今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
10 / 70
竜将大会予選:ソコノネの迷宮編

・大陸最強への師事の日々

しおりを挟む
 誰よりも強くなりたいという私の愚かな欲望を、師範イーラジュと副師範ソウジンは真正面から受け止めてくれた。

 そう、私が不意打ちで一本を取ったこの熊男は、大陸最強の男を補佐する副師範様だったのだ。

 多忙なイーラジュ様は帰宅した際に気まぐれに、ソウジン殿は付きっきりで、ド素人の私を鍛えてくれた。

「精が出ますね」
「あ、ココロさん!」

 それともう一人。
 生活面を支えて下さるココロさんの存在も外せない。

「そろそろお茶にしませんか?」
「ありがとうございます、喜んでお相伴に与らせていただ――うがはぁっっ?!!」

 ココロさんは私の心のオアシスだった。

「おめぇよぉ……? 好みの女相手だと、そうやって口調がコロッと変わるところ、どうにかなんねぇかねぇ……?」

 しかし私がココロさんに少しでも色目を使うと、イーラジュ様がちょっかいをかけてくる。

「相手に合わせて態度を変えて何が悪い」
「おめーの場合変えすぎなんだよっ! おいココロッ、おめーからもなんか言ってやれ!」

 イーラジュ様にとってココロさんはただの女中ではないようだ。
 とても大切に、それも娘のように愛しているように見えた。

「確かに少し、軽い気もしますね……」
「う……っ?!」
「ほれみろ言われちまったじゃねーか、ガハハハッ! ココロは軽い男は嫌いだってよっ、ナンパ野郎!」

「ですが別に嫌ではありません。こういうのを、特別扱いというのでしょうか? ふふ……」
「ええ、私にとってココロさんは特別ですから。……だそうだぞ、師匠!」

「破門にすんぞ、この糞野郎っっ!! 下宿先の女中に色目を使うバカがどこにいるっ!!」

 私は女性が好きだ。
 新しい人生ではその気持ちにもっと正直に生きると私は決めた。

 新たな人生を始めるにあたって、私は今、ガールフレンドが切実に欲しかった。

 ヒロインのいないスーパーヒーローなんて!
 いないこともないが、いた方が絶対にいいじゃぁないか!

「はっ、いくら師匠の命令であろうともお断りだ! 俺は生き方を変える気はないっ!」
「おめーみてぇな糞弟子は初めてだっ!! ひよっ子なら武だけに打ち込みやがれっ!!」

「俺は今、彼女が欲しいんだ!!」
「ココロを彼女だぁ!? ざけんな表出やがれ糞弟子がっっ!!」

 無論、彼女と一緒に武勇と戦闘経験も欲しい。
 私は喜んで庭に出て、そこで大陸最強の男にぶちのめされる所存だ。

「はぁ、困った人たちですね……。ソウジンさん、お先にいただきましょうか……?」
「うむ、いただこう。……あれは、スケベ同士の近親憎悪のようなものだろう」

「ふふふ……おっきな子供が増えて私も大変です」

 私はココロさんの見物の下に、イーラジュ様にボコボコにされた。
 力、技、精神。全てにおいて完敗だった。

「この怪物め……いつか追い越してやるからなっ!」
「おう、待ってるぜ。おめーなら不可能でもねーさ」

 私はついさっきまでケンカをしていた男に助け起こされ、肩を担がれて縁側に運ばれた。
 縁側にはココロさんが消毒薬を持って私を待ってくれてた。

「クルシュさんって、傷の治りが早くないですか……? 昨日の夕方の擦り傷、ここ、もう消えてます」
「ウッッ?!」

 ココロさんは消毒液を染み込ませた綿で、傷口に入り込んだ砂をえぐるように取り除いてくれた。
 そんな折り、玄関先から人の声がした。

「おいココロッ、客だ客! そんなナンパ男ほっとけ!」
「では私も行きましょう」

「傷口から塩辛揉み込んでやろうかこの野郎っ!!」
「ハッタリだな、師匠が酒の肴を粗末にするわけがない」
「もうっ、二人ともいちいちケンカしないで下さいっ」

 ココロさんは私の背中を両手で押して、庭から玄関先へと移動させた。
 玄関の前には、貫禄のある商人風の中年が立っていた。

「あ、トッパさん」
「やあココロちゃん、いつもの納品にきたよ。おや、そこの隣の方は……?」

 いや服装は商人のものだったが、その上体や腕は厚く鍛え上げられている。
 頭はハゲ上がっていて、笑顔を絶やさない細い目も特徴的な人だった。

「クルシュだ、最近ここの門下生になった」
「門下生……?」

 その笑顔が一瞬引き吊った。

「へぇ、羨ましいね……イーラジュ様の門下生になれるなんて、君ついてるね……」
「おう、ラッキーだった。運と人脈に恵まれたおかげだ」

 イーラジュ様はあまり弟子を取らない。
 現役の門下生は俺を含めてたった8名しかいない。
 そのうちの7名が今はここを離れていた。

「私もね、今はこんなことをしているのだけど、ここに弟子入りを願ったことがあってね……。私はダメだったよ……」

 トッパさんが笑っているのに笑っていないように見えたのは、そういうわけだった。
 そんな人に『運と人脈に恵まれた』と返すなんて、これは失敗してしまった。

「ふーん……いいなぁ……羨ましいよ……。精々、がんばってね、クルシュくん……」
「あ、ああ……」

 トッパさんは憎悪を隠さなかった。
 笑顔の中に深い妬みの目つきを私に向けて、それから屋敷の正門から出ていった。

「ああ、やってしまった……今のは嫌われて当然か……」
「私、あの人苦手です……。いつも笑っているのに、時々怖いんです……」

「そうでしたか、わかるような気がします……。ああ、荷物を運ぶのを手伝います」
「いいんです、これが私の仕事ですから」

「ここで手伝わずに帰ったら、イーラジュ様にバカにされてしまいます。男らしくないと」
「そうですか……? では、氷室までどうかお願いします」

「はい、喜んで!」

 ここの居候になって、これでかれこれ一週間。
 ついに明日から竜将大会の予選が始まろうとしている。

 不安。緊張。後悔。諦め。
 生前の私の胸に棲み着いていたこれら卑屈な感情は、今の私にはない。

 根拠のない自信が私の胸を熱くし、猛者との激戦を心待ちにさせていた。

 現実主義を気取り、未来に希望を持とうとしなかった私は、それゆえに冴えないおじさんとなったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...