間に集まるとかそう言うのはあったけども、こうして誰かと待ち合わせというのは初めてだ。
「こういう緊張感もいいかもな。新鮮だ」
約束の時間になっても坂城さんは来なかったのでからかわれたのかな?って思ったけど、もうすぐ死ぬ人がそんなことされても別に。
「あの!すみません!遅くなりました!」
折角シャワーを浴びてきただろうに、汗だくになっている坂城さんが息を切らして目の前にやってきた。
「十分位かな。許容範囲」
「何分まで、はぁはぁ……許容、範囲なんですか?」
「死ぬまで?」
「以外と短いですね」
人生の長さを考えたら六日間なんて短いものだ。
「ちょっと休む?」
出掛ける前に駅前の喫茶店でひと涼み。今年の夏は七月から暑い。
「落ち着いた?それで、今日はどこに行くつもりなの?」
「景色のきれいなところに。できるだけたくさん」
死ぬまでにきれいな景色をたくさん見たい、ってことなのかな。そういうのもいいかも知れない。
僕たちが最初に来たのは都心の高層タワービルの展望階。十時の開店時間ちょうどだったのは偶然なのか、僕か坂城さんの要望だったのか。なんにしても待ち時間が無いのは嬉しい。
「さっきの景色とはまた違った感じだ。でもちょっと霞んでるのが残念かな」
「そうですね。でもこんなに高い場所、来るのは初めてなんで、ちょっと怖いです」
展望室を一回りして、常設のギャラリーを眺めて。ベンチに座ってちょっと今回の件について話を振ってみた。
「坂城さんはどう思った?いきなり七日後、なんて言われて」
「びっくりしました。でもなんか不思議と取り乱すことは無かったです」
「坂城さんもか。僕もなんか冷静になちゃって。その案内人の人から、本当にやりたいことはないの!?ってビックリされたくらいに」
「似たもの同士ですね。あの、今朝のつきあってほしい、っていうやつなんですけど、本当に付き合ってみますか?私、彼氏なんていたこと無いので、ちょっと憧れます」
「僕でよければ。僕も初めての彼女になるのかな」
「その割には、女の子と話慣れていませんか?」
ちょっといたずらっぽく坂城さんは僕を少しのぞき込みながら聞いてきた。
「妹がいるんだよ」
「妹。なるほど。私にもお兄ちゃんがいるんですよ。結構格好良いですよ。モテモテです」
「ウチの妹は、あー、知らないな」
「もうちょっと妹さんにも感心もってあげてくださいよ。寂しがってるかも知れませんよ?」
あいつが?菜々緒が?いや、ないない。
「まぁ、考えておくよ。そう言えば、その自慢のお兄ちゃんには、今回のこと、話してみた?」
「ううん。話してない。その様子ですと一条先輩も妹さんに話してないんですか?」
「そう。どうやって死ぬのか分からないからさ。いきなり金曜日に死にます、って。自殺でもするのか、なんて思われたらアレだし」
まぁ、誰だって同じような感じになるよな。それにしても彼女、か。そんなの作っても一週間で死んじゃうならって思ったけども、その彼女も同じ状況なら。
「あーあ。なんで私たちなんですかね。私が人生の物語を書くのなら、もっと幸せな内容にするのに」
幸せな物語か。なにもない惰性の人生よりは、こうして短い間でも一緒に誰かがいた方が幸せなのかも知れない。そう思うから彼女という存在がここにいるのかも知れない。
「これからどうしましょうか。景色の良いところ、なんて言いましたけど、折角学校を休んでまで来た割には思ったより感動しなかったので、別のなにかがいいかなって」
無責任な。でもここは彼氏としてビシッと決めるところなんだろうな。
「思いつかないや。なにも知らないから行きたい場所も思い浮かばないし」
「同じですね。それじゃあ……旅にでも出ませんか?明日から五日間、いつも通りに学校に行ってタイムアップ!なんていくらなんでもつまらないじゃないですか」
旅。いいかも知れない。知らないどこかに行って、知らない何かをたくさん知って。少しでも自分の世界を広げてから終わりを迎える。向こうの世界で誰かのシナリオを書くときに役に立つかも知れないし。
「親になんて言うかなぁ。いきなり消えたら探すだろうし。旅先で死んだらそれこそ事件でしょ」
「そうですねぇ。どうしましょうか。素直に自分探しの旅に行きます。なんてどうですか?」
「学校をサボって?」
「ほら、自分の望む方向に進むって案内人の方が言っていたじゃないですか。だから多分大丈夫ですよ」
妙に納得してその日の夜、両親にそのまま伝えてみたら「そういう人生もある。行ってきなさい。学校には連絡を入れておく」なんてあっさりOKが出た。
「旅行の準備か。五日分の旅行準備なんてどうしたらいいんだ。馬鹿でかい鞄に着替えを積めていくのか?」
「お兄ちゃん!旅に出るの!?」
菜々緒が部屋に飛び込んできた。そうか。菜々緒には何も言っていなかったな。
「よく分からないけど、帰ってくるんだよね?」
心配そうに聞いてくる菜々緒。ちょっと胸が苦しい。僕は妹のことをあまり考えたことが無かったけども、菜々緒は僕のことを気にしていてくれたようだ。悪いことをしたな。
「多分な」
「多分って……」
「悪いな心配させて。ちょっと自分探しの旅に出るだけだから」
「そうじゃなくて。困るの。こっちが。どこで死ぬのか分からないと、案内できないじゃない」
「ん?菜々緒ちゃんのほうだったのか」
この感覚、不思議なんだよな。妹がいきなり現実というか何というか。妹の菜々緒から案内人の菜々緒ちゃんに変わる瞬間。どうやらこの部屋に入ってきたときは菜々緒ちゃんになるっぽい。
「兎に角。その旅行はキャンセルしてくれると助かるんですけど」
「いや。これくらいしかやりたいことがないし。それに約束しちゃったんだよ」
「誰と?」
「同じ学校の後輩で、坂城さんって女の子」
「え……まさか、特権使って誘拐でもしたんじゃ……」
まぁ、そういう手も考えなくもなかったけど、僕は常識人だからな。そうじゃない人の案内人になったら大変だろうな。
「違うよ。同じ境遇の人に偶然会ったのさ。なんと僕と同じく、来週の金曜日に死ぬらしいぞ。だから、折角だから色々なところに行って知らないことを見に行こうって」
「なんてことなの……」
「なんだ?」
「基本的に、同じ境遇の人って会わないようになっているのよ」
「基本的にってことはイレギュラーで会うこともあるんだろ?」
「そうだけど……。あー、そうなるとそっちの案内人とも相談しなきゃいけなくなるの。そういうの私苦手でさ……」
菜々緒ちゃん、まさかのコミュ障。こんなに話しやすいのに。
「まぁ、分かったわ。特権は特権だから。私たち案内人はそのその選択に従います」
「付いてくるのか?」
「そういうことになるわね。向こうの案内人と一緒に。はぁ、もう変な人じゃないといいなぁ」
「なんかイケメンのお兄ちゃんがいるっていっていたぞ。その人なんじゃないのか?良かったじゃないか。イケメン」
「もう!そういうのが一番苦手なの!」
なにか苦い思いででもあるのだろうか。まぁ、案内人には案内人のなにかがあるのだろう。こっちは残り少ない人生なんだ。ようやくやりたいことができたんだ。ちょっとは好きにさせて貰うよ。
「なんだ菜々緒、休みの日はこんなに早く起きてるのか?まだ五時だぞ」
「流石に毎日こんなに早起きじゃないけど、今日は目が覚めたの。今、朝ご飯作るところだからついでに作る?」
「お。頼む」
さて、今日はなにをするべきか。昨日折角買った服を着ようと思ったけど、絶賛洗濯中だ。学校もあるし、一度きり着るために大枚はたいたのかと思うと、ちょっと勿体ない気分になる。
「ねぇ、どうしたの?なんか難しい顔して」
菜々緒にはこのことを話すべきなのか?僕は来週の金曜日に死にます。
いやいや「バカじゃないの。それとも自殺願望でもあるの?」とか言われるだけだ。
「なぁ、菜々緒。なんか楽しいことってないかな。例えば、明日死ぬとしたらなにをするとか」
「んー。そうねぇ。明日死んじゃうとしたら、私はなにもしないかなぁ。というよりできないと思う。そりゃ好きな人とかいたら一緒にいたいと思うけどね。一緒にいるだけでなにもしないと思う」
「参考にならん。僕は今日、楽しみたいんだ」
「明日死ぬの?なに?遺言?」
まぁ、似たようなことを言われた。仕方がない。自分で考えよう。
「あー、楽しいことかぁ。思いつかねー」
折角早起きしたので、朝食後に散歩に出掛けてみた。家から少し離れた景色の良い場所。坂を登るのが大変で滅多に来ないけど、ここからの景色は格別だ。朝日に照らされた町並みはなぜか新鮮で特別なものに見えた。
「きれいですね。ここ」
ランニングでもしてきたのだろうか。それっぽい格好の女の子に声をかけられた。
「ここ、走るの初めてなんです。お近くにお住まいなんですか?」
「えと。ちょっとだけ離れてます。あの辺です」
「えーっと。近くないですか?走ったらすぐですよ?」
運動をする人の距離感とは隔絶された何かを感じる。僕は部活にも入っていないし、運動なんて家と学校の階段の上り下りくらいだ。
「あ、私、瀬見原高校の坂城京子(さかききょうこ)と言います。いきなり話しかけてごめんなさい」
「いや、いいですよ。僕は同じ学校の一条亮斗。二年生。君は?」
「私は一年生です」
「そうか」
女の子とろくに話したことがなくて次の会話が出てこない。そうか、って。自分で話を切っちゃってるし。
「一条先輩。ちょっと聞いて貰っていいですか?」
僕の返事を待たずに坂城さんは眼下の街を見下ろしながら寂しそうにこう言った。
「私、なんか来週の金曜日に死んじゃうらしんですよ。それで気分を変えようと思ってランニングしていたんです」
「坂城さんもか。僕も金曜日に死ぬらしい。仲間だ」
「そうですね。なんか落ち着いちゃってて。折角だからなにか特別なことをしようかなって思っているんですけど、なにもいざとなるとなにも思いつかなくて」
やっぱりみんなそうなんだな。いきなり一週間後に死にます、なんて言われてもなにをするのかなんて思いつかないよ。
「坂城さんは、信じてるの?この七日後に死ぬって話」
「信じざるを得ない、かな。だってあんなことがあって、こうして同じ事をいう人がいて。正直、信じていなかったんです。自分の思う通りになるなんて」
ああ、この子はこの場所で誰かに出会いたいって思ったのかな。でも相手は指定できなかったみたいだ。僕と彼女は初対面だし。
「案内人、ってやつ?」
「そうです。どんな人だったのかは覚えていない、というか思い出せないんですけど、色々と説明を受けて……」
坂城さんから聞いた話は、僕のそれと同じで真実味が増してしまった。本当に僕は来週の金曜日に死ぬのか。
「それでなんですけど。一条先輩、ちょっと付き合ってくれませんか?」
「いきなりだな」
「あ!その!おつきあいする、の方じゃなくて、今日ちょっと一緒に出掛けてくれませんか、というか……」
さすがの勘違いに自分でも可笑しくなってしまった。まぁ、初対面でもうすぐ死ぬから彼氏が欲しい、なんてね。あるわけがないさ。そんな都合の良い話なんて。
坂城さんは一旦家に帰って準備をしてくる、とのことだった。待ち合わせは駅前。九時。よく考えたら、待ち合わせって初めてかも知れない。学校の集合時間に集まるとかそう言うのはあったけども、こうして誰かと待ち合わせというのは初めてだ。
「こういう緊張感もいいかもな。新鮮だ」
約束の時間になっても坂城さんは来なかったのでからかわれたのかな?って思ったけど、もうすぐ死ぬ人がそんなことされても別に。
「あの!すみません!遅くなりました!」
折角シャワーを浴びてきただろうに、汗だくになっている坂城さんが息を切らして目の前にやってきた。
「十分位かな。許容範囲」
「何分まで、はぁはぁ……許容、範囲なんですか?」
「死ぬまで?」
「以外と短いですね」
人生の長さを考えたら六日間なんて短いものだ。
「ちょっと休む?」
出掛ける前に駅前の喫茶店でひと涼み。今年の夏は七月から暑い。
「落ち着いた?それで、今日はどこに行くつもりなの?」
「景色のきれいなところに。できるだけたくさん」
死ぬまでにきれいな景色をたくさん見たい、ってことなのかな。そういうのもいいかも知れない。
僕たちが最初に来たのは都心の高層タワービルの展望階。十時の開店時間ちょうどだったのは偶然なのか、僕か坂城さんの要望だったのか。なんにしても待ち時間が無いのは嬉しい。
「さっきの景色とはまた違った感じだ。でもちょっと霞んでるのが残念かな」
「そうですね。でもこんなに高い場所、来るのは初めてなんで、ちょっと怖いです」
展望室を一回りして、常設のギャラリーを眺めて。ベンチに座ってちょっと今回の件について話を振ってみた。
「坂城さんはどう思った?いきなり七日後、なんて言われて」
「びっくりしました。でもなんか不思議と取り乱すことは無かったです」
「坂城さんもか。僕もなんか冷静になちゃって。その案内人の人から、本当にやりたいことはないの!?ってビックリされたくらいに」
「似たもの同士ですね。あの、今朝のつきあってほしい、っていうやつなんですけど、本当に付き合ってみますか?私、彼氏なんていたこと無いので、ちょっと憧れます」
「僕でよければ。僕も初めての彼女になるのかな」
「その割には、女の子と話慣れていませんか?」
ちょっといたずらっぽく坂城さんは僕を少しのぞき込みながら聞いてきた。
「妹がいるんだよ」
「妹。なるほど。私にもお兄ちゃんがいるんですよ。結構格好良いですよ。モテモテです」
「ウチの妹は、あー、知らないな」
「もうちょっと妹さんにも感心もってあげてくださいよ。寂しがってるかも知れませんよ?」
あいつが?菜々緒が?いや、ないない。
「まぁ、考えておくよ。そう言えば、その自慢のお兄ちゃんには、今回のこと、話してみた?」
「ううん。話してない。その様子ですと一条先輩も妹さんに話してないんですか?」
「そう。どうやって死ぬのか分からないからさ。いきなり金曜日に死にます、って。自殺でもするのか、なんて思われたらアレだし」
まぁ、誰だって同じような感じになるよな。それにしても彼女、か。そんなの作っても一週間で死んじゃうならって思ったけども、その彼女も同じ状況なら。
「あーあ。なんで私たちなんですかね。私が人生の物語を書くのなら、もっと幸せな内容にするのに」
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「これからどうしましょうか。景色の良いところ、なんて言いましたけど、折角学校を休んでまで来た割には思ったより感動しなかったので、別のなにかがいいかなって」
無責任な。でもここは彼氏としてビシッと決めるところなんだろうな。
「思いつかないや。なにも知らないから行きたい場所も思い浮かばないし」
「同じですね。それじゃあ……旅にでも出ませんか?明日から五日間、いつも通りに学校に行ってタイムアップ!なんていくらなんでもつまらないじゃないですか」
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「そうですねぇ。どうしましょうか。素直に自分探しの旅に行きます。なんてどうですか?」
「学校をサボって?」
「ほら、自分の望む方向に進むって案内人の方が言っていたじゃないですか。だから多分大丈夫ですよ」
妙に納得してその日の夜、両親にそのまま伝えてみたら「そういう人生もある。行ってきなさい。学校には連絡を入れておく」なんてあっさりOKが出た。
「旅行の準備か。五日分の旅行準備なんてどうしたらいいんだ。馬鹿でかい鞄に着替えを積めていくのか?」
「お兄ちゃん!旅に出るの!?」
菜々緒が部屋に飛び込んできた。そうか。菜々緒には何も言っていなかったな。
「よく分からないけど、帰ってくるんだよね?」
心配そうに聞いてくる菜々緒。ちょっと胸が苦しい。僕は妹のことをあまり考えたことが無かったけども、菜々緒は僕のことを気にしていてくれたようだ。悪いことをしたな。
「多分な」
「多分って……」
「悪いな心配させて。ちょっと自分探しの旅に出るだけだから」
「そうじゃなくて。困るの。こっちが。どこで死ぬのか分からないと、案内できないじゃない」
「ん?菜々緒ちゃんのほうだったのか」
この感覚、不思議なんだよな。妹がいきなり現実というか何というか。妹の菜々緒から案内人の菜々緒ちゃんに変わる瞬間。どうやらこの部屋に入ってきたときは菜々緒ちゃんになるっぽい。
「兎に角。その旅行はキャンセルしてくれると助かるんですけど」
「いや。これくらいしかやりたいことがないし。それに約束しちゃったんだよ」
「誰と?」
「同じ学校の後輩で、坂城さんって女の子」
「え……まさか、特権使って誘拐でもしたんじゃ……」
まぁ、そういう手も考えなくもなかったけど、僕は常識人だからな。そうじゃない人の案内人になったら大変だろうな。
「違うよ。同じ境遇の人に偶然会ったのさ。なんと僕と同じく、来週の金曜日に死ぬらしいぞ。だから、折角だから色々なところに行って知らないことを見に行こうって」
「なんてことなの……」
「なんだ?」
「基本的に、同じ境遇の人って会わないようになっているのよ」
「基本的にってことはイレギュラーで会うこともあるんだろ?」
「そうだけど……。あー、そうなるとそっちの案内人とも相談しなきゃいけなくなるの。そういうの私苦手でさ……」
菜々緒ちゃん、まさかのコミュ障。こんなに話しやすいのに。
「まぁ、分かったわ。特権は特権だから。私たち案内人はそのその選択に従います」
「付いてくるのか?」
「そういうことになるわね。向こうの案内人と一緒に。はぁ、もう変な人じゃないといいなぁ」
「なんかイケメンのお兄ちゃんがいるっていっていたぞ。その人なんじゃないのか?良かったじゃないか。イケメン」
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