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第3章 見つけてしまった幸福故の不幸
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オスローはミッションをクリアした後、宿を別にとっているからと一時的に離脱した。
まあ、宿などとっておらず本当はユーベルへ戻るのだが…。
周りに誰もいない事を確認するとミヤの様に黒い霧の様なものを出現させその中へと消えていった。
「戻ったぞ。」
オスローは真っ先にミヤ、ルナ、ノワール、アルビノがいる部屋へと向かった。
「あら、どうだった?」
「やはり召喚の道具にする気だ。しかも破壊神を呼び出す気らしい。」
「破壊神…?そんな馬鹿な事を考えているんですか…。」
アルビノは珍しく顔を険しくする。
「…よくわかんないんだけど…破壊神ってことは何か破壊したいから呼び出すんだよね?それと私と…やっぱり魔力が…って話なの?」
「スコッレットはルナを随分と昔から知ってるような様子があった。会った事ないか?」
「ないわ。仲間に誘われた時が初めてよ。」
「すこはお前の魔力を随分前から目をつけていたと言っていた。ルナだけは魔力を数値化できないと。そんな魔力、少なくとも人間じゃない。ルナ…何者だ?」
「っ!!」
ルナの顔が一瞬で青ざめていく。
「い、言えないの…ごめんなさい…。」
「言えないって…種族を言うだけだろ?」
「っ!!ごめんなさい、ごめんなさい…ああっっっ!!!!」
一心に謝り続け頭を抱え叫び出すルナ。
「ちょ、、ルナっ!?」
初めて見るルナの豹変のノワールを始め皆驚いている。
「…分かった、この反応…種族を言うことはルナにとって多分トラウマがあるんだよ。私の眼と一緒。ごめんね、ルナ。力に慣れなくて…。」
ノワールが優しくルナを抱きしめると糸が切れた様に静かになり、ルナは気を失った。
「…私がベッドまで連れていってそのままついているわ。悪いけどノワール、話の続きを聞いて教えに来てもらえないかしら?」
「わ、分かったわ。」
ミヤはありがとうと残すとルナを抱き抱えいってしまった。
「破壊神はかつてその名の通り、世界の全てを破壊し、とても危険です。昔の勇者一行によって冥界に封印されています。呼び出したら召喚者の代償分…つまり、ルナさんの魔力分破壊されるでしょう。測定できない魔力ならおそらくこの世の全てが破壊されます。」
アルビノはノワールへ説明する。
「そんな…それならスコッレットもただじゃ済まないんじゃ…。」
「いいえ、基本召喚に人柱を立て、召喚者が生きている場合は召喚者に逆らえないのです。召喚者の望みを報酬分叶えないといけないルールなんです。もし破れば存在がほろぼされる。冥界とはそういうものなんですよ。」
「スコッレットは神にでなる気なんだろうな。世界をリセットして自分が作り直すんだと…。」
「…よく聞き出せましたね、オスロー。」
「あいつ召喚について話振った途端饒舌になった。意外とチョロいぞ…。と、まあそれはさておき…。あいつにルナのこと、探り入れてみるか。なんで昔から知ってるような素ぶりなのか気になる。また明日勇者一行スパイに行く。」
「ええ、よろしくお願いします。」
「ああ。…ついでに1個確認なんだがお前達はいつもギルドでどのランクの依頼受けていたんだ?」
「え?特SかSだけど?」
「なるほど、ありがとうな。」
(つまりそれくらい2人は強いんだな…)
そう思いながらオスローはその場を立ち去った。
「ん…ここ、は?」
「あら、目が覚めたのね。大丈夫?」
ルナが目を覚ますとミヤが顔を覗き込んでいた。
「ミヤさん…?」
「ふふ、寝顔があまりにも可愛くてずっと見ちゃってた♪」
「なっ/////」
「うふふ…可愛いなあ。よしよし♪」
「っっっ!?////」
ミヤに頭を撫でられたからかルナの顔はみるみるうちに紅く染まっていく。
「そ、そうじゃなくて。…私…その、取り乱して気絶したのね。」
「…ええ。もう忘れて良いのよ?」
ミヤはルナの頭を優しく抱きしめる。
「ルナはルナなんだから。それ意外必要なことはないわ。」
ルナはしばらく黙りこみやがて口を開く。
「私…やっぱりミヤさんが好き。その…恋愛的な意味で。ミヤさんは妹みたいとか思ってるんでしょうけど…。」
「あら、そんなことないわ。確かに子ども扱いしちゃうけどルナがとても可愛いから♪」
「だからごめんなさい、私…やっぱりここにはいられない。」
「あら、ダメよ?ルナは私のなんだから♪どうしてそう言うの?」
「…私といると不幸になるよ。」
「あら、私はなってないわよ?」
「…い、今からなるの。…ミヤさんになら…話す、話すよ。私の秘密。…でも1つだけお願い。これを聞いてもへの態度とか変えないで欲しい。」
「秘密…?」
「さっき私が言えなかったこと…。」
「言ったでしょ、ルナはルナだって。それに辛いことなんでしょ。あんな取り乱して…。」
「そうね…。勿論怖い。…だけど…知って貰わないといけない。自分の身を守って欲しい。」
「あら、私はルナを守るのよ?」
ルナは首を横にふる。
「駄目。私と居たら駄目なんだって…。…私、私…は」
なんとか言葉を紡ぎ出そうとするが身体の底から震え、奥歯がガチガチとなり、上手く言葉が出ない。そんなルナを安心させようとミヤはルナを抱きしめる。
「大丈夫よ、落ち着いて。本当に話したいならこのままで聞いてあげる。この方が怖くないでしょ?」
ルナの震えは徐々に治まりやがて重い口を開いた。
「ミヤさんはセイレーンとローレライって知っていますか?」
「ええ、神話に出てくる怪物よね。どっちも歌で人を惑わせるって聞くわ。」
「はい、その怪物です。私は…そのハーフなんです。普段はこの髪飾りで姿や力を制御してますが…。」
ルナはそう言って赤いノワールの目の色と似た宝石の埋め込まれた髪飾りをきゅっと抑える。
「姿や能力を隠さないとある者は軽蔑し殺そうとしてきたり、ある者は能力を利用しようとしたり…。それで私を匿った村は滅び唯一私を理解して助けようとしてくれた人も…私を庇って死んでしまった…。」
そこまで言うとポロポロと大粒の涙がルナの瞳から溢れ落ちる。
「私はただ…普通に生きたいだけなの。普通に生活して…恋愛して…ありふれた日常で生きていたかった…。それだけなの…に…。だから私と居たら駄目…。もう私…失いたくない…。恋心なんて知りたくなかった!こんな…辛い思い…叶わない夢を抱くくらいなら…。」
そこまで言うと嗚咽を漏らしながら泣き噦る。
「そんな悲しいこと言わないで?叶わないことじゃないわ。スコッレットを倒してしまえば良いわ。その後はここで私と過ごせば良いの。…ねえ、ルナ…私の恋人になって欲しいの。」
「わ、私の話聞いてた?ミヤさんが私といたら…」
「ルナ、落ち着いて?ここは悪の組織よ?好き好んで来るなんて勇者一行以外居ないわよ。それに…私、ルナが好きなの。最初はなんだかほっとけないなって可愛いなって興味だったけど…貴女と過ごしているうちに愛おしくなったの。優しいとこ、強がりなとこ…実は寂しがり屋で臆病なとこ…全部が、ね?貴女も私が好きって言ってくれたわ。なら何の問題もないわ。」
「私…は…」
ルナの瞳に迷いが生じる。
「良い…の…私が恋しても…普通に、生きても…。」
「良いのよ。どうしてそんな当たり前のこと聞くの?」
「だ…だって皆私に言うよ!?私は生きているのが罪な化け物だって…」
ルナは頭を抱えて泣き噦る。
「ルナ…」
ミヤは優しくルナの顔を包み込む。
「ん…」
「んんっ!?」
そしてルナへと口付けた。
「今までがおかしかったのよ…。幸せになる為に生きなきゃ、ね?それで…恋人になってくれる?」
「…私、で良いの?その…恋人って何すれば良いのか分からないよ?」
「クス、ルナは何もしなくて良いの。私が色々するんだから。色々と、ね。」
〈翌日のユーベルにて〉
スパイに行っているオスロー抜きで皆集まった。
「ルナ!!だ、大丈夫なの?その…」
「うん、ごめんね…ノワールには心配ばかりかけて…」
「ううん、ルナが大丈夫なら良いの。」
「で、勇者一行はどうだったんだよ?」
サンダーの問いに答えたのはアルビノだった。
「非常に危ない思考の人物がいましてね…。名はスコッレット。彼の目的はルナさんを人柱に破壊神を呼び出すこと…。そして世界を破壊し自分は神となり世界を作ると言ってたらしいです。ルナさんは非常に強い魔力を持っているから人柱に最適と…」
「な、何それ…」
レンカは驚くほど低く声で言う。
「信じられないっ!!私の可愛いルナちゃんになんて事をっ!!」
そう言ってレンカはルナへ抱きつく。
「大丈夫よ、ルナちゃんもノワールちゃんも私が守るからねっ!!」
レンカはノワールも引き寄せルナもノワールも抱きしめ出す。
「ちょっと、ルナは貴女のじゃないわよ。」
そう言ってルナとノワールをレイラから引き離すミヤ。
「あ~ん、ミヤばかり2人を独占してズルいわ?私だって2人を甘やかしたいのに。」
そう言ってレンカは渋々2人から手を引く。
「全く、油断も隙も無いんだから…。」
ミヤはそう言いながら2人をしっかりと抱きしめている。
「ミヤ、人の事言えませんよ。」
無意識だったらしく慌てて離す。
「あら、ごめんなさい。つい、ね?」
「話が脱線しましたが…とにかくルナさんとノワールさんは凄く危険な立場にあることに変わりません。ただ、相手がどう出るのかもまだ情報不足…。」
「オスローの情報が唯一の頼りって訳だな。しかし破壊神とは…随分慈悲のない奴を呼び出すんだな。」
サンダーが呆れた様に言う。
「ね、ねえ…詳しく知らないんだけど皆は魔物を呼び出ししてるんだよね?魔神は呼び出せないの?」
「勇者一行や村向けて送ってたのは魔物。魔物は高い知能を持たない。ただ俺たちの指示従順なだけの生物だ。」
サンダーが何やら自慢気に話してくれた。
「一方魔神は高い知能、それから欲望持っているわ。とても危険だから昔勇者と悪の組織が一時的に協力して封印したのよ。」
ミヤの言葉に疑問を持つルナ、
「悪の組織的にもなんだね。魔物を操って村とか攻撃したりしてるからてっきり仲間みたいなものかと…。」
「別に私達は村を滅ぼしたい訳じゃないのよ?乗っ取りたってだけ。乗っ取ったら私の好きにできるでしょ?」
そう言ってレンカは微笑む。
「村も乗っ取ったらね、私の楽園を作るの♪大好きな可愛いものに囲まれて過ごすの。勿論、ルナもノワールも一緒に、ね。うふ、うふふ♪」
そううっとりとレンカが言う。ルナは苦笑いしノワールは若干引いている。
「そんなの私が許す訳ないでしょう。」
ミヤはレンカを睨む。
「あら、ヤキモチ?大丈夫、ミヤも私の楽園に住んで良いのよ?」
「そうじゃないわ。全く…。」
ミヤが大きくため息をつく。
「それで…情報は終わり?」
ヤコの言葉にアルビノは頷く。
そこで解散となった。
その日の夜、ミヤとノワールが寝静まったのを確認すると音を立てないようにこっそりと部屋を抜け出した。
廊下の窓を開けバルコニーへ出る。
「星がキレイで風も心地いい…。」
そう呟き空を眺めていると
「あら、先客?って、ルナちゃん。」
後ろから声がし、振り返るとそこにはレンカがいた。
「どうしたの、こんな夜中に。」
時計は夜中の1時を指している。
「ちょっとねれなくて考え事…。そういうレンカさんだってここに来てるじゃん。」
「クス、ここ良いわよね。風が気持ち良いし星も綺麗で。よく此処に来るの。」
「…私邪魔しちゃった?」
「いいえ、寧ろ居てくれた方が嬉しいわ。私はここで星を見ながらワインを飲むのが日課なのよ。」
そう言って赤ワインのボトルを出す。
「ふふ、一緒にどう?」
「…じゃあ少しだけ。」
レンカはグラスを2つ取り出して注ぐと片方をルナへ手渡す。
「はい、乾杯。」
「え、あ、か、乾杯?」
カチャリとグラスが鳴る。
「ん…ワインってこんな味、なんだ…。」
「あら、初めて?」
「水とか療養のお茶くらいしか飲んだことなくて…。あ、れ…これ…なんだかふわふわする?」
「慣れないからすぐに酔っちゃったのね。おいで?」
そう言ってレイラはルナを引き寄せ抱きしめる。
「ねえ、寝れないくらい何を考えてたの?」
「…私のせいでこんなことになってるなら…居ない方がってずっと考えて…。でも…ここに来て皆と過ごして…私、ここに居たいって…思うようになって…。」
「駄目よ、ルナちゃんはここに居て私達とこれからもずっと一緒に過ごすんだから。それに貴女が居ないと皆悲しむわ。」
そう言って優しくルナの頭を撫でる。
「私…スコッレット以外からもよく狙われるの。私の能力が珍しくて売ったり利用しようとする人達から…。それでも良いの?」
「大丈夫よ。言ったじゃない、お姉さんが守ってあげるって。それとも頼りないかしら…?」
「違うの…。私迷惑ばかりかけて……」
ルナはそこでグラスに残っていたワインを一気に飲み干すとレンカの胸に顔を埋める。
「今だけで良いの…こうしてたい。」
お酒の酔いに任せヤケになっているのか甘えだすルナ。
「勿論良いわよ。うふふ、可愛い子…。」
レンカが優しく頭を撫でるとそのまま眠りに落ちてしまった。
「ルナ…何してるの?」
ルナが目を覚ますとルナを抱きしめたまままだ寝ているレンカと不機嫌そうなミヤがいた。
「こ、これは…」
(え?何?ワイン貰って少し飲んでから記憶がない。)
「…んっ、あらルナちゃん、起きてたのね、おはよう。」
「ちょっとレンカ…何してたの?」
「んー?甘えん坊なルナちゃんを愛でていたのよ。ふふ、夜はあんなに積極的で…可愛いかったなー。」
「なっ!?」
ミヤの顔に怒りが現れる。
「何寝取ってくれてるのかしら。」
「え?」
レンカはきょとんととしている。
「え?じゃなくて、人の彼女に手を出したじゃない。」
「ああ、付き合ってたの?知らなかったもの。そ・れ・に、勘違いしてるみたいだけど私はルナちゃんの考え事を聞いてただーけ。それに甘えてきたのはルナちゃんの方よ。」
そう妖艶笑うとレンカはルナ額にキスを落とし去っていった。
「…ミヤ、さん…。ご、ごめんなさい。私お酒弱かったみたいで…少し飲んでから記憶ないの…。」
「言い訳は良いわ。」
(怒ってる…。まあ、当然、だよね…。)
スッとミヤが手を伸ばすとルナの身体がビクリと跳ねた。
「ルナ…」
伸ばした手が優しくルナの顔を包む。
「んっ」
そしてルナへとキスをした。
「んっ、んんっ!?ふ、ちゅ…んうっ」
息をしようともがいて少し開いた口の隙間に舌が侵入し口腔内で暴れる。
「んむ…んう…ふ…っ」
息が苦しくて涙が浮かび始めた時、口がはなれる。
「はあはあ…」
息を整えるのが精一杯なルナ。
「ルナは私ものなんだからふらふらしちゃ駄目よ。ね?」
優しい声色で言われる。逆に怖い。
「わ、わかり…ました。」
「良い子ね。」
ミヤはルナ頭を優しく撫でる。
(能力の話…しない方がいいな。)
ルナはそう心に思いミヤと部屋へと帰るのだった。
〈勇者一行サイド〉
「オスロー!来てくれたんだね。」
ファイゲが笑顔で出迎える。
「ああ、仲間だから当然だろ?」
「君が来てくれるなら少し上の依頼受けようかな。」
そう言ってファイゲは掲示板を見に行く。
「オスロー、お待ちしてましたよ。」
スコッレットは怪しい笑みを浮かべている。
「スコッレット、今日も後で色々話聞かせてくれないか?お前の話が一番楽しい。」
「嬉しいですね、僕も貴方との話はが楽しいですよ。」
そうやりとりしていると、ファイゲが依頼を受けてきた。
「今日はランクSにしたよ。ワイバーン2体の討伐だ。」
勇者一行とオスローはワイバーンのいる火山の麓へと向かうのだった。
「ところでスコッレット、1つ聞きたいことが」
オスローは火山に向かう途中で話かける。
「はい、なんでしょう?」
「この前の会話が少し気になっててな。ルナって奴に昔から目を付けていたって言ってたが古い知り合いなのか?」
「ああ、違いますよ。向こうは私のこと認識していなかったんです。私はずっと見てましたが。」
オスローは背筋がゾクリとした。
(それってストーカーじゃないのか?もしくはヤンデレ?)
「そうなのか?たまたま見かけたとか?」
「ええ、まだ私は1人で旅をしていた頃です。とある村…ああ、もうその村は存在しないんですが、そこにルナはいました。その村はなんの変哲も無い普通の村でした。そこにルナは匿われていたのです。村人からは命の恩人と崇められていました。私は不思議に思い様子を見ることにしました。魔物の群れをおびき寄せて村を襲撃させました。彼女はまだ未熟で能力を使いこなせずに村は滅んでしまいましたが…。」
「能力?」
「ええ、彼女、人間じゃなかったのです。いつもは髪飾りで上手く隠していますが…セイレーンとローレライのハーフだった。神話級のハーフだなんて…魔力も桁違いな訳です。ふふふ、ははは。だから彼女が欲しくなった、召喚の贄に。だからずっと彼女が私の元へ来るようにありとあらゆることをし、誘導した。なのに…。」
スコッレットは唇を噛む。
「あの悪の組織の女幹部に盗られた。理由はわかりませんが人のものを盗るなんて流石悪の幹部ですよね。見つけたら即破壊神のえじきにしてやりますよ。」
(どっちが悪なんだかわかったもんじゃないな…。)
オスローは表情に出さないように呆れていた。
その後一緒にワイバーンを倒すと、また適当な理由をつけてユーベルへと戻るのだった。
〈ユーベルにて〉
オスローはミヤとノワールだけを呼び出した。彼なりの気遣いらしい。
ルナは気配を殺しこっそりと後をついていったが誰も気づいていなかった。
「ルナがスコッレットに認識されていた謎がわかった。ルナと親しい2人には聞いて貰って良いと思ってな。…本人にはショックだろうしこの前取り乱した内容だから呼ばなかった。だからルナにも内密だ。」
そのルナが聞き耳を立てているとはつゆ知らず、オスローは話出す。
「スコッレットは昔、ルナを匿っていた村を壊した張本人だ。魔物を何らかの方法で引き寄せ村を襲わせた。ルナが村人に慕われていた理由が知りたい、それだけの為に。そしてルナは能力を制御できず村が滅んだって言っていた。」
(え…あの群れ…スコッレットが…?たまたま悪の組織に襲撃されたんじゃないの?)
「奴はそして知ってしまったんだ。ルナが神話に出てくる生き物だったこと。」
「神話?え…本当に実在したの?」
ノワールは困惑している。
「知っているわ。本人から聞いたもの。セイレーンとローレライのハーフだって…。」
ミヤの言葉にオスローは頷く。
「ルナが…?でもそんな様子」
「なかっただろうな。普段は髪飾りで封印されてるらしい。」
「そういえばお守りって言って髪飾りを大事にしてた…。つまりルナは自分の能力のせいで村が滅んだって思ってあんな取り乱したの?」
「かもな…。しかしスコッレットの執着心は異常だな。…諦めてくれなさそうだ。それに今や危ないのはミヤ、お前もだ。」
「あら、そうなの?」
「スコッレットはルナを誘拐したってそれはもう怒ってたぞ。奴はまだ未知数な奴だ、気をつけておいた方が良い。勿論、ノワールも。大丈夫、ノワールは俺が守ってやるから心配するな。」
そう笑ってガシガシとノワールの頭を撫でる。
「ちょっ、そんな乱暴にしたいで…」
スルリと猫のように逃げるノワール。
「悪い、ついな。このままもう少しスコッレットの様子見たら偵察辞めるよ。どうも居心地が悪すぎてな。」
「まあ、目的はもう果たしてるんだし良いんじゃないかしら。問題はいつここに2人を取り返しに来るかだけど…。」
「わからないなら皆が迎え撃つ準備ができ次第案内してやるがな。」
「クス、そうしたらオスローも危ないってことになるわね。スパイがバレるんだから。」
(ど、どうしよう…。私のせいで…ミヤさんやオスローさんまで…。)
ルナは音を立てない様にミヤの部屋へと戻っていった。
せっかく手に入れた幸福は反転し不幸へと成り代わったのだった。
まあ、宿などとっておらず本当はユーベルへ戻るのだが…。
周りに誰もいない事を確認するとミヤの様に黒い霧の様なものを出現させその中へと消えていった。
「戻ったぞ。」
オスローは真っ先にミヤ、ルナ、ノワール、アルビノがいる部屋へと向かった。
「あら、どうだった?」
「やはり召喚の道具にする気だ。しかも破壊神を呼び出す気らしい。」
「破壊神…?そんな馬鹿な事を考えているんですか…。」
アルビノは珍しく顔を険しくする。
「…よくわかんないんだけど…破壊神ってことは何か破壊したいから呼び出すんだよね?それと私と…やっぱり魔力が…って話なの?」
「スコッレットはルナを随分と昔から知ってるような様子があった。会った事ないか?」
「ないわ。仲間に誘われた時が初めてよ。」
「すこはお前の魔力を随分前から目をつけていたと言っていた。ルナだけは魔力を数値化できないと。そんな魔力、少なくとも人間じゃない。ルナ…何者だ?」
「っ!!」
ルナの顔が一瞬で青ざめていく。
「い、言えないの…ごめんなさい…。」
「言えないって…種族を言うだけだろ?」
「っ!!ごめんなさい、ごめんなさい…ああっっっ!!!!」
一心に謝り続け頭を抱え叫び出すルナ。
「ちょ、、ルナっ!?」
初めて見るルナの豹変のノワールを始め皆驚いている。
「…分かった、この反応…種族を言うことはルナにとって多分トラウマがあるんだよ。私の眼と一緒。ごめんね、ルナ。力に慣れなくて…。」
ノワールが優しくルナを抱きしめると糸が切れた様に静かになり、ルナは気を失った。
「…私がベッドまで連れていってそのままついているわ。悪いけどノワール、話の続きを聞いて教えに来てもらえないかしら?」
「わ、分かったわ。」
ミヤはありがとうと残すとルナを抱き抱えいってしまった。
「破壊神はかつてその名の通り、世界の全てを破壊し、とても危険です。昔の勇者一行によって冥界に封印されています。呼び出したら召喚者の代償分…つまり、ルナさんの魔力分破壊されるでしょう。測定できない魔力ならおそらくこの世の全てが破壊されます。」
アルビノはノワールへ説明する。
「そんな…それならスコッレットもただじゃ済まないんじゃ…。」
「いいえ、基本召喚に人柱を立て、召喚者が生きている場合は召喚者に逆らえないのです。召喚者の望みを報酬分叶えないといけないルールなんです。もし破れば存在がほろぼされる。冥界とはそういうものなんですよ。」
「スコッレットは神にでなる気なんだろうな。世界をリセットして自分が作り直すんだと…。」
「…よく聞き出せましたね、オスロー。」
「あいつ召喚について話振った途端饒舌になった。意外とチョロいぞ…。と、まあそれはさておき…。あいつにルナのこと、探り入れてみるか。なんで昔から知ってるような素ぶりなのか気になる。また明日勇者一行スパイに行く。」
「ええ、よろしくお願いします。」
「ああ。…ついでに1個確認なんだがお前達はいつもギルドでどのランクの依頼受けていたんだ?」
「え?特SかSだけど?」
「なるほど、ありがとうな。」
(つまりそれくらい2人は強いんだな…)
そう思いながらオスローはその場を立ち去った。
「ん…ここ、は?」
「あら、目が覚めたのね。大丈夫?」
ルナが目を覚ますとミヤが顔を覗き込んでいた。
「ミヤさん…?」
「ふふ、寝顔があまりにも可愛くてずっと見ちゃってた♪」
「なっ/////」
「うふふ…可愛いなあ。よしよし♪」
「っっっ!?////」
ミヤに頭を撫でられたからかルナの顔はみるみるうちに紅く染まっていく。
「そ、そうじゃなくて。…私…その、取り乱して気絶したのね。」
「…ええ。もう忘れて良いのよ?」
ミヤはルナの頭を優しく抱きしめる。
「ルナはルナなんだから。それ意外必要なことはないわ。」
ルナはしばらく黙りこみやがて口を開く。
「私…やっぱりミヤさんが好き。その…恋愛的な意味で。ミヤさんは妹みたいとか思ってるんでしょうけど…。」
「あら、そんなことないわ。確かに子ども扱いしちゃうけどルナがとても可愛いから♪」
「だからごめんなさい、私…やっぱりここにはいられない。」
「あら、ダメよ?ルナは私のなんだから♪どうしてそう言うの?」
「…私といると不幸になるよ。」
「あら、私はなってないわよ?」
「…い、今からなるの。…ミヤさんになら…話す、話すよ。私の秘密。…でも1つだけお願い。これを聞いてもへの態度とか変えないで欲しい。」
「秘密…?」
「さっき私が言えなかったこと…。」
「言ったでしょ、ルナはルナだって。それに辛いことなんでしょ。あんな取り乱して…。」
「そうね…。勿論怖い。…だけど…知って貰わないといけない。自分の身を守って欲しい。」
「あら、私はルナを守るのよ?」
ルナは首を横にふる。
「駄目。私と居たら駄目なんだって…。…私、私…は」
なんとか言葉を紡ぎ出そうとするが身体の底から震え、奥歯がガチガチとなり、上手く言葉が出ない。そんなルナを安心させようとミヤはルナを抱きしめる。
「大丈夫よ、落ち着いて。本当に話したいならこのままで聞いてあげる。この方が怖くないでしょ?」
ルナの震えは徐々に治まりやがて重い口を開いた。
「ミヤさんはセイレーンとローレライって知っていますか?」
「ええ、神話に出てくる怪物よね。どっちも歌で人を惑わせるって聞くわ。」
「はい、その怪物です。私は…そのハーフなんです。普段はこの髪飾りで姿や力を制御してますが…。」
ルナはそう言って赤いノワールの目の色と似た宝石の埋め込まれた髪飾りをきゅっと抑える。
「姿や能力を隠さないとある者は軽蔑し殺そうとしてきたり、ある者は能力を利用しようとしたり…。それで私を匿った村は滅び唯一私を理解して助けようとしてくれた人も…私を庇って死んでしまった…。」
そこまで言うとポロポロと大粒の涙がルナの瞳から溢れ落ちる。
「私はただ…普通に生きたいだけなの。普通に生活して…恋愛して…ありふれた日常で生きていたかった…。それだけなの…に…。だから私と居たら駄目…。もう私…失いたくない…。恋心なんて知りたくなかった!こんな…辛い思い…叶わない夢を抱くくらいなら…。」
そこまで言うと嗚咽を漏らしながら泣き噦る。
「そんな悲しいこと言わないで?叶わないことじゃないわ。スコッレットを倒してしまえば良いわ。その後はここで私と過ごせば良いの。…ねえ、ルナ…私の恋人になって欲しいの。」
「わ、私の話聞いてた?ミヤさんが私といたら…」
「ルナ、落ち着いて?ここは悪の組織よ?好き好んで来るなんて勇者一行以外居ないわよ。それに…私、ルナが好きなの。最初はなんだかほっとけないなって可愛いなって興味だったけど…貴女と過ごしているうちに愛おしくなったの。優しいとこ、強がりなとこ…実は寂しがり屋で臆病なとこ…全部が、ね?貴女も私が好きって言ってくれたわ。なら何の問題もないわ。」
「私…は…」
ルナの瞳に迷いが生じる。
「良い…の…私が恋しても…普通に、生きても…。」
「良いのよ。どうしてそんな当たり前のこと聞くの?」
「だ…だって皆私に言うよ!?私は生きているのが罪な化け物だって…」
ルナは頭を抱えて泣き噦る。
「ルナ…」
ミヤは優しくルナの顔を包み込む。
「ん…」
「んんっ!?」
そしてルナへと口付けた。
「今までがおかしかったのよ…。幸せになる為に生きなきゃ、ね?それで…恋人になってくれる?」
「…私、で良いの?その…恋人って何すれば良いのか分からないよ?」
「クス、ルナは何もしなくて良いの。私が色々するんだから。色々と、ね。」
〈翌日のユーベルにて〉
スパイに行っているオスロー抜きで皆集まった。
「ルナ!!だ、大丈夫なの?その…」
「うん、ごめんね…ノワールには心配ばかりかけて…」
「ううん、ルナが大丈夫なら良いの。」
「で、勇者一行はどうだったんだよ?」
サンダーの問いに答えたのはアルビノだった。
「非常に危ない思考の人物がいましてね…。名はスコッレット。彼の目的はルナさんを人柱に破壊神を呼び出すこと…。そして世界を破壊し自分は神となり世界を作ると言ってたらしいです。ルナさんは非常に強い魔力を持っているから人柱に最適と…」
「な、何それ…」
レンカは驚くほど低く声で言う。
「信じられないっ!!私の可愛いルナちゃんになんて事をっ!!」
そう言ってレンカはルナへ抱きつく。
「大丈夫よ、ルナちゃんもノワールちゃんも私が守るからねっ!!」
レンカはノワールも引き寄せルナもノワールも抱きしめ出す。
「ちょっと、ルナは貴女のじゃないわよ。」
そう言ってルナとノワールをレイラから引き離すミヤ。
「あ~ん、ミヤばかり2人を独占してズルいわ?私だって2人を甘やかしたいのに。」
そう言ってレンカは渋々2人から手を引く。
「全く、油断も隙も無いんだから…。」
ミヤはそう言いながら2人をしっかりと抱きしめている。
「ミヤ、人の事言えませんよ。」
無意識だったらしく慌てて離す。
「あら、ごめんなさい。つい、ね?」
「話が脱線しましたが…とにかくルナさんとノワールさんは凄く危険な立場にあることに変わりません。ただ、相手がどう出るのかもまだ情報不足…。」
「オスローの情報が唯一の頼りって訳だな。しかし破壊神とは…随分慈悲のない奴を呼び出すんだな。」
サンダーが呆れた様に言う。
「ね、ねえ…詳しく知らないんだけど皆は魔物を呼び出ししてるんだよね?魔神は呼び出せないの?」
「勇者一行や村向けて送ってたのは魔物。魔物は高い知能を持たない。ただ俺たちの指示従順なだけの生物だ。」
サンダーが何やら自慢気に話してくれた。
「一方魔神は高い知能、それから欲望持っているわ。とても危険だから昔勇者と悪の組織が一時的に協力して封印したのよ。」
ミヤの言葉に疑問を持つルナ、
「悪の組織的にもなんだね。魔物を操って村とか攻撃したりしてるからてっきり仲間みたいなものかと…。」
「別に私達は村を滅ぼしたい訳じゃないのよ?乗っ取りたってだけ。乗っ取ったら私の好きにできるでしょ?」
そう言ってレンカは微笑む。
「村も乗っ取ったらね、私の楽園を作るの♪大好きな可愛いものに囲まれて過ごすの。勿論、ルナもノワールも一緒に、ね。うふ、うふふ♪」
そううっとりとレンカが言う。ルナは苦笑いしノワールは若干引いている。
「そんなの私が許す訳ないでしょう。」
ミヤはレンカを睨む。
「あら、ヤキモチ?大丈夫、ミヤも私の楽園に住んで良いのよ?」
「そうじゃないわ。全く…。」
ミヤが大きくため息をつく。
「それで…情報は終わり?」
ヤコの言葉にアルビノは頷く。
そこで解散となった。
その日の夜、ミヤとノワールが寝静まったのを確認すると音を立てないようにこっそりと部屋を抜け出した。
廊下の窓を開けバルコニーへ出る。
「星がキレイで風も心地いい…。」
そう呟き空を眺めていると
「あら、先客?って、ルナちゃん。」
後ろから声がし、振り返るとそこにはレンカがいた。
「どうしたの、こんな夜中に。」
時計は夜中の1時を指している。
「ちょっとねれなくて考え事…。そういうレンカさんだってここに来てるじゃん。」
「クス、ここ良いわよね。風が気持ち良いし星も綺麗で。よく此処に来るの。」
「…私邪魔しちゃった?」
「いいえ、寧ろ居てくれた方が嬉しいわ。私はここで星を見ながらワインを飲むのが日課なのよ。」
そう言って赤ワインのボトルを出す。
「ふふ、一緒にどう?」
「…じゃあ少しだけ。」
レンカはグラスを2つ取り出して注ぐと片方をルナへ手渡す。
「はい、乾杯。」
「え、あ、か、乾杯?」
カチャリとグラスが鳴る。
「ん…ワインってこんな味、なんだ…。」
「あら、初めて?」
「水とか療養のお茶くらいしか飲んだことなくて…。あ、れ…これ…なんだかふわふわする?」
「慣れないからすぐに酔っちゃったのね。おいで?」
そう言ってレイラはルナを引き寄せ抱きしめる。
「ねえ、寝れないくらい何を考えてたの?」
「…私のせいでこんなことになってるなら…居ない方がってずっと考えて…。でも…ここに来て皆と過ごして…私、ここに居たいって…思うようになって…。」
「駄目よ、ルナちゃんはここに居て私達とこれからもずっと一緒に過ごすんだから。それに貴女が居ないと皆悲しむわ。」
そう言って優しくルナの頭を撫でる。
「私…スコッレット以外からもよく狙われるの。私の能力が珍しくて売ったり利用しようとする人達から…。それでも良いの?」
「大丈夫よ。言ったじゃない、お姉さんが守ってあげるって。それとも頼りないかしら…?」
「違うの…。私迷惑ばかりかけて……」
ルナはそこでグラスに残っていたワインを一気に飲み干すとレンカの胸に顔を埋める。
「今だけで良いの…こうしてたい。」
お酒の酔いに任せヤケになっているのか甘えだすルナ。
「勿論良いわよ。うふふ、可愛い子…。」
レンカが優しく頭を撫でるとそのまま眠りに落ちてしまった。
「ルナ…何してるの?」
ルナが目を覚ますとルナを抱きしめたまままだ寝ているレンカと不機嫌そうなミヤがいた。
「こ、これは…」
(え?何?ワイン貰って少し飲んでから記憶がない。)
「…んっ、あらルナちゃん、起きてたのね、おはよう。」
「ちょっとレンカ…何してたの?」
「んー?甘えん坊なルナちゃんを愛でていたのよ。ふふ、夜はあんなに積極的で…可愛いかったなー。」
「なっ!?」
ミヤの顔に怒りが現れる。
「何寝取ってくれてるのかしら。」
「え?」
レンカはきょとんととしている。
「え?じゃなくて、人の彼女に手を出したじゃない。」
「ああ、付き合ってたの?知らなかったもの。そ・れ・に、勘違いしてるみたいだけど私はルナちゃんの考え事を聞いてただーけ。それに甘えてきたのはルナちゃんの方よ。」
そう妖艶笑うとレンカはルナ額にキスを落とし去っていった。
「…ミヤ、さん…。ご、ごめんなさい。私お酒弱かったみたいで…少し飲んでから記憶ないの…。」
「言い訳は良いわ。」
(怒ってる…。まあ、当然、だよね…。)
スッとミヤが手を伸ばすとルナの身体がビクリと跳ねた。
「ルナ…」
伸ばした手が優しくルナの顔を包む。
「んっ」
そしてルナへとキスをした。
「んっ、んんっ!?ふ、ちゅ…んうっ」
息をしようともがいて少し開いた口の隙間に舌が侵入し口腔内で暴れる。
「んむ…んう…ふ…っ」
息が苦しくて涙が浮かび始めた時、口がはなれる。
「はあはあ…」
息を整えるのが精一杯なルナ。
「ルナは私ものなんだからふらふらしちゃ駄目よ。ね?」
優しい声色で言われる。逆に怖い。
「わ、わかり…ました。」
「良い子ね。」
ミヤはルナ頭を優しく撫でる。
(能力の話…しない方がいいな。)
ルナはそう心に思いミヤと部屋へと帰るのだった。
〈勇者一行サイド〉
「オスロー!来てくれたんだね。」
ファイゲが笑顔で出迎える。
「ああ、仲間だから当然だろ?」
「君が来てくれるなら少し上の依頼受けようかな。」
そう言ってファイゲは掲示板を見に行く。
「オスロー、お待ちしてましたよ。」
スコッレットは怪しい笑みを浮かべている。
「スコッレット、今日も後で色々話聞かせてくれないか?お前の話が一番楽しい。」
「嬉しいですね、僕も貴方との話はが楽しいですよ。」
そうやりとりしていると、ファイゲが依頼を受けてきた。
「今日はランクSにしたよ。ワイバーン2体の討伐だ。」
勇者一行とオスローはワイバーンのいる火山の麓へと向かうのだった。
「ところでスコッレット、1つ聞きたいことが」
オスローは火山に向かう途中で話かける。
「はい、なんでしょう?」
「この前の会話が少し気になっててな。ルナって奴に昔から目を付けていたって言ってたが古い知り合いなのか?」
「ああ、違いますよ。向こうは私のこと認識していなかったんです。私はずっと見てましたが。」
オスローは背筋がゾクリとした。
(それってストーカーじゃないのか?もしくはヤンデレ?)
「そうなのか?たまたま見かけたとか?」
「ええ、まだ私は1人で旅をしていた頃です。とある村…ああ、もうその村は存在しないんですが、そこにルナはいました。その村はなんの変哲も無い普通の村でした。そこにルナは匿われていたのです。村人からは命の恩人と崇められていました。私は不思議に思い様子を見ることにしました。魔物の群れをおびき寄せて村を襲撃させました。彼女はまだ未熟で能力を使いこなせずに村は滅んでしまいましたが…。」
「能力?」
「ええ、彼女、人間じゃなかったのです。いつもは髪飾りで上手く隠していますが…セイレーンとローレライのハーフだった。神話級のハーフだなんて…魔力も桁違いな訳です。ふふふ、ははは。だから彼女が欲しくなった、召喚の贄に。だからずっと彼女が私の元へ来るようにありとあらゆることをし、誘導した。なのに…。」
スコッレットは唇を噛む。
「あの悪の組織の女幹部に盗られた。理由はわかりませんが人のものを盗るなんて流石悪の幹部ですよね。見つけたら即破壊神のえじきにしてやりますよ。」
(どっちが悪なんだかわかったもんじゃないな…。)
オスローは表情に出さないように呆れていた。
その後一緒にワイバーンを倒すと、また適当な理由をつけてユーベルへと戻るのだった。
〈ユーベルにて〉
オスローはミヤとノワールだけを呼び出した。彼なりの気遣いらしい。
ルナは気配を殺しこっそりと後をついていったが誰も気づいていなかった。
「ルナがスコッレットに認識されていた謎がわかった。ルナと親しい2人には聞いて貰って良いと思ってな。…本人にはショックだろうしこの前取り乱した内容だから呼ばなかった。だからルナにも内密だ。」
そのルナが聞き耳を立てているとはつゆ知らず、オスローは話出す。
「スコッレットは昔、ルナを匿っていた村を壊した張本人だ。魔物を何らかの方法で引き寄せ村を襲わせた。ルナが村人に慕われていた理由が知りたい、それだけの為に。そしてルナは能力を制御できず村が滅んだって言っていた。」
(え…あの群れ…スコッレットが…?たまたま悪の組織に襲撃されたんじゃないの?)
「奴はそして知ってしまったんだ。ルナが神話に出てくる生き物だったこと。」
「神話?え…本当に実在したの?」
ノワールは困惑している。
「知っているわ。本人から聞いたもの。セイレーンとローレライのハーフだって…。」
ミヤの言葉にオスローは頷く。
「ルナが…?でもそんな様子」
「なかっただろうな。普段は髪飾りで封印されてるらしい。」
「そういえばお守りって言って髪飾りを大事にしてた…。つまりルナは自分の能力のせいで村が滅んだって思ってあんな取り乱したの?」
「かもな…。しかしスコッレットの執着心は異常だな。…諦めてくれなさそうだ。それに今や危ないのはミヤ、お前もだ。」
「あら、そうなの?」
「スコッレットはルナを誘拐したってそれはもう怒ってたぞ。奴はまだ未知数な奴だ、気をつけておいた方が良い。勿論、ノワールも。大丈夫、ノワールは俺が守ってやるから心配するな。」
そう笑ってガシガシとノワールの頭を撫でる。
「ちょっ、そんな乱暴にしたいで…」
スルリと猫のように逃げるノワール。
「悪い、ついな。このままもう少しスコッレットの様子見たら偵察辞めるよ。どうも居心地が悪すぎてな。」
「まあ、目的はもう果たしてるんだし良いんじゃないかしら。問題はいつここに2人を取り返しに来るかだけど…。」
「わからないなら皆が迎え撃つ準備ができ次第案内してやるがな。」
「クス、そうしたらオスローも危ないってことになるわね。スパイがバレるんだから。」
(ど、どうしよう…。私のせいで…ミヤさんやオスローさんまで…。)
ルナは音を立てない様にミヤの部屋へと戻っていった。
せっかく手に入れた幸福は反転し不幸へと成り代わったのだった。
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