かつて最強だった俺がゼロからやり直した世界は、魔法が存在しない世界だった件。

水無月悪い人

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第一章 Dead or Alive

5.お嬢様と執事

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 ということでセルス・ヒルテ先生の部屋にやってきた。以外にもシンプルな部屋だった。もっと可愛いぬいぐるみとか置いてあるかと期待していたんだが。視界に広がるのは真っ白な部屋。あるのはベッドとソファーだけ。俺ならここに住む自信はない。だって娯楽が無いし。

「にしても、『天獄』なんてのがあるとは思いませんでした」
「それはそうです」

 俺と先生は真っ白でフカフカのベッドに腰掛けていた。

「そもそも天獄に限った話ではありません。地獄や天国、この二つだってあるかどうかなんて死んでみないと分かりませんよね。人間が作った創作物……つまり、そういうことですね」
「……先生、それは夢がないです」

 確かに天国や地獄なんて死んでみないと分からない。死んで、再び生きて帰ってきた者にしか。考えさせられるなぁ。
 ってなんだこの哲学的な話は。俺はそんな事が聞きたくて来た訳じゃない。こ、こんなシンプルな部屋に男女二人ベッド……に。

「先生は想っている人がいると言っていましたけど、その人はこの家に居ないんですか?」

 自分で言っておいてなんだが、家というとすごく違和感ある。

「……居ますよ」
「え? 居るんだ……あ、そ、そうっすか」

 まじかよ。こんな所目撃されたら俺また殺されないか……? もしまた死んだら俺はどうなるんだ? 『天獄』とはまた別の所に行くことになるのか? もしくは、どこにも行けない真っ暗な世界……死ぬって何だろう。

「ただし、その人は今は居ません」
「え? いやでも、さっき居るって――」
「居るけど居ないんです」

 うん、意味が分からん。やっぱこの先生の言うことはよく分からん。……けど、そう言う先生の表情はとても悲しそうな顔だった。

 なんか地雷を踏んだ気がする。仕方ない、空気を変えるためにもう一つ気になっていることを聞くか。

「あの先生、サポーターって実際の所なんなんです?」
「あ、そうでしたね。では、コホンッ」

 ……今この人ハッキリとコホンッって言ったぞ。話題を変える為なんだろうけど、ここまでハッキリいうとなんか違和感すごいわ。

 セルス・ヒルテはベッドの上に正座をし、姿勢を正す――

「いいですか? サポーターというのはサポートする人のことを言います」
「はい」
「以上です」
「…………え? 終わり?」
「ええ、終わりです」
「意味なんて聞いてねぇよバカ!!」
「え……」
「あっいや、その……すんません先生相手に。……ただ、俺が聞きたいのはサポーターとは一体何をすれば良いのかってことです」

 先生相手につい言葉遣いが乱暴になってしまった。反省だな。俺は反省出来る人間だ、よし。反省反省っと。俺は何度も自分に言い聞かせた。

「ああ、そういうことですね。すみません、言葉足らずでした」

 ホントだよ全く。

「サポートして欲しいんです」
「はい……で?」
「以上です」
「だから誰の何をサポートすりゃいいんだって言ってんだよっ!」
「え……」

 しまった。またやってしまった。ついさっき反省したばっかだってのに。けど、これって俺悪いか? 一応先生なのにここまで天然だったとは思わなかった。天然というより、もはや俺はもうこの人ポンコツなんじゃないかとすら思ってしまっている。これも反省だな。
 俺って反省することが多すぎるなぁ。

「……すんません。仮にも先生なのに乱暴な言葉づかいを使ってしまって。ほんと、すみませんでした」

(しまった……! 教師に向かって「仮にも」なんて事言っちまった!)

 また反省することが一つ増えた。

「大丈夫です。そもそも、私は教員ではないので」
「はいほんとにすみませ…………え? 今なんと?」
「ですから、私は教員ではありません。その肩書きは向こうであなたに会うための手段として使ったものなので」
「……つまり、偽装だと。本当は先生ではないと」
「はい」
「……あの、女性にこういう事を聞くのは大変失礼かもしれないんですけど、あえて聞きますね。先生おいくつですか?」
「おいくつとは年齢の事ですか? 私は十六です」
「年下じゃねぇかああああああああああああああっ!!」

 嘘だろ!? 滅茶苦茶落ち着いてるからてっきりもっと大人だと思っていた。でも言われてみれば確かに、そう見える。
 先生という偽りの肩書きのせいで勘違いしてたってことか……若い先生だとは思ってはいたがまさか年下だったなんて……。しかもたった一つしか変わらねぇ。
 年上のお姉さん、結構憧れていたんだけどなぁ。しかし、これでようやくポンコツということにも納得がいく。

(……なんか部屋の外が騒がしいな。なにかあったんだろうか)

 俺はこの時、自分が起こした事態を全く理解していなかった。――そしてそれらはやってくる。

「お嬢様!? 今男の叫び声がしましたが大丈夫で……す……か……」

 勢いよく、部屋の扉が開かれた。

「……あ、どうも。お邪魔してます。俺は空風そらかぜ りくって言いま――」
「きゃあああああああああっ!! 皆来てぇええええええ! 男よぉぉぉぉ!」
「ちょっ! 待って下さい! 俺はただ呼ばれただけで――」

 俺の言い分は大量の足音と、声でかき消される。

「男!? 嘘!?」
「え、……あらやだ! 本当ですわ!」

 次々とメイドの格好をした者達が現れる。

「――ちょっと待って下さいって!」
「男の話など聞きませんし、耳に入れたくもありません喋らないで下さい穢らわしい!」

 俺の言い分なんて全然聞き入れてくれやしない。

「ちょっと! 先生! なんとか言ってくださいよ!」
「今お嬢様を先生と……!? まさか、SMプレイでもしていたのですか!? お嬢様が女王であなたが犬ですか!? なんとも穢らわしい! この変態!」

 勝手に話を膨らますな! 誰が変態だ! 俺はまだ何も手を出してないぞ! ……なんて事言える訳も無く、一方お嬢様と呼ばれていたセルス・ヒルテはというと――

「……うん、この紅茶大変美味ですね。誰が淹れたんですか?」
「あ、はい! 僕ですお嬢様!」
「ああ、ヘルンでしたか。どおりで美味しい訳ですね」

 と、俺のことについては一切触れてくれない。今も呑気に紅茶を啜っている。まるで私は関係ありませんと言わんばかりの態度である。

(そうか。先生って言ったからダメなのか!? なら――)

「おい、セルス・ヒルテ! 俺の事についてこいつらに誤解だと説明し――ぶはぁっ!?」
「おい貴様! お嬢様に向かってなんて口の利き方だ! 恥をしれ変態!」

 俺と同じ黒髪黒目の男が俺に飛び蹴りをかましてきやがった。髪で片目なんか隠しやがってこいつ……中二病か? 確かさっきヘルンとか呼ばれていた紅茶執事か。他のメイド達と違い、いかにも執事という装いであるから多分、執事で間違いない。そして他のメイド達よりもお嬢様への扱いが丁寧で、お嬢様第一って感じを見た所、こいつ多分主であるお嬢様に惚れてると見たね。

(だが、俺だって言われるままで終われねぇ! 変態呼ばわりだけでなく、いきなり顔面に飛び蹴りかましやがって……! 女じゃないなら容赦しねぇ!)

「喰らえクソ執事!」

 俺の喧嘩なんて一度たりともしたことがない本気の拳だ。受けた相手はノックアウト間違い無し!

「……なんだそれは」

 うん、分かっていたけど俺の渾身の一撃はあっさりと躱された。

「くだらん」
「んがっ!?」

 躱され体勢を崩した俺の首に後ろからそっと一撃。意識が遠のいていく……。

(クッソ……俺は喧嘩なんて一度もしたこと無いんだ……ぞ……)

 せめてもの悪あがきだ。その綺麗に手入れされているであろう服をズタズタに破ってやる……!

 俺は首に一撃をもらい、意識が遠のいていく中で最後の悪あがきとして、ヘルンと呼ばれる紅茶執事の胸ぐらを掴み服を破る。

 ――――はずだった。

「ファッ!? ……なん……だと」
「ハッ!? き、貴様ああああ!」
「ぶふぉあっ」

 俺が掴みたかったのは胸ぐらだった。だが実際に掴んだのは胸ぐらではなく、柔らかい何かだった。というより”胸”だった。あるはずがないモノを掴んでしまい、それがどうやらとても気に食わなかったらしい。さっきの蹴りよりも何倍も重いグーパンを腹にもらった。

(コイツ……女……かよ……)

 俺はとうとう完全に意識を失った。最後に俺の目に写っていたのは、ヘルンの軽蔑するような目をした顔だった。
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