かつて最強だった俺がゼロからやり直した世界は、魔法が存在しない世界だった件。

水無月悪い人

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第一章 Dead or Alive

10.白兎

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 ――あの後も兎の胸を堪能した俺だったが、やっぱり俺の息子は反応しなかった。

「……なぁ兎」
「はい、何ですよん?」
「何で俺を助けた。見ず知らずの俺を」
「う~ん……そこに倒れている人がいたから? ですよん」
「……もしそれが盗賊やお前を殺そうとする奴だったらどうする気だったんだ」
「でも、あたくしには旅人さんが悪い人には見えなかったですよん。あたくしは分かるんですよん。その人が善人か悪人かが。倒れている旅人さんを見つけた時、あたくしは困っていると、そう思ったですよん」
「……そんな曖昧な理屈で俺を助けたのか……」
「理屈じゃありませんよん。確定した事実を述べているのですよん」

 会話になっているようでなっていない。この兎は俺がどれだけ言っても同じことを繰り返すのだろう。こんな身元も分からない俺を助けるやつなんて怪しんで当然だ。だからこうして兎を試していた。

「……事情は分かりませんが、今はお休み下さいよん。まだ体力は回復していないはずですよん」
「だが――」
「あたくしの事を恩人と思うなら、従ってください。あたくしは困っている旅人さんを助けたい。それだけです」

 ……そこは「よん」って言わないのか。

「……分かった」
「話はまた明日聞きますよん。ここはあたくしの隠れ家ですよん。旅人さんを狙うような者は居ませんし、火も絶やさず見ておきますよん」
「なんでそこまで……」

 って言ってもまた同じ会話になるか。ここは素直に感謝しておこう。

「ありがとう」
「いえいえですよん」

 俺は草や何かの動物の毛で作られた簡易的なベッドに横になった。正直、快適かと言われればそうではない。……しかし、安心感が段違いだ。ここに来てから寝る暇どころか、ずっと気を張っていた。周りは知らない者ばかりで怪我もした。精神的にも体力的にもたった一日の出来事とは思えない程のものだった。だからこそ、この簡易的なベッドがまた俺を安心させてくれる。なにより、俺を助けてくれた謎の白い兎。互いに名前すら知らない見ず知らずの赤の他人。

 人間である俺がまさか動物、それも兎に助けられる事になるとはな。

(人生、何が起きるかわからないもんだ……)

 ……
 …………
 ………………

「……眠ったようですよん」

 兎は人間の姿から再び元の小さな兎本来の姿に戻り、言う。

「……良いのです?」

 誰も居るはずのない洞窟で静かに呟く兎。

「…………了解したですよん。でも、もしあなたにその気があるのなら、ちゃんと伝えた方が良いですよん。誰だって心があるんですよん。彼にも、あなたにも、もちろんあたくしにもですよん。だから――」

 洞窟の入口から声が聞こえた。

「……いえいえ、大丈夫ですよん。あたくしは彼を一人前になるまで、できる限りサポートするですよん。あなたは何も心配しなくていいですよん。あなたは主の事だけを考えていれば良いのですよん。それがあなたの――」

 兎の言葉を聞いてその者は去っていった。

「…………全く、人間というのは面倒くさい生き者ですよん。それでもあの方ならきっと世界を正してくれる。あたくしは信じてますよん」

 ***

 俺は目を覚ました。今度は見覚えのない天井ではない。眠る前に見た天井だ。

「……やっぱり、あの兎はいいやつだったってことか」

 眠る無防備な俺を殺さなかった。正直少し疑っていた。見ず知らずの俺をただの善意で助けるなんて奴を完全に信じろというのが無理な話だ。……ただ、あの兎を見て疑ってばかりいると自分が嫌になってくる。自分が好きな訳じゃない。むしろここまで善意にしてくれたのに疑っていたんだ。既に自分が嫌いだ。

「……俺って最低だなぁ」
「――何がです?」
「いや、人の善意を疑っていたか――ってうわぁ!?」
「……善意は素直に受けるべきですよん」

 俺の横にはビッタリと密着している兎がいた……それも人間の姿で。昨日堪能したばかりのモフモフとした柔らかいモノが当たっている。

「……何で密着?」
「人肌ならぬ兎肌ですよん。冬の夜は寒いですが、もちろん朝も同じくらい寒いですよん。だからこうして密着することで暖を取っている訳ですよん」
「あ、ああなるほど」

 こいつなりの善意か。……ダメだ。やっぱり見返りに何が欲しいのかなんて事を考えちまう。いっそ言ってしまうか。ここまでの経緯をこの兎に。俺がこの世界の生まれじゃない事や、殺されてこの世界にやってきたこと。……その殺した相手と執事に振り回された事。そして、その二人に罪悪感を持っている事も。

「旅人さん、兎肌の感触はどうですか? 添い寝とは心地良いものですよん。何か言いたいことがあれば聞きますよん」
「……お前は俺の考えていることが分かるみたいだな」
「いえいえ、流石のあたくしもそこまで万能兎ではありませんよん。ただ旅人さんの顔をこうして間近で見ていると、何か言いたげだなと、そう感じただけですよん」
「そうか……だったら聞いてくれるか。……俺の……話をさ。信じられないかも知れないけど」
「信じます。どうぞ、あなたの話をあたくしに聞かせて下さい。そしてあたくしにも共感させて下さい」

 そんな風に言われたら言うしか無いじゃないか……。

 ――俺はこれまでの経緯を兎に全て話した。

 ……
 …………
 ………………

「……それは大変だったですよん。……あたくしにも旅人さんのその気持ち、分かるですよん。決して上辺だけでこんな事を言っている訳では無いですよん」
「そう……なのか」

 ここまでで感じた事……それは、この兎は普通の兎じゃない。この世界の常識で考えたら喋る兎なんて居ても不思議じゃないんだろう。けど、俺が言いたいのはそういうことじゃない。人間も兎も関係ない。……少なくとも死ぬ前の俺の記憶を辿っても、こんなにも俺に寄り添ってくれるやつは居なかった。何故ここまでしてくれるのかは分からない。……でも、疑うのはもうやめにしよう。

「……旅人さんあたくしにもその昔、主人が居たですよん」
「主人……?」

 俺が聞いてもいないのに、兎は語り始めた――。


「……あたくしの主人は怪我をして動けないあたくしを助けてくれたですよん」
「だから俺に優しくしてくれたのか」
「あはは! それもありますよん! ……主人は誰にでも優しい人でしたよん」

 人ってことは人間か……。凄いなそいつは。俺の世界だったら、可哀想と思うやつは居ても実際に行動に移す奴は極わずかだろう。
 道端に倒れる猫を見たことがある。それを見て悲しむ者は居ても助けようか、埋葬しようか。どちらにしても触れようとする者は誰一人として居なかった。
 猫も兎も関係ない。……俺でも多分、同じことをしたと思う。だからこそ思う、

「お前の主人良いやつだな」
「ほんっっっっっっっとうにいい人でしたよん」

感情こもってんなぁ。

「……その……答えたくなければ答えなくても良いんだがその主人は――」

「死にましたよん」

 ……やっぱりか。なんとなくそんな気がしていた。だが、聞かずには居られなかった。

「でも、世界を救う為に死んだのですよん……だからあたくしは嬉しいですよん」
「世界を……お前は主人が死んだってのに悲しくはないのか?それどころか嬉しいのか。俺がもしお前なら耐えられない自信がある。少なくとも嬉しいなんて感情は湧いてこない」
「……ごめんなさいですよん。あたくし言葉足らずでしたよん。嬉しいっていうのは間違いじゃありませんよん。……ただそれはそれは、もう泣いて泣いて……とにかく涙が枯れるまで泣きましたよん。そんな野良兎となってしまったあたくしを拾ってくれた方が居たですよん。今はその方に協力してもらっているですよん」

 協力者……この兎を従える新たな主人か……!

「そんな怖い顔をしないで下さいよん! あくまで協力して貰っているだけで、あたくしの主人は今も昔も”あの人”だけですよん」
「……その協力ってのは何をして貰っているんだ?」
「今は食べ物や金銭面、生活に必要なものを支援してもらっているのですよん」

 だからこうして生きていられるって訳か。

「その協力者の見返りは? お前じゃないんだ、何も無いって訳は無いだろう」
「……見返りというか……その……」
「言えないのか……」
「いえいえ! そういう訳じゃ無いですよん! だからそんな顔はしないで欲しいですよん!」

 ……兎に求める見返りって何がある? ……分からん。兎の毛を寄越せ! とかしか思いつかん。

「……彼女の要求はたった一つ」

 彼女……? ってことはその協力者は女か。

「――互いに干渉しないこと・・・・・・・・・・、ですよん」
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