[完結]飲食店のオーナーはかく戦えり! そして下した決断は?

藤堂慎人

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2020年、感染拡大前夜 18

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 私が店に着いた時、いつものようにチーフの矢島は店に入っており、この日の仕込みの準備をしていた。
「ご苦労様。いつも早いね。今、ちょっと手が空くならこっちに来てくれないか」
 私の呼びかけに何だろう、といった顔で矢島が近づいてきた。
「新型ウイルスの近況、知ってるよね」
「もちろんです。今、中国のほうでは大変な感じですね」
 現在、結構な頻度でテレビで報道されているため、当然矢島も知っていた。
「それでマスクとかアルコール消毒液といったものは持っている?」
「俺は花粉症じゃないのでマスクは持っていません。アルコール消毒液もありませんけど、仕事の習慣で手洗いはきちんとしています」
 そう言えば、私は矢島のマスク姿は見たことがない。これまではあまり意識しなかったが,改めて分かっているようで実はそうではなかったことに気付かされた。
 私は薬局で買ってきた袋を開け、アルコール消毒液を店のストック棚に置いておくように指示した。マスクも同様で今朝、美津子と話したことを矢島にも話した。
「そうですか。そういえば最近、マスク姿の人をよく見かけていましたが、てっきり花粉症の人たちだと思っていました。自分がそうじゃないから、季節の風物詩的な感じで見ていました。でも、感染防止の人もいらっしゃるのであれば、俺たちもその意識で対応しないといけませんね。まだ同業者ではあまり耳にしていませんが、こういうことは早いほうが良いでしょう。俺からもみんなに言っておきます」
「頼むね。それから近所の薬局でマスクやアルコール消毒液を見かけたら、買っておいてくれないか。切らしたら問題だからね。でも他の人のこともあるので、買い占めのようなことはしないようにね」
 こういうところはきちんとしない気が済まない私は、矢島にも買いすぎないよう注意を促した。それは他の人も買えるようにという配慮もあったが、食材のオーダーの時、ちょっと多すぎることがたまにあるからで、念のために注意したのだ。
「お客様へのアルコール消毒のお願いは、早速今日からやろう。今日のおすすめ用の紙があるから、それに消毒のお願いを書いて、入り口付近を置いてくれ。私は今日帰ってから、PCで消毒お願いのチラシを作るよ」
 矢島にそう告げると、美津子に再度電話した。
「もしもし、今朝話したことに関係してのことだけど、矢島君とも相談して今日からアルコール消毒液をお店の入り口に置くことにした。マスクも全員に着用してもらう。2号店のほうはどう?」
「こちらも中村君と話したわ。もちろん今日からやろうということにしたけれど、これからは様子を見て、お店のマイナスにならないようにしたいわね」
 何かいつもよりも力強く話している感じがする。美津子も薬局で私と同じような経験をしたのだろうが、世の中の流れが少しずつ変化してきているような感じに、一抹の不安を感じていたのかもしれない。
「今日、お客さんの会話や様子を観察し、夜、話し合おう。スタッフにもその旨伝え、話を聞いて帰るから、2号店のほうでもそうしてくれる?」
 私は自分の主観だけでなく、他の人の眼や感覚も含めて、これからのことを考えようと思った。
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