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治療開始 11
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次の日の午後、父と母が主治医と会った。最初に口を開いたのは父だった。
「先生、娘がお世話になっています。昨日、家内から聞いたのですが、さくらの容態、あまり芳しくなさそうですね」
「ええ、申し訳ないのですが、投与している薬の効果があまり見られなくて・・・。少し大きくなっているのです。副作用のこともあるし、ガンということを隠しながら対応しようとしていました。2重の病ということを知った時のショック、しかもその一つがガンということになれば、ただでさえウェルナー症候群ということで同年代の方たちとの違いで苦しんでいらっしゃるのに、それ以上に心の負担を掛けないことに気を遣ってきました。ウェルナー症候群の話をした時、想像以上に気丈な様子に、私も医師として驚きました。おそらく心の底では大変な動揺があったと思いますが、実に強い娘さんです」
「ありがとうございます。でも、そういう強さも大切ですが、何といっても今は病気が治ることが優先です。これはその通りなのですが、先生がおっしゃるような本当のことを知った時の娘のショックが心配なんです。これまでは持ち前の気丈さで乗り越えられたかもしれませんが、さすがにガンとなると・・・」
「医者としての立場からは何とかガンの治療を成功させ、以前のように高校生活を取り戻してあげたいと思っています。ただ、そうなると他の治療法との組み合わせを選択しなければならないだろうし、それに伴う苦痛や治療後の身体の状態も懸念されます。大人でもなかなか精神的に来るものがありますから、それを若い娘さんにということは私も親ですから考えます・・・」
医者はそう言いながら、少し天井に視線を向けた。そこに母が言った。
「先生、病名の告知をする際、何か心の支えのようなことがあれば少しはそのショックを緩和することはできますか?」
「内容にもよりますが、可能性は否定しませんし、心の問題は病気の治療にプラスに作用します。私たちもそういうことを念頭に治療に当たっているつもりですが、毎日たくさんの患者さんを診ていると、どこか足りないところがあるのでは、と思うことばかりです」
「そうですか、実は・・・」
母が話そうとしたことを察知した父は、それを遮った。そして母に言った。
「言おうとしているのは坂本とかいう子のことだろう。どういう気持ちでいるかは分からないけど、家族や親戚というわけではない他人だ。冷たい言い方かもしれないが、そういう人に重荷を背負わせるわけにはいかない。親御さんの立場もあるだろうし、俺たちの都合だけで物事を決めわけにはいかない。昨日はその案に賛成するようなことを言ったが、冷静に考えたら、坂本君に酷なような気がしたんだ。そのことでさくらが落ち込み、治るものも治らない、ということにでもなれば元も子もない」
「そうは言ってもあなた、事はさくらの今後の治療にも関わることだし、事情を話してお願いすることもできないの? さくらは坂本君のこと好きみたいだし、彼の支えがあれば何とか頑張れるかもしれない、と思わない? 私は親だからこそ、何か娘のためになればと考えているの。その気持ち、あなたには分からない?」
「じゃあ、逆の立場でさくらがその坂本君のためにということで同じことを頼まれた場合、素直に引き受けるか? やっぱりその時のさくらの気持ちや相手の気持ちを考えるだろう? こういうお願いをするということは、結果的に病気が治った時、そのまま将来を一緒にということもあり得る。一時の感情のままで動いても、まだ高校生の子には重すぎるだろう」
2人の会話を聞いていた主治医が口を挟んだ。
「そういうことは私が口を出すことではないのですが、お父さん、お母さんがおっしゃっていることは同じように理解できますし、今のお2人の話、それこそ自分の家族の話に置き換えた場合、やはり悩むでしょう。その坂本君という子、高校生ですよね。まだ将来があるし、いろいろな出会いがあるでしょう。自分の進むべきことを自分で決める能力も持っているでしょう。であれば、お願いする、しないということではなく、大人としての考えを示してもらい、もし、その上で可能な範囲での心の支えになれるようであれば、迷惑が掛からない範囲でサポートをお願いするということではいかがでしょうか。お母さんの考えに近いご提案ですが、私は医者という立場上、病気の回復を第一に考えてしまいます。今、目の前にあるのはさくらさんの治癒ですので、命を救う方法があるのであれば、そちらを考えてしまいます。ご主人も一度は奥様の話に賛意を示されたわけですし、今度はいつ、その坂本君はみえるのですか?」
「今日と聞いています」
母が答えた。
「それなら後で一緒にここに来てもらえませんか? 私もその話に加わり、相談してみましょう」
「ありがとございます」
2人同時に答えたが、父親の方は言葉に少し力がなかった。何か引っかかっているところがあるのかもしれない。だが、まずは話してみるということでまとまったので、そのまま私の病室に2人で訪れた。
「先生、娘がお世話になっています。昨日、家内から聞いたのですが、さくらの容態、あまり芳しくなさそうですね」
「ええ、申し訳ないのですが、投与している薬の効果があまり見られなくて・・・。少し大きくなっているのです。副作用のこともあるし、ガンということを隠しながら対応しようとしていました。2重の病ということを知った時のショック、しかもその一つがガンということになれば、ただでさえウェルナー症候群ということで同年代の方たちとの違いで苦しんでいらっしゃるのに、それ以上に心の負担を掛けないことに気を遣ってきました。ウェルナー症候群の話をした時、想像以上に気丈な様子に、私も医師として驚きました。おそらく心の底では大変な動揺があったと思いますが、実に強い娘さんです」
「ありがとうございます。でも、そういう強さも大切ですが、何といっても今は病気が治ることが優先です。これはその通りなのですが、先生がおっしゃるような本当のことを知った時の娘のショックが心配なんです。これまでは持ち前の気丈さで乗り越えられたかもしれませんが、さすがにガンとなると・・・」
「医者としての立場からは何とかガンの治療を成功させ、以前のように高校生活を取り戻してあげたいと思っています。ただ、そうなると他の治療法との組み合わせを選択しなければならないだろうし、それに伴う苦痛や治療後の身体の状態も懸念されます。大人でもなかなか精神的に来るものがありますから、それを若い娘さんにということは私も親ですから考えます・・・」
医者はそう言いながら、少し天井に視線を向けた。そこに母が言った。
「先生、病名の告知をする際、何か心の支えのようなことがあれば少しはそのショックを緩和することはできますか?」
「内容にもよりますが、可能性は否定しませんし、心の問題は病気の治療にプラスに作用します。私たちもそういうことを念頭に治療に当たっているつもりですが、毎日たくさんの患者さんを診ていると、どこか足りないところがあるのでは、と思うことばかりです」
「そうですか、実は・・・」
母が話そうとしたことを察知した父は、それを遮った。そして母に言った。
「言おうとしているのは坂本とかいう子のことだろう。どういう気持ちでいるかは分からないけど、家族や親戚というわけではない他人だ。冷たい言い方かもしれないが、そういう人に重荷を背負わせるわけにはいかない。親御さんの立場もあるだろうし、俺たちの都合だけで物事を決めわけにはいかない。昨日はその案に賛成するようなことを言ったが、冷静に考えたら、坂本君に酷なような気がしたんだ。そのことでさくらが落ち込み、治るものも治らない、ということにでもなれば元も子もない」
「そうは言ってもあなた、事はさくらの今後の治療にも関わることだし、事情を話してお願いすることもできないの? さくらは坂本君のこと好きみたいだし、彼の支えがあれば何とか頑張れるかもしれない、と思わない? 私は親だからこそ、何か娘のためになればと考えているの。その気持ち、あなたには分からない?」
「じゃあ、逆の立場でさくらがその坂本君のためにということで同じことを頼まれた場合、素直に引き受けるか? やっぱりその時のさくらの気持ちや相手の気持ちを考えるだろう? こういうお願いをするということは、結果的に病気が治った時、そのまま将来を一緒にということもあり得る。一時の感情のままで動いても、まだ高校生の子には重すぎるだろう」
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