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第5章 歌姫と代償
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とうとう夕方になってしまった。
ルナはスコッレットに呼び出され、勇者ギルドのある薄暗い路地裏へ来ていた。
「オスロー…誘ったのに来ないですね…。」
スコッレットは少し残念そうに言う。
「まあ、もう時間もないですし良いです。私が呼び出したのは貴女に頼みがあるからですよ。」
「召喚の生贄にしたいのでしょう?」
「知っていたんですか?」
少し驚いたように言う。
「ええ、オスロー…。彼はスパイだったのよ。そしてオスローから色々聞いて生贄になりに戻って来たの。嬉しい?」
「は、はは、馬鹿な人ですね。わざわざ生贄なりに来るなんて狂っている。」
「…貴方には負けるわ。さ、始めてくれる?」
「ええ、喜んで。」
スコッレットが詠唱し始めた時だった。
バンっー。
銃声が響く。
「え…!?」
驚いた声を挙げたのはノワール。
スコッレットを狙った銃弾はルナに当たっていた。
ルナは耳が良い為、少しの音…銃を構えてトリガーを引く音を聞き逃さなかった。
ルナはスコッレットを庇ったのだ。
「ど、どうして…。」
「来る事は分かってた。オスローから聞いたんでしょう?でも私の邪魔はさせない。そこで見てて。」
「くっ、今攻撃したら全部ルナが庇って怪我しちゃう…。」
ミヤに焦りの色が浮かぶ。
スコッレットは満面の笑みをにやあっと浮かべながら詠唱している。
「くっ、何あの顔…すっごい腹立つわね。」
苛立ちを隠せないミヤ。
そうしてる間にも詠唱が進んでついに…ー。
「お、おお…これが破壊神。」
等々破壊神が召喚されてしまった。
「我ヲ召喚セシハオ前カ?」
「はい、はい!この少女を生贄のあげますので願いを叶えて下さい。」
「ンン?……」
破壊神はマジマジとルナを見るとやがてニヤリと嗤う。
「ナルホド、コレハ最上ノ供物ダ!良イダロウ。コノ供物ヲ先ニ食ラッタラオ前ノ望ミ叶エテヤル。」
破壊神がそう言った時だった。
「~♪」
綺麗な歌声が響きわたる。
ルナの声だ。
「綺麗な声…。」
ノワールはただ呆然と見ている。
「コノ歌…ヤ、ヤメロ…ッ!!」
いきなり破壊神が焦り出す。
「どうし…なっ!?ルナ…お前何をしたんですか!!」
スコッレットはいきなり激怒している。
「その歌をやめなさい!!」
「スコッレット達は何をあんな…。」
ミヤが怪訝そうに言う。
「…もしかして…。」
「アルビノ?」
ノワールが顔を見て覗き込むとアルビノは悲しそうに目を伏せていた。
「彼女…ローレライとセイレーンのハーフ、と言いましたよね。」
「ええ、そうよ…。」
「成る程、そういうこと…。」
レンカも悲しそうに瞳を揺らす。
「え?な、何、2人とも…お、教えて、ルナに何かあるの?」
ノワールは2人様子を見て焦り出す。
「ルナちゃん、スコッレットと破壊神といっしょに死ぬ気よ。」
レンカの言葉にノワールとミヤは目を見開く。
「神話の中のローレライとセイレーン、どっちも歌で人を惑わせるって話なのは知ってるわよね。ローレライの方は人柱になって悪しき物を封印し、人を守ったという逸話もあるの。その時、ローレライはこの世の物とは思えない程綺麗な歌声を響かせたそうよ。…今の状況、まさにそれじゃないかしら…。」
「っ!?ル、ルナ、歌うのをやめて…。」
そうミヤが言うが声が弱々しい。
「~♪」
だが尚もルナは歌い続ける。その目には徐々に涙が浮かぶ。
「グ、アッ!!」
しばらくして破壊神は消えていった。
「ハアハア…ぐ、こんなの…認めない、認め…」
スコッレットはその場に倒れる。
そのすぐ後に歌は止み、ルナもその場に崩れ落ちた。
「ルナっ!!」
ミヤはすぐにルナへ駆け寄りその身体を抱きしめる。
「…ごめ…ね…。」
ルナは無理矢理に微笑む。
「嫌よ、嫌…死んじゃうなんて駄目なんだから!」
「…最後に…もう一回…キス、して?」
「最後なんて言わないで。愛してるわ、ルナ。」
ミヤは優しく口付けを落とす。
「ありが…………」
それからダランっと全身の力が無くなり、ルナが死んでしまったことを知る。
「嫌、嫌ああああっっっっっっ!!」
ミヤの悲痛な叫び声と声を押し殺し泣くノワールやレンカの声だけが響いた。
と、ー。
「やれやれ…こんなこともあろうかとフェニックスと契約しておいて良かったです。」
「え…な、何で…」
ノワールの顔が絶望に染まる。
「もしもの為にフェニックスを召喚して生き返りできるようにしたんですよ。…まあ、3回だけでその貴重な1回を使ってしまったわけですが。…そこの馬鹿な女のせいで。」
スコッレットはミヤからルナを奪い取るとノワールの方へ蹴り飛ばした。
「きゃっ!?」
いきなりのことでそのまま倒れそうになるのをアルビノが支えてくれた。
「…誰を犠牲にしたんですか?」
アルビノがそう尋ねる。
「アルビノ…?何、言っているの?犠牲って何?」
ノワールの問いにアルビノは少し沈黙した後答える。
「フェニックスは悪しきものではありませんがその力は貴重で強力なもの…。故に力の代償に生贄を捧げないといけない様になっているのです。」
「つまり…スコッレットがフェニックスと契約する為誰かが犠牲になって…。」
「ああ、冥土の土産に教えて差し上げましょう。スポイルド…、彼女は実に愚かだった。昨日泣いて縋ってきたのです。自分がルナの代わりになるって。実に滑稽でしたよ。恐怖で奥歯をガチガチ鳴らして足は震えてるのに。彼女に恩を返すんだって。あの世で一緒になれて幸せでしょうね。くく、ははは」
「っ!!狂ってる…許せない。絶対に」
ミヤがスポイルドを攻撃する。
しかしー
「きゃっ!?」
その攻撃はミヤ自身へ返ってきた。
「これは私の特技の一種でしてね。使える回数は限られてますが攻撃をオウム返し出来るんです。」
「っ、回数が限られいるなら使えなくなるまで攻撃するだけよ。」
「落ち着いて、ミヤ。」
「止めないで、レンカ。私、怒ってるの。…憎いの…あの男が…」
「怒ってるのは貴女だけじゃないわ。私だってノワールだって…他の皆もそう。でもね、ルナがいたら絶対に止める。傷ついて欲しくないって。それにあんな安い挑発に乗る必要はないわ。それこそ相手の思うツボじゃない。」
「くっ…」
ミヤは悔しそうに攻撃しようとした手を下ろす。
「どうしよう…アルビノ…。」
ノワールは困った様にアルビノを見る。
その時だった。
「全く、見てられませんね。」
そう言って突然現れた1人の女性が現れる。髪は薄い金髪で地に着くほどに長く、隻眼の瞳は慈愛に満ちている。
「レリッシュ…。」
レリッシュと呼ばれた女性はミヤへ微笑む。
「大丈夫ですよ、ミヤ。…ねえ、あの倒れてる子が貴女のお気に入り?」
そう言ってルナを見る。
「え、ええ…そう、です。」
「ふうん?好き?」
「勿論です。私の全てなんです。」
「アルビノ…あの人もしかして…。」
「ええ、私達のボスです。」
「この人が…」
ノワールの視線に気付きレリッシュはノワールの元へ来る。
「貴女が噂のノワールね。貴女とルナのことはオスローから聞いているわ。安心して?私は貴女達を歓迎するわ。」
「で、でもルナは…。」
「ああ、ごめんなさい。でも大丈夫よ。…ミヤやアルビノ…7幹部のこと、よろしくね。」
レリッシュはそういうとスコッレットの前へ行く。
「…哀れな人。破壊心に囚われ歪んでしまった魂…。清らかな乙女を弄ぶ愚かな者。瑣末な贄に成り果てなさい。」
レリッシュは冷ややかに言いながらスコッレットへ触れる。
と、ー。
まるで糸が切れた操り人形みたいにパタリとスコッレットは倒れた。
「私は今、禁忌の魔法に触れたわ。時期に私も…死んでしまう。」
「反魂…ってまさか」
ミヤはルナへ駆け寄り、心臓部に耳を当てる。
しばらくして…
トクン…トクン…。
ルナの心臓が動き始める。
「っ、レリッシュ…ありがとう。でも貴女が…。」
「そんな顔しないの。愛する者が生き返ったから笑顔で迎えなさい。」
「ルナが生き返った…の?」
ノワールが恐る恐る尋ねる。
「レリッシュは反魂の魔法を使い、スコッレットの寿命を全部ルナとすり替えました。人の生死を操るのは禁忌…。レリッシュはこの後魔界からお迎えがきて…永遠に地獄に閉じ込められてしまうでしょう。」
「そ、そんな…あんまりだよ。ねえ、なんとかならないの…?」
「…例え理由が何であれ、禁忌に触れたら地獄行きです。…私にはどうすることも…。ごめん、なさい。」
アルビノはノワールの顔を胸に抱きしめる。
「っん、…あれ、私…」
その時、ルナが目を覚ます。
「ルナっ!!」
ミヤがルナを抱き締める。
「ちょ、苦しい…」
「苦しくて当然よ…。本当に…」
「ミヤさん…泣いてる、の?」
その背中を優しく撫でながらルナはレリッシュの存在に気付いた。
「貴女は…?」
「私はレリッシュ。悪の組織のボスだよ。…本当は2人ともっと話したかったんだけどね。…そろそろ時間みたい。」
レリッシュの言葉のすぐ後に馬の顔をした化け物と牛の顔をした化け物が現れる。
地獄の門番で有名な牛頭と馬頭だ。
「レリッシュは貴女を生き返らせてくれたの。…でも禁忌に触れたから今から…」
ミヤが気まずそうに顔を逸らす。
「そんな…」
ルナはショックを受けた顔になる。
(自分のせいで…こんなのもう嫌…)
「…~♪」
ルナは歌い始める。
「っ!?駄目よ、ルナ!!また死んじゃうなんて、もう…もうやめてっ!!」
ミヤが叫ぶがルナは歌い続ける。
ただ、さっきとは違い、誰も苦しんでる様子はない。
「さっきとは違う歌…。でも綺麗…。」
ノワールは止めるのを忘れ思わず聞き入る。
しばらくして歌が止むと牛頭と馬頭は消えてレリッシュはそのまま残された。
そしてルナはその場に崩れ落ちる。
「ルナっ!!」
慌ててミヤが抱き抱える。
「大丈夫…。疲れただけ。命と引き換えになるのはスコッレットの時に使った奴だけ…。」
「はは、驚いた…。君何したの?」
レリッシュは少し混乱している様だ。否、他の誰もが不思議に思っていた。
「今のは…再生の唄。地獄に堕ちる前に何もなかった刻に再生してもらった。だからもう何も起きない。ただ…凄く魔力を消耗して…しばらく動けない。」
「君の能力ってチートなんだね。…全く、カッコつけた自分が恥ずかしくなってきたよ。」
「チートって…魔力かなり消耗するから滅多に使えないんだけど…。見ての通り動けない…。」
「…動けないってどのくらい?」
「分からないよ…。昔練習してたときは3日くらいは動けないくらいだった…。」
「そう…動けない、ね…。」
ミヤは怪しげに笑う。
「それなら私がお世話してあげるわ。全部、ね♡」
ぞくりとしたものがルナの背中に伝わった。
「ルナ…本当に良かった…。本当に…どうなるかって…色々あり過ぎて…。」
涙声でノワールは言う。
「ごめんね…ノワールにも心配かけたね。」
「ルナ…守りたいという意思は尊重できます。で残された側の気持ちを考えてください。確かにスコッレットは蛇の様にしつこく変に強い男でしたが…。皆貴女のことを犠牲に生きたいなんて思わないし悲しむ。特にノワールとミヤは…。」
アルビノは厳しい口調で言う。
「ん…ごめんなさい。確かに守る事しか考えてなかった。」
「ルナちゃんっ!!」
そこにレンカが勢いよくハグしてくる。
「ちょ、レンカさん…!?」
「おかえりのちゅー♡」
「駄目っ!!」
慌ててレンカを引き離すミヤ。
「えー?いいじゃない、ちょっとだけでも。…じゃあ、ノワールちゃんに」
「な、なんで私っ!?」
ノワールの元へ来ようするがアルビノに阻止される。
「皆酷いわ?私の愛のやり場がないじゃない。」
そうむくれるレンカを見てルナは思わず微笑む。
「平和…になったんだね。」
「ええ、そうね。」
「…ルナ、私これからもルナと一緒に居たい。でもアルビノとも…。だからその…。」
「勇者一行になんて戻らない。悪の組織として生きていくわ。私もノワールと一緒に居たいしそれに…」
ルナはミヤをチラっと見る。
「この人はどうあっても私を離してくれないだろうし?」
「当たり前じゃない。恋人なんだから♪」
「帰ろう、ルナ。私達の居場所があるユーベルに。」
そう言ってミヤとは反対側からルナをかかえる。
「そうね…。」
ルナは帰ってから3日間動けずにいた。
嬉々としてミヤは世話を焼いたがルナはずっと恥ずかしそうにしていた。
そして動ける様になって自分が死んでいた間のことを聞いた。ミヤやノワール、アルビノは答えてくれなかったが…。
レンカに頼み倒したら困った様に悲しい顔で真実を教えてくれた。
スコッレットがスポイルドを犠牲にフェニックスと契約していたこと。スポイルドの言葉。全部を…。
「そんな…」
「皆はスポイルドの事で自分を責めて壊れてしまうんじゃないかって言わなかったのよ。ごめんなさい。」
「…うん。分かってる。…ごめんなさい」
ルナはレンカに抱きつく。
「あらあら、どうしたの?」
「少し泣いたら治まると思うから…今だけこうしてて良い?」
「勿論よ。」
レンカは優しく抱きしめ返し背中を撫でてくれた。
と、そこへー。
「レンカ、また貴女なの…。」
タイミング悪くミヤが現れる。
「ち、違いの、私が悪いの…。レンカさんは悪くないの。」
「ふうん?浮気…しちゃったの。」
「は?違うくて…その…」
ルナは話を聞き出して泣いていたと説明した。
「…そう。でも…貴女が甘える場所はココだけ。」
そう言って自分の胸にルナを抱き寄せるミヤ。
「でも良かったわ。貴女のことだから責め過ぎていなくなるんじゃないかって心配だったの。」
「…もう勝手に居なくなったりしないよ。アルビノに教えて貰ったから…。」
「それなら良いの。」
歌姫へ代償は1つの命の鎮静歌となった…ー。
ルナはスコッレットに呼び出され、勇者ギルドのある薄暗い路地裏へ来ていた。
「オスロー…誘ったのに来ないですね…。」
スコッレットは少し残念そうに言う。
「まあ、もう時間もないですし良いです。私が呼び出したのは貴女に頼みがあるからですよ。」
「召喚の生贄にしたいのでしょう?」
「知っていたんですか?」
少し驚いたように言う。
「ええ、オスロー…。彼はスパイだったのよ。そしてオスローから色々聞いて生贄になりに戻って来たの。嬉しい?」
「は、はは、馬鹿な人ですね。わざわざ生贄なりに来るなんて狂っている。」
「…貴方には負けるわ。さ、始めてくれる?」
「ええ、喜んで。」
スコッレットが詠唱し始めた時だった。
バンっー。
銃声が響く。
「え…!?」
驚いた声を挙げたのはノワール。
スコッレットを狙った銃弾はルナに当たっていた。
ルナは耳が良い為、少しの音…銃を構えてトリガーを引く音を聞き逃さなかった。
ルナはスコッレットを庇ったのだ。
「ど、どうして…。」
「来る事は分かってた。オスローから聞いたんでしょう?でも私の邪魔はさせない。そこで見てて。」
「くっ、今攻撃したら全部ルナが庇って怪我しちゃう…。」
ミヤに焦りの色が浮かぶ。
スコッレットは満面の笑みをにやあっと浮かべながら詠唱している。
「くっ、何あの顔…すっごい腹立つわね。」
苛立ちを隠せないミヤ。
そうしてる間にも詠唱が進んでついに…ー。
「お、おお…これが破壊神。」
等々破壊神が召喚されてしまった。
「我ヲ召喚セシハオ前カ?」
「はい、はい!この少女を生贄のあげますので願いを叶えて下さい。」
「ンン?……」
破壊神はマジマジとルナを見るとやがてニヤリと嗤う。
「ナルホド、コレハ最上ノ供物ダ!良イダロウ。コノ供物ヲ先ニ食ラッタラオ前ノ望ミ叶エテヤル。」
破壊神がそう言った時だった。
「~♪」
綺麗な歌声が響きわたる。
ルナの声だ。
「綺麗な声…。」
ノワールはただ呆然と見ている。
「コノ歌…ヤ、ヤメロ…ッ!!」
いきなり破壊神が焦り出す。
「どうし…なっ!?ルナ…お前何をしたんですか!!」
スコッレットはいきなり激怒している。
「その歌をやめなさい!!」
「スコッレット達は何をあんな…。」
ミヤが怪訝そうに言う。
「…もしかして…。」
「アルビノ?」
ノワールが顔を見て覗き込むとアルビノは悲しそうに目を伏せていた。
「彼女…ローレライとセイレーンのハーフ、と言いましたよね。」
「ええ、そうよ…。」
「成る程、そういうこと…。」
レンカも悲しそうに瞳を揺らす。
「え?な、何、2人とも…お、教えて、ルナに何かあるの?」
ノワールは2人様子を見て焦り出す。
「ルナちゃん、スコッレットと破壊神といっしょに死ぬ気よ。」
レンカの言葉にノワールとミヤは目を見開く。
「神話の中のローレライとセイレーン、どっちも歌で人を惑わせるって話なのは知ってるわよね。ローレライの方は人柱になって悪しき物を封印し、人を守ったという逸話もあるの。その時、ローレライはこの世の物とは思えない程綺麗な歌声を響かせたそうよ。…今の状況、まさにそれじゃないかしら…。」
「っ!?ル、ルナ、歌うのをやめて…。」
そうミヤが言うが声が弱々しい。
「~♪」
だが尚もルナは歌い続ける。その目には徐々に涙が浮かぶ。
「グ、アッ!!」
しばらくして破壊神は消えていった。
「ハアハア…ぐ、こんなの…認めない、認め…」
スコッレットはその場に倒れる。
そのすぐ後に歌は止み、ルナもその場に崩れ落ちた。
「ルナっ!!」
ミヤはすぐにルナへ駆け寄りその身体を抱きしめる。
「…ごめ…ね…。」
ルナは無理矢理に微笑む。
「嫌よ、嫌…死んじゃうなんて駄目なんだから!」
「…最後に…もう一回…キス、して?」
「最後なんて言わないで。愛してるわ、ルナ。」
ミヤは優しく口付けを落とす。
「ありが…………」
それからダランっと全身の力が無くなり、ルナが死んでしまったことを知る。
「嫌、嫌ああああっっっっっっ!!」
ミヤの悲痛な叫び声と声を押し殺し泣くノワールやレンカの声だけが響いた。
と、ー。
「やれやれ…こんなこともあろうかとフェニックスと契約しておいて良かったです。」
「え…な、何で…」
ノワールの顔が絶望に染まる。
「もしもの為にフェニックスを召喚して生き返りできるようにしたんですよ。…まあ、3回だけでその貴重な1回を使ってしまったわけですが。…そこの馬鹿な女のせいで。」
スコッレットはミヤからルナを奪い取るとノワールの方へ蹴り飛ばした。
「きゃっ!?」
いきなりのことでそのまま倒れそうになるのをアルビノが支えてくれた。
「…誰を犠牲にしたんですか?」
アルビノがそう尋ねる。
「アルビノ…?何、言っているの?犠牲って何?」
ノワールの問いにアルビノは少し沈黙した後答える。
「フェニックスは悪しきものではありませんがその力は貴重で強力なもの…。故に力の代償に生贄を捧げないといけない様になっているのです。」
「つまり…スコッレットがフェニックスと契約する為誰かが犠牲になって…。」
「ああ、冥土の土産に教えて差し上げましょう。スポイルド…、彼女は実に愚かだった。昨日泣いて縋ってきたのです。自分がルナの代わりになるって。実に滑稽でしたよ。恐怖で奥歯をガチガチ鳴らして足は震えてるのに。彼女に恩を返すんだって。あの世で一緒になれて幸せでしょうね。くく、ははは」
「っ!!狂ってる…許せない。絶対に」
ミヤがスポイルドを攻撃する。
しかしー
「きゃっ!?」
その攻撃はミヤ自身へ返ってきた。
「これは私の特技の一種でしてね。使える回数は限られてますが攻撃をオウム返し出来るんです。」
「っ、回数が限られいるなら使えなくなるまで攻撃するだけよ。」
「落ち着いて、ミヤ。」
「止めないで、レンカ。私、怒ってるの。…憎いの…あの男が…」
「怒ってるのは貴女だけじゃないわ。私だってノワールだって…他の皆もそう。でもね、ルナがいたら絶対に止める。傷ついて欲しくないって。それにあんな安い挑発に乗る必要はないわ。それこそ相手の思うツボじゃない。」
「くっ…」
ミヤは悔しそうに攻撃しようとした手を下ろす。
「どうしよう…アルビノ…。」
ノワールは困った様にアルビノを見る。
その時だった。
「全く、見てられませんね。」
そう言って突然現れた1人の女性が現れる。髪は薄い金髪で地に着くほどに長く、隻眼の瞳は慈愛に満ちている。
「レリッシュ…。」
レリッシュと呼ばれた女性はミヤへ微笑む。
「大丈夫ですよ、ミヤ。…ねえ、あの倒れてる子が貴女のお気に入り?」
そう言ってルナを見る。
「え、ええ…そう、です。」
「ふうん?好き?」
「勿論です。私の全てなんです。」
「アルビノ…あの人もしかして…。」
「ええ、私達のボスです。」
「この人が…」
ノワールの視線に気付きレリッシュはノワールの元へ来る。
「貴女が噂のノワールね。貴女とルナのことはオスローから聞いているわ。安心して?私は貴女達を歓迎するわ。」
「で、でもルナは…。」
「ああ、ごめんなさい。でも大丈夫よ。…ミヤやアルビノ…7幹部のこと、よろしくね。」
レリッシュはそういうとスコッレットの前へ行く。
「…哀れな人。破壊心に囚われ歪んでしまった魂…。清らかな乙女を弄ぶ愚かな者。瑣末な贄に成り果てなさい。」
レリッシュは冷ややかに言いながらスコッレットへ触れる。
と、ー。
まるで糸が切れた操り人形みたいにパタリとスコッレットは倒れた。
「私は今、禁忌の魔法に触れたわ。時期に私も…死んでしまう。」
「反魂…ってまさか」
ミヤはルナへ駆け寄り、心臓部に耳を当てる。
しばらくして…
トクン…トクン…。
ルナの心臓が動き始める。
「っ、レリッシュ…ありがとう。でも貴女が…。」
「そんな顔しないの。愛する者が生き返ったから笑顔で迎えなさい。」
「ルナが生き返った…の?」
ノワールが恐る恐る尋ねる。
「レリッシュは反魂の魔法を使い、スコッレットの寿命を全部ルナとすり替えました。人の生死を操るのは禁忌…。レリッシュはこの後魔界からお迎えがきて…永遠に地獄に閉じ込められてしまうでしょう。」
「そ、そんな…あんまりだよ。ねえ、なんとかならないの…?」
「…例え理由が何であれ、禁忌に触れたら地獄行きです。…私にはどうすることも…。ごめん、なさい。」
アルビノはノワールの顔を胸に抱きしめる。
「っん、…あれ、私…」
その時、ルナが目を覚ます。
「ルナっ!!」
ミヤがルナを抱き締める。
「ちょ、苦しい…」
「苦しくて当然よ…。本当に…」
「ミヤさん…泣いてる、の?」
その背中を優しく撫でながらルナはレリッシュの存在に気付いた。
「貴女は…?」
「私はレリッシュ。悪の組織のボスだよ。…本当は2人ともっと話したかったんだけどね。…そろそろ時間みたい。」
レリッシュの言葉のすぐ後に馬の顔をした化け物と牛の顔をした化け物が現れる。
地獄の門番で有名な牛頭と馬頭だ。
「レリッシュは貴女を生き返らせてくれたの。…でも禁忌に触れたから今から…」
ミヤが気まずそうに顔を逸らす。
「そんな…」
ルナはショックを受けた顔になる。
(自分のせいで…こんなのもう嫌…)
「…~♪」
ルナは歌い始める。
「っ!?駄目よ、ルナ!!また死んじゃうなんて、もう…もうやめてっ!!」
ミヤが叫ぶがルナは歌い続ける。
ただ、さっきとは違い、誰も苦しんでる様子はない。
「さっきとは違う歌…。でも綺麗…。」
ノワールは止めるのを忘れ思わず聞き入る。
しばらくして歌が止むと牛頭と馬頭は消えてレリッシュはそのまま残された。
そしてルナはその場に崩れ落ちる。
「ルナっ!!」
慌ててミヤが抱き抱える。
「大丈夫…。疲れただけ。命と引き換えになるのはスコッレットの時に使った奴だけ…。」
「はは、驚いた…。君何したの?」
レリッシュは少し混乱している様だ。否、他の誰もが不思議に思っていた。
「今のは…再生の唄。地獄に堕ちる前に何もなかった刻に再生してもらった。だからもう何も起きない。ただ…凄く魔力を消耗して…しばらく動けない。」
「君の能力ってチートなんだね。…全く、カッコつけた自分が恥ずかしくなってきたよ。」
「チートって…魔力かなり消耗するから滅多に使えないんだけど…。見ての通り動けない…。」
「…動けないってどのくらい?」
「分からないよ…。昔練習してたときは3日くらいは動けないくらいだった…。」
「そう…動けない、ね…。」
ミヤは怪しげに笑う。
「それなら私がお世話してあげるわ。全部、ね♡」
ぞくりとしたものがルナの背中に伝わった。
「ルナ…本当に良かった…。本当に…どうなるかって…色々あり過ぎて…。」
涙声でノワールは言う。
「ごめんね…ノワールにも心配かけたね。」
「ルナ…守りたいという意思は尊重できます。で残された側の気持ちを考えてください。確かにスコッレットは蛇の様にしつこく変に強い男でしたが…。皆貴女のことを犠牲に生きたいなんて思わないし悲しむ。特にノワールとミヤは…。」
アルビノは厳しい口調で言う。
「ん…ごめんなさい。確かに守る事しか考えてなかった。」
「ルナちゃんっ!!」
そこにレンカが勢いよくハグしてくる。
「ちょ、レンカさん…!?」
「おかえりのちゅー♡」
「駄目っ!!」
慌ててレンカを引き離すミヤ。
「えー?いいじゃない、ちょっとだけでも。…じゃあ、ノワールちゃんに」
「な、なんで私っ!?」
ノワールの元へ来ようするがアルビノに阻止される。
「皆酷いわ?私の愛のやり場がないじゃない。」
そうむくれるレンカを見てルナは思わず微笑む。
「平和…になったんだね。」
「ええ、そうね。」
「…ルナ、私これからもルナと一緒に居たい。でもアルビノとも…。だからその…。」
「勇者一行になんて戻らない。悪の組織として生きていくわ。私もノワールと一緒に居たいしそれに…」
ルナはミヤをチラっと見る。
「この人はどうあっても私を離してくれないだろうし?」
「当たり前じゃない。恋人なんだから♪」
「帰ろう、ルナ。私達の居場所があるユーベルに。」
そう言ってミヤとは反対側からルナをかかえる。
「そうね…。」
ルナは帰ってから3日間動けずにいた。
嬉々としてミヤは世話を焼いたがルナはずっと恥ずかしそうにしていた。
そして動ける様になって自分が死んでいた間のことを聞いた。ミヤやノワール、アルビノは答えてくれなかったが…。
レンカに頼み倒したら困った様に悲しい顔で真実を教えてくれた。
スコッレットがスポイルドを犠牲にフェニックスと契約していたこと。スポイルドの言葉。全部を…。
「そんな…」
「皆はスポイルドの事で自分を責めて壊れてしまうんじゃないかって言わなかったのよ。ごめんなさい。」
「…うん。分かってる。…ごめんなさい」
ルナはレンカに抱きつく。
「あらあら、どうしたの?」
「少し泣いたら治まると思うから…今だけこうしてて良い?」
「勿論よ。」
レンカは優しく抱きしめ返し背中を撫でてくれた。
と、そこへー。
「レンカ、また貴女なの…。」
タイミング悪くミヤが現れる。
「ち、違いの、私が悪いの…。レンカさんは悪くないの。」
「ふうん?浮気…しちゃったの。」
「は?違うくて…その…」
ルナは話を聞き出して泣いていたと説明した。
「…そう。でも…貴女が甘える場所はココだけ。」
そう言って自分の胸にルナを抱き寄せるミヤ。
「でも良かったわ。貴女のことだから責め過ぎていなくなるんじゃないかって心配だったの。」
「…もう勝手に居なくなったりしないよ。アルビノに教えて貰ったから…。」
「それなら良いの。」
歌姫へ代償は1つの命の鎮静歌となった…ー。
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