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第壱章 その出会いは突然に
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「はあ…」
1人の少女が溜息をつく。
少女の名は琴歌月(ことうたつき)。
淡い水色の髪を横に束ね、エメラルドグリーンの瞳をしている。
この少女のため息の訳。それは不幸体質だった。
何かしらの事件に巻き込まれては怪我したり、犯人に間違われたりと、すっかり病院と警察の常連になってしまっていた。
それが彼女の悩みであり、溜息の訳というわけである。
今は病院で怪我を手当てしてもらった帰りである。
「お嬢さん」
偶々通りかかった商店街の道で呼び止められる。
声をかけてきたのは黒いローブを着た如何にも怪しい人。手には水晶球。どうやら占い師のようだ。
「………」
関わらないのが一番と、月は素通りしようとした。
「おや、聴こえているでしょうに」
「っ!?」
いつの間にか占い師は目の前に立っていた。
「怪しいと思っているだろう?胡散臭い、関わらないのが一番、とね。君からは人間不信の匂いがする。」
「私に用ですか?」
「君は妖怪って信じるかい?」
そう占い師は唐突に聞いてきた。
「…分かりません。」
「ふふ、はははっ」
占い師はいきなり笑いだす。
「いや、すまない。“分かりません”とは初めて言われたものでな。他に聞いた奴らは大体“いない”って言うんだよ。」
「それは変だよ。」
「おや、変なのかい?」
「だってそうでしょ?“いる”ことの証明は出来るけど“いない”ことの証明は不可能だよ。」
「ほう、“悪魔の証明”か。確かにいることを証明するには連れてくれば良い。が、いないことの証明は不可能に近い。世界中の隅から隅まで満遍なく調べても出来ないだろうな。」
占い師は懐から一冊の本を取り出す。
「この本は特別な力が込められていてな。君は安倍清明を知っているかな?」
「平安時代の凄腕な陰陽師ってことくらいなら。」
「この本はね、その凄腕の陰陽師の力が込められている。妖怪を呼んで使役出来るというやつでな。まあ、と言っても選ばれた人間にしか扱えんのだが。この本は琴歌月、君を主として選んだようだ。」
「なっ!?どうして」
「“本に選ばれたから”だ。この本はもう君のものだ。」
「そうじゃなくて…どうして私の名前を知ってるの?」
そう、月は占い師に名乗っていない。
にも関わらず、占い師はフルネームを口にした。
「私と君は毎日の様に会っているよ。」
「え?あなたは一体…?」
「それは後々分かるさ。私も妖怪。君に呼ばれる。」
「この本で?やり方とか知らないし、私は使う用事ない」
「ならば一回私の家に来なさい。そこで試しに私を召喚するといい。用事はあるさ。本に選ばれた時点で必然的にな。」
❇︎
「その本には妖怪についての情報が記してある。呼びたい妖怪のページを開き、祈りを込めながら名を呼ぶと召喚出来る。ちなみに私は“山姥”だ。さあ、呼んでみると良い。」
月はページをめくり、山姥のページを見つける。
「…山姥、来て。」
月が言葉を口にした時だった。
本が光に包まれ、目の前の黒いローブの占い師は消え、代わりに本の中から白衣を着た眼鏡をかけた女性が現れた。
「えっ!?せ…先生!?」
「言っただろう?“毎日の様に会っている”と。」
そう言って笑う白衣の女性は山南湊(さんなんみなと)。水色がかった銀髪にアイスブルーの瞳をしている。
月がよくお世話になっている病院の医者である。
「山姥って医者になれるんですね。」
「そりゃあ、普段は人間のフリをしているからな。他の知り合いも妖怪やもしれぬぞ。」
「…先生が妖怪で、妖怪は実在していて、私にはその妖怪を呼び出す力があることは理解しました。しかし、本に選ばれたとはいえ、私には必要ない力です。」
「私達妖怪は住処が欲しい。妖怪は“人の信じる力”によって生かされている。最近では科学の発展が盛んになり、妖怪はいないと言う者が多くなった。と、いうことはだ、妖怪はどんどん住処を失い最終的には死に至る可能性が高い。そこで、本が選んだ君の手助けが必要なんだ。」
「…それは私が本に選ばれた人間だから?」
「半分正解だ。君はよくトラブルに巻き込まれているだろう?そういう体質なのだろう。そこで、だ。」
湊は月に何故か河童を呼ぶ様にと言う。
「河童…。」
言われるがまま、月は河童を呼ぶ。すると探偵の衣装を身に纏い、左目を眼帯で隠した深緑のショート髪の女の子が現れた。
「琴歌月、河童と共に探偵になってくれ。」
「私の能力が探偵になることで役立つ。つまり妖怪の存在が多くの人に認知されやすくなる…という訳ですね。」
「そうだ。理解が早くて助かる。…しかし、この探偵が少々厄介者でな。」
「え?」
月は河童を見る。
「おいおい、なんだよ。人のことジロジロ見て。あ、人じゃなくて妖怪か。」
「…私は琴歌月。湊先生にあなたのお手伝いを頼まれたのだけれど…。」
「おお!つまりはワトソンか。俺様は神の宿りし右眼を持つ選ばれし者、シャーロックだ!!」
河童は緋色の瞳を抑えながら得意気に言う。
「大嘘つくな、緑河凛(みどりかわりん)」
「あ、てめ、本名バラすなよ。折角カッコよくきめたのに。」
「たわけ。そんなんだから依頼が来ぬのだ。」
「ちがう!俺の封印されし第3の目に恐れてだな…」
「いつから河童やめて三目になった?」
最早漫才である。
「あの…」
話についていけず、月は声をかける。
「ああ、すまない。こいつは河童の緑河凛。探偵をしているが見ての通り厨二病を拗らせていてな。」
「はあ。」
「んなことより、ヨロシクな、相棒!」
「うん、よろしくね。」
不安を覚えながらも人懐っこい河童の差し出した手を握り返した。
「あ、ちなみにうちの事務所のかかりつけ医は山南だからな。」
と、言われるが月は既に山南の病院の常連である。
「まあ、言った以上私もサポートはなるべくするから頑張ろう。」
❇︎
と、これが月と妖怪たちとの出会い。
そして召喚探偵としての始まりである。
1人の少女が溜息をつく。
少女の名は琴歌月(ことうたつき)。
淡い水色の髪を横に束ね、エメラルドグリーンの瞳をしている。
この少女のため息の訳。それは不幸体質だった。
何かしらの事件に巻き込まれては怪我したり、犯人に間違われたりと、すっかり病院と警察の常連になってしまっていた。
それが彼女の悩みであり、溜息の訳というわけである。
今は病院で怪我を手当てしてもらった帰りである。
「お嬢さん」
偶々通りかかった商店街の道で呼び止められる。
声をかけてきたのは黒いローブを着た如何にも怪しい人。手には水晶球。どうやら占い師のようだ。
「………」
関わらないのが一番と、月は素通りしようとした。
「おや、聴こえているでしょうに」
「っ!?」
いつの間にか占い師は目の前に立っていた。
「怪しいと思っているだろう?胡散臭い、関わらないのが一番、とね。君からは人間不信の匂いがする。」
「私に用ですか?」
「君は妖怪って信じるかい?」
そう占い師は唐突に聞いてきた。
「…分かりません。」
「ふふ、はははっ」
占い師はいきなり笑いだす。
「いや、すまない。“分かりません”とは初めて言われたものでな。他に聞いた奴らは大体“いない”って言うんだよ。」
「それは変だよ。」
「おや、変なのかい?」
「だってそうでしょ?“いる”ことの証明は出来るけど“いない”ことの証明は不可能だよ。」
「ほう、“悪魔の証明”か。確かにいることを証明するには連れてくれば良い。が、いないことの証明は不可能に近い。世界中の隅から隅まで満遍なく調べても出来ないだろうな。」
占い師は懐から一冊の本を取り出す。
「この本は特別な力が込められていてな。君は安倍清明を知っているかな?」
「平安時代の凄腕な陰陽師ってことくらいなら。」
「この本はね、その凄腕の陰陽師の力が込められている。妖怪を呼んで使役出来るというやつでな。まあ、と言っても選ばれた人間にしか扱えんのだが。この本は琴歌月、君を主として選んだようだ。」
「なっ!?どうして」
「“本に選ばれたから”だ。この本はもう君のものだ。」
「そうじゃなくて…どうして私の名前を知ってるの?」
そう、月は占い師に名乗っていない。
にも関わらず、占い師はフルネームを口にした。
「私と君は毎日の様に会っているよ。」
「え?あなたは一体…?」
「それは後々分かるさ。私も妖怪。君に呼ばれる。」
「この本で?やり方とか知らないし、私は使う用事ない」
「ならば一回私の家に来なさい。そこで試しに私を召喚するといい。用事はあるさ。本に選ばれた時点で必然的にな。」
❇︎
「その本には妖怪についての情報が記してある。呼びたい妖怪のページを開き、祈りを込めながら名を呼ぶと召喚出来る。ちなみに私は“山姥”だ。さあ、呼んでみると良い。」
月はページをめくり、山姥のページを見つける。
「…山姥、来て。」
月が言葉を口にした時だった。
本が光に包まれ、目の前の黒いローブの占い師は消え、代わりに本の中から白衣を着た眼鏡をかけた女性が現れた。
「えっ!?せ…先生!?」
「言っただろう?“毎日の様に会っている”と。」
そう言って笑う白衣の女性は山南湊(さんなんみなと)。水色がかった銀髪にアイスブルーの瞳をしている。
月がよくお世話になっている病院の医者である。
「山姥って医者になれるんですね。」
「そりゃあ、普段は人間のフリをしているからな。他の知り合いも妖怪やもしれぬぞ。」
「…先生が妖怪で、妖怪は実在していて、私にはその妖怪を呼び出す力があることは理解しました。しかし、本に選ばれたとはいえ、私には必要ない力です。」
「私達妖怪は住処が欲しい。妖怪は“人の信じる力”によって生かされている。最近では科学の発展が盛んになり、妖怪はいないと言う者が多くなった。と、いうことはだ、妖怪はどんどん住処を失い最終的には死に至る可能性が高い。そこで、本が選んだ君の手助けが必要なんだ。」
「…それは私が本に選ばれた人間だから?」
「半分正解だ。君はよくトラブルに巻き込まれているだろう?そういう体質なのだろう。そこで、だ。」
湊は月に何故か河童を呼ぶ様にと言う。
「河童…。」
言われるがまま、月は河童を呼ぶ。すると探偵の衣装を身に纏い、左目を眼帯で隠した深緑のショート髪の女の子が現れた。
「琴歌月、河童と共に探偵になってくれ。」
「私の能力が探偵になることで役立つ。つまり妖怪の存在が多くの人に認知されやすくなる…という訳ですね。」
「そうだ。理解が早くて助かる。…しかし、この探偵が少々厄介者でな。」
「え?」
月は河童を見る。
「おいおい、なんだよ。人のことジロジロ見て。あ、人じゃなくて妖怪か。」
「…私は琴歌月。湊先生にあなたのお手伝いを頼まれたのだけれど…。」
「おお!つまりはワトソンか。俺様は神の宿りし右眼を持つ選ばれし者、シャーロックだ!!」
河童は緋色の瞳を抑えながら得意気に言う。
「大嘘つくな、緑河凛(みどりかわりん)」
「あ、てめ、本名バラすなよ。折角カッコよくきめたのに。」
「たわけ。そんなんだから依頼が来ぬのだ。」
「ちがう!俺の封印されし第3の目に恐れてだな…」
「いつから河童やめて三目になった?」
最早漫才である。
「あの…」
話についていけず、月は声をかける。
「ああ、すまない。こいつは河童の緑河凛。探偵をしているが見ての通り厨二病を拗らせていてな。」
「はあ。」
「んなことより、ヨロシクな、相棒!」
「うん、よろしくね。」
不安を覚えながらも人懐っこい河童の差し出した手を握り返した。
「あ、ちなみにうちの事務所のかかりつけ医は山南だからな。」
と、言われるが月は既に山南の病院の常連である。
「まあ、言った以上私もサポートはなるべくするから頑張ろう。」
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と、これが月と妖怪たちとの出会い。
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