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クラスメイトなんていいもんじゃない!
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寝癖をつけたまま、朝から大急ぎで支度をする、普通より顔立ちの良い少年がいた――滝野 湊。今年はれて高校生になったばかりの16歳だ。
「くっそ、昨日は早く寝たのに……」
と、嘆きながらリビングへと降りて行った。そこには優雅に朝から朝食を食べる金髪の髪を伸ばした美少女――有栖 雪乃だ。
「まだ、寝ていたのね、ほんとくそだわ」
ボサボサの頭をかきながら、立ってパンを貪る湊を見て、嘲笑うように言った。ちょうど、湊が食べ終わるのと同じくらいに雪乃もご馳走様でしたと両手を合わせ、食べ終えた。
「いってきます……」
「いってきまーす」
――前日に支度を終わらせていた雪乃と、急いで支度をした湊の声が見事に重なり、そのまま仲良く登校した。
新しく住むことになったこの家は、前の湊家と違って学校まで歩いて登校できる距離にあるため、この近くを通る学生は大体、湊たちと同じ高校の生徒だった。
一緒に登校する形になってしまった湊は、今日も朝から不幸だ。と全身を使って表していた。
「そんなに、全身から不穏なオーラを出していると私まで嫌な気分になるから、やめてちょうだい。ただでさえ、朝からあなたの顔をみて気分は最悪なのに」
「その元凶は貴様だということに気が付かないとはさすがだな、くそ女め。どうして貴様などと一緒に登校しなければならないのだ」
「それはこっちのセリフ……って仕方ないじゃない、同じ方向なんだから!」
「仕方なくない!」
仕方ないで済ます雪乃に対して、全男子がうらやむ彼女との登校に湊は不服をこぼした。口でも心の底でも嫌だと言う湊だが、雪乃の仕方ないに付き合い新しい通学路を歩いた。
特に話すこともない二人は無言のままだったが、そこに神様のように手をさし伸ばしてくれる声が後ろからした。
「おっはよー、朝から一緒に登校なんて仲いいね」
初日で嫌われ者になった湊と入学前から人気者だった雪乃に『仲いい』なんて
冗談交じりで話しかけてきたのは——石川 秋だ。登場が一話以来なのでかいつまんで紹介しよう。
――彼は湊の幼馴染みだ。
「かいつまみすぎなんじゃないかな……」
「誰に話してんだよ」
頭に響いてきた声に反論をするも、ほかの人には聞こえていない声なため、湊に突っ込みを入れられてしまう。
「お二人は仲が良いのですね」
さっきまでの態度とは一変した雪乃は、丁寧な話し方で湊と秋に話しかけた。
「まあね、幼稚園からの付き合いだから仕方ないよ」
「そういうことだ……って、お前らのほうが仲……」
湊が秋とその隣を歩く女子を見ながら「仲いいよな」という前に、その少女の声によってさえぎられた。
「仲良くなんてないよ!もう!これだから湊は!!」
ばか!と言いながら湊のことをポカポカ叩いてくるのは――新川 比奈だ。
外ハネのショートヘアで彼女も湊と幼稚園からの幼馴染み、その時から秋のことが大好きな女の子だ。いわゆるツンデレというやつなのだが、秋に対する態度が違いすぎることから、そのことは周知されている。
もっとも、本人は好かれていることに全く気が付かないような鈍感野郎なのだが。
「いま、ぼくのこと鈍感ってだれか言った……?」
「いや、だれも言ってないぞ」
「もう僕はダメなのかもしれない……」
一人つぶやく秋を「いつもこんなキャラじゃにのにな……」と思う二人だった。それから四人は学校まで一緒に歩いて行った。
「――あ、申し遅れました。初めまして私は有栖 雪乃と申します。よろしくお願いします」
今更のように雪乃が初対面の二人に自己紹介をした。
「そうだったね、僕は石川 秋です、よろしく」
「私は新川 比奈よ、あなたまでツンデレなんて言ったら怒るから」
「初めまして、くそ女。俺の名前は滝野 湊だ。」
自己紹介をする二人に乗っかろうと湊が自己紹介をするが、
「あなたの名前なんて知ったこっちゃないわよ、くそ男」
と相変わらずの反応を見せ、湊の足を踏みつけた。
その慣れたやり取りを見ていた二人は「仲いいね」なんて話していたのを湊と雪乃は知る余地もない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあ、授業始めるぞ~」
無事に遅刻することなく席に着き、HRを終え一時間目の授業が始まる。
一時間目を担当するのは担任の新川先生だ、学園物のテンプレと化してる生徒の実姉設定だが、新川先生ももちろんそうだ。隣のクラスの比奈の実姉。つまり、湊とも何回も面識のある人だった。
「おい、みな……おっと、滝野君。昔から勉強だけはできるからって一時間目から寝てんじゃないよ。どうせ深夜までゲームしてたんだろ」
机に突っ伏して寝ていた湊に先生は突っ込んだ。
「おいおい、遥姉ちゃん。家が隣だからって覗き見とは、やるじゃないか」
「みながそれを言うのか?この間も私の着替えを覗いていたというのに……」
「うわー、ないわー」「さいてーね」「きっも」「おれも見たかったー」
最後に余計なのがまじっていたがクラスの全員から批判の声が上がった。その誤解を解こうと湊が声を大にして叫ぶも、だれも耳を貸さなかった。
「あーあ、私お嫁にいけないわー、みな責任とってよね」
「くっそーー!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時は二日前の土曜日――引っ越しの挨拶とついでに月曜日の持ち物を聞こうと新川家に訪れていた時のことだ。
いつものようにインターホンを押すと、スピーカー越しに透き通った青年の声が聞こえてきた。ちなみに新川家は三姉妹で一番上から、遥、比奈、楓花だ。つまり、この家から青年の声がするというのはおかしい!と思うかもしれないが、これもいつものことだ。
「よお、秋」
「やっほー、はいってどうぞー」
「ういー」
この家で当たり前のように客人を迎えるのは――石川 秋だ。
本人曰く、比奈と一緒にいる時が一番落ち着くからよく遊びに来ているという。
こんな恥ずかしいことを秋は新川家全員の前で言ったそうだ。もっとも、その言葉を聞いて一番驚いていたのは父親ではなく、比奈本人だったらしいが……。
「よう、久しぶり楓華」
「おおー!みなじゃんか!元気してたー?」
「俺は俺で元気してたけど、相変わらず楓華のほうが元気してるな」
「あったりめーじゃん!中学二年生だよ?育ち盛りだよ?色気がない分、元気でカバーしていかないとね!」
中二の時点でこんな発言を普通にする楓花はきっと、将来いいお嫁さんになるはずだ。そんなことを思いながら、湊は手土産を渡すべくおばさんのもとへ向かった。玄関は玄関で元気だったがリビングはリビングでもっと、にぎやかだった。
「お!湊、やっほー」
「おう、それ、大丈夫なのか?」
楽しそうな光景が目に入ってくるリビングでは、秋のおなかの上に比奈が座り、秋の胸をポカポカ叩いていた。
「ん?ああ、大丈夫だよ、こう見えて比奈は軽いから」
「こう見えてってなんだよ!勝手に人の体重を感じてんじゃねーよ!それと……勝手にうちのインターホンを出ないでくれ」
前半の発言と後半の発言の強弱が目立つ中、秋はいつもの感じで比奈に聞いた。
「なんでー?」
「ここはうちの家だからっ!」
比奈にきっぱりと断られ、見るからにしょんぼりする秋だったが、その一部始終を見ていた比奈のお母さん――おばさんはゆったりとした口調で秋にフォローを入れる。
「確かにぃここは私たちの家だけどぉ、もう、秋くんの家でもあるのよぉ?」
「そんなことは私がゆるさなーーい!!」
「あ、そういえばおばさんこれ、おれ引っ越すから」
「まあ、そうだったのね。ありがとう、今日はゆっくりしていってね」
叫ぶ比奈をスルーしてから軽く返事を返すと、おばさんは湊に「遥ちゃんは部屋にいると思うから」とみんなに挨拶を一応したいと思っていた湊は「ありがとう」と礼をいい、遥のいる二階へと進んでいった。
部屋のドアに「はるか」と表札がかけられたドアを軽くノックする。少し待っても返事が来なかったため「まあいいか。遥姉ちゃんだし」とドアノブに手をかけ「はいるよー」と声をかけながら部屋に入っていった。
「――あ」
「――あ」
お互いにこの状況がうまく呑み込めず、一時停止をしてしまう。
遥は大人の色気を放つレース付きの黒い下着に部屋着のTシャツを慌てて着ようとしているところだった。
ベッドの上と髪の毛は乱れ、携帯の画面側を裏にしておき、目を凝らしてみると穿いているパンツは後ろ前が逆になっている。そして、遥は頬を赤く高揚させ息が少し上がっていた。つまり、一人エッチの邪魔を湊はしてしまったのだ。
「……いつまで見てんのよ」
童貞の湊には刺激が強すぎた、目の前に広がるイヤらしい光景と動物としての本能に直接、訴えかけてくる性的な匂いに思考回路を停止させていた湊は、先に動揺を隠した遥の声でやっと思考回路を動かしだす。
「ごめん!」
遥の声で我に戻り、勢いよくドアをしめ外に出た。部屋の外に出た今でも、普段の遥とは違った雰囲気に惑わされていた。
あのきめ細かな白い肌。小さいながらもふっくらとマシュマロみたいな胸。きゅっと引き締まりを見せ一筋の線がはいるウエスト。触れば弾力で跳ね返されそうなお尻。すらっと伸び細すぎないきれいな足。
それらを鮮明に思い出せるほど、湊は瞳に焼き付けられていた。
「んで、もう大丈夫だけど、中入る?」
さっきまでの色っぽさなど、ひとかけらも感じさせないジャージ姿に遥に湊はハッ!と目を覚まし、現実はやっぱこうだよな。と一人思いながら「おう」といい招かれるがまま中に入っていった。
「それでなに?」
「ああ、俺、引っ越す」
「みなにしては律儀なことするじゃない」
「まあ。親に言われたからな」
「ふーん。それで、私の体を見た男、第一号君、感想は?」
引っ越しのことを伝えに来ただけの湊に予想外すぎる展開が繰り広げられ、普段体験しないような出来事に一息ついていると、遥から童貞を殺すような言葉を言われた。
「か、感想だと……!それになんだ、第一号って」
「当り前じゃない、初めて体を見られた男に感想を求めるのって何かおかしい?」
「いや、おかしくないって、そこじゃない!遥姉ちゃんなら男の一人や二人いてもおかしくないっていうか、なんというか……」
小さいころから一緒にいた、大人のお姉さんだと思っていた遥の発言に湊は少し動揺していた。
確かに、今まで気にしてこなかったが遥姉ちゃんに彼氏ができたとか、いたとか一切耳にしてことがなかったな……と考え込む湊に、
「なに?私のことそんな風に思ってたなんて信じられない。ほら、早く感想を聞かせなさい?」
自称処女が童貞を掌で転がすようにからかった。
「そ、そんなわけねえよ!ただ、意外だったってだけで」
「へえー。まあ、いいっか……あの時の反応を見ただけでどう思われたなんて軽く想像がつくしね……」
「まあいいのか……」
遥の言った最後の言葉はもちろん湊には聞こえていない、ただ、声に出したというのはそういう事なのかもしれない。
「なに?感想言いたかったの?」
「そんなわけないだろ!まあ、とにかくだ、引っ越す。以上!」
これ以上厄介なことにならないようにと早口で逃げ道を作って遥の部屋から出て行った。そんな湊に物惜しそうな顔で遥が見ていたなんて湊が気づくはずもなかった。
「あーあ、みなに見られちゃったな……」
湊が出て行った部屋で一人、太陽が傾き始める空を窓越しに見ていた遥はどこかうれしそうだった。
遥の部屋を無事に出た湊は生で初めて見た女性の下着姿を忘れることはできず、ムラムラする気持ちを引きずりながら新川家を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――あれ、どうした滝野君。顔が少し赤いぞ?」
一連の出来事を一瞬にして思い出してしまった湊は顔を赤くした。もっとも、赤いぞ?と遥に言われたが実際ははたから見てわかるほど赤い顔はしていない。しかし、あの時のドアの向こうでしていた本当に赤い顔を裏の意に込めた遥の嫌がらせだったのだが……。
遥にそう言われたことによって、湊は本当に赤い顔をしたのを遥は見逃さなかった。
「遥姉ちゃんの下着姿くらい、どうってこともねえよ!」
遥の挑発にまんまと乗せられた湊は、ここで黙ってちゃ、男子高校生のたかが知れる。と言い返すが、
「下着姿……?」「やっば……」「え、マジきもいんですけど」「やっぱ、俺も見たかった……」
最後のは置いておき、クラスの反応で思わず口が滑ったことにやっと、気が付いた。
「え、下着も見てたの……?やっぱ、お嫁にもらってもらうしかないな」
「またか、くっそーー!」
一時間目の初めから寝ていたことを今になって後悔した湊は時すでに遅し、クラス中が敵に回った後だった。
「くっそ、昨日は早く寝たのに……」
と、嘆きながらリビングへと降りて行った。そこには優雅に朝から朝食を食べる金髪の髪を伸ばした美少女――有栖 雪乃だ。
「まだ、寝ていたのね、ほんとくそだわ」
ボサボサの頭をかきながら、立ってパンを貪る湊を見て、嘲笑うように言った。ちょうど、湊が食べ終わるのと同じくらいに雪乃もご馳走様でしたと両手を合わせ、食べ終えた。
「いってきます……」
「いってきまーす」
――前日に支度を終わらせていた雪乃と、急いで支度をした湊の声が見事に重なり、そのまま仲良く登校した。
新しく住むことになったこの家は、前の湊家と違って学校まで歩いて登校できる距離にあるため、この近くを通る学生は大体、湊たちと同じ高校の生徒だった。
一緒に登校する形になってしまった湊は、今日も朝から不幸だ。と全身を使って表していた。
「そんなに、全身から不穏なオーラを出していると私まで嫌な気分になるから、やめてちょうだい。ただでさえ、朝からあなたの顔をみて気分は最悪なのに」
「その元凶は貴様だということに気が付かないとはさすがだな、くそ女め。どうして貴様などと一緒に登校しなければならないのだ」
「それはこっちのセリフ……って仕方ないじゃない、同じ方向なんだから!」
「仕方なくない!」
仕方ないで済ます雪乃に対して、全男子がうらやむ彼女との登校に湊は不服をこぼした。口でも心の底でも嫌だと言う湊だが、雪乃の仕方ないに付き合い新しい通学路を歩いた。
特に話すこともない二人は無言のままだったが、そこに神様のように手をさし伸ばしてくれる声が後ろからした。
「おっはよー、朝から一緒に登校なんて仲いいね」
初日で嫌われ者になった湊と入学前から人気者だった雪乃に『仲いい』なんて
冗談交じりで話しかけてきたのは——石川 秋だ。登場が一話以来なのでかいつまんで紹介しよう。
――彼は湊の幼馴染みだ。
「かいつまみすぎなんじゃないかな……」
「誰に話してんだよ」
頭に響いてきた声に反論をするも、ほかの人には聞こえていない声なため、湊に突っ込みを入れられてしまう。
「お二人は仲が良いのですね」
さっきまでの態度とは一変した雪乃は、丁寧な話し方で湊と秋に話しかけた。
「まあね、幼稚園からの付き合いだから仕方ないよ」
「そういうことだ……って、お前らのほうが仲……」
湊が秋とその隣を歩く女子を見ながら「仲いいよな」という前に、その少女の声によってさえぎられた。
「仲良くなんてないよ!もう!これだから湊は!!」
ばか!と言いながら湊のことをポカポカ叩いてくるのは――新川 比奈だ。
外ハネのショートヘアで彼女も湊と幼稚園からの幼馴染み、その時から秋のことが大好きな女の子だ。いわゆるツンデレというやつなのだが、秋に対する態度が違いすぎることから、そのことは周知されている。
もっとも、本人は好かれていることに全く気が付かないような鈍感野郎なのだが。
「いま、ぼくのこと鈍感ってだれか言った……?」
「いや、だれも言ってないぞ」
「もう僕はダメなのかもしれない……」
一人つぶやく秋を「いつもこんなキャラじゃにのにな……」と思う二人だった。それから四人は学校まで一緒に歩いて行った。
「――あ、申し遅れました。初めまして私は有栖 雪乃と申します。よろしくお願いします」
今更のように雪乃が初対面の二人に自己紹介をした。
「そうだったね、僕は石川 秋です、よろしく」
「私は新川 比奈よ、あなたまでツンデレなんて言ったら怒るから」
「初めまして、くそ女。俺の名前は滝野 湊だ。」
自己紹介をする二人に乗っかろうと湊が自己紹介をするが、
「あなたの名前なんて知ったこっちゃないわよ、くそ男」
と相変わらずの反応を見せ、湊の足を踏みつけた。
その慣れたやり取りを見ていた二人は「仲いいね」なんて話していたのを湊と雪乃は知る余地もない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあ、授業始めるぞ~」
無事に遅刻することなく席に着き、HRを終え一時間目の授業が始まる。
一時間目を担当するのは担任の新川先生だ、学園物のテンプレと化してる生徒の実姉設定だが、新川先生ももちろんそうだ。隣のクラスの比奈の実姉。つまり、湊とも何回も面識のある人だった。
「おい、みな……おっと、滝野君。昔から勉強だけはできるからって一時間目から寝てんじゃないよ。どうせ深夜までゲームしてたんだろ」
机に突っ伏して寝ていた湊に先生は突っ込んだ。
「おいおい、遥姉ちゃん。家が隣だからって覗き見とは、やるじゃないか」
「みながそれを言うのか?この間も私の着替えを覗いていたというのに……」
「うわー、ないわー」「さいてーね」「きっも」「おれも見たかったー」
最後に余計なのがまじっていたがクラスの全員から批判の声が上がった。その誤解を解こうと湊が声を大にして叫ぶも、だれも耳を貸さなかった。
「あーあ、私お嫁にいけないわー、みな責任とってよね」
「くっそーー!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時は二日前の土曜日――引っ越しの挨拶とついでに月曜日の持ち物を聞こうと新川家に訪れていた時のことだ。
いつものようにインターホンを押すと、スピーカー越しに透き通った青年の声が聞こえてきた。ちなみに新川家は三姉妹で一番上から、遥、比奈、楓花だ。つまり、この家から青年の声がするというのはおかしい!と思うかもしれないが、これもいつものことだ。
「よお、秋」
「やっほー、はいってどうぞー」
「ういー」
この家で当たり前のように客人を迎えるのは――石川 秋だ。
本人曰く、比奈と一緒にいる時が一番落ち着くからよく遊びに来ているという。
こんな恥ずかしいことを秋は新川家全員の前で言ったそうだ。もっとも、その言葉を聞いて一番驚いていたのは父親ではなく、比奈本人だったらしいが……。
「よう、久しぶり楓華」
「おおー!みなじゃんか!元気してたー?」
「俺は俺で元気してたけど、相変わらず楓華のほうが元気してるな」
「あったりめーじゃん!中学二年生だよ?育ち盛りだよ?色気がない分、元気でカバーしていかないとね!」
中二の時点でこんな発言を普通にする楓花はきっと、将来いいお嫁さんになるはずだ。そんなことを思いながら、湊は手土産を渡すべくおばさんのもとへ向かった。玄関は玄関で元気だったがリビングはリビングでもっと、にぎやかだった。
「お!湊、やっほー」
「おう、それ、大丈夫なのか?」
楽しそうな光景が目に入ってくるリビングでは、秋のおなかの上に比奈が座り、秋の胸をポカポカ叩いていた。
「ん?ああ、大丈夫だよ、こう見えて比奈は軽いから」
「こう見えてってなんだよ!勝手に人の体重を感じてんじゃねーよ!それと……勝手にうちのインターホンを出ないでくれ」
前半の発言と後半の発言の強弱が目立つ中、秋はいつもの感じで比奈に聞いた。
「なんでー?」
「ここはうちの家だからっ!」
比奈にきっぱりと断られ、見るからにしょんぼりする秋だったが、その一部始終を見ていた比奈のお母さん――おばさんはゆったりとした口調で秋にフォローを入れる。
「確かにぃここは私たちの家だけどぉ、もう、秋くんの家でもあるのよぉ?」
「そんなことは私がゆるさなーーい!!」
「あ、そういえばおばさんこれ、おれ引っ越すから」
「まあ、そうだったのね。ありがとう、今日はゆっくりしていってね」
叫ぶ比奈をスルーしてから軽く返事を返すと、おばさんは湊に「遥ちゃんは部屋にいると思うから」とみんなに挨拶を一応したいと思っていた湊は「ありがとう」と礼をいい、遥のいる二階へと進んでいった。
部屋のドアに「はるか」と表札がかけられたドアを軽くノックする。少し待っても返事が来なかったため「まあいいか。遥姉ちゃんだし」とドアノブに手をかけ「はいるよー」と声をかけながら部屋に入っていった。
「――あ」
「――あ」
お互いにこの状況がうまく呑み込めず、一時停止をしてしまう。
遥は大人の色気を放つレース付きの黒い下着に部屋着のTシャツを慌てて着ようとしているところだった。
ベッドの上と髪の毛は乱れ、携帯の画面側を裏にしておき、目を凝らしてみると穿いているパンツは後ろ前が逆になっている。そして、遥は頬を赤く高揚させ息が少し上がっていた。つまり、一人エッチの邪魔を湊はしてしまったのだ。
「……いつまで見てんのよ」
童貞の湊には刺激が強すぎた、目の前に広がるイヤらしい光景と動物としての本能に直接、訴えかけてくる性的な匂いに思考回路を停止させていた湊は、先に動揺を隠した遥の声でやっと思考回路を動かしだす。
「ごめん!」
遥の声で我に戻り、勢いよくドアをしめ外に出た。部屋の外に出た今でも、普段の遥とは違った雰囲気に惑わされていた。
あのきめ細かな白い肌。小さいながらもふっくらとマシュマロみたいな胸。きゅっと引き締まりを見せ一筋の線がはいるウエスト。触れば弾力で跳ね返されそうなお尻。すらっと伸び細すぎないきれいな足。
それらを鮮明に思い出せるほど、湊は瞳に焼き付けられていた。
「んで、もう大丈夫だけど、中入る?」
さっきまでの色っぽさなど、ひとかけらも感じさせないジャージ姿に遥に湊はハッ!と目を覚まし、現実はやっぱこうだよな。と一人思いながら「おう」といい招かれるがまま中に入っていった。
「それでなに?」
「ああ、俺、引っ越す」
「みなにしては律儀なことするじゃない」
「まあ。親に言われたからな」
「ふーん。それで、私の体を見た男、第一号君、感想は?」
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「か、感想だと……!それになんだ、第一号って」
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「いや、おかしくないって、そこじゃない!遥姉ちゃんなら男の一人や二人いてもおかしくないっていうか、なんというか……」
小さいころから一緒にいた、大人のお姉さんだと思っていた遥の発言に湊は少し動揺していた。
確かに、今まで気にしてこなかったが遥姉ちゃんに彼氏ができたとか、いたとか一切耳にしてことがなかったな……と考え込む湊に、
「なに?私のことそんな風に思ってたなんて信じられない。ほら、早く感想を聞かせなさい?」
自称処女が童貞を掌で転がすようにからかった。
「そ、そんなわけねえよ!ただ、意外だったってだけで」
「へえー。まあ、いいっか……あの時の反応を見ただけでどう思われたなんて軽く想像がつくしね……」
「まあいいのか……」
遥の言った最後の言葉はもちろん湊には聞こえていない、ただ、声に出したというのはそういう事なのかもしれない。
「なに?感想言いたかったの?」
「そんなわけないだろ!まあ、とにかくだ、引っ越す。以上!」
これ以上厄介なことにならないようにと早口で逃げ道を作って遥の部屋から出て行った。そんな湊に物惜しそうな顔で遥が見ていたなんて湊が気づくはずもなかった。
「あーあ、みなに見られちゃったな……」
湊が出て行った部屋で一人、太陽が傾き始める空を窓越しに見ていた遥はどこかうれしそうだった。
遥の部屋を無事に出た湊は生で初めて見た女性の下着姿を忘れることはできず、ムラムラする気持ちを引きずりながら新川家を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――あれ、どうした滝野君。顔が少し赤いぞ?」
一連の出来事を一瞬にして思い出してしまった湊は顔を赤くした。もっとも、赤いぞ?と遥に言われたが実際ははたから見てわかるほど赤い顔はしていない。しかし、あの時のドアの向こうでしていた本当に赤い顔を裏の意に込めた遥の嫌がらせだったのだが……。
遥にそう言われたことによって、湊は本当に赤い顔をしたのを遥は見逃さなかった。
「遥姉ちゃんの下着姿くらい、どうってこともねえよ!」
遥の挑発にまんまと乗せられた湊は、ここで黙ってちゃ、男子高校生のたかが知れる。と言い返すが、
「下着姿……?」「やっば……」「え、マジきもいんですけど」「やっぱ、俺も見たかった……」
最後のは置いておき、クラスの反応で思わず口が滑ったことにやっと、気が付いた。
「え、下着も見てたの……?やっぱ、お嫁にもらってもらうしかないな」
「またか、くっそーー!」
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