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マレニア魔術院の一学期

・妹は同級生 - マレニア入学1ヶ月目 -

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 俺のルームメイトはかすれるようなだみ声の男と、野太い声の大男だった。
 だみ声の男は干渉を好まず、大男はやや寡黙な人だった。

「ガーラントさんは2つ上だったか。18の俺が最年長かと思っていたよ」
「誘われた」

「誘われた? 誰に?」
「……マレニアに」

「ああ、スカウトされたってことか? はは、俺よりはマシだな」
「お前、は……?」

「ハメられて入ることになった。紫の唇の女教官には気を付けた方がいい……」
「そうか。……そうしよう」

 さらに詳しく聞くと、ガーラントさんは先月まで出稼ぎの建設労働者だったという。
 その恵まれた体躯がたまたま先生方の目に止まって、彼はマレニアにスカウトされた。

「家賃、ない。3食、タダ。部屋、快適。悪くない」
「おまけに学費もタダだ。悪くない」

 ガーラントさんとはまあまあ上手くやっていけそうだった。
 とにかく縦にも横にもでかい男なので、俺の目でも簡単に見分けが付くところもよかった。

 もう1人のルームメイトであるだみ声の男は、どうも俺と関わり合いになりたくないようだ。
 就寝前まで彼は帰って来ず、俺が挨拶しても無視を決め込む。

 ジュリオとトマスとの笑いの絶えない寮生活とは大違いだった。


 ・


 イザヤと同じく、ここの学生寮はとにかくでかい。
 1学年の定員は240名で、これを8クラスに分けている。

 全学年となると生徒数700名にも達し、その99%が寮生活を選ぶという。
 飯代、部屋代、その他生活雑貨が全部タダで家具も調度品も上等とくれば、そりゃそうなる。

 700名に及ぶ生徒たちが毎朝ここで目覚め、慌ただしく支度をして、腹を空かせながら本館の食堂へと大移動する。
 それがマレニア魔術院の朝だ。

 俺とリチェルにとってもそれは同じで、男女で南北に分かたれた学生寮の中央で、毎朝顔を合わせるのが日常になっていた。

「もうっ、待ちくたびれましたわっ! わたくしとリチェルちゃんの分がなくなったら、どうするおつもりですのっ!?」

 まあそこにもう1人混じるのも、マレニアの日常になっていたのだが。
 あの時に助け船を出してくれた親切でバイオレンスな女子生徒、子爵令嬢コーデリア・ハラペは、今日も飯のこととなるとやたら騒がしかった。

「その心配はない。そういうのはイザヤでも年に2,3回しかなかった」
「2,3回!? それが今日でないという保証はございませんわっ!」

「おはよう、リチェル。今日も世界で1番かわいいな」
「お、お兄ちゃん……。人前で、そういうの、恥ずかしいよ……」

 俺はリチェルの手を引いて食堂に向かった。
 コーデリアが急かすので普段より早足で寮を出て、緑豊かな回廊を喋りながら進み、本館の食堂に飛び込んだ。

 食堂は学生たちでごった返していた。

「学生証を見せれば温かくて美味しいご飯がすぐに食べられるっ! はぁっ、素晴らしきことですわね……」

 まあそうだが、震えるほどに感動するほどではないな。

「食べ切れなかったら、リチェルの、コーちゃんにあげるね」
「ま、まあそんなっ?! そんなわけには参りませんわ……っ!」

「いいの。ここのご飯、リチェルには多いから……」

 食堂にやってくるとトレイを取って列に並んだ。
 コーデリアが俺たちと食事を共にしたがるのは、好意もあるのかもしれないが、半分はリチェルの食い残しにありつくためだ。

 ここ1ヶ月の俺の知る限り、コーデリアが金を持っていたことなど1度もなかった。
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