19 / 182
2020年、感染拡大前夜 19
しおりを挟む
1号店はいつも通り午後4時からオープンした。この時間はまだ来店はほとんどなく、私も含めスタッフ全員はテーブルの上を拭いたり、セットしている備品の確認、本日の特別メニューなどを確認している。同時に表の通りの様子を確認しているが、人通りについてはこれまでとは変わらない。ただ、改めて観察すると、以前よりはマスク姿の人が多くなっているように思える。
そうこうしているこの日、最初の客が来店した。この時間に来るのは近所の常連の高木で、顔見知りのために雑談もできる。まだ来客ゼロなので、私は新型ウイルスの話を何気なく振ってみた。
「テレビでは感染症の話がよく出ていますね」
「そうだね、日本でも数字が増えているようだけど、まだ知り合いに感染した人はいない。念のためにマスクをしているけれど、慣れないから息苦しくて、する時としない時がある。今日はたまたましている時だけど・・・」
中村はそう言いながらメニューを見ている。そしてほどなくして私に目線を向け、言った。
「じゃあ、とりあえずビールと煮込みをもらおうか」
「かしこまりました」
私はオーダーを聞き、厨房に通した。いつもは私が厨房担当なのだが、この日は直接自分の耳で生の声を聴きたかったので、ホールに出て、なるべく顔見知りの人と会話をするようにした。そのため今日は矢島が厨房に入っており、いつもと違う感じでのオープンになった。普段は私がずっと厨房で、忙しくなったら矢島がヘルプに入る、というスタイルでやっているため、料理の味には違いは生じない。レシピもきちんと共有しているので、今回のようなシフトでも問題はない。
高木のオーダーはすぐに出せるメニューだったので、すぐに運ぶことができた。この時点で他には誰もいない。私はさっきの続きということで再度話しかけた。
「高木さん、今度のウイルス、怖くないですか?」
私は今回のウイルスに対する意識について、他の人はどう感じているのだろうということに興味があり、尋ねた。
「新型というところは気になるけれど、新型ウイルスというのは普通の風邪の原因にもなってるという話でしょう。テレビでは武漢での話や映像を流しているけれど、日本の医療体制は世界的にも整っているという話だし、ちょっと前に出てきた新型インフルエンザも大した問題にはならなかったよね。だから今は、普通の風邪やインフルエンザ予防くらいの意識で対応しているよ。俺もそれなりの年だから、新型ウイルスに限らず、他の病気も怖いし、健康には普通に気を付けているよ」
思ったより重大な病気といった捉え方はしていないようだった。ただ、まだ新型ウイルスの詳細は分かっていない。私は高木の話を聞いて、逆にこのような意識の人が多いのであれば、もし厄介な病気だったらすぐに感染者が増えるかもしれないな、という思いが出てきた。
もう少し突っ込んで話そうと思ったが、少しずつ来店者が増え、すぐに高木のテーブルから離れ、おしぼりを持っていったりオーダー取りで忙しくなっていった。
そこで今度は客同士の会話に耳を傾けることにしたが、この時点では相変わらずの話題ばかりで、身近なことが話題になっている。平和的で良いのだが、今日初めて店頭に設置したアルコール消毒については、高木を含め、来店者の誰もが実践していない。そもそも設置してあることを気付かない様子だし、慣れていないことなので仕方ないことかもと思った。
来店者数が増えてくると、何人かはアルコール消毒をしていたが、この日はまだ数えるくらいであり、明確にやっているという感じではなかった。
そうこうしているこの日、最初の客が来店した。この時間に来るのは近所の常連の高木で、顔見知りのために雑談もできる。まだ来客ゼロなので、私は新型ウイルスの話を何気なく振ってみた。
「テレビでは感染症の話がよく出ていますね」
「そうだね、日本でも数字が増えているようだけど、まだ知り合いに感染した人はいない。念のためにマスクをしているけれど、慣れないから息苦しくて、する時としない時がある。今日はたまたましている時だけど・・・」
中村はそう言いながらメニューを見ている。そしてほどなくして私に目線を向け、言った。
「じゃあ、とりあえずビールと煮込みをもらおうか」
「かしこまりました」
私はオーダーを聞き、厨房に通した。いつもは私が厨房担当なのだが、この日は直接自分の耳で生の声を聴きたかったので、ホールに出て、なるべく顔見知りの人と会話をするようにした。そのため今日は矢島が厨房に入っており、いつもと違う感じでのオープンになった。普段は私がずっと厨房で、忙しくなったら矢島がヘルプに入る、というスタイルでやっているため、料理の味には違いは生じない。レシピもきちんと共有しているので、今回のようなシフトでも問題はない。
高木のオーダーはすぐに出せるメニューだったので、すぐに運ぶことができた。この時点で他には誰もいない。私はさっきの続きということで再度話しかけた。
「高木さん、今度のウイルス、怖くないですか?」
私は今回のウイルスに対する意識について、他の人はどう感じているのだろうということに興味があり、尋ねた。
「新型というところは気になるけれど、新型ウイルスというのは普通の風邪の原因にもなってるという話でしょう。テレビでは武漢での話や映像を流しているけれど、日本の医療体制は世界的にも整っているという話だし、ちょっと前に出てきた新型インフルエンザも大した問題にはならなかったよね。だから今は、普通の風邪やインフルエンザ予防くらいの意識で対応しているよ。俺もそれなりの年だから、新型ウイルスに限らず、他の病気も怖いし、健康には普通に気を付けているよ」
思ったより重大な病気といった捉え方はしていないようだった。ただ、まだ新型ウイルスの詳細は分かっていない。私は高木の話を聞いて、逆にこのような意識の人が多いのであれば、もし厄介な病気だったらすぐに感染者が増えるかもしれないな、という思いが出てきた。
もう少し突っ込んで話そうと思ったが、少しずつ来店者が増え、すぐに高木のテーブルから離れ、おしぼりを持っていったりオーダー取りで忙しくなっていった。
そこで今度は客同士の会話に耳を傾けることにしたが、この時点では相変わらずの話題ばかりで、身近なことが話題になっている。平和的で良いのだが、今日初めて店頭に設置したアルコール消毒については、高木を含め、来店者の誰もが実践していない。そもそも設置してあることを気付かない様子だし、慣れていないことなので仕方ないことかもと思った。
来店者数が増えてくると、何人かはアルコール消毒をしていたが、この日はまだ数えるくらいであり、明確にやっているという感じではなかった。
33
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
僕らの10パーセントは無限大
華子
青春
10%の確率でしか未来を生きられない少女と
過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと
やたらとポジティブなホームレス
「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」
「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」
もし、あたなら。
10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と
90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。
そのどちらを信じますか。
***
心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。
追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。
幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる