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第一話 魔物使い、冒険者ギルドを追放される
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「ジョニー君、そろそろギルドを出て行ってもらえないかな」
冒険者ギルドのとある一室にて。
ギルド長兼Aランク冒険者のアレックスに呼び出されたジョニーは淡々と解雇を言い渡されていた。
机に身を乗り出し冷ややかな視線を送る彼の後ろにはギルドの稼ぎ頭である主要メンバーの面々が。
「これから一流のギルドになるためには雑用係も華が欲しいのよねぇ」
腕を組みながらニヤついているのは女性武闘家のイズナ。
子供のような体躯だが素早くモンスターの急所を突く凄腕の拳士で「会心のイズナ」と呼ばれている。
「ほっほ、薬草なんて誰でも採取できますからなぁ」
陰湿な目つきででっぷりとした腹を撫でているのは商人のウオトル。
金勘定に抜け目なく自身も冒険に出向いては調合で後方支援。さらには得意の釣りで稀少な魚を捕獲してはギルド運営費の足しにしている通称「釣りの錬金術師」。
「ほら、ここで働きづめじゃ転職の勉強もできないでしょ?」
哀れむ目でジョニーを見やるは魔法使いのナタリー。
百発百中の睡眠魔法でモンスターを眠らせ狩りの成功率を上げるクエストの要と呼ばれる人物。
温厚な性格だが怒らせたら怖いと有名で失礼な輩を睡眠魔法で一週間眠らせたこともあり「昏睡のナタリー」と呼ばれ恐れられている。
「これはギルドの決定事項なんでね、書面にサインしてくれないか」
口調こそ丁寧だが冷酷な目で圧をかけるは雷使いの剣士アレックス。雷の魔法兼を使わせたら王国内で右に出る者はいないと自負している自信家で、その自信に見合う実力の持ち主である。
貴族出身で非常に傲慢、周囲の人間に「勇者アレックス」と呼ばせている、そんな男である。
いきなりの解雇にジョニーは大いに戸惑っていた。
「そ、そんな! まだ入って一年も経っていないし! 仕事だってしっかりこなしているよ!」
「誰でも出来る雑用なんて仕事の内に入んねぇよ! 冒険者ギルドだぞ! そこそこの金で雇ってんのに大型モンスターの一匹も狩れないじゃねーか」
「うっ……それは……」
痛いところを突かれたジョニーは押し黙ってしまう。
その様子を見てアレックスは満足気に笑う、端正な顔を醜悪に歪ませて。
「何か反論ありますかぁ? 俺らの冒険に参加しても荷物持ちしかできない役立たずの魔物使いさんよぉ?」
「ぼ、僕だって天啓を受けなければ魔物使いなんてなりたくなかったよっ!」
この世界では十五歳になると司祭から天啓を与えられ、初めて「ジョブ」を授かる。
剣士志望の若者の適性が魔法使いだったり、凡庸だと思われていた少年がある日「賢者」や「勇者」といった稀少なジョブを授けられることもある。
そして「占い師」や「風水使い」といった「何じゃこりゃ」と首を捻りたくなるような職業を授かってしまうこともしばしば。
その中でも、魔物使いという職業はぶっちぎりで「不遇」の職業であった。
まず魔物使いとは名ばかりで魔物を使役はできない。
特性は小型モンスターを混乱させ同士討ちさせたり弱っているかどうかを見極める眼力に優れているといった程度。
他にもモンスターの力を吸収し身体能力を高めることが出来るが一時的なもの。素のスペックが高い剣士や武闘家には到底叶わない。
特にこのモンスターの力を吸収することが気味悪がられ最底辺職業の確固たる地位を築いた。
そういった「不遇職」の天啓を授かった人間は必死に金を貯め、経験を積み別の職業に転職するのが一般的である。
ジョニーも必死で就職先を探し、ようやくアレックスのギルドで働けるようになった経緯がある。
「せめて転職代を稼ぐまで待ってもらえないか――」
その言葉を聞き終える前にウオトルが遮った。
「十分な転職代と経験を積むまでもう二年ほど働くことになりますな。だが正直、赤丸急上昇中の我がギルドに魔物使いがいるだけでマイナスプロモーションなわけなのですよ」
懐からソロバンを取り出しパチパチとはじき出す中年商人。
続いてイズナがジョニーの胸ぐらを掴んで凄む。
「薬草集めなんて誰でもできるんだよ! 分かったかこの雑魚! 殴られる前にさっさとサインしろざ~こ!」
「ちょっとイズナ、乱暴はダメよ」
慌てて止めるナタリーをイズナは鼻で笑った。
「ふんっ……何、良い子ちゃんぶってんのナタリー。アンタだってこんな雑魚、出てって欲しいと言ってたじゃん」
「それはこのままじゃ彼のためにならないと思って……」
そんな二人をニヤニヤ笑いながらアレックスが制する。
「喧嘩はよせ、ギルド長命令だ」
そのニヤケ顔のまま彼はジョニーに向き直った。
「とまぁ聞いての通りだジョニー。主要メンバー全員が役立たずのお前に辞めて欲しいってさ」
「た、確かに僕は役立たずだよ、でも……」
アレックスやイズナのように一騎当千の活躍なんてとうてい無理。
サポートも魔法使いのマーサで十分、弱い冒険者はいるだけ邪魔。
ウオトルのように稀少な魚を釣ることや冒険の出費を抑えることもできない。
一緒に帯同して採取や荷物持ちぐらいしかできない……でも、こんな不遇職の自分に居場所をくれたギルドへの恩を返すため全力で雑用をこなしてきたはずなのにこの仕打ち。
「でも! 転職までの面倒を見てくれるって約束したじゃないか!」
必死の反論。
だがアレックスは舌を出し醜悪な顔で彼の反論をバカにした。
「ハッハッハ! バーカ! ギルドには格がある! ステップアップに必要なのは華だ! 雑用係一つ取ってもお前みたいな辛気くさい男より見目麗しい乙女だろ! 常識的に考えろマヌケ!」
「ワシはバニーを所望しますなぁ、ほっほっほ」
「まったくエロジジイ……でもウオトルが稼いだお金だから文句は言えないか」
ハッハッハ――
ナタリーを除くギルドのメンバーの下卑た笑いが部屋中にこだまする。
居ても立ってもいられなくなったジョニーは憤りに任せてつい椅子から立ち上がってしまった。
その挙動をアレックスは同じく立ち上がり詰め寄る。
「あ? 何だその態度!? やんのか? あぁ!?」
「い、いや、違うよ!」
「嘘つくんじゃねぇ! 生意気だぞてめぇ! 死んだぞコラ!」
バチ……バチバチィ!
「うわぁぁぁ!」
次の瞬間、ジョニーの体に電流が走る。
アレックスの特技「雷撃」だ。
彼の指先から放たれた青白い一閃に体を貫かれたジョニーは小さく煙を上げそのまま倒れてしまうのだった。
つまらないゴミを見るような眼でアレックスは倒れる彼を見下していた。
「ったく、最初からこうしときゃ良かった。ウオトル、ナイフでこいつの親指切って血判押しとけ」
「ほっほ、承知しました。最後まで面倒な男でしたな」
雑にナイフで親指の腹を切り、乱暴に書面に押しつけるウオトル。
その顔には罪悪感など微塵もない。
その行為をナタリーが鬼の形相で咎める。
「ちょっと、そんな扱いダメでしょ!」
「おぉそうでしたな、この男が文句を言ってきても良いように書類は綺麗に保管しておかねば」
「そうじゃなくて――」
憤るナタリーを尻目に他三名は悪びれることなく部屋をあとにする。
「あ~辛気臭い役立たず雑魚を処分できてスッキリした~。これでギルドもちょっとは明るくなるわね」
「あぁ、我がギルドはもっと大きくなる。勇者アレックスの庇護の元になぁ! ナッハッハ!」
「はてさて、可愛い雑用係を選定しなければ……面接が今から楽しみですねぇ」
「……ちょっと!」
去り行く三人を一瞥した後、床に倒れ込むジョニーをナタリーは抱きかかえた。
「……止められなくてゴメン。でも、ここにいたら頑張り屋さんの貴方でも腐ってしまうわ」
意識を失ったジョニーに優しい言葉をかけるナタリー。
しかし、その暖かい声音は彼の耳には届かない。
ジョニーの脳内は今、その身を雷に貫かれたショックで呼び起された溢れんばかりの情報に支配されていた。
それは「前世の記憶」。
彼がこの世界「ハンティング・ザ・ファンタジア8」という大作ゲームのプロデューサーだった時の記憶であった。
ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。
皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。
次回は6/2の17:00に投稿予定です
冒険者ギルドのとある一室にて。
ギルド長兼Aランク冒険者のアレックスに呼び出されたジョニーは淡々と解雇を言い渡されていた。
机に身を乗り出し冷ややかな視線を送る彼の後ろにはギルドの稼ぎ頭である主要メンバーの面々が。
「これから一流のギルドになるためには雑用係も華が欲しいのよねぇ」
腕を組みながらニヤついているのは女性武闘家のイズナ。
子供のような体躯だが素早くモンスターの急所を突く凄腕の拳士で「会心のイズナ」と呼ばれている。
「ほっほ、薬草なんて誰でも採取できますからなぁ」
陰湿な目つきででっぷりとした腹を撫でているのは商人のウオトル。
金勘定に抜け目なく自身も冒険に出向いては調合で後方支援。さらには得意の釣りで稀少な魚を捕獲してはギルド運営費の足しにしている通称「釣りの錬金術師」。
「ほら、ここで働きづめじゃ転職の勉強もできないでしょ?」
哀れむ目でジョニーを見やるは魔法使いのナタリー。
百発百中の睡眠魔法でモンスターを眠らせ狩りの成功率を上げるクエストの要と呼ばれる人物。
温厚な性格だが怒らせたら怖いと有名で失礼な輩を睡眠魔法で一週間眠らせたこともあり「昏睡のナタリー」と呼ばれ恐れられている。
「これはギルドの決定事項なんでね、書面にサインしてくれないか」
口調こそ丁寧だが冷酷な目で圧をかけるは雷使いの剣士アレックス。雷の魔法兼を使わせたら王国内で右に出る者はいないと自負している自信家で、その自信に見合う実力の持ち主である。
貴族出身で非常に傲慢、周囲の人間に「勇者アレックス」と呼ばせている、そんな男である。
いきなりの解雇にジョニーは大いに戸惑っていた。
「そ、そんな! まだ入って一年も経っていないし! 仕事だってしっかりこなしているよ!」
「誰でも出来る雑用なんて仕事の内に入んねぇよ! 冒険者ギルドだぞ! そこそこの金で雇ってんのに大型モンスターの一匹も狩れないじゃねーか」
「うっ……それは……」
痛いところを突かれたジョニーは押し黙ってしまう。
その様子を見てアレックスは満足気に笑う、端正な顔を醜悪に歪ませて。
「何か反論ありますかぁ? 俺らの冒険に参加しても荷物持ちしかできない役立たずの魔物使いさんよぉ?」
「ぼ、僕だって天啓を受けなければ魔物使いなんてなりたくなかったよっ!」
この世界では十五歳になると司祭から天啓を与えられ、初めて「ジョブ」を授かる。
剣士志望の若者の適性が魔法使いだったり、凡庸だと思われていた少年がある日「賢者」や「勇者」といった稀少なジョブを授けられることもある。
そして「占い師」や「風水使い」といった「何じゃこりゃ」と首を捻りたくなるような職業を授かってしまうこともしばしば。
その中でも、魔物使いという職業はぶっちぎりで「不遇」の職業であった。
まず魔物使いとは名ばかりで魔物を使役はできない。
特性は小型モンスターを混乱させ同士討ちさせたり弱っているかどうかを見極める眼力に優れているといった程度。
他にもモンスターの力を吸収し身体能力を高めることが出来るが一時的なもの。素のスペックが高い剣士や武闘家には到底叶わない。
特にこのモンスターの力を吸収することが気味悪がられ最底辺職業の確固たる地位を築いた。
そういった「不遇職」の天啓を授かった人間は必死に金を貯め、経験を積み別の職業に転職するのが一般的である。
ジョニーも必死で就職先を探し、ようやくアレックスのギルドで働けるようになった経緯がある。
「せめて転職代を稼ぐまで待ってもらえないか――」
その言葉を聞き終える前にウオトルが遮った。
「十分な転職代と経験を積むまでもう二年ほど働くことになりますな。だが正直、赤丸急上昇中の我がギルドに魔物使いがいるだけでマイナスプロモーションなわけなのですよ」
懐からソロバンを取り出しパチパチとはじき出す中年商人。
続いてイズナがジョニーの胸ぐらを掴んで凄む。
「薬草集めなんて誰でもできるんだよ! 分かったかこの雑魚! 殴られる前にさっさとサインしろざ~こ!」
「ちょっとイズナ、乱暴はダメよ」
慌てて止めるナタリーをイズナは鼻で笑った。
「ふんっ……何、良い子ちゃんぶってんのナタリー。アンタだってこんな雑魚、出てって欲しいと言ってたじゃん」
「それはこのままじゃ彼のためにならないと思って……」
そんな二人をニヤニヤ笑いながらアレックスが制する。
「喧嘩はよせ、ギルド長命令だ」
そのニヤケ顔のまま彼はジョニーに向き直った。
「とまぁ聞いての通りだジョニー。主要メンバー全員が役立たずのお前に辞めて欲しいってさ」
「た、確かに僕は役立たずだよ、でも……」
アレックスやイズナのように一騎当千の活躍なんてとうてい無理。
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ウオトルのように稀少な魚を釣ることや冒険の出費を抑えることもできない。
一緒に帯同して採取や荷物持ちぐらいしかできない……でも、こんな不遇職の自分に居場所をくれたギルドへの恩を返すため全力で雑用をこなしてきたはずなのにこの仕打ち。
「でも! 転職までの面倒を見てくれるって約束したじゃないか!」
必死の反論。
だがアレックスは舌を出し醜悪な顔で彼の反論をバカにした。
「ハッハッハ! バーカ! ギルドには格がある! ステップアップに必要なのは華だ! 雑用係一つ取ってもお前みたいな辛気くさい男より見目麗しい乙女だろ! 常識的に考えろマヌケ!」
「ワシはバニーを所望しますなぁ、ほっほっほ」
「まったくエロジジイ……でもウオトルが稼いだお金だから文句は言えないか」
ハッハッハ――
ナタリーを除くギルドのメンバーの下卑た笑いが部屋中にこだまする。
居ても立ってもいられなくなったジョニーは憤りに任せてつい椅子から立ち上がってしまった。
その挙動をアレックスは同じく立ち上がり詰め寄る。
「あ? 何だその態度!? やんのか? あぁ!?」
「い、いや、違うよ!」
「嘘つくんじゃねぇ! 生意気だぞてめぇ! 死んだぞコラ!」
バチ……バチバチィ!
「うわぁぁぁ!」
次の瞬間、ジョニーの体に電流が走る。
アレックスの特技「雷撃」だ。
彼の指先から放たれた青白い一閃に体を貫かれたジョニーは小さく煙を上げそのまま倒れてしまうのだった。
つまらないゴミを見るような眼でアレックスは倒れる彼を見下していた。
「ったく、最初からこうしときゃ良かった。ウオトル、ナイフでこいつの親指切って血判押しとけ」
「ほっほ、承知しました。最後まで面倒な男でしたな」
雑にナイフで親指の腹を切り、乱暴に書面に押しつけるウオトル。
その顔には罪悪感など微塵もない。
その行為をナタリーが鬼の形相で咎める。
「ちょっと、そんな扱いダメでしょ!」
「おぉそうでしたな、この男が文句を言ってきても良いように書類は綺麗に保管しておかねば」
「そうじゃなくて――」
憤るナタリーを尻目に他三名は悪びれることなく部屋をあとにする。
「あ~辛気臭い役立たず雑魚を処分できてスッキリした~。これでギルドもちょっとは明るくなるわね」
「あぁ、我がギルドはもっと大きくなる。勇者アレックスの庇護の元になぁ! ナッハッハ!」
「はてさて、可愛い雑用係を選定しなければ……面接が今から楽しみですねぇ」
「……ちょっと!」
去り行く三人を一瞥した後、床に倒れ込むジョニーをナタリーは抱きかかえた。
「……止められなくてゴメン。でも、ここにいたら頑張り屋さんの貴方でも腐ってしまうわ」
意識を失ったジョニーに優しい言葉をかけるナタリー。
しかし、その暖かい声音は彼の耳には届かない。
ジョニーの脳内は今、その身を雷に貫かれたショックで呼び起された溢れんばかりの情報に支配されていた。
それは「前世の記憶」。
彼がこの世界「ハンティング・ザ・ファンタジア8」という大作ゲームのプロデューサーだった時の記憶であった。
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