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1章
1話
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「サラン様、本気ですか?」
心配するような声が上がるが、当たり前だ。
冗談でこのようなことは言わない。
「私はこれから一度死ぬ」
◇◇◇――――◇◇◇
煌々と輝く月を見上げたキーリンは、短く指笛を三度吹いた。
しばらくして風を切りながら舞い降りてきたのは、漆黒の体に深紅の目を持つタカだった。
ピュィーと鳴き声を上げながらタカはキーリンに甘えてくる。このタカの名前はヒーサラン。夜中に飛ぶ鮮血を意味する名前はこのタカの外見に合った名前だ。
しばらくタカの頭をなででやっていると、ふと、手に茶色になりかけた赤色の何かが付いたことに気付いた。
指をこすり合わせるとカサカサしている。
ヒ―サランの体をよく見ると、左の翼が不自然に汚れていた。
「一体どこの誰とやり合ったの?」
ジットリした目でキーリンがヒ―サランを見ると、ヒ―サランはさっと目をそらす。だが、しばらくジト目で見ていると、観念したようにそのくちばしを開いた。
「近くに雑魚魔がいましたので。ろくな力もないのに他の魔の縄張りに貼ったところを美味しく頂きました」
魔を喰らうタカ。なかなか恐ろしいが、魔であるのはこのタカも同じだ。
「で、今日呼んだのは一体どういった用件で? 命を救われた身、貴女様の願いは叶えたいのは山々ですが如何せん私も忙しいのです」
「ああ、そうね。今度、東の方にあるサル・カイサラと言う山の魔について知ってるかしら?そこが次の任務なの」
猿、オウム、カラス、インコ、伝達を担当してくれる言葉を話す生き物は沢山いるが、どれもたいした情報は教えてくれない。次の任務がどこかと言うことだけを教えてくる。
仕方なくキーリンを含めたエクソシスト達はそれぞれの方法で情報を集める。
なんせエクソシストの仕事においては、ほんの少しの情報量が生死を分けることもあるのだ。
キーリンがとる方法はこの通り、ヒ―サランを呼び出し、彼が知っている情報や噂話を教えてもらう。
噂話は必要ないと、最初は割り切っていたキーリンだが、今は噂話の偉大さをよく知っている。少なくともキーリンへの伝書を担当するオウムよりかはずっと親切だ。
「あの山ですか。私も直接行った訳ではないので他の人……魔に聞いた話になりますが、どうも複数の魔が居るようですよ。珍しい事もあるようですね」
ヒ―サランの言うとおり、魔は滅多なことでは群れない。それこそ天と地のひっくり返るような大災害でもない限り非常に珍しいのだ。
むろん例外はあるが、そんなに強い、もしくは沢山の魔を相手にする任務にキーリンのような新人をかり出すわけはないので、その可能性は除外する。
ただ、キーリンには一つだけ心当たりがあった。
「あの子……じゃあないといいけど」
自分に言い聞かせるようにつぶやいたキーリンを見ていたヒ―サランは、そう言えば、と訊いた。
「他の魔に伝える必要はないのですか? 流石に八方の魔に伝手はありませんが、貴女様の配下にいられた魔を数人知っております。皆貴女様が生きておられることを知れば喜ぶでしょう」
ヒ―サランがキーリンの顔をのぞき込みながら言った。
「うん。伝えなくていいわ。魔が側にいたりしたら間違いなく目立つし、あたしはいま、エクソシストよ。魔と遭うことがあれば、殺さないといけないのよ」
なら何故私をこのようにして頼るのですかと言うヒ―サランは無視する。
「では、日の出まであと少しなので私は行きますね。一応言っておきますが、貴女様が生きていることに気付いている方もちらほら居ますから。そのうち勘の鋭い魔に正体を見抜かれますよ」
ご丁寧に言い残したヒ―サランを見送ったキーリンはボソッと呟いた。
「八方の魔にだけは会った時に教えるつもりよ」
心配するような声が上がるが、当たり前だ。
冗談でこのようなことは言わない。
「私はこれから一度死ぬ」
◇◇◇――――◇◇◇
煌々と輝く月を見上げたキーリンは、短く指笛を三度吹いた。
しばらくして風を切りながら舞い降りてきたのは、漆黒の体に深紅の目を持つタカだった。
ピュィーと鳴き声を上げながらタカはキーリンに甘えてくる。このタカの名前はヒーサラン。夜中に飛ぶ鮮血を意味する名前はこのタカの外見に合った名前だ。
しばらくタカの頭をなででやっていると、ふと、手に茶色になりかけた赤色の何かが付いたことに気付いた。
指をこすり合わせるとカサカサしている。
ヒ―サランの体をよく見ると、左の翼が不自然に汚れていた。
「一体どこの誰とやり合ったの?」
ジットリした目でキーリンがヒ―サランを見ると、ヒ―サランはさっと目をそらす。だが、しばらくジト目で見ていると、観念したようにそのくちばしを開いた。
「近くに雑魚魔がいましたので。ろくな力もないのに他の魔の縄張りに貼ったところを美味しく頂きました」
魔を喰らうタカ。なかなか恐ろしいが、魔であるのはこのタカも同じだ。
「で、今日呼んだのは一体どういった用件で? 命を救われた身、貴女様の願いは叶えたいのは山々ですが如何せん私も忙しいのです」
「ああ、そうね。今度、東の方にあるサル・カイサラと言う山の魔について知ってるかしら?そこが次の任務なの」
猿、オウム、カラス、インコ、伝達を担当してくれる言葉を話す生き物は沢山いるが、どれもたいした情報は教えてくれない。次の任務がどこかと言うことだけを教えてくる。
仕方なくキーリンを含めたエクソシスト達はそれぞれの方法で情報を集める。
なんせエクソシストの仕事においては、ほんの少しの情報量が生死を分けることもあるのだ。
キーリンがとる方法はこの通り、ヒ―サランを呼び出し、彼が知っている情報や噂話を教えてもらう。
噂話は必要ないと、最初は割り切っていたキーリンだが、今は噂話の偉大さをよく知っている。少なくともキーリンへの伝書を担当するオウムよりかはずっと親切だ。
「あの山ですか。私も直接行った訳ではないので他の人……魔に聞いた話になりますが、どうも複数の魔が居るようですよ。珍しい事もあるようですね」
ヒ―サランの言うとおり、魔は滅多なことでは群れない。それこそ天と地のひっくり返るような大災害でもない限り非常に珍しいのだ。
むろん例外はあるが、そんなに強い、もしくは沢山の魔を相手にする任務にキーリンのような新人をかり出すわけはないので、その可能性は除外する。
ただ、キーリンには一つだけ心当たりがあった。
「あの子……じゃあないといいけど」
自分に言い聞かせるようにつぶやいたキーリンを見ていたヒ―サランは、そう言えば、と訊いた。
「他の魔に伝える必要はないのですか? 流石に八方の魔に伝手はありませんが、貴女様の配下にいられた魔を数人知っております。皆貴女様が生きておられることを知れば喜ぶでしょう」
ヒ―サランがキーリンの顔をのぞき込みながら言った。
「うん。伝えなくていいわ。魔が側にいたりしたら間違いなく目立つし、あたしはいま、エクソシストよ。魔と遭うことがあれば、殺さないといけないのよ」
なら何故私をこのようにして頼るのですかと言うヒ―サランは無視する。
「では、日の出まであと少しなので私は行きますね。一応言っておきますが、貴女様が生きていることに気付いている方もちらほら居ますから。そのうち勘の鋭い魔に正体を見抜かれますよ」
ご丁寧に言い残したヒ―サランを見送ったキーリンはボソッと呟いた。
「八方の魔にだけは会った時に教えるつもりよ」
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