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第四章 騎士団長、ストーカーになる!
王太子夫妻の『護衛メイド』
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デビュタントでの王太子夫妻とエベリウム伯爵家三兄妹の会話で、貴族の間では翌日からある噂が拡まっていた。
ーー『エベリウム家の宝玉』は、王太子の側室候補ではないか?
「違いますから。見た通りの『メイド』でございます。どうぞお見知り置き下さいませ」
翌日からメイド姿のアリスティリアが王太子妃の部屋と王太子の執務室を何度も往復する姿が目撃された。
歩く度に何をしているのか訊ねられ、その都度同じセリフをニッコリと微笑んで返している。
ーーさすがにイライラしてきました……。
コンコンと執務室のドアを軽く叩き、入ろうとすると中から開かれた。
「ありがとう存じます、副団長様」
ドアを開けたのはエヴァンだった。
大抵のメイドはヌッと現れる怪しい姿のエヴァンに固まるのだが、アリスティリアは全くその気配がなかった。
「お帰り、アリス。誰にも絡まれなかったかい?」
王太子の隣に立ち、書類の精査をしていたカインベルが訊ねる。
「全く…、アリスが殿下の側室候補だなんて…。誰が言い出したのやら…」
ソファに座っていたラスティンが、アリスティリアをエスコートに向かおうと立ち上がったのだがーー。
「……」
「恐れ入ります」
それより先にドアの近くにいたエヴァンの差し出した手に、アリスティリアが礼を述べて手を乗せた。
「「「…………」」」
二組の恨みがましい視線と、ニヤニヤと楽しそうな視線が二人に向けられていることにも気づかず、アリスティリアはラスティンの隣に腰を下ろした。
アリスティリアが座ると、エヴァンは再びドアの側へ移動した。
「では、報告させて……、どうかなさいましたか?」
視線に気づき首を傾げる。
「「……なんでもない……」」
不機嫌に応える二人の兄に首を傾げて、王太子を見る。
「気にしないで。続けてアリス…」
「はぁ…。?」
オーディルの言葉にテーブルの上に伸ばした掌をクルリと上に向けると、そこには幾つかの品が現れた。
「まず、妃殿下の寝室のベッドの下側に遅効性の堕胎香。こちら、無臭です。減り具合から、つい最近の物と思われます」
スッと香炉をラスティンの方へ移動させる。
「こちらは妃殿下の部屋の窓の上側に隠されてました」
小さな箱を手に取り、蓋を開ける。
「「「「ポイズンタラテクト!!」」」」
シャッとラスティンがナイフを取り出すが、アリスティリアはそれを止めるように手を上げた。
「大丈夫ですわ、ラス兄様。既に死んでます」
「あぁ、生物は《空間収納》に入らないんだっけ…」
ハアと息を吐き、軽く手を振ってナイフを消す。
「カーテンを開ける時の弾みで落ちるようにしてたのだと思われます。可哀想に出番もなく死んでいましたが…」
指先で苦笑しながら蜘蛛を撫でる。
「アリス……。死んでいたってことは…」
カインベルが書類を机に置いて、額を押さえた。
「妃殿下の私室、呪具も色々ございまして、相乗効果で死んだようです」
「……アリス。レティの様子は?」
「あちらの女官長様にもお知らせして、現在お二人で呪具の送り主を確認されております。呪具は全て無効化させていただきました…」
机の上に乗せたオーディルの拳は怒りで震えている。
「オーディル様。わたしは期間限定ですが、王太子夫妻付きの『護衛メイド』になりました。お二人の御身に仇なす者は許しません。もちろん、兄達同様にわたしもエベリウムの家の人間として、お二人にお仕えさせていただきます」
アリスティリアの言葉に、カインベルはオーディルの肩に手を置き、ラスティンは誇らしげに妹を見つめた。
「ですが、わたしの立場は表向きはただの『メイド』です。ですので、その時は宜しくお願い致します、エヴァン様……」
フワッと柔らかい笑みを浮かべて、エヴァンを見るアリスティリア。
「無論、承知している…」
剣に手を置いたエヴァンは、アリスティリアを見つめたまま応えていたーーーー。
ーー『エベリウム家の宝玉』は、王太子の側室候補ではないか?
「違いますから。見た通りの『メイド』でございます。どうぞお見知り置き下さいませ」
翌日からメイド姿のアリスティリアが王太子妃の部屋と王太子の執務室を何度も往復する姿が目撃された。
歩く度に何をしているのか訊ねられ、その都度同じセリフをニッコリと微笑んで返している。
ーーさすがにイライラしてきました……。
コンコンと執務室のドアを軽く叩き、入ろうとすると中から開かれた。
「ありがとう存じます、副団長様」
ドアを開けたのはエヴァンだった。
大抵のメイドはヌッと現れる怪しい姿のエヴァンに固まるのだが、アリスティリアは全くその気配がなかった。
「お帰り、アリス。誰にも絡まれなかったかい?」
王太子の隣に立ち、書類の精査をしていたカインベルが訊ねる。
「全く…、アリスが殿下の側室候補だなんて…。誰が言い出したのやら…」
ソファに座っていたラスティンが、アリスティリアをエスコートに向かおうと立ち上がったのだがーー。
「……」
「恐れ入ります」
それより先にドアの近くにいたエヴァンの差し出した手に、アリスティリアが礼を述べて手を乗せた。
「「「…………」」」
二組の恨みがましい視線と、ニヤニヤと楽しそうな視線が二人に向けられていることにも気づかず、アリスティリアはラスティンの隣に腰を下ろした。
アリスティリアが座ると、エヴァンは再びドアの側へ移動した。
「では、報告させて……、どうかなさいましたか?」
視線に気づき首を傾げる。
「「……なんでもない……」」
不機嫌に応える二人の兄に首を傾げて、王太子を見る。
「気にしないで。続けてアリス…」
「はぁ…。?」
オーディルの言葉にテーブルの上に伸ばした掌をクルリと上に向けると、そこには幾つかの品が現れた。
「まず、妃殿下の寝室のベッドの下側に遅効性の堕胎香。こちら、無臭です。減り具合から、つい最近の物と思われます」
スッと香炉をラスティンの方へ移動させる。
「こちらは妃殿下の部屋の窓の上側に隠されてました」
小さな箱を手に取り、蓋を開ける。
「「「「ポイズンタラテクト!!」」」」
シャッとラスティンがナイフを取り出すが、アリスティリアはそれを止めるように手を上げた。
「大丈夫ですわ、ラス兄様。既に死んでます」
「あぁ、生物は《空間収納》に入らないんだっけ…」
ハアと息を吐き、軽く手を振ってナイフを消す。
「カーテンを開ける時の弾みで落ちるようにしてたのだと思われます。可哀想に出番もなく死んでいましたが…」
指先で苦笑しながら蜘蛛を撫でる。
「アリス……。死んでいたってことは…」
カインベルが書類を机に置いて、額を押さえた。
「妃殿下の私室、呪具も色々ございまして、相乗効果で死んだようです」
「……アリス。レティの様子は?」
「あちらの女官長様にもお知らせして、現在お二人で呪具の送り主を確認されております。呪具は全て無効化させていただきました…」
机の上に乗せたオーディルの拳は怒りで震えている。
「オーディル様。わたしは期間限定ですが、王太子夫妻付きの『護衛メイド』になりました。お二人の御身に仇なす者は許しません。もちろん、兄達同様にわたしもエベリウムの家の人間として、お二人にお仕えさせていただきます」
アリスティリアの言葉に、カインベルはオーディルの肩に手を置き、ラスティンは誇らしげに妹を見つめた。
「ですが、わたしの立場は表向きはただの『メイド』です。ですので、その時は宜しくお願い致します、エヴァン様……」
フワッと柔らかい笑みを浮かべて、エヴァンを見るアリスティリア。
「無論、承知している…」
剣に手を置いたエヴァンは、アリスティリアを見つめたまま応えていたーーーー。
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