元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です〜鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません〜

カイシャイン36

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元聖女の雑貨屋、宝物庫の盗難事件に挑む③

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「計画的な犯行……か。確かに賊は俺の姿を見て驚いていたのも頷ける」


 グレイはあの時の盗賊の見開いた目を思い出し、静かに唸った。


「俺は巡回ルートを知らず気分で見回っていたからな、いないはずの見回りがいたらそりゃ驚くだろう。まるでドアルボスのように――」


 その言葉が引っかかったロベリアはグレイに聞き返す。

「え? あなたの顔を見て盗賊以外にびっくりした人がいたんですか?」
「あぁ、俺とリックと同期でドアルボスという男だが……」
「ふむむ……」

 宝物庫の宝を品定めしながら考え込むロベリアにグレイは「おいおい」と疑われ出した同期を庇い始めた。


「ヤツを疑っているのか? 寡黙で真面目な男だ、盗みなんてしない……まぁ、当日は変だったが」
「他にも違和感があったのですか?」
「あぁ、詰め所でばったり会った時、話しかけて来て珍しいとは思った」
「なるほどなるほど……」


 ガサゴソ――


 考えながら奇妙な動きをするロベリアにグレイはたまらず問いだした。

「真剣に事件のことを考えて貰えるのは嬉しいのだが……さっきから何をしてるんだ」
「これですか? これは魔法の鍵なんですよ、有名な盗賊ルペーン十三世が愛用した」


 ただの玄関のカギにしか思えない代物をそう言い放つロベリア。
 彼女が言葉にした途端、言霊の力でただの古ぼけたカギが不思議な空気を纏いだした。
 能力を使ったと察したグレイはさらに強めに問い詰めた。


「おま、またそんな言霊――って、宝箱を勝手に開けるんじゃない!」
「う~ん、中身はシケてますねぇ。歴史には興味ないんですが」


 宝箱の中を物色する魔女を見てリックが「え? え?」と驚きを隠せない。


「え、ちょ、どういうことですか!? 歴史的価値のある開かずの宝箱が!? この人何者ですか!?」
「まぁ、ちょっとしたカギ開けのプロというか……」
「コイツはスゴイ! 俺、歴史学者を呼んできます!」

 驚いたリックはそのまま宝物庫を飛び出し学者のいる研究所の方へと向かっていった。
 落ち着きのない同僚の背中を見送った後、グレイはロベリアを叱責する。

「勝手な事をするな、ていうか王国の歴史を紐解くんじゃない! 考古学者が見たら腰を抜かすぞ」
「いいじゃないですか、減るもんじゃないし」
「何か問題があったら俺の給料が減るんだが――おや?」


 その時、急に城内が騒がしくなったことに気づいたグレイ。
 宝物庫の入り口の方を見ると部下が息せき切って現れる。


「あぁ、ここにいましたかグレイ騎士団長! 現場検証ですか? お仕事中にすみません」
「どうした?」
「はい、実はフレイの鏡の犯人が見つかったそうです」


 思わぬ朗報にグレイの顔がほころんだ。


「そうか、それは何よりだ」
「一件落着ですかね、んじゃ私は品定めに没頭しますね」


 我が道を行く魔女に呆れるグレイはロベリアに半眼を向けた後兵士に向き直る。

「で、盗賊はどこに?」
「窃盗で前科持ちのちんけな盗賊だそうです、王都西に隠れていたところを発見していたそうです。でも――」


 言いよどむ兵士の口調にグレイが問いただす。


「でもなんだ? 何か言いにくそうなことか?」


 兵士は逡巡した後、意を決して


「私が聞いた話なのですが……どうやら事件の首謀者はリックさんだって……」
「リックが首謀者だと!?」


 声を荒らげるグレイに兵士は申し訳なさそうにする。


「私も何かの間違いだと思うのですが……盗賊を使って鏡を盗ませたということで……」
「そんなワケあるか!」
「今、ドアルボスさんがリックさんを捕まえて尋問しているところです」
「ドアルボス……だと……」


 先ほど話題に上がったドアルボスの話を聞いてグレイとロベリアはお互いに顔を見合わせた。
 そして二人は言葉を交わすことなく宝物庫を後にする。
 急ぎ現場に駆けつけると、城内の広間にて数名の兵士に腕を抑えられ膝をつくリックの姿が見えた。


「リック! どういうことだ!?」


 駆けつけたグレイに対しリックは精一杯強がって見せた。


「よぉグレイ、こっちが聴きたいくらいだ。学者を呼びに行こうとしたらこの有様で――って、イタタ。もっと優しくしろ、そんな乱暴じゃ花街でモテないぞ」


 その後ろでは例のドアルボスが仁王立ちしている。


「どういうことだドアルボス」


 彼は不敵な笑みを浮かべグレイを見やる。


「どうもこうもない。首謀者を捕まえたまでだ「フレイの鏡」を盗んだ、な」
「首謀者の根拠は何だ?」


 ドアルボスは鼻で笑う。


「ふん、順を追って説明しよう。まず私は心当たりのある怪しい人間をシラミ潰しに探していた。具体的には前科者の盗賊が潜んでいそうなところをしらみつぶしにな。そしたら西街の安アパートに死体が転がっていた……酷い死体だったよ。一人の死体は顔がグチャグチャに潰され腕は欠損」


 ジェスチャーで死体の様子を語るドアルボス。グレイはその愉しげな雰囲気に違和感を抱く。


「怪しいと思い、念入りに家宅捜索したら一通の手紙を見つけてな……いや、手紙ではなく指示書と言うべきか」
「指示書?」
「フレイの鏡を盗め――そういう文面が書かれていた。あぁフレイの鏡は家宅捜索していたらタンスの底から発見したよ」


 黙って話を聞くロベリア、その顔からは嫌悪感が滲み出ていた。


「俺の考えだが、雇われの盗賊はさらに金銭をふっかけたのだろう、そしてカッとなったリックはつい殺してしまった……というところか」
「俺じゃねぇよ! あ、イタタ」


 痛がりながらも反論するリック。
 ドアルボスはしゃがんで彼の痛がる顔を覗き込んだ。


「おそらく金目的だろうな、ずいぶん花街入れ込んでいたようだし。もしくは手柄が欲しかったか? 親の七光りで近衛兵長じゃ様にならんからな」
「えらい、饒舌じゃねーの、同期の桜よぉ」とリック。


 ドアルボスは少し黙り込むと鼻で笑った。

「ふん、動かぬ証拠もあるのによく強がれるな。筆跡鑑定すれば明らかになるだろう、とりあえずこの容疑者を牢屋にぶち込んでおけ」
「ま、待て!」


 牢屋へ連れて行かれる同僚を助けようとするグレイ。
 だが、止めようとするグレイの腕をロベリアが掴んだ。


「雑貨屋、なぜ留める!?」
「やめなさいグレイ……死人が出るわ」
「――何だと」


 ロベリアの真剣な眼差しにグレイは何も言えず、同期が牢屋に連れて行かれる様子を見届けるしかなかった。


※次回は1/5 7:00頃投稿予定です

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 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。


 この作品の他にも多数エッセイや

・元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です~鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません~

・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~

・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果

・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です




 という作品も投稿しております。

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