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2020年、感染拡大前夜 21
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閉店時間を過ぎ、片づけをしている時、今日のことを矢島たち数人のスタッフに話してみた。
矢島には開店前に話していたが、基本的には厨房に入っているので客同士の話を耳にすることはない。他のスタッフには特別に話していたわけではないので、私がホールにいた時に耳にしたことについての認識は誰も持っていなかった。もっと感染者が増え、身近になったなら別だろうが、まだクルーズ船の話といった感じなのだろう。
だが、飲食店なので、衛生問題についてはきちんと意識してもらわなければならない。だから明日からの意識として全員にこれからのこととして話した。
「今日、店の入り口のところにアルコール消毒液を置いたけれど、お客様の様子はどうだった?」
まず全員の認識を確認するため、今朝から始めたことについて尋ねてみた。
「あまり使っている人はいませんでした」
アルバイトの一人が言った。他のスタッフも頷いていたので、おそらく全体的にはそんな感じだったのだろう。
「最近、薬局に行った人はいる?」
午前中に私が訪れた時の様子をどれだけのスタッフが経験したかを尋ねたが、この質問に対する回答は皆無だった。だから私のほうから今朝の様子を話したのだが、みんなの反応は今一つという感じだ。やはり自分で経験していないからだろうし、そもそも新型ウイルスに対する意識も低いようだった。もちろん、それは私も似たようなものだが、今朝、美津子と話したことや薬局での経験が多少私を神経質にしているのかもしれない。
だからこの感覚は個人的なことかもしれない、ということを自分に言い聞かせるが、そう思っている私自身も、それが本当の気持ちかどうかは分からない。テレビがちょっと騒いでいるので、何となくそれに同調しているだけかもしれない、という思いもあるのだ。
場の雰囲気として私だけが空回りしているような感じなので、これ以上話してもあまり意味がないと判断し、この話はここで止めた。
残りの作業もあるし、スタッフの帰宅時間のこともあるからだ。
「悪かったね、余計な話をして。さあ、後片付けを手早く済ませて、店を出よう。また明日もあるので、みんな早く休んでくれ。さっきの話の続きになるような感じだけど、身体に気を付けような」
私はみんなに注意を促したつもりだが、全員いつもの感じの返事で、引き締まった感じはしなかった。ここでも私は自分だけが浮いた存在のように感じていた。今一つの感を残しながら火の点検など、いつもの作業を終え、施錠して帰りの途についた。
道すがら、2号店はどうだったのだろう、ということを考えつつ、足早に自宅に向かった。
矢島には開店前に話していたが、基本的には厨房に入っているので客同士の話を耳にすることはない。他のスタッフには特別に話していたわけではないので、私がホールにいた時に耳にしたことについての認識は誰も持っていなかった。もっと感染者が増え、身近になったなら別だろうが、まだクルーズ船の話といった感じなのだろう。
だが、飲食店なので、衛生問題についてはきちんと意識してもらわなければならない。だから明日からの意識として全員にこれからのこととして話した。
「今日、店の入り口のところにアルコール消毒液を置いたけれど、お客様の様子はどうだった?」
まず全員の認識を確認するため、今朝から始めたことについて尋ねてみた。
「あまり使っている人はいませんでした」
アルバイトの一人が言った。他のスタッフも頷いていたので、おそらく全体的にはそんな感じだったのだろう。
「最近、薬局に行った人はいる?」
午前中に私が訪れた時の様子をどれだけのスタッフが経験したかを尋ねたが、この質問に対する回答は皆無だった。だから私のほうから今朝の様子を話したのだが、みんなの反応は今一つという感じだ。やはり自分で経験していないからだろうし、そもそも新型ウイルスに対する意識も低いようだった。もちろん、それは私も似たようなものだが、今朝、美津子と話したことや薬局での経験が多少私を神経質にしているのかもしれない。
だからこの感覚は個人的なことかもしれない、ということを自分に言い聞かせるが、そう思っている私自身も、それが本当の気持ちかどうかは分からない。テレビがちょっと騒いでいるので、何となくそれに同調しているだけかもしれない、という思いもあるのだ。
場の雰囲気として私だけが空回りしているような感じなので、これ以上話してもあまり意味がないと判断し、この話はここで止めた。
残りの作業もあるし、スタッフの帰宅時間のこともあるからだ。
「悪かったね、余計な話をして。さあ、後片付けを手早く済ませて、店を出よう。また明日もあるので、みんな早く休んでくれ。さっきの話の続きになるような感じだけど、身体に気を付けような」
私はみんなに注意を促したつもりだが、全員いつもの感じの返事で、引き締まった感じはしなかった。ここでも私は自分だけが浮いた存在のように感じていた。今一つの感を残しながら火の点検など、いつもの作業を終え、施錠して帰りの途についた。
道すがら、2号店はどうだったのだろう、ということを考えつつ、足早に自宅に向かった。
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