元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です〜鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません〜

カイシャイン36

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元聖女の雑貨屋、平原の怪死事件に挑む②

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 深夜の商業街道。

 月明かりに照らされながら一台の馬車がゆっくりと街道を闊歩していた。

 ――ザッ

 その馬車に立ちはだかるローブの男。


「何者だ?」


 語気を強め問う御者。

 まるで身分を確認するかのようにローブの男が尋ねる。


「確認ですがオオワ商会の方ですか?」
「だとしたらどうする?」


 質問を質問で返されるも男は気にせずニヤリと笑った。


「悪いけど死んでもらうよ」


 そう言って、男は手にした杖を地面を突き立てる。

 そして地面に紋様を描くようになぞり出すと次の瞬間、急激に地面が盛り上がった。

 物の数秒で道路の上に土の山が出来上がる。

 その山の上に取り残された馬車を見やりローブの男はほくそ笑んでいた。


「楽な仕事だな。ふふふ、死に損なったら苦しまぬようトドメを刺してやるから安心しろよ」


 男が笑っていると荷台が山から落下し地面に叩きつけられる。


「荷物を捨てたか、一緒に落ちれば楽に死ねるものの……あん?」


 上から落ちてきた荷馬車の破片が地面に散乱するが商品が何ひとつ載っていないことに違和感を覚えたようだ。


「どういうことだ!? まさか……おとり?」


 そういって上を見ると御者にもう一人、馬にまたがっている女性の姿が見えた。

 もちろん御者に変装したグレイとロベリアである。


「残念だったわね!」とロベリア。


 ローブの男は苦々しい顔をみせるもすぐさま取り繕う。


「ふん! 騙したところで何になる! だいたい、馬に乗ったまま上手く降りられるのか!?」


 降りてくるところを魔法で狙い撃ちだと言わんばかりのローブの男。

 その言葉を待っていたかのようにロベリアは声を張り上げる。


「残念でした! この馬はね! かの山岳での戦いで敵将を討ち取った伝説の名馬の子孫! その名もシルバードよ!」
「シルバ……? ていうか山岳での戦いって何時の時代の話だ? 聞いたこともないが――」


 ローブの男の疑問をロベリアはさらに大きな声でかき消した。言霊にとって都合の悪い情報を強引に無かったことにする。


「シャラ~ップ!! シルバードなら、こんな急斜面でも何ともないわ! だってシルバードだもの!」
「シルバード、シルバード五月蝿いな……だが、そんな貧相な馬が名馬などと――何ぃ!?」


 するとどうだろうか、彼女らがまたがる馬は、遠目からでも見てわかるように黒くしなやかで、そして艶やかな馬体へと早変わりしたではないか。


「な、何の魔法だ……」


 目の錯覚かと疑う変貌、ローブの男がそれを言霊など理解するのは難しいだろう。


 ――ブルル(普通の馬車馬だった気がするけれども、そんなことはなかったぜ! 俺は名馬の子孫シルバードだ!)


 一方、御者に変装しているグレイは馬の背にしがみつきながら眼下にいるローブの男を見やっていた。


「土魔法使いとして入国リストには載っていなかった顔だな、偽りの身分証か変装しているのか……」
「ね、普通に調べるより簡単ですよね。現行犯で捕まえられるし、私のアイデアに感謝してうださいね」


 胸を張るロベリアにグレイは言葉少なに返す。


「だとしても、また高いところに放り出された身にもなれ……」
「あら、騎士団長様は高い所が苦手ですか? これはこれは意外ですね」
「さすがに馬の背に跨がってこんな高いところにいるのは怖いだろうが……」
「名馬シルバードじゃないですか、安心して下さい」
「それは言霊の力でだろうが……こうするなら最初から言ってくれ――うわっ」


 ブルヒン! (こんな斜面、道路を歩くのと大差ないぜ!)

 名馬の子孫となった馬車馬は斜面を飛ぶように駆け下り、華麗に地面へと降り立った。


「大丈夫ですか、舌噛みました?」
「……しばらくタンシチューは食べたくない」


 二人の会話の最中、ローブの男は杖をかざし何かを仕掛けようとする。


「予定外だが、しょうがない! 実力行使だ!」


 ただ、ロベリアはその瞬間を見逃さず、男の杖に言霊を仕掛ける。


「あら? そんな杖で大丈夫? 使い古しの樫の杖、そろそろ買い換えたほうがよろしいのでは?」
「何を言ってるこれは大樹より切り出した――」


 自慢の杖のうんちくを語り出すローブの男。

 しかし、それをロベリアは鼻で笑った。


「だとしたら誰かにすり替えられたのよ、今手にしているのは替え時のただのボロ杖よ。鑑定士の私が言うんだから間違いないわ」


 するとどうだろうか男の手にしている杖が、いつのまにかカビの滲んだ樫の杖に早変わりしていた。


「は!? ど、どんな手品を使った!? お前がすり替えたのか!?」
「手品ではありませんよ。事実をお伝えしたまでです。鑑定代はタダにしておいてあげますね」


 男は「クソ」と舌打ちをしながら杖を放り投げ、指で虚空をなぞりだした。


「な、なめるな! 杖はなくとも、それなりの魔法は唱えられる!」


 彼が描くは魔方陣。その魔方陣が完成に近づくにつれ、土がうごめき地面が脈動し始めていた。

 すぐさまこのレベルの魔法が唱えられることに男の技量が覗える。


「やるな、コイツ」
「いまさら命乞いしても遅いぞ!」


 完成した魔方陣を地面に展開。

 そして隆起した大地は大男の姿を形取る……ローブの男が繰り出すは見事な土のゴーレムだった。


「このレベルの召喚魔法を杖無しで、かなりの手練れですが大丈夫ですか?」


 ロベリアの心配をグレイは不敵の笑みで返す。


「誰に物を言っている、こちらは名馬に跨がった騎士団長だぞ」
「あら、地面に降りたらずいぶん元気になるんですね」
「……うっさい」


 この掛け合いの最中、ゴーレムは大きな腕を振り回し攻撃を図る。

 ゴッ!

 巨身から繰り出される振り下ろし攻撃。

 しかしそのパンチを華麗に避けると、名馬はカモシカのように腕から肩へとジャンプし背後の術者の眼前に舞い降りる。

 タタタンッ!


「覚悟しろ!」
 ブヒヒン! (覚悟しろ三下!)


 シルバードの華麗なジャンプ、その軽やかさにローブの男は一瞬見とれてしまう。


「なんて跳躍だ、馬とは思えん――っと、しまった!?」
「隙ありだ不逞の輩!」


 ザシュ!


 グレイの一振り、ローブの男は土魔法で壁を形成しようとしたが間に合わず吹き飛ばされてしまった。


「――ぐわ! く、クソ……腹立たしいがここはひとまず……」


 地に突っ伏すローブの男は、魔法で地面に潜り逃げようとした。一流の土魔法使いが使う遁走術だ。

 しかし、気づいたロベリアはすかさず彼の腕に縄をかけた。 


「魔法を使って逃げようとしても無駄よ、これは魔力封じる縄、もう魔法唱えられないわね」
「そ、そんなものが!? ……マジか!? 魔力が上手く練れん……女! 何者だ!?」
「んでもって、この指を見るとアナタは段々眠くなるわ……無用な詮索はやめなさい」
「もしや、貴様……逃げ出した聖女――くぅ」


 秒で眠るローブの男、その身柄を馬の背中に乗せるようグレイに促す。


「さ、この不埒者の処遇は騎士団長様にお任せしますね」


 言霊の力をマジマジと見せられ、グレイは「ロベリアだけは怒らせないようにしよう」と固く誓ったのだった。




 後日、王国城内は商人殺害事件の解決、その話題で持ちきりだった。


「よぉグレイ、お手柄じゃないか?」


 同期に肩を叩かれ労われるグレイは笑顔を返す。


「俺だけの力じゃ無いさ、それに簡単とは行かなかった、散々な目に遭ったからな……」


 謙遜してみせる騎士団長をさらに褒めそやす同期や場内の人間。

 ただ彼は「実質ロベリアのおかげ」だと自覚があるため素直に喜べずにいた。


「彼女の協力は大きい。でも、あいつはいつか元の世界に帰る……もっと自分の力で解決できるようにならないとな」


 あまり頼りになりすぎては良くない……そう考え込むグレイに同期は新たに判明した情報を教えてくれる。


「あぁそうだ、捕まった奴、東方の国の関係者だったみたいだぜ」
「そうなのか?」


 東方といえばロベリアが召喚された国――

 先の件といい噂通り物騒な国だなとグレイは気を引き締める。


「ラドン商会はその東方と関わりがあるかもしれん、気を付ける方がいいかもしれないな」
「わかった、俺の部下にも伝えておくよ――ところで」


 同期は窓の外を指さした。そこには例の名馬の子孫――になった馬車馬がいた。


「あんなスゴそうな馬、ウチにいたっけ」


 ブヒヒン! (戦があればいつでもご用命を騎士団長殿!)


「……シルバードだよ、忘れたか?」


 馬自体の思い込みが激しいのか、先日よりもさらに馬体が逞しくなっている元馬車馬を見て、言霊の力の恐ろしさを改めて思い知らされるグレイだった。





※次回は12/15 7:00に更新予定です

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 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。


 この作品の他にも多数エッセイや

・元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です~鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません~

・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~

・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果

・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です




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