先輩たちの心の声に翻弄されています!

七瀬

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第1章

第8話

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翌日の昼休み。千隼と奏多と昼食を食べ終え、いつもより10分早く教室に戻る。

俺は今週の日直なので、教室のゴミ袋を持って廊下に出た。

重いゴミ袋を引きずりながら校舎の裏手にあるゴミ捨て場へ向かう。人通りの少ない場所で、いつも静かだ。

ゴミを捨て終えて、ふと視線を感じた。

木陰の方を見ると、小さな三毛猫がこちらを見ていた。

「……猫」

思わず声が出る。猫は警戒するように少し身を引いたが、逃げる様子はない。

そっと近づいてみる。猫は俺をじっと見つめている。綺麗な琥珀色の瞳だ。

「こんにちは」

手を伸ばすと、猫が鼻先をくんくんと動かして匂いを嗅ぐ。そして、ゆっくりと俺の手に頭を擦り付けてきた。

「可愛い……」

思わず笑みがこぼれる。優しく頭を撫でると、猫は気持ちよさそうに目を細めた。

「お前、誰かに飼われてるのかな」

首輪はしていない。でも、毛並みは綺麗だし、人懐っこい。近所の誰かが餌をあげているのかもしれない。

猫は俺の膝の上に乗ってきた。小さくて温かい。

「ふふ、甘えん坊だな」

そう言いながらも、俺は嬉しくて猫を抱き上げる。猫は嫌がる様子もなく、ゴロゴロと喉を鳴らした。

この瞬間、学校での嫌なことも、能力のことも、全部忘れられた。ただ目の前の小さな命が愛おしい。

「気持ちいい?」

猫の顎の下を優しく撫でる。柔らかい毛並みが心地いい。俺も猫になりたいなぁ、なんてしょうもないことを考えながら、猫を愛でていた。

「遙真」

突然名前を呼ばれて、俺はびくっと肩を震わせた。
振り向くと、不破先輩が立っていた。

「ふ、不破先輩……」

「悪い、驚かせたか」

不破先輩が少し申し訳なさそうに言う。

「いえ、大丈夫です」

猫は俺の腕の中で丸くなっている。

「猫、好きなのか?」

不破先輩が近づいてきて、猫を見下ろす。

「はい……可愛いので」

「そうだな」

不破先輩は俺の隣にしゃがみ込んだ。そして、猫の頭をそっと撫でる。

その時、不破先輩の指が俺の手に触れた。

《遙真が笑ってる。こんな無防備な笑顔、初めて見た。めちゃくちゃ可愛いな》

心の声が聞こえて、顔が熱くなる。
俺、笑っていたのか?それも不破先輩に見られてたなんて…恥ずかしすぎる。ていうか、可愛い…?

「なんだ、こいつ。人懐っこいな」

「多分、誰かが餌をあげてるんだと思います」

「お前も餌、あげてるのか?」

「いえ、今日初めて会いました」

「そうか」

不破先輩は少し考え込むような表情をして、また猫を撫でる。きっと先輩は猫が好きで、さっきは可愛いって言ってたんだ。

「俺、動物好きなんだ」

「そうなんですか」

「ああ。実家で犬を飼ってる」

意外だった。不破先輩のイメージと犬を飼っているというのが結びつかない。けれど、先輩の面倒見の良さはそこから来ているのかもしれない。

「何犬ですか?」

「柴犬。名前はマル」

「可愛い名前ですね」

「姉貴が付けたんだ。俺が小学生の時に拾ってきて、それからずっと家にいる」

不破先輩が少し柔らかい表情で話す。こういう一面もあるんだな。

猫は俺たちの間で気持ちよさそうにしている。

「遙真」

「はい?」

「お前、さっきすごく楽しそうだったな」

「……そうですか?」

「ああ。いつもより表情が明るかった」

不破先輩が優しく微笑む。普段の鋭い目つきとは違う、柔らかい表情だ。イケメンがさらに増して、眩しい。

うぅ、これ以上、不破先輩を見ていると俺の心臓に悪い。どうにか気をまぎらわすために、別の話題を考える。
そういえば、ポケットに伯母がくれたマドレーヌが入っているんだった。

「不破先輩、これ……」

ポケットからマドレーヌが入った紙袋を取り出す。千隼と奏多にもあげたけど、それでも少し余ってしまった。ちょっとだけ先輩たちに会えたらなぁと期待していたのは内緒だ。

「昨日、伯母が焼いてくれたマドレーヌです。よかったら」

「え?」

不破先輩は少し驚いたような顔をして、袋を受け取った。あれ、もしかして甘いもの苦手?アレルギーだったりする?

「ごめんなさい!アレルギーありますか…?嫌なら無理に受け取らなくても大丈夫です」

「いや、すまん。そういう意味じゃなくて、遙真から貰えたのが嬉しくて……ありがとな」

先輩は少し焦った様子で訂正し、照れた顔で感謝を述べた。猫もいつの間にかどこかへ行ってしまった。

「あ、あと橘先輩にも……」

昨日のメッセージを思い出して、俺はもう片方のポケットから橘先輩分のマドレーヌを取り出す。

「橘も喜ぶよ。手作りって、もらうと嬉しいもんだ」

不破先輩が俺の頭を軽く撫でる。さっき猫をなでてたのと同じ、優しい手つきで。

時計を見ると、昼休みもあと少し。

「そろそろ戻ろうか」

「はい」

二人で校舎へ戻る途中、廊下で橘先輩と会った。

「あ、春樹。遙真も」

「橘、お前にこれ」

不破先輩がマドレーヌを渡す。

「え、なになに?」

橘先輩が興味津々に尋ねる。

「昨日の伯母が焼いたマドレーヌです。良かったら」

「え、遙真から?ありがとう!」

橘先輩が嬉しそうに受け取ると、その表情は光に満ちていた。
俺は香織さんが作ったものを渡しただけなんだけど…。先輩はマドレーヌが好きなのかな?


****

遙真のポケットは四次元ポケット仕様ですので、あまり詮索なさらず、そっとしておいていただけると幸いです。

いつも応援ありがとうございます‼️


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