お母さん、私、恋したよ!

藤堂慎人

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病状変化 8

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 それからさらに数日経ったが、その間にも検査があった。自分的には病状が良くなっているとは思わないが、主治医としては変化を確認しているのだろう、くらいに考えていた。
「早く投薬、終わらないかな。副作用がきつい。敦が来ている時は気が紛れるが、一人になった時に心身に来ている」
 私は一人になるとこういうことを愚痴っている。言っても仕方ないことだし、病気を治すためだからと我慢している。私が我慢強いと言っても限界もある。自分ではどこまで耐えられるか分からないけれど、なるべく人がいる時は自分のこと言わないようにしている。でも、どこかで爆発するかもしれない、という不安は常に持っている。特に最近はお腹に鈍い痛みというか重い感覚がある。もしかすると転移、ということも考えるが、そういう話は聞いていない。私が絶望しないようにと気を遣っているかもしれないが、確かにもしそういうことを耳にしたら、それこそ爆発するかもしれない。
 母はいつもの時間にやってきて、今日は午後、父も来るという。最近は仕事の関係かなかなか顔を見せなかったが、久しぶりに話しができる。その時間には坂本もやってくる。私を大切に思ってくれている人達が勢揃いするのだ。
 ただ、3人が揃うのは、主治医からの話を聞いた後だった。私はみんなが見舞いに来る前の予定については聞いていなかった。
 母は私のお世話をした後、ちょっと場を離れた。そういうことはよくあるので、特別おかしな感じはなかった。だが、この日はその時に3人揃って診察室に行っていたのだ。
「今日、皆さんにさくらさんのことで大事な話があります。最近、さくらさんの体調が思わしくないのでいろいろ検査をしていますが、ガンの転移が見られます」
「えっ、どういうことですか?」
 言葉は違うが、3人とも同じような内容で同時に言った。
「最近、さくらさんは腹部の異常を訴えられていますが、先日の検査で肝臓への転移が確認されました。このままだと黄疸などの症状も出てくるでしょう。場合によっては今後、脳への転移もあり得ます。そうなると耐えがたい痛みやめまい、嘔吐などの症状が出てくる可能性があります。もし、そうなれば、残念ながら手の施しようがありません。痛みの緩和のためにモルヒネを使うことになるかもしれません」
「先生、さくらはウェルナー症候群ですよね。若くて老化する病気と理解していますが、よく聞く話では高齢者のガンの進行は遅いと耳にします。何故、さくらの場合、転移や進行が早いのですか?」
 父が尋ねた。
「はい、ウェルナー症候群の患者さんの場合、遺伝子の問題が関係しています。WRNという遺伝子ですが、この遺伝子が異常をきたすとDNAの複製や修復ができなくなります。その状態が蓄積すると細胞の老化だけでなく、ガン細胞の発生や増殖を助長するわけです。また免疫機能の低下も原因の一つになります。何とか投薬で押さえようとしていたのですが、転移が見られるとなると、急速に身体も弱ってくると思われます」
「それは余命が僅か、ということですか?」
「具体的にどれくらいということは申し上げられませんが、残念ながら・・・」
 主治医は目線を落としながら言った。
「そんな・・・。さくらはまだ16歳、高校1年生ですよ。早すぎます」
 母は少しヒステリックに言った。父も口には出さないものの悔しさを顔に滲ませている。坂本も同様で、茫然自失といった感じだ。部屋の中に重い空気が漂っている。
「先生、このことはさくらには・・・?」
「さくらさんに余命宣告は辛すぎるでしょう。だから・・・」
「でも、残された時間の使い方というのがあるじゃないですか。さくらは強い子です。きっと本当のことが知りたいと思います」
「・・・こういうことは私たち医師がとても悩むところです。今はまだ治すほうに全力を尽くしますが、症状が悪化した場合、それが苦痛にならないよう、緩和ケアの方に切り替えます。残された時間を皆さんで心残りがないようにしていただければ、と思います」
「さくらが亡くなったら、心残りばかりですよ。先生、私、きれいごとは言えません」
 母が一気に感情を爆発させた。
「落ち着け。これは先生のせいじゃない。ここで怒鳴るのはお門違いだ」
 父親らしく冷静に言った。もちろん、父だって同じように思っているはずだ。だが、主治医に感情をぶつけても何も解決しない。
「先生、お話は分かりました。これからの毎日、心してさくらに接します」
 その言葉に坂本も頷いていたが、何か言葉を口にすることはなかった。ただ、表情はとても固くなっている。
 3人はなるべく平静さを繕い、診察室を出た。いずれの心にも、どういう顔でさくらに会えば良いのかと考えている様子だった。
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