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第七話 アッシュとの決戦(前編)
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そんなやり取りがされていることは露知らず、ジョニーは一人狩りに勤しんでいた。
「クエストの再依頼だいぶ増えたな」
クエストの再依頼。
討伐失敗やモンスターが逃げ出した場合などの緊急依頼として冒険者の経歴不問でボードに貼り付けられるクエストである。
モンスターが予想以上の強さだったり悪天候などの不運が重なったイレギュラーなど理由はさまざま。
依頼の条件が緩くなるが、その分時間制限が厳しいくらいが懸念点か。
「忙しないけど、その代わり報酬がちょっぴり高くなるんだよね」
冒険者ランクが低く不遇職の彼にとって門前払いされずにすむ有難いクエストということである。
「バランス調整で今までのセオリーが通じなくなったり、ナーフされて無茶できなくなったりで失敗が増えたんだろうな」
強かった職業は今までの戦い方が通用しなくなり、強化された職業も自分が強くなってるとまだ実感が持てないのが世界の状況……とジョニーは推測する。
「現実世界のゲームじゃロードマップで提示されるから、こんな現象が起きないんだけれども……ここじゃ常時サイレント修正みたいなもんか」
こっそり修正されて怒るユーザーの気持ちが十分理解できてしまう元プロデューサーのジョニーだった。
「ま、今は美味しいクエストの入れ食い状態……ありがたく享受するぜ」
多いときに一日5件はクエストをこなすジョニー。
異常な討伐スピード、しかもさらに目を引くは魔物使い&ハンマーという異質の組み合わせ。
不遇職×最弱装備はいやでも他の冒険者の目を引く。
そんな理由からジョニーの快進撃は一部の人間から「何かの不正をしているのでは?」と疑いの目を向けられていた。
「そう思われるのも無理はないか」
そんな周囲の反応など気にしてはいられない。今のうちに冒険者ランクを上げておかねばと片っ端から依頼を受ける覚悟するジョニーだった。
「さて、今日は帰るか……ん?」
クエストを終え、報酬を手にし宿舎に帰ろうとしている彼の前に仰々しい馬車が留まる。
カッ――
馬車から降り立ったのは、なんとエミリアだった。
いつものローブではなく身に纏うは豪奢なドレスにジョニーは驚いた。
「え、エミリア……さん?」
一瞬、エミリアだと気づかなかった理由はもう一つある。
耳が少し尖っているのだ。
(フード被っていたから気が付かなかったけど、もしや彼女、エルフって奴か?)
エルフ、もしくはハーフエルフだと察したジョニーは「ある設定」を思い出し首を傾げる。
(あれ? 8ってエルフ設定残ってたっけ? 前作辺りでその設定はストーリーに盛り込まれなくなったはずなんだけれど)
前世思い出そうとしている彼にエミリアは恭しく一礼する。
「ご無沙汰しておりますジョニー様。「商人」のエリアでございます」
商人を粒立てる彼女にジョニーはいったん思い出すのをやめ、満面の笑みを向ける。
「おめでとうございます、転職できたんですね」
エミリアは柔らかい笑顔を携え頷いた。
「えぇ、ジョニー様のおっしゃったように風華満月草を貯め込んでいたら価格が暴騰しまして、それを売ったお金で転職を」
「そうなんですか、よかったですね」
「貴方には感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
「いえいえ。そのお金で馬車を?」
「はい、もともと商売のためこの大陸に来ましたので。種銭が手に入ってやりたい商売ができるようになりました」
それにしてもすぐ商売が軌道に乗るのはすごいなぁ……と感心するジョニー。
種銭が手に入ったからとはいえ短期間でここまで富を得ることは、まずない。
シナリオライターの裏設定を知らないジョニーには彼女の「世界を脅かす素質」などを知るよしはなかった。
「あ、じゃあ俺の満月草も買い取ってもらえると助かります。このぐらいあるんですけれども」
手で貯めた量をジェスチャーするジョニー。
その量にエミリアは半笑いだ。
「そんなに? これはこれは……もちろんジョニー様ですし、色を付けさせてもらいますよ」
あの大量の風華満月草をどう売りさばこうかと考えていたところ渡りに船とジョニーは喜ぶ。
「再依頼の報酬だけでも相当な額だけど。それに加えて満月の売却額……そろそろギルド設立に向けて動くのも悪くない。でも手続きが面倒なんだよなぁ」
強くなったとはいえ不遇職の魔物使いはまだ世間的に信頼されていない。冒険者ギルド設立には冒険者ランクといった目に見える信頼が必要。
「当面はクエストこす日々かな……ん?」
その時だ。
「おぁ、いたいた! ナッハッハ、相変わらずシケたツラしているな」
「ホッホ、お久しぶりですなぁ」
「アッシュ……ウオトル」
自分を追放した二人を目にし、ジョニーは思わず身構える。
「何を身構えてんだよ。せっかく良い提案を持って来たってのに。なぁ、ウオトル」
「そうです、実はイズナのやつがヤシロオオトカゲに不覚を取って毒で苦しんでいるんですよ」
「イズナが?」
「えぇ、解毒剤を飲み続ければ大したことないないのですが、でも最近ちょっと満月草が不足ということで、幾ばくかお譲りしていただけないでしょうか?」
「今までの詫びも込めて高値で買い取ってやるからよ! できれば貯めこんでいる満月を全て譲れよ! な!」
頼んでいる側なのにニヤニヤ笑うアッシュとウオトルに何かを感じたエミリア。
騙す気満々と察した彼女は。ジョニーとの会話に割って入ろうとする――
が、ジョニーはあえて泳がせようと彼女を手で制した。
「……ジョニー様?」
大丈夫と目で合図してジョニーはアッシュに向き直る。
「いくらだ?」
短く一言問うとウオトルはニンマリ笑う。
「なんと! 買取額の倍! 400Gで買い取りましょう。相当貯め込んでいますよね? いいお金になるんじゃないでしょうか」
ジョニーはこの二人がまともに交渉するわけないなと確信……いや、再確認する。
怒りを通り越し、酷く冷めた目で二人を見やる。
「……どこまで」
「ホッホ? 何ですかな?」
「どこまで人を馬鹿にしているんだ? 今の相場、俺が知らねぇとでも思っているのか」
「……ホ?」
急に強気に出てこられ、目を丸くするウオトル。
前世を思い出し強気……いや、元の性格に戻ったジョニーの圧にウオトルは言葉を紡げないでいた。
(そういやこの手の足元見たりする営業相手にやりあってたなぁ、今やたら腹立ってんのはそれもあるか)
苛立つ原因は前世にもあるジョニー。暴言を吐きそうになる衝動を抑えこれ見よがしに嘆息するに止めた。
「いえいえ、イズナさんは本当に苦しんでおられるんです。困った女性を放っておくのですかな? 確かに彼女は貴方に暴言の限りを尽くしましたが、そこまで薄情なのでしょうか」
情で訴えてくるウオトルに「姑息だな」とさらに苛立ったジョニーは正論で返す。
「事実だとしても、それをダシに相場の1/10の額でよこせなんて虫のいい交渉してくるヤツと取引すると思うのかウオトルさんよ」
相場の額がバレていると分かったウオトル、下手に出る態度から一転、開き直った悪い顔を見せる。
「知っていたのか……雑用係のくせに小賢しくなりおって」
この態度にジョニーだけでなくエミリアも苛立ったようで虫を追い払うような仕草を見せた。薄幸の美少女らしからぬ仕草は実にインパクト大だ。
「ジョニー様は「失せろ」と申しております」
「あ、いや、そこまでは言っていないけど」
「ふん、女に庇われるなんて相変わらず情けないヤツだな」
捨て台詞を吐くアッシュ。
その言葉にカチンときたのかジョニーはアッシュに肉薄した。
「アッシュ……お前、まだ全て自分の思い通り行くと思っているのか?」
「なんだと」
「悪いが、アンタみたいなのがトップの時点でテメェのギルドはもう終わりだ。俺は今から新しい冒険者ギルドを作る」
新しいギルドと聞いてアッシュの顔が一層険しくなった。
ギルドを大きくして自分の力を誇示しようとしている彼にとって宣戦布告以外の何物でもないからだ。
アッシュの逆鱗と知りつつもジョニーは言わずにはいられない。
それはプロデューサー時代の彼の矜持でもあったからである。
「いいか、営利主義や己の顕示欲ばかり考えるのは三流のすることだ! そんなモノをお出しされてもユーザーは喜ばない!」
「ゆ、ユーザー?」
つい前世の言葉が出てしまったジョニーは「おっと」と一回口をつぐみ仕切り直す。
「お前が自分の冒険者ギルド大きくしようとしていたのは。自分の経歴のためのファッション、もしくはトロフィー扱いなんだろ? 透けて見えるんだよ、浅さが」
「お、おいマジで言ってんのか!? 元雑用係の分際で、ギルドを新設だぁ!?」
「あぁそうさ、だから失せろとまでは言わない。俺の成功を指をくわえて見ていろ、俺から学ぶんだな半端モノ」
強い言葉を下に見ていた人間から浴びせられ激昂するアッシュ。
「ボクはぁボクはぁって言ってたお前が「俺」だと、追放されて開き直って変に気を大きくしてるんじゃねぇよ! 魔物使いで、しかもハンマー!? お前、自分が間抜けだったのに気づいてないようだな! そんな不遇職と最弱武器の組み合わせでよくイキれるな!」
この様子じゃ、ハンマーが強かったのは気づかないのはまだしも、まだ自分が弱くなったこともハッキリと気がついていないのだろう。
(まだ疲労とか違和感程度にしか思っていのか。まぁ無理もない)
ならば、それを体で教えてやろうかと思いジョニーがハンマーを手に取った。
それをウオトルが煽るようにわざと怖がって見せる。
「おお、こわいこわい。アッシュ殿に抵抗するとは、また痛い目を見たいようですな」
「……」
いい歳の男が煽る姿にジョニーは何ともいえない苛立ちを覚え無言を返す。
黙る彼を見てウオトルは「女の前で強気になって引っ込みがつかなくなった」と察し、さらに煽る。
「そうだ、自信がおありなら一つ賭けをしてみませんか?」
「賭けだと」
「えぇ、アッシュ殿と勝負し負けたら貯め込んだ満月草を譲渡……なんてのはどうでしょう?」
ウオトルの考えを理解したアッシュ、彼に乗っかり脅すような態度を見せる。
「いいなそれ! 普通に殴って奪ったら犯罪だもんなぁ、人殺しはしたくねぇ! どんな要求でも俺は飲むぜ! 痛い目見たくないなら黙って満月草を全部――」
「どんな要求でも? それはちょうどよかった」
「――よこせ……あ?」
まさか受けると思わなかったアッシュ、肩透しを食らい呆ける。
「俺は受けると言ったんだよアッシュ。そうだな、こっちの要求は……お前の冒険者ギルドを俺に譲ってもらうとしようか」
「な、なんだと!?」
「申請が受理されるのも時間がかかる、手っ取り早いなそっちが。もちろんお前らはいらない、承認欲求と営利目的しか頭にないような連中は俺の考えるまともな冒険者ギルドには不要だからな」
「ギルドの評判が下がる」と自分が言われた言葉をそっくりそのまま返すジョニー。
この意趣返しにアッシュのこめかみが震えに震えた。
「上等だ! 表出ろ!」
「表だぜ、ここは」
「う、うるせぇ!」
相当頭に血が上っているアッシュを見て、そしてこの後の事を考えジョニーはつい笑いを堪えられず失笑してしまうのだった。
ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。
皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。
次回は6/11の17:00に投稿予定です
「クエストの再依頼だいぶ増えたな」
クエストの再依頼。
討伐失敗やモンスターが逃げ出した場合などの緊急依頼として冒険者の経歴不問でボードに貼り付けられるクエストである。
モンスターが予想以上の強さだったり悪天候などの不運が重なったイレギュラーなど理由はさまざま。
依頼の条件が緩くなるが、その分時間制限が厳しいくらいが懸念点か。
「忙しないけど、その代わり報酬がちょっぴり高くなるんだよね」
冒険者ランクが低く不遇職の彼にとって門前払いされずにすむ有難いクエストということである。
「バランス調整で今までのセオリーが通じなくなったり、ナーフされて無茶できなくなったりで失敗が増えたんだろうな」
強かった職業は今までの戦い方が通用しなくなり、強化された職業も自分が強くなってるとまだ実感が持てないのが世界の状況……とジョニーは推測する。
「現実世界のゲームじゃロードマップで提示されるから、こんな現象が起きないんだけれども……ここじゃ常時サイレント修正みたいなもんか」
こっそり修正されて怒るユーザーの気持ちが十分理解できてしまう元プロデューサーのジョニーだった。
「ま、今は美味しいクエストの入れ食い状態……ありがたく享受するぜ」
多いときに一日5件はクエストをこなすジョニー。
異常な討伐スピード、しかもさらに目を引くは魔物使い&ハンマーという異質の組み合わせ。
不遇職×最弱装備はいやでも他の冒険者の目を引く。
そんな理由からジョニーの快進撃は一部の人間から「何かの不正をしているのでは?」と疑いの目を向けられていた。
「そう思われるのも無理はないか」
そんな周囲の反応など気にしてはいられない。今のうちに冒険者ランクを上げておかねばと片っ端から依頼を受ける覚悟するジョニーだった。
「さて、今日は帰るか……ん?」
クエストを終え、報酬を手にし宿舎に帰ろうとしている彼の前に仰々しい馬車が留まる。
カッ――
馬車から降り立ったのは、なんとエミリアだった。
いつものローブではなく身に纏うは豪奢なドレスにジョニーは驚いた。
「え、エミリア……さん?」
一瞬、エミリアだと気づかなかった理由はもう一つある。
耳が少し尖っているのだ。
(フード被っていたから気が付かなかったけど、もしや彼女、エルフって奴か?)
エルフ、もしくはハーフエルフだと察したジョニーは「ある設定」を思い出し首を傾げる。
(あれ? 8ってエルフ設定残ってたっけ? 前作辺りでその設定はストーリーに盛り込まれなくなったはずなんだけれど)
前世思い出そうとしている彼にエミリアは恭しく一礼する。
「ご無沙汰しておりますジョニー様。「商人」のエリアでございます」
商人を粒立てる彼女にジョニーはいったん思い出すのをやめ、満面の笑みを向ける。
「おめでとうございます、転職できたんですね」
エミリアは柔らかい笑顔を携え頷いた。
「えぇ、ジョニー様のおっしゃったように風華満月草を貯め込んでいたら価格が暴騰しまして、それを売ったお金で転職を」
「そうなんですか、よかったですね」
「貴方には感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
「いえいえ。そのお金で馬車を?」
「はい、もともと商売のためこの大陸に来ましたので。種銭が手に入ってやりたい商売ができるようになりました」
それにしてもすぐ商売が軌道に乗るのはすごいなぁ……と感心するジョニー。
種銭が手に入ったからとはいえ短期間でここまで富を得ることは、まずない。
シナリオライターの裏設定を知らないジョニーには彼女の「世界を脅かす素質」などを知るよしはなかった。
「あ、じゃあ俺の満月草も買い取ってもらえると助かります。このぐらいあるんですけれども」
手で貯めた量をジェスチャーするジョニー。
その量にエミリアは半笑いだ。
「そんなに? これはこれは……もちろんジョニー様ですし、色を付けさせてもらいますよ」
あの大量の風華満月草をどう売りさばこうかと考えていたところ渡りに船とジョニーは喜ぶ。
「再依頼の報酬だけでも相当な額だけど。それに加えて満月の売却額……そろそろギルド設立に向けて動くのも悪くない。でも手続きが面倒なんだよなぁ」
強くなったとはいえ不遇職の魔物使いはまだ世間的に信頼されていない。冒険者ギルド設立には冒険者ランクといった目に見える信頼が必要。
「当面はクエストこす日々かな……ん?」
その時だ。
「おぁ、いたいた! ナッハッハ、相変わらずシケたツラしているな」
「ホッホ、お久しぶりですなぁ」
「アッシュ……ウオトル」
自分を追放した二人を目にし、ジョニーは思わず身構える。
「何を身構えてんだよ。せっかく良い提案を持って来たってのに。なぁ、ウオトル」
「そうです、実はイズナのやつがヤシロオオトカゲに不覚を取って毒で苦しんでいるんですよ」
「イズナが?」
「えぇ、解毒剤を飲み続ければ大したことないないのですが、でも最近ちょっと満月草が不足ということで、幾ばくかお譲りしていただけないでしょうか?」
「今までの詫びも込めて高値で買い取ってやるからよ! できれば貯めこんでいる満月を全て譲れよ! な!」
頼んでいる側なのにニヤニヤ笑うアッシュとウオトルに何かを感じたエミリア。
騙す気満々と察した彼女は。ジョニーとの会話に割って入ろうとする――
が、ジョニーはあえて泳がせようと彼女を手で制した。
「……ジョニー様?」
大丈夫と目で合図してジョニーはアッシュに向き直る。
「いくらだ?」
短く一言問うとウオトルはニンマリ笑う。
「なんと! 買取額の倍! 400Gで買い取りましょう。相当貯め込んでいますよね? いいお金になるんじゃないでしょうか」
ジョニーはこの二人がまともに交渉するわけないなと確信……いや、再確認する。
怒りを通り越し、酷く冷めた目で二人を見やる。
「……どこまで」
「ホッホ? 何ですかな?」
「どこまで人を馬鹿にしているんだ? 今の相場、俺が知らねぇとでも思っているのか」
「……ホ?」
急に強気に出てこられ、目を丸くするウオトル。
前世を思い出し強気……いや、元の性格に戻ったジョニーの圧にウオトルは言葉を紡げないでいた。
(そういやこの手の足元見たりする営業相手にやりあってたなぁ、今やたら腹立ってんのはそれもあるか)
苛立つ原因は前世にもあるジョニー。暴言を吐きそうになる衝動を抑えこれ見よがしに嘆息するに止めた。
「いえいえ、イズナさんは本当に苦しんでおられるんです。困った女性を放っておくのですかな? 確かに彼女は貴方に暴言の限りを尽くしましたが、そこまで薄情なのでしょうか」
情で訴えてくるウオトルに「姑息だな」とさらに苛立ったジョニーは正論で返す。
「事実だとしても、それをダシに相場の1/10の額でよこせなんて虫のいい交渉してくるヤツと取引すると思うのかウオトルさんよ」
相場の額がバレていると分かったウオトル、下手に出る態度から一転、開き直った悪い顔を見せる。
「知っていたのか……雑用係のくせに小賢しくなりおって」
この態度にジョニーだけでなくエミリアも苛立ったようで虫を追い払うような仕草を見せた。薄幸の美少女らしからぬ仕草は実にインパクト大だ。
「ジョニー様は「失せろ」と申しております」
「あ、いや、そこまでは言っていないけど」
「ふん、女に庇われるなんて相変わらず情けないヤツだな」
捨て台詞を吐くアッシュ。
その言葉にカチンときたのかジョニーはアッシュに肉薄した。
「アッシュ……お前、まだ全て自分の思い通り行くと思っているのか?」
「なんだと」
「悪いが、アンタみたいなのがトップの時点でテメェのギルドはもう終わりだ。俺は今から新しい冒険者ギルドを作る」
新しいギルドと聞いてアッシュの顔が一層険しくなった。
ギルドを大きくして自分の力を誇示しようとしている彼にとって宣戦布告以外の何物でもないからだ。
アッシュの逆鱗と知りつつもジョニーは言わずにはいられない。
それはプロデューサー時代の彼の矜持でもあったからである。
「いいか、営利主義や己の顕示欲ばかり考えるのは三流のすることだ! そんなモノをお出しされてもユーザーは喜ばない!」
「ゆ、ユーザー?」
つい前世の言葉が出てしまったジョニーは「おっと」と一回口をつぐみ仕切り直す。
「お前が自分の冒険者ギルド大きくしようとしていたのは。自分の経歴のためのファッション、もしくはトロフィー扱いなんだろ? 透けて見えるんだよ、浅さが」
「お、おいマジで言ってんのか!? 元雑用係の分際で、ギルドを新設だぁ!?」
「あぁそうさ、だから失せろとまでは言わない。俺の成功を指をくわえて見ていろ、俺から学ぶんだな半端モノ」
強い言葉を下に見ていた人間から浴びせられ激昂するアッシュ。
「ボクはぁボクはぁって言ってたお前が「俺」だと、追放されて開き直って変に気を大きくしてるんじゃねぇよ! 魔物使いで、しかもハンマー!? お前、自分が間抜けだったのに気づいてないようだな! そんな不遇職と最弱武器の組み合わせでよくイキれるな!」
この様子じゃ、ハンマーが強かったのは気づかないのはまだしも、まだ自分が弱くなったこともハッキリと気がついていないのだろう。
(まだ疲労とか違和感程度にしか思っていのか。まぁ無理もない)
ならば、それを体で教えてやろうかと思いジョニーがハンマーを手に取った。
それをウオトルが煽るようにわざと怖がって見せる。
「おお、こわいこわい。アッシュ殿に抵抗するとは、また痛い目を見たいようですな」
「……」
いい歳の男が煽る姿にジョニーは何ともいえない苛立ちを覚え無言を返す。
黙る彼を見てウオトルは「女の前で強気になって引っ込みがつかなくなった」と察し、さらに煽る。
「そうだ、自信がおありなら一つ賭けをしてみませんか?」
「賭けだと」
「えぇ、アッシュ殿と勝負し負けたら貯め込んだ満月草を譲渡……なんてのはどうでしょう?」
ウオトルの考えを理解したアッシュ、彼に乗っかり脅すような態度を見せる。
「いいなそれ! 普通に殴って奪ったら犯罪だもんなぁ、人殺しはしたくねぇ! どんな要求でも俺は飲むぜ! 痛い目見たくないなら黙って満月草を全部――」
「どんな要求でも? それはちょうどよかった」
「――よこせ……あ?」
まさか受けると思わなかったアッシュ、肩透しを食らい呆ける。
「俺は受けると言ったんだよアッシュ。そうだな、こっちの要求は……お前の冒険者ギルドを俺に譲ってもらうとしようか」
「な、なんだと!?」
「申請が受理されるのも時間がかかる、手っ取り早いなそっちが。もちろんお前らはいらない、承認欲求と営利目的しか頭にないような連中は俺の考えるまともな冒険者ギルドには不要だからな」
「ギルドの評判が下がる」と自分が言われた言葉をそっくりそのまま返すジョニー。
この意趣返しにアッシュのこめかみが震えに震えた。
「上等だ! 表出ろ!」
「表だぜ、ここは」
「う、うるせぇ!」
相当頭に血が上っているアッシュを見て、そしてこの後の事を考えジョニーはつい笑いを堪えられず失笑してしまうのだった。
ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。
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