双子の姉は『勇者』ですが、弟の僕は『聖女』です。

ミアキス

文字の大きさ
75 / 110
第八章 魔導具の聖地?

しおりを挟む
「ガンツ会頭。手続きが終わりましたか?」

    話しかけてきた老人に、クルトが声をかける。

「ええ。護衛の皆さんの分も終わりましたのでな。そろそろ宿に移動するのでお声をかけに参ったのですよ」

「……商会の会頭自らがしなくてもいいのに……」

    パッと見、商人と言うより、隠居の老人に見える格好をしているが、エルナンド商会の会頭であるガンツは、商人仲間からは変わり者として有名であった。
    商会のトップながら、下っ端に混じって店の掃除はするし、店の前で呼び込みもする。
    当然、トップがするのだからと、上層部の者達も掃除や呼び込みに加わるのだ。そして、偉ぶるわけでもない彼らに、下の者達も付いていくのだ。
    さらには全員に決まった休日もあり、勤めている年数によっては、有給休暇なるものもある。
    年二回。会頭の出資による慰労会も有名である。何しろ、勤めている者だけでなく、その家族も招いてのもの。王都にある会頭の屋敷が開放されて行われるのだ。
    商会内だけの特別価格で店員や家族達が購入できるサービスもしており、他の商会と比べると待遇の良さは雲泥の差であり、勤める側からも人気の商会であった。

「いえいえ。他の者達はみな、仕事がありますからな。暇をしているワシがこれぐらいしなくてどうしますか」

    カラカラと笑うガンツに、肩を竦めたレオノーラがエレオノール達を見た。

「まあ、そういうことだから、もう行くね!」

「…こっちはまあ、気にすんな…」

「ええ。お守り・・・は任せてください…」

    三者三葉の言葉をかけ、歩き出したガンツの後に続いていく。

「……本当に良かったのでしょうか?」

「大丈夫だよ。元々、平民の出なんだ。宿に泊まるくらいなんともないよ…」

    そうして馬車に戻った二人は、門をくぐり抜けてトワレ男爵領へと到着した。

「……何か想像してたのと違う…」

    窓から見える景色に、ポツリとエレオノールが呟く。
    魔導具の聖地と呼ばれる場所だ。きっとあちこちに珍しい物が並んでいると思っていたのだが、見えるのは普通の街並み。いや、どちらかと言えば、他と比べて店らしき物が見当たらないのだ。
    目につくのは、ほとんど食べ物の屋台や店である。

「……魔導具は用途ごとに売る店が別れてるんです。盗難防止や故障を防ぐために、全部室内での取引ですし、その……」

    説明するフレイアの視線が泳ぎ始めた。

「そうですね。直接体験なさった方が分かりやすいと思います。時間が取れましたら、街を案内いたしますね」

    大きく息を吐き出し、諦めるようにそう言ったフレイアに首を傾げながら、エレオノール達の乗った馬車は男爵家へと向かうのであったーーーー。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...