源氏物語を読んでたら現実になりました 上

鷹夜月子

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第壱物語 光源氏

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私立平紫姫(へいしき)女学院。
古典に関して力を入れた女学校である。
それぞれ入学試験で適した分野のクラスに振り分けられていく。
百人一首を始め、枕草子や古事記、万葉集を始め、将門記、古今和歌集、等様々である。源氏物語も例に漏れずでありて。





「はあ…」
でかいため息をつく少女がいる。
淡い金色の髪が肩まででパッツンに揃えられており、窓から入る風でサラサラとたなびく。淡い水色の目は青空の様で何処か儚げな雰囲気を纏っている。
彼女の名は源煇(みなもとひかり)。平紫姫女学院高等部の1年である。
彼女は源氏物語のクラスに配属された。本人が源氏物語が好きなのは言うまでもなく、何を隠そう彼女は光源氏の生まれ代わり(煇のおばあちゃん談)らしい。
「煇ちゃん!一緒帰ろうよ。…って、どったの?元気無さげ?」
「なんだ、希美か。」
「なんだはなくなーい?」
そう言う彼女は朝野希美(あさのきみ)。平紫姫女学院高等部2年で彼女もまた源氏物語のクラスである。煇の従姉妹で朝顔の君の生まれ変わり。肩までのピンク色のストレートの髪に煇より濃ゆい青い瞳。明るく元気で気さくで学校の人気者である。
「私は絶望してんの。」
「え?何に?」
「私がこの学校に入学した理由、希美なら知ってるでしょ。」
「ああ、とある先生ふ恋したんだっけ?」
「担任なら万々歳、ワンチャン授業で放課後聞きに行ったり…なんて思ってたのに…。まさか教頭先生だなんて…。せめて養護教諭だったら仮病で通えるのに。」
「いや、仮病は駄目でしょ。てか、煇なら養護教諭の先生も好きそうだけどね。」
「う…た、確かに見た目とかどちゃくそ好みだけど…私は教頭先生が良いの!」
「そういえば、煇って相変わらず歳上にモテモテだね。入学してまだ一カ月も経ってないのにもう噂になってるよ。美形で庇護欲かられる子が来た!守ってあげたいけど高嶺の花過ぎて何だか近寄れないーって。」
相変わらず、というのも煇は昔から何故か歳上の女性にモテる。光源氏の生まれ変わりであるせいでそういう体質になってしまったのだと祖母に言われた。
他の生まれ代わりにもそういうものがあるらしく、いずれ煇の周りには源氏物語の14人の女性の生まれ変わりが集まり、その誰かと添い遂げると言われ育ってきたが…。
美希と煇はお互い姉妹の様思っている為信じていなかった。




そう、この時までは…ー。




「てか帰ろう?部活入ってないんでしょ?」
「ん?んん。まあ、ね。入ろうかなっては思ってるけど。」
「え?帰宅部が楽よ?」
「そうだろうな。…私はあんまり家に帰りたくないんよ。l
「ああ、お祖母様の光源氏の生まれ代わりだからウンタラカンタラーって言われるからね。お察しします。」
「くっ、他人事だと思って。」
「他人事だし?」
談笑しながら帰りつく。
帰ると案の定、光源氏の生まれ代わりだからと話が始まった。
「…私、明日部活見学行くわ。」
煇は美希にそう耳打ちするのだった。




次の日の放課後。
「んで、どの部活にするか決めたの?」
「吹奏楽あたりかな。」
「はー、やっぱり光源氏だねー。」
「は?」
「吹奏楽の顧問、14人の誰だったかの生まれ代わりだよ。てかこの学園に揃ってるってお祖母様言ってたでしょ、昨日。」
「え?そだっけ?」
「うわー、相変わらずのちくわ耳だな。私が知ってる限りだとあとは養護教諭と煇の担任の先生、生徒会長がどれかの生まれ代わりってくらい。」
「どれかって…」
「そこまで詳しくは知らないよ。ま、頑張って色々と。」
そう言って美希は一人帰って行った。




煇は職員室に行き入部希望を書いた。
「えっと…」
(しまった…。吹奏楽の顧問の先生って誰!?)
煇が紙を持って立ち尽くしていると…
「なんだ、君は吹奏楽が好きなの?」
唐突に後ろから声がすし、そのこえに煇は目を輝かせる。
「教頭先生!!」
「吹奏楽入りたいの?」
「えっと…音楽好きだし、フルートは前から弾いてた事あるので得意で…。」
「良いと思うよ。君の演奏、楽しみにしてる。私は副顧問だからこれ、貰っとくよ。」
「え、ええ!?」
驚きの余り大きな声が出てしまった。
「こら、職員室で大きな声出さない。」
「す、すいません。驚きのあまりつい…。」
「まあ、副だし幽霊顧問だから知らない人が多いけど。せっかくだし顔出してみるかな。おいで、音楽室に連れてってあげる。」
そう言って煇の手を握り引っ張っていく。
(わ!?手握って!?嘘、夢!?)
手を握られた煇は最早それどころじゃなかった。






「ちょっと良いかな?」
ノックもせず堂々と音楽室の扉を開け放つ教頭先生と引っ張られている生徒。
「弦凪(げんない)先生!!生徒を無理矢理連れて来ちゃったんですか?」
「無理矢理じゃないよ、入部希望者よ。高等部1年、源氏物語課所属の源煇。フルートが得意らしいよ。」
「それにしても、珍しいですね。此処に来られるなんて。」
「困ってたから案内したのよ。あ、煇、この人が吹奏楽の顧問の空野瀬見菜(そらのせみな)よ。」
「え?あ、は、はい。」
ふいに下の名を呼び捨てにされ心臓が脈打つ。
「弦凪先生!!生徒贔屓は困ります。下の者に示しがつきません。」
「贔屓?」
「生徒を下の名前で呼び捨てなんて…。」
「別に贔屓じゃないよ。下の名前の方が可愛いじゃない?ね、別に煇って呼んでも良いよね?」
「え、わ、私はその…構いませんが」
「ほら、本人の了承あるしいいじゃない。」
「全くもう…。あ、源さん?フルートが得意ってことはフルートパート志望かしら?」
「えっと、フルートが一番得意ってだけで他のでも一応弾けますが。」
「色々弾けるのね。まあ、とりあえずそのフルートを見せてもらえるかしら?」
「わ、わかりました。」
そう言ってフルートを手渡される。
「…えっと、2人でお聞きになられるんですか?」
「教頭先生は兎も角、私は顧問ですので。」
「私だって顧問だし?」
「幽霊じゃないですか!」
「あはは、空野先生は相変わらず真面目だね。」
「あ、貴女が不真面目なだけです!!」
どうやら2人はあまり仲がよろしくないようだ。
「あ、あの…弾くのでちゃんと聞いてて下さい。」
このまま口論に発展しそうなので慌ててフルートを吹く。
「~♪」
奏でる曲はゴセックの『ガヴォット』。
「ほう。」
「これは…。」
それまで言い合いをしていた2人は静寂に包まれる。






「以上…です。」
演奏を終えると拍手が鳴る。
「素晴らしいわ。是非、入部して頂戴。」
「…ああ、素晴らしい演奏だったわ。でも一つ質問良いかな?」
「え?はい、何でしょう?」
「この…君が今演奏した曲は元々ピアノとヴァイオリンの為に作られた曲だ。何故それをフルートで吹こうと思ったのかなってね。」
「……この曲に思い入れがあるので。」
「思い入れ?」
「…あとは秘密、です。」
「えー、それは気になるな。おしえてよ。」
「…ど、どうしても聴きたいなら、私が入部した吹奏楽部にちゃんと来て下さい、これから。来たら教えてあげます。」
「ふふ、良いよ。いつ聞かせてくれるか楽しみね。」
そうして煇の入部が決まったのだった。
(まあ、思い入れの話…教頭先生に関係あるんだけど、この様子なら覚えてなさそう。というか私をあの時の子って認識すらしてないか…。)






これが光源氏の生まれ代わりの少女こと源煇の物語の序章である。
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