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引っ越しなんていいもんじゃない!
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一人、部屋で頭を抱えて唸っているのは――滝野 湊。先日、人生で一番美しいと思った年上お姉さんを拝んでいたら、金髪ロングという、湊の美学に反する容姿を持つ女に邪魔された。そのな日の夜、母親から再婚をすると告げられ、今に至る。
それに伴って、再婚者――吉敷が新居を用意し、都内の一等地に引っ越すことになった。
普通の人なら、都内の一等地に住めるとなれば、大喜びでお漏らしをするだろうが、残念ながら普通の人出はなかった湊は、それをただただめんどくさがっていた。
この16年間に貯めに貯めたライトノベルや漫画、DVD、CD、文学小説、フィギュア、専門学書などなど、好奇心に満ち溢れた湊は、気になったことをとことん気が済むまで調べ上げないとおかしくなってしまうため、部屋にはたくさんのものであふれていた。
三年前に両親が離婚したとき。この家に越してきたわけだったが、その時にもいろいろな物を片付け捨ててきた。即ち、湊には引っ越しに関して全くいい思い出がないのだ。
「はあ、どうしたものか……部屋の片づけが済んでから新居を見に行くわけだが……」
「なら、先に見に行ってから、持っていくものを決めればいいじゃない」
「いや、部屋の大小関係なく、この部屋のものはすべて持っていくと心に決めてある。三年前に犯した過ちを二度と繰り返してたまるものか」
「そう……なら、早く段ボールに詰めなさいよ」
「そうしたいのだが、人手が足りなくてな……って、お前少し手伝えよ」
「いやよ、そんな汚らわしいものに触りたくもないわ」
「……ん?そういえば、俺はさっきから誰と……」
――今まで一人で考え込んでいたことに気が付き、俺は誰と会話していたのだ?とやっと疑問に思った湊は声のするドアのほうに顔を向けた。
そこに自然といたのは、口にタオルを当て、その下にマスクまでも付けた不自然な姿の金髪ロング――有栖 雪乃だった。
「な!どうして貴様がここにいる!」
「どうしてって、あなたのお母さんが私に息子の片づけを手伝ってもらえないかしら?って言われたから仕方なく来てあげたのよ!」
「片づけを手伝ってほしいのはそうだが、余計なことを……」
「それで、私は何をすればいいの?本当はこんなオタク部屋に入りたくもないのだけれど」
「ずいぶん、余裕だな。貴様はもう済んだのか?」
「当り前よ!あなたみたいなくそ男と同じにしないでもらえるかしら?!」
そんなこんなでいつもの言い合いが続き――結局、片づけが一向に終わらない湊は息抜きに新居を見に行くことにした。
じゃあな、と雪乃に一言告げ、家の駐車場に止めてある、250ccのバイクにまたがりエンジンンを点けた。すると、何か不自然な重心の傾きが気になり、もしかして……と後ろを向くと。
「はやく出発しなさいよ」
「だから、どうして貴様が乗っているのだ!」
「私も行くからに決まっているでしょう?ほら、道案内はしてあげるから行きなさい?」
もう、雪乃と話していてもどうにもならないことを学んだ湊は、自分がかぶろうとしていたフルフェイスのヘルメットを雪乃にかぶせ、湊はその半分の値段もしない安いヘルメットをかぶり、雪乃に一言「危ないから、ちゃんとつかまっとけよ」と声をかけ新居にむかった。
――バイクを走らせてから少しが経った頃、湊は背中に当たるやわらかいものに夢中になっていた。
定番のお胸が背中にくっついているという現象に童貞の湊は感動を覚えていたのだ。もし、後ろにお姉さんを乗せたら……あの時の女神様が乗ってくれたら……!乗っているときだけ、独り占めだあ!!と叫びたがる心にブレーキをかけ、バイクも赤信号で停車した。
信号が青に変わりまた、走り始める。雪乃による、見事なまでの道案内のおかげか一時間もかからないで新居についた。
――写真で見た通りの高級住宅街のど真ん中に建っていたのは白を基調とした美しい一軒家だった。まるで地中海にでもいるかのような雰囲気だ。正直、我が家として認める……認識できるようになるまでかなり時間がかかりそうだった。
「ここまで来て、あれだが、カギは持っているのか?」
「もちろんよ、私を誰だと思っていいるのよ、まったく……」
湊にあきれた雪乃はカバンの中を探した……。
「ごめん、カバンあなたの部屋に置いてきちゃった」
「カギもそのなかに……?」
「……うん」
「このやろー!!」
高級住宅街に似合わない、いや、どこにいても決して似合うことのない湊の叫び声が響いた。
「ほら、取りに帰るぞ」
「――まって、あの車、お父さんのやつだわ」
前からくる黒い車を見つけるなり、エンジンをかけまたがり、雪乃が乗るのを待っていた湊に声をかけた。
車に向かって手を振り、新居の手前にとまった。
「雪乃と湊くんじゃないか、先に来ていたんだね」
「あら、本当だわ、仲良しね」
「仲良しじゃないです、あ、そうだ、お父さん、カギ持ってる?」
「持ってるよ、どうせなら一緒に入ろうか」
車を道路の端に止め吉敷を先頭に新居に足を踏み入れた。
外見から見てわかるように中も広く作られていた。玄関だけで二畳もあるスペースに、目の前には絨毯付きの階段、リビングは何畳かわからないほど大きな部屋だった。
本来の目的を忘れてウキウキで見て回る湊だったが、二階に上がったところでようやく本来の目的を思い出した。
「ここが俺の部屋か、前よりもはるかにでかいな」
「まあ、私の部屋の方が大きいけれどね」
「なんだ、貴様はいちいち人を馬鹿にしないと死んでしまう病にでもかかっているのか?」
「そんな病になんてかかってないわよ!」
むすっとした顔で雪乃は湊の部屋(新)から出て行った。
「私だってそんな……態度取りたくてとってるわけじゃないいのに……」
部屋をでる前にぼそっと言ったこの言葉を湊に届くことはなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よし!完成だ!」
始めたときにはまだ、出ていたお天道様も今では、お休みの時間に入ろうとしていた。
金曜日の夜に再婚を告げられ、土曜日に新居を見に訪れた。そして、その日中に段ボール詰めを終わらせ、日曜日の朝に新居へ運び込み、時刻は午後8時。
額に垂れてくる汗を右手で拭いつつ湊は疲れたように長い溜息をついた。
湊の部屋は8畳近くある大きな部屋だった。
それを全体的に物静かな色合いで揃え、引っ越しを機に今まで押入れの中にしまっていた本などを取りやすくするため本棚をいくつか新しく買ってあった。もっとも、湊には取り出しやすくする必要などは全く必要のないことなのだが。
「いやあ、我ながらにいい仕事をした」
両手を腰に当て、出来上がった新たな部屋を眺めていると、
「ふんっ!あんたにしてはきれいじゃない」
ドアのほうから聞こえた声はかなり高い頻度で遊びに来る雪乃のものだった。
「くそ女、また来たか。貴様の部屋はどうなのだ」
「くそ女って!なによ。くそオタクド変態男、しかたないから、日だけ特別に私の部屋への立ち入りを許可するわ」
ちょくちょく湊の部屋に遊びに来ては上から目線でものを言って帰る。それが雪乃だ。今回もたまたま部屋に遊びに行ったら完成していたのでつい、上からものを言ってしまったのだ。上からものを言うのは湊もそう変わらないが……。
「どうよ、私のお部屋は」
「へえー。くそ女にしてはなかなかいいじゃないか」
男子校生の湊とは一変して、女子高校生の雪乃の部屋は、この家の外装と同じ白を基調とした高級感漂う部屋になっていた。
「そうでしょう?やっと私のすごさが分かったようね」
「まあ、貴様にしてはだがな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そういうと湊は自室に戻りパソコンの電源を付けドラゴン・ハンターを始めた。
『ドラゴン・ハンター』
画面にゲームのロゴが表示され、ログインボタンをクリックする。
――引き続き、プレイしますか?
YES ◁
NO
もちろんYESを選び、ゲームの世界に入っていった。
目の前に描写されたのは巨大樹だ。大きな根は地面からはみ出し、そこから伸びる幹は逞しいほどに太く、枝が着るように纏う葉は青々とした元気があふれていた。
雪乃の父親が事前にネットワークの契約を済ませておいてくれたため、ロードには時間がかからず、感覚的には前の家よりも早い気がした。
「さてと……」
現実世界で一息つき、いつも一緒にプレイする女性を探す。彼女とは数か月前にオンライン上で知り合い、意気投合し、仲良くなってよく遊ぶ仲になったのだ。
ピコン!
『こんばんわー』
そう送ってきたのはゆきと書かれたフレンドからだった。その挨拶に、
『こんばんわ、この間の炎龍討伐はご苦労様です』
『いえいえ、あれはフォールディングさんがいたから討伐できたもので、私はなんにもやっていないですよ!』
フォールディングというのは湊のアカウント名だ。
苗字の滝という字を英語に直し、現在進行形に少し変えただけの安易な名前。
『ゆきちゃんはいつも謙虚だよね』
『いやいや!本当のことを言っただけですよ!』
ゆきと呼ばれているのが、いつも謙虚でさり気ないサポートをしてくれるプレイヤーだ。あのくそ女にも見習ってほしいものだと心の底から思う湊だった。
『今回は、飛竜討伐行きたいんですけど、どうしますか?』
『あ!それちょうど私も行きたいと思っていたところだったんですよ!もしかして、期間限定装備集めてます?』
『じゃあ、クエストとってきますね!』
『はあーい!』
期間限定装備というのは、文字通り一時的な期間中に指定された素材を集めると、通常では作れない特別な装備が作ることのできるものだ。
湊――フォールディングはクエスト板から受注するクエストを剥がすため、巨大樹の広場から、ギルドへマップ移動した。
ギルド内は相変わらず、冒険者でにぎわっており。その中を縫うようにクエスト板まで行き、目的のクエストを剥がした。
ゆきは赤く光るエフェクト付きの炎龍装備を軽く着こなし、背中に見た目と反して意外と軽い特注のライフルを装備している。
「こんばんは、炎龍装備なかなか似合ってますね」
「こんばんわー、そうですか?ありがとうございます!!」
チャットでは挨拶をしたものの、今日会って話すのはっはじめてなこともあり、互いに軽く挨拶を交わし、
「じゃ、行くとしますか」
「はいっ!」
ギルドからフィールドにマップ移動した。
飛竜は基本、山岳地帯に巣をかまえ、鹿や羊を基本とした動物を狩って生活している。しかし、この時期は繁殖期にも被っているため、フィールドにいくつかある山を虱潰しに登っていくしかないのだ。運営側はその事を踏まえてイベントを企画しているのだから、鬼畜としか言い様がない。
「フォールディングさんは飛竜討伐したことあります?」
「ありますよ、ソロでもマルチでも何回かですけどね」
「ええ!ソロであるんですか?!あの、ゴツゴツした山を登って、空から攻撃してくる、あの、飛竜をですか?!え、でも、剣だと結構キツなかったですか?」
「あーでも、いくつか耐性を付けとけば意外とどうにかなりましたよ!」
「ええー!さすがですね!」
山岳地帯と言っても、緑が生い茂っていたり、雪が積もっていたりとそういう山には飛竜は基本生息しない。
飛竜が好んで生息するのは、ゆきの言っていたゴツゴツとしたはげ山にしか居ないのだ。そのため、冒険者は上空を飛ぶ飛竜に夢中になり、足元を見れずに転落死してクエスト失敗というのがよくある。
そこで、有効とされているのが立ち回りの少ない遠距離系武器。ゴツゴツとした土地を逆に利用してやり、仕留める。
しかし、先駆者がこの手を使いすぎて飛竜が学んでしまい、遠距離から攻撃してくる冒険者を風で吹き飛ばしたり、後ろに逃げ場のない事を逆手に取り、炎を吹いて焼け焦がしたりと、飛竜も飛竜なりに、反撃してきているのが今の現状だ。
それを、フォールディングは一人で討伐をこなしているという。前回の炎龍討伐の時もそうだったが、討伐難易度★★★★★のドラゴン相手に軽くあしらったり、反撃をする暇を相手に与えなかったりと、フォールディングの只者じゃないプレイにゆきは「何者なんだろう」といつも思うのだった。
「お、あそこのはげ山に動物が居ないですね、なんでだと思います?」
やっと、山が見えてきて、千里眼の加護を付けたフォールディングがゆきに問いた。
「んー!飛竜が巣を作っているからですか?」
「正解!」
「じゃあ!あそこの山に決定ですね!」
「確かにあそこの山に巣を作っているのは確かだけど、あそこに行っても目的の飛竜はいないんですよ」
先輩として憧れるフォールディングの問に見事正解したことに喜び、さあ!行きましょう!と意気込むゆきだったが、その的は外れてしまった。
「どうしてですか?巣があるなら子供でも大人でもいますよね?」
「……ゆきちゃん、小さい飛竜も討伐しようとしてたんですか」
意外と残忍な考えを持つゆきに軽く引いたフォールディングを見て、必死に誤解を解こうと早口で、
「いや!それは違いますよ!子供がいるってことは、待っていれば親が帰ってくるから、そこを!ってことです!」
「まあ、それはそれで酷いですけど……話を戻しますね。
――はじめに言った動物がいないと言うことは、獲物がないってことじゃないですか?普通の冒険者なら、動物がいない=飛竜がいるって考えがちになってるんですけど、いないとこにずっといたりします?仮に居たとしても、わざわざほかの山まで狩りに行かないといけないじゃないすか?」
「あーー!だったら、まだ、飛竜のいない、動物のいる山に先回りして迎え撃つってことですね!」
「その通りです!」
飛竜を討伐することに変わりないが、フォールディングはすこし、胸にしこりを感じたのだった。
山が見える草原から、少し緑が賑やかな林の中へと入っていった。小鳥のさえずりや小動物の生きている音をBGMに二人は目的の山目指して歩き続けた。
「そういえば、フォールディングさんはどうやってそんなに加護を付けてるんですか?」
「ああ、これはね……」
ゆきよりもはるかに多く加護を付けているフォールディングの秘密を聞こうとした刹那。
「――――ッ!!」
鼓膜から血が出そうになるほどの高音が林の中を響かせた。
フォールディングが聞こえてきた方向に視線をやると、そこには一頭の大きな飛竜が木々をなぎ倒し、その体が十分に休めさせられるほどのサークルを作り、腕と胴体をつなぐ翼を広げ、前傾姿勢でこちらに威嚇をしている。
「な……なんでこんな林の中に!」
「きっと、イベントのせいで乱獲者が増えたことが原因ですかね」
林に居ずく飛竜を憐れむフォールディングとゆきだったが、本人たちもその一員だということに二人が気付くことはなかった。
「どうします?」
「んー、正直、狩る気なりますよね」
一応、と言いつつ。いつ攻撃してくるかわからない飛竜にもちらも、武器を構えておく。しかし、目の前の飛竜はさっきから威嚇をするばかっりで一向に攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
向こう側の林に背を向け、いつもより少し背伸びした感じでただただ、こちらに視線を送ってくるのだ。まるで、こちらは何もしない、だから、お前らも何もするなと言わんばかりに。
その異様な態度にどこか見覚えがあったフォールディングはそれがなんだったか、と頭を巡らせた。
「そうだ!あれは子を守る親の姿勢だ!」
「子を守る……?」
子供でもなんでも飛竜なら倒すとさっき公言していたゆきは顎に手を当て考えた。
「そう!あの飛竜の下をよーく見てみてください!」
「よーく、よーく……あ!子供が怪我してる!してますよ!だから、さっきから攻撃をしてこないんですね!守る親がいなくなったら、弱い子供に標的が移りますもんね!」
異様な飛竜の親子愛をやっと理解した二人は武器をしまい、こちらに攻撃の意思がないことを示した。するとその誠意が伝わったのか、緊張感を帯びていた飛竜の表情がすこしやわらぎ、翼を少し下げた。
「よしよし、大丈夫ですよー」
ゆきが怪我をしている子供に傷薬を塗ってあげようと近づいた瞬間、母飛竜が背を向けていた林が微かに動き、パンッ!という消音装置を付けたライフル特有の音とともに、高回転する弾が母飛竜目がけて飛んできた。
その軌道は母飛竜の脳天を定めており、即死させるには十分だった。
勢いが弱まることもなく、そのまま脳天を突き抜け、射線上にあった木に刺さり、白い煙を立て止まった。子飛竜は母親の体に潰れ、辺りは血の海に変わった。
そうなると誰もが悟った、一人だけそれとは違った者がいた。その名はフォールディングだ。
弾が放たれた瞬間にすぐさま動き、背中の剣を抜いていた。そして、鷲のように獲物を捕らえると、高回転し進み続ける弾を一刀両断し、その斬撃で林の奥に隠れていた冒険者を一撃で倒して見せたのだ。
その目に留まらぬ速さで二頭の飛竜を救ったフォールディングは背中に剣を戻し、周りに被害が及んでいないことを確認すると、安堵の息をついた。
「す、すごい……」
まるで小さな子供がヒーローものを初めてみたような眼差しでゆきはフォールディングを見つめた。
「大丈夫ですか?ん?おうおう、無事そうでよかったよ」
ゆきをはじめに心配したフォールディングに、命を救ってもらった母飛竜が鼻先を寄せ、ぐりぐりさせてきた。
普段、ほかの生き物を獲物としか見ないくらい気性の荒いことで有名な飛竜だが、命を救ってもらった恩人だからなのか、彼の人柄なのかわからないが、フォールディングにまるでお礼をしているように見えた。
フォールディングは母飛竜とゆきに「ちょっと、待っててください」と一言残し、弾の飛んできた林の中へ入っていくと、倒れている男の周りにほかの人がいた痕跡がないことを確認し。そして、母飛竜を襲った男の所持金と武器を奪い、男は近くの木に固く結んでおいた。
「この飛竜たちはどうしようか」
林の中から出てきたフォールディングは母飛竜と子飛竜を抱くゆきを見た。
「飛竜じゃなくて、コーヒーとココアにしました!」
コーヒー!と呼ぶと母飛竜が返事をするかのように喉を鳴らし、ココアと呼ぶとゆきが抱いている子飛竜がなあに?と言っているかのように、ゆきの顔をなめた。
二人が頭よく返事するのを見て、自分事のようにゆきはドヤる。
「じゃあ、コーヒーとココアはゆきちゃんに任せるよ、これ使いな」
「ええ!これって超超超貴重品のドラゴン用名札じゃないですか!」
「そんなに仲良くなってるんだ、名前を正式につけて安全を保障してあげなよ」
ドラゴン用名札というのは、読んで字のごとく。信頼関係を築いたプレイヤーとドラゴンの間で結ぶ、いわゆる契約的なものだ。この名札を付けられたドラゴンは敵モンスターとして他プレイヤーからも認識されなくなり、攻撃を受けなくなる。ただし、戦闘時には無効。
無事、ゆきとコーヒー、ココアとの間で契約が成され敵モンスターではなく友好モンスターへと変わったのだった。
「じゃあ、おつかれさまです」
「はい!お疲れさまでした!今日もカッコよかったですよ!」
「はいはい、ありがと」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――プレイヤーがログアウトしました。
「ふあー……なんだか、疲れたな。」
再婚に続き引っ越しを終えた後のドラゴン・ハンターはいつもより違った意味で湊は疲れを感じていた。
ディスプレイに表示されている時間は……午後10時。
いつもより早い時間に終わったが、疲れもたまっていたので今日は早く寝ることにした湊は、部屋を出て水を飲もうとリビングに向かう途中、雪乃とばったり出会った。
――どこか上機嫌の雪乃を気持ち悪く思い、
「いつにもまして気持ち悪いぞ、貴様」
「そう?そう見える?今日は好きな人のかっこいいところが見れたからね、ふふふ……」
いつもならもっと、突っかかってくるはずの雪乃だったが、湊のことを軽くスルーし、先にリビングへ向かった。
それに伴って、再婚者――吉敷が新居を用意し、都内の一等地に引っ越すことになった。
普通の人なら、都内の一等地に住めるとなれば、大喜びでお漏らしをするだろうが、残念ながら普通の人出はなかった湊は、それをただただめんどくさがっていた。
この16年間に貯めに貯めたライトノベルや漫画、DVD、CD、文学小説、フィギュア、専門学書などなど、好奇心に満ち溢れた湊は、気になったことをとことん気が済むまで調べ上げないとおかしくなってしまうため、部屋にはたくさんのものであふれていた。
三年前に両親が離婚したとき。この家に越してきたわけだったが、その時にもいろいろな物を片付け捨ててきた。即ち、湊には引っ越しに関して全くいい思い出がないのだ。
「はあ、どうしたものか……部屋の片づけが済んでから新居を見に行くわけだが……」
「なら、先に見に行ってから、持っていくものを決めればいいじゃない」
「いや、部屋の大小関係なく、この部屋のものはすべて持っていくと心に決めてある。三年前に犯した過ちを二度と繰り返してたまるものか」
「そう……なら、早く段ボールに詰めなさいよ」
「そうしたいのだが、人手が足りなくてな……って、お前少し手伝えよ」
「いやよ、そんな汚らわしいものに触りたくもないわ」
「……ん?そういえば、俺はさっきから誰と……」
――今まで一人で考え込んでいたことに気が付き、俺は誰と会話していたのだ?とやっと疑問に思った湊は声のするドアのほうに顔を向けた。
そこに自然といたのは、口にタオルを当て、その下にマスクまでも付けた不自然な姿の金髪ロング――有栖 雪乃だった。
「な!どうして貴様がここにいる!」
「どうしてって、あなたのお母さんが私に息子の片づけを手伝ってもらえないかしら?って言われたから仕方なく来てあげたのよ!」
「片づけを手伝ってほしいのはそうだが、余計なことを……」
「それで、私は何をすればいいの?本当はこんなオタク部屋に入りたくもないのだけれど」
「ずいぶん、余裕だな。貴様はもう済んだのか?」
「当り前よ!あなたみたいなくそ男と同じにしないでもらえるかしら?!」
そんなこんなでいつもの言い合いが続き――結局、片づけが一向に終わらない湊は息抜きに新居を見に行くことにした。
じゃあな、と雪乃に一言告げ、家の駐車場に止めてある、250ccのバイクにまたがりエンジンンを点けた。すると、何か不自然な重心の傾きが気になり、もしかして……と後ろを向くと。
「はやく出発しなさいよ」
「だから、どうして貴様が乗っているのだ!」
「私も行くからに決まっているでしょう?ほら、道案内はしてあげるから行きなさい?」
もう、雪乃と話していてもどうにもならないことを学んだ湊は、自分がかぶろうとしていたフルフェイスのヘルメットを雪乃にかぶせ、湊はその半分の値段もしない安いヘルメットをかぶり、雪乃に一言「危ないから、ちゃんとつかまっとけよ」と声をかけ新居にむかった。
――バイクを走らせてから少しが経った頃、湊は背中に当たるやわらかいものに夢中になっていた。
定番のお胸が背中にくっついているという現象に童貞の湊は感動を覚えていたのだ。もし、後ろにお姉さんを乗せたら……あの時の女神様が乗ってくれたら……!乗っているときだけ、独り占めだあ!!と叫びたがる心にブレーキをかけ、バイクも赤信号で停車した。
信号が青に変わりまた、走り始める。雪乃による、見事なまでの道案内のおかげか一時間もかからないで新居についた。
――写真で見た通りの高級住宅街のど真ん中に建っていたのは白を基調とした美しい一軒家だった。まるで地中海にでもいるかのような雰囲気だ。正直、我が家として認める……認識できるようになるまでかなり時間がかかりそうだった。
「ここまで来て、あれだが、カギは持っているのか?」
「もちろんよ、私を誰だと思っていいるのよ、まったく……」
湊にあきれた雪乃はカバンの中を探した……。
「ごめん、カバンあなたの部屋に置いてきちゃった」
「カギもそのなかに……?」
「……うん」
「このやろー!!」
高級住宅街に似合わない、いや、どこにいても決して似合うことのない湊の叫び声が響いた。
「ほら、取りに帰るぞ」
「――まって、あの車、お父さんのやつだわ」
前からくる黒い車を見つけるなり、エンジンをかけまたがり、雪乃が乗るのを待っていた湊に声をかけた。
車に向かって手を振り、新居の手前にとまった。
「雪乃と湊くんじゃないか、先に来ていたんだね」
「あら、本当だわ、仲良しね」
「仲良しじゃないです、あ、そうだ、お父さん、カギ持ってる?」
「持ってるよ、どうせなら一緒に入ろうか」
車を道路の端に止め吉敷を先頭に新居に足を踏み入れた。
外見から見てわかるように中も広く作られていた。玄関だけで二畳もあるスペースに、目の前には絨毯付きの階段、リビングは何畳かわからないほど大きな部屋だった。
本来の目的を忘れてウキウキで見て回る湊だったが、二階に上がったところでようやく本来の目的を思い出した。
「ここが俺の部屋か、前よりもはるかにでかいな」
「まあ、私の部屋の方が大きいけれどね」
「なんだ、貴様はいちいち人を馬鹿にしないと死んでしまう病にでもかかっているのか?」
「そんな病になんてかかってないわよ!」
むすっとした顔で雪乃は湊の部屋(新)から出て行った。
「私だってそんな……態度取りたくてとってるわけじゃないいのに……」
部屋をでる前にぼそっと言ったこの言葉を湊に届くことはなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よし!完成だ!」
始めたときにはまだ、出ていたお天道様も今では、お休みの時間に入ろうとしていた。
金曜日の夜に再婚を告げられ、土曜日に新居を見に訪れた。そして、その日中に段ボール詰めを終わらせ、日曜日の朝に新居へ運び込み、時刻は午後8時。
額に垂れてくる汗を右手で拭いつつ湊は疲れたように長い溜息をついた。
湊の部屋は8畳近くある大きな部屋だった。
それを全体的に物静かな色合いで揃え、引っ越しを機に今まで押入れの中にしまっていた本などを取りやすくするため本棚をいくつか新しく買ってあった。もっとも、湊には取り出しやすくする必要などは全く必要のないことなのだが。
「いやあ、我ながらにいい仕事をした」
両手を腰に当て、出来上がった新たな部屋を眺めていると、
「ふんっ!あんたにしてはきれいじゃない」
ドアのほうから聞こえた声はかなり高い頻度で遊びに来る雪乃のものだった。
「くそ女、また来たか。貴様の部屋はどうなのだ」
「くそ女って!なによ。くそオタクド変態男、しかたないから、日だけ特別に私の部屋への立ち入りを許可するわ」
ちょくちょく湊の部屋に遊びに来ては上から目線でものを言って帰る。それが雪乃だ。今回もたまたま部屋に遊びに行ったら完成していたのでつい、上からものを言ってしまったのだ。上からものを言うのは湊もそう変わらないが……。
「どうよ、私のお部屋は」
「へえー。くそ女にしてはなかなかいいじゃないか」
男子校生の湊とは一変して、女子高校生の雪乃の部屋は、この家の外装と同じ白を基調とした高級感漂う部屋になっていた。
「そうでしょう?やっと私のすごさが分かったようね」
「まあ、貴様にしてはだがな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そういうと湊は自室に戻りパソコンの電源を付けドラゴン・ハンターを始めた。
『ドラゴン・ハンター』
画面にゲームのロゴが表示され、ログインボタンをクリックする。
――引き続き、プレイしますか?
YES ◁
NO
もちろんYESを選び、ゲームの世界に入っていった。
目の前に描写されたのは巨大樹だ。大きな根は地面からはみ出し、そこから伸びる幹は逞しいほどに太く、枝が着るように纏う葉は青々とした元気があふれていた。
雪乃の父親が事前にネットワークの契約を済ませておいてくれたため、ロードには時間がかからず、感覚的には前の家よりも早い気がした。
「さてと……」
現実世界で一息つき、いつも一緒にプレイする女性を探す。彼女とは数か月前にオンライン上で知り合い、意気投合し、仲良くなってよく遊ぶ仲になったのだ。
ピコン!
『こんばんわー』
そう送ってきたのはゆきと書かれたフレンドからだった。その挨拶に、
『こんばんわ、この間の炎龍討伐はご苦労様です』
『いえいえ、あれはフォールディングさんがいたから討伐できたもので、私はなんにもやっていないですよ!』
フォールディングというのは湊のアカウント名だ。
苗字の滝という字を英語に直し、現在進行形に少し変えただけの安易な名前。
『ゆきちゃんはいつも謙虚だよね』
『いやいや!本当のことを言っただけですよ!』
ゆきと呼ばれているのが、いつも謙虚でさり気ないサポートをしてくれるプレイヤーだ。あのくそ女にも見習ってほしいものだと心の底から思う湊だった。
『今回は、飛竜討伐行きたいんですけど、どうしますか?』
『あ!それちょうど私も行きたいと思っていたところだったんですよ!もしかして、期間限定装備集めてます?』
『じゃあ、クエストとってきますね!』
『はあーい!』
期間限定装備というのは、文字通り一時的な期間中に指定された素材を集めると、通常では作れない特別な装備が作ることのできるものだ。
湊――フォールディングはクエスト板から受注するクエストを剥がすため、巨大樹の広場から、ギルドへマップ移動した。
ギルド内は相変わらず、冒険者でにぎわっており。その中を縫うようにクエスト板まで行き、目的のクエストを剥がした。
ゆきは赤く光るエフェクト付きの炎龍装備を軽く着こなし、背中に見た目と反して意外と軽い特注のライフルを装備している。
「こんばんは、炎龍装備なかなか似合ってますね」
「こんばんわー、そうですか?ありがとうございます!!」
チャットでは挨拶をしたものの、今日会って話すのはっはじめてなこともあり、互いに軽く挨拶を交わし、
「じゃ、行くとしますか」
「はいっ!」
ギルドからフィールドにマップ移動した。
飛竜は基本、山岳地帯に巣をかまえ、鹿や羊を基本とした動物を狩って生活している。しかし、この時期は繁殖期にも被っているため、フィールドにいくつかある山を虱潰しに登っていくしかないのだ。運営側はその事を踏まえてイベントを企画しているのだから、鬼畜としか言い様がない。
「フォールディングさんは飛竜討伐したことあります?」
「ありますよ、ソロでもマルチでも何回かですけどね」
「ええ!ソロであるんですか?!あの、ゴツゴツした山を登って、空から攻撃してくる、あの、飛竜をですか?!え、でも、剣だと結構キツなかったですか?」
「あーでも、いくつか耐性を付けとけば意外とどうにかなりましたよ!」
「ええー!さすがですね!」
山岳地帯と言っても、緑が生い茂っていたり、雪が積もっていたりとそういう山には飛竜は基本生息しない。
飛竜が好んで生息するのは、ゆきの言っていたゴツゴツとしたはげ山にしか居ないのだ。そのため、冒険者は上空を飛ぶ飛竜に夢中になり、足元を見れずに転落死してクエスト失敗というのがよくある。
そこで、有効とされているのが立ち回りの少ない遠距離系武器。ゴツゴツとした土地を逆に利用してやり、仕留める。
しかし、先駆者がこの手を使いすぎて飛竜が学んでしまい、遠距離から攻撃してくる冒険者を風で吹き飛ばしたり、後ろに逃げ場のない事を逆手に取り、炎を吹いて焼け焦がしたりと、飛竜も飛竜なりに、反撃してきているのが今の現状だ。
それを、フォールディングは一人で討伐をこなしているという。前回の炎龍討伐の時もそうだったが、討伐難易度★★★★★のドラゴン相手に軽くあしらったり、反撃をする暇を相手に与えなかったりと、フォールディングの只者じゃないプレイにゆきは「何者なんだろう」といつも思うのだった。
「お、あそこのはげ山に動物が居ないですね、なんでだと思います?」
やっと、山が見えてきて、千里眼の加護を付けたフォールディングがゆきに問いた。
「んー!飛竜が巣を作っているからですか?」
「正解!」
「じゃあ!あそこの山に決定ですね!」
「確かにあそこの山に巣を作っているのは確かだけど、あそこに行っても目的の飛竜はいないんですよ」
先輩として憧れるフォールディングの問に見事正解したことに喜び、さあ!行きましょう!と意気込むゆきだったが、その的は外れてしまった。
「どうしてですか?巣があるなら子供でも大人でもいますよね?」
「……ゆきちゃん、小さい飛竜も討伐しようとしてたんですか」
意外と残忍な考えを持つゆきに軽く引いたフォールディングを見て、必死に誤解を解こうと早口で、
「いや!それは違いますよ!子供がいるってことは、待っていれば親が帰ってくるから、そこを!ってことです!」
「まあ、それはそれで酷いですけど……話を戻しますね。
――はじめに言った動物がいないと言うことは、獲物がないってことじゃないですか?普通の冒険者なら、動物がいない=飛竜がいるって考えがちになってるんですけど、いないとこにずっといたりします?仮に居たとしても、わざわざほかの山まで狩りに行かないといけないじゃないすか?」
「あーー!だったら、まだ、飛竜のいない、動物のいる山に先回りして迎え撃つってことですね!」
「その通りです!」
飛竜を討伐することに変わりないが、フォールディングはすこし、胸にしこりを感じたのだった。
山が見える草原から、少し緑が賑やかな林の中へと入っていった。小鳥のさえずりや小動物の生きている音をBGMに二人は目的の山目指して歩き続けた。
「そういえば、フォールディングさんはどうやってそんなに加護を付けてるんですか?」
「ああ、これはね……」
ゆきよりもはるかに多く加護を付けているフォールディングの秘密を聞こうとした刹那。
「――――ッ!!」
鼓膜から血が出そうになるほどの高音が林の中を響かせた。
フォールディングが聞こえてきた方向に視線をやると、そこには一頭の大きな飛竜が木々をなぎ倒し、その体が十分に休めさせられるほどのサークルを作り、腕と胴体をつなぐ翼を広げ、前傾姿勢でこちらに威嚇をしている。
「な……なんでこんな林の中に!」
「きっと、イベントのせいで乱獲者が増えたことが原因ですかね」
林に居ずく飛竜を憐れむフォールディングとゆきだったが、本人たちもその一員だということに二人が気付くことはなかった。
「どうします?」
「んー、正直、狩る気なりますよね」
一応、と言いつつ。いつ攻撃してくるかわからない飛竜にもちらも、武器を構えておく。しかし、目の前の飛竜はさっきから威嚇をするばかっりで一向に攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
向こう側の林に背を向け、いつもより少し背伸びした感じでただただ、こちらに視線を送ってくるのだ。まるで、こちらは何もしない、だから、お前らも何もするなと言わんばかりに。
その異様な態度にどこか見覚えがあったフォールディングはそれがなんだったか、と頭を巡らせた。
「そうだ!あれは子を守る親の姿勢だ!」
「子を守る……?」
子供でもなんでも飛竜なら倒すとさっき公言していたゆきは顎に手を当て考えた。
「そう!あの飛竜の下をよーく見てみてください!」
「よーく、よーく……あ!子供が怪我してる!してますよ!だから、さっきから攻撃をしてこないんですね!守る親がいなくなったら、弱い子供に標的が移りますもんね!」
異様な飛竜の親子愛をやっと理解した二人は武器をしまい、こちらに攻撃の意思がないことを示した。するとその誠意が伝わったのか、緊張感を帯びていた飛竜の表情がすこしやわらぎ、翼を少し下げた。
「よしよし、大丈夫ですよー」
ゆきが怪我をしている子供に傷薬を塗ってあげようと近づいた瞬間、母飛竜が背を向けていた林が微かに動き、パンッ!という消音装置を付けたライフル特有の音とともに、高回転する弾が母飛竜目がけて飛んできた。
その軌道は母飛竜の脳天を定めており、即死させるには十分だった。
勢いが弱まることもなく、そのまま脳天を突き抜け、射線上にあった木に刺さり、白い煙を立て止まった。子飛竜は母親の体に潰れ、辺りは血の海に変わった。
そうなると誰もが悟った、一人だけそれとは違った者がいた。その名はフォールディングだ。
弾が放たれた瞬間にすぐさま動き、背中の剣を抜いていた。そして、鷲のように獲物を捕らえると、高回転し進み続ける弾を一刀両断し、その斬撃で林の奥に隠れていた冒険者を一撃で倒して見せたのだ。
その目に留まらぬ速さで二頭の飛竜を救ったフォールディングは背中に剣を戻し、周りに被害が及んでいないことを確認すると、安堵の息をついた。
「す、すごい……」
まるで小さな子供がヒーローものを初めてみたような眼差しでゆきはフォールディングを見つめた。
「大丈夫ですか?ん?おうおう、無事そうでよかったよ」
ゆきをはじめに心配したフォールディングに、命を救ってもらった母飛竜が鼻先を寄せ、ぐりぐりさせてきた。
普段、ほかの生き物を獲物としか見ないくらい気性の荒いことで有名な飛竜だが、命を救ってもらった恩人だからなのか、彼の人柄なのかわからないが、フォールディングにまるでお礼をしているように見えた。
フォールディングは母飛竜とゆきに「ちょっと、待っててください」と一言残し、弾の飛んできた林の中へ入っていくと、倒れている男の周りにほかの人がいた痕跡がないことを確認し。そして、母飛竜を襲った男の所持金と武器を奪い、男は近くの木に固く結んでおいた。
「この飛竜たちはどうしようか」
林の中から出てきたフォールディングは母飛竜と子飛竜を抱くゆきを見た。
「飛竜じゃなくて、コーヒーとココアにしました!」
コーヒー!と呼ぶと母飛竜が返事をするかのように喉を鳴らし、ココアと呼ぶとゆきが抱いている子飛竜がなあに?と言っているかのように、ゆきの顔をなめた。
二人が頭よく返事するのを見て、自分事のようにゆきはドヤる。
「じゃあ、コーヒーとココアはゆきちゃんに任せるよ、これ使いな」
「ええ!これって超超超貴重品のドラゴン用名札じゃないですか!」
「そんなに仲良くなってるんだ、名前を正式につけて安全を保障してあげなよ」
ドラゴン用名札というのは、読んで字のごとく。信頼関係を築いたプレイヤーとドラゴンの間で結ぶ、いわゆる契約的なものだ。この名札を付けられたドラゴンは敵モンスターとして他プレイヤーからも認識されなくなり、攻撃を受けなくなる。ただし、戦闘時には無効。
無事、ゆきとコーヒー、ココアとの間で契約が成され敵モンスターではなく友好モンスターへと変わったのだった。
「じゃあ、おつかれさまです」
「はい!お疲れさまでした!今日もカッコよかったですよ!」
「はいはい、ありがと」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――プレイヤーがログアウトしました。
「ふあー……なんだか、疲れたな。」
再婚に続き引っ越しを終えた後のドラゴン・ハンターはいつもより違った意味で湊は疲れを感じていた。
ディスプレイに表示されている時間は……午後10時。
いつもより早い時間に終わったが、疲れもたまっていたので今日は早く寝ることにした湊は、部屋を出て水を飲もうとリビングに向かう途中、雪乃とばったり出会った。
――どこか上機嫌の雪乃を気持ち悪く思い、
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