お母さん、私、恋したよ!

藤堂慎人

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治療開始 12

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 父と母が病室に訪れて間もなく、坂本がやってきた。
「坂本君、ありがとう。今日、私のお父さんとお母さんが見舞いに来てくれているんだ。お母さんとは何度か会ったことがあるけど、お父さんとは初めてだよね」
 私は坂本に言った。その言葉に坂本は頷き、そして言った。
「お父さん、始めまして。坂本と言います。高野さんとは同じクラスです。少しでも勉強に遅れが出ないよう、夏講のノートを持ってきています。2学期になって後れを感じないようにしてもらいたくて・・・」
「ありがとう。さくらにそんな気を遣ってもらって・・・」
 父は顔を綻ばせながらも娘の父親としての複雑な心境もある。また、私の病気のことを考えると、心の一部では悲しみを感じていた。そのことは微妙な表情として現れるが、そのことは初対面ということと相殺してくれそうな雰囲気だったので、すぐに平常心を取り戻し、私の学校でのことなどを尋ねた。初めての父との会話ということで坂本の方にも緊張が見られたが、そこは男同士ということもあるのか、思ったよりもスムーズな話しぶりだった。
 1学期のクラスでの様子を聞いた父は、自分が知らなかった部分を垣間見たようで、私が感じていた大変さを知ると共に、それを支えてくれた坂本に感謝していた。
 この時点で先ほど主治医のところで考えていた懸念が少し薄らいだ。高校1年の夏休みとはいえ、通っている学校は進学校であり、大学受験のことを考えれば、この段階から意識する。大切な夏休みの期間、娘のために頻繁の見舞いに来てくれる坂本の気持ちを単なる同情からだけではないのでは、と考えるようになった。かといって、この場でそういう話ができる訳はない。
 私は父と坂本の会話を聞いていたが、せっかく見舞いに来てくれたのに話ができない様子に、ちょっとつまらなそうな顔をしていた。その様子に気付いた母が言った。
「私、飲み物を買ってくるね。坂本君、何が飲みたい?」
 その様子から何かを察した父は、お手洗いに行ってくると言って母と一緒に病室を出た。
「坂本君、さくらのこと、いろいろ考えてくれているようだな」
「でしょう。私、何度か話しているし、さくらの様子を見ていても坂本君のこと、とても信頼しているみたい。それが恋心にまで発展しているかまでは分からないけど、たぶんさくらの方は気持ちが強いように思う。これ、女の勘」
「俺も高校生の頃を思い出すと、夏休みは受験に大事な時期と理解していたから、1年生の時から意識していた。まだ本気ではなかったけれど、志望校の傾向などを調べて、苦手な科目についてはそれなりに勉強時間を取った。夏講も同じ意識だった。坂本君も頭良さそうだし、今から受験勉強を意識しているだろうに、わざわざさくらのところにしょっちゅう来てくれて、しかも2学期からのことを気遣うなんてなかなかできないよ。診察室で言ったことを撤回し、腹を割って坂本君と話ししてみよう。聡明な子だから、きちんと話せば理解してくれるかもしれない。もちろん、そのことで彼に重荷を背負わせないように配慮した上でだけど」
「じゃあ、頃合いを見て坂本君に今日の予定を聞いて、可能であれば先生のところに行ってみましょう。もし、断られたら仕方ないけど・・・」
 そういって2人は適当な頃合いを見て病室に戻った。飲み物はリクエストに合わせて購入し、部屋に戻った時、日常的な他愛の話で終始し、私にも坂本にも普通に接していた。初めて会った私の父とも坂本は打ち解けたようで、すっかり馴染んだようだった。
≪日記≫
『今日、初めて坂本君が私のお父さんと会った。最初、緊張していたように見えたが、すぐに打ち解けた。
 2人とも終始笑顔で、私もとても嬉しかった。
 私、坂本君にも両親にも何も話していないけれど、雰囲気で分かってくれたかな。私が坂本君のこと、好きなこと。
 でも、今の私がそんなこと言ったら坂本君に迷惑だ。
 私は今まで通り見舞いに来てくれて、優しい笑顔を見せてくれたらそれで良い。それだけで良い。
 今の私はそれ以上のことを望んではいけないのだ。
 でも、夢の中の私。そこでは自分の思いをしっかり伝えて良いんだよ。
 次はいつ、坂本君、私の夢に来てくれるかな?
 その世界では私も普通の高校生。現実の世界ではできないこともできるんだ。今の私が唯一解放される場所。
 大切にしたい!』
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