元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です〜鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません〜

カイシャイン36

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元聖女の雑貨屋、宝物庫の盗難事件に挑む

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 王国場内、衛兵詰め所。

 見回りの兵士らが待機するその場所で、グレイは退屈そうに窓の外を見ていた。

 窓の外には夜空一面に広がる星々。

 少し下に視線を落とすとポツリポツリと輝く城下町の灯りが。

 繁華街の方は煌々と輝いており花街の活気が遠目からでも伝わってくる。


「やれやれ、お盛んなこって……っと、寒いな」


 まだ少し肌寒いこの季節、今は良いのだが厚手の布で作られた丈夫な軍服は早い内に衣替えをした方が良い、なんて事を考えていた。


「そろそろ衣替えか……防虫剤を買い換えないとな」


 独り言をボソリと呟くその流れで、彼は同期の愚痴を口にする。


「まったくリックのやつ、当日に見回りを交代してくれって急すぎるだろ」


 文句はどうやらにリックという同僚に向けられているようだ。


「いきなり花街に行きたいとか言い出しやがって。何が「近衛兵長になったら気軽に行けなくなるから」だ。任務のある日に気軽に行こうとするんじゃない」


 リック・アディス。

 グレイの同期で悪友、父親が先代近衛兵長であり、実力も兼ね備えており次期近衛兵長と呼ばれて久しい男だ。

 ただ真面目に育てられすぎたせいか、その反動で大人になってから羽目を外すようになってしまった。

 特に下半身がだらしない。

 その都度グレイがフォローする事があり「リックの第二のお父さん」と呼ばれる始末だ。


「詰め所にいれば良いと言われたけれども相変わらず適当な男だ……まぁその緩さが好かれる理由なんだろうけれども」


 自分とは違い人間関係を潤滑に保てる人間タイプだなと少々羨ましく思うグレイ。


「適当か、それができればどれだけ楽か」


 雑貨屋の魔女が元聖女だったり、ラドン商会や東方からの刺客が自国を蝕もうとしている件――

 張り詰めすぎるなと言われても中々緩めることが出来ない……つくづく損な性分だとグレイは自嘲気味に笑うのだった。


「っと、仕事しないと部下に示しがつかない」


 椅子から腰を浮かせグレイは詰め所を後にする。

 廊下に出て少し歩いたその時だった。


「ん?」


 曲がり角でぶつかりそうになり慌てて後ずさるグレイ。

 そこにいたのは見知った顔、グレイのもう一人の同期、ドアルボスだった。


「ん? 久しぶりだなドアルボス」
「……あぁ。なぜここに居る?」
「リックのヤツさ。急に交代してくれって言われてな」
「なるほどな。それはそれで大変だな」


 ドアルボス・ガザシー。

 仕事ができる叩き上げの人間だが寡黙で取っつきにくい男……それがグレイ含めた同僚達の評価だった。「堅物と呼ばれるグレイよりも取っつきにくい人間はレアアイテムより貴重だ」とロベリアが聞いたら皮肉を口にしただろう。

 脳裏に浮かぶロベリアの悪い顔を追い出しているとドアルボスが話しかけてきた。


「どうだ、最近は」
「ん? あぁ、忙しくやらせてもらっているよ」
「そうか、リックのヤツも近々出世するし、寂しくなるな。俺も早く見回りの一兵卒から脱したいものだ」


(こいつから話題を振るのは珍しいな)


 普段は寡黙なのに、今日に限って饒舌に語る同期に、グレイは少し訝しげに思った。


(おっと、何かと人を疑うのは悪い癖だな)


 きっと同期で出世できない自分に焦りを感じているのだろう……そう思いながらドアルボスとの会話に興じるグレイだった。


「そっちは最近どうだ、ドアルボス」
「城下町の見回りで手一杯だ、小悪党相手にしてうんざりする毎日だ」


 弾むようで弾まない、まるで天気の会話をしているような雰囲気にたまらなくなったグレイは歩き出す。


「――仕事中、廊下で話し込むのもよくない、俺は一応城内の見回りに行くよ」
「そうか、そっちは俺が見て回ったから向こうの方を頼む――」


 ドアルボスが指を差した、その時だった――


「え?」


 素っ頓狂な声。

 声を上げたのは黒い装束に身を包んだ小柄な男。

 こちらの方を見て明らかに動揺しているではないか。


「……何者だお前」


 詰め寄るグレイ、男は一目散に逃げ出した。

 すぐさま賊だと気がついたグレイは大声を張り上げる。


「盗賊だ!!」


 城内に鋭い声が響き、何事かと。


「追うぞ、ドアルボス!」
「――まかせろ! 俺が捕まえる!」


 グレイを押しのけ駆け出すドアルボス。


「焦るなドアルボス!」
「テェアァァ!」


 ガキィィ!

 その渾身の一撃は外れてしまい、石畳に切っ先が食い込んでしまう。

 そのすきに盗賊は窓から外へと飛び出て、暗闇に姿を消してしまった。


「く……すまない、手柄を焦るばかり……」
「慌てるなよ、いつか出世する機会はある。それよりも何が盗まれたかだ」


 同期を慰めながらグレイは見回りの兵士に何が盗られたか確認するように命令する。


「賊は何かを手にしていた。どこかで何か盗まれていないか」
「あの、どうやら宝物庫のカギが開いているようで――」
「宝物庫だと!?」


 グレイとドアルボスの二人は大急ぎで宝物庫へと向かう。

 扉の鍵は開いており、もうすでに何人かの兵士が出入りして現場検証を始めようとしていた。

 騎士団長が現れ全員背筋を伸ばし


「何が起きた、盗まれた物はなんだ!?」
「あの……どうやら儀式用の鏡が盗まれたみたいです」
「鏡って「フレイの鏡」か」


 フレイの鏡――

 豊穣の神フレイの慈愛をもたらす鏡と呼ばれ映すものには真実を示し未来へ導くとされている秘宝――

 もちろん言い伝えであり、その実ただの鏡。儀式に用いる物で歴史的価値はあれど金銭的価値はあまりない代物である。


「金目の物と勘違いしたのか」とドアルボス。
「かもな、だが儀式で必要な物だ、ないと面倒だぞ……なぜ易々と宝物庫に侵入されたんだ?」


 俺がいなかったら大変だったぞとグレイ。見回りの兵士が申し訳なさそうに謝罪する。


「すみません、交代の時間を狙われたようで……ほんの数分の隙を狙われました」
「交代の時間だって」


 グレイは偶然にしてはと疑問に思う。


(その隙を狙われたとでも言うのか、交代時間が外部に漏れていた? なぜ金銭的価値の低い鏡だけを盗んだ?)


 その不可解さに見回りの兵士達が動き回る中、宝物庫の中心で腕を組み考え出すグレイだった。



※次回は12/22 7:00頃投稿予定です

 ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。

 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。


 この作品の他にも多数エッセイや

・元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です~鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません~

・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~

・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果

・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です




 という作品も投稿しております。

 興味がございましたらぜひ!
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