法廷の魔王~神崎斗魔の黙示録~

月原蒼

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第一章【リビング・デッドは水死体】

リビングで溺れ死んだ男

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 神崎が外へ出ると、一人の女性が待ちくたびれたといった様子で出迎えた。その証拠に、待っている間に使用していたスマートフォンのバッテリーは既にレッドゾーンへ突入している。モバイルバッテリーを常備していない麻宮は、みるみる減っていくバッテリーに焦りながらも、新しい事件などの情報収集に勤しんでいた。

「もう。遅いですよ神崎さん。これだけ時間がかかるなら私は一度事務所に戻って良かったんじゃないですか?」

 裁判所から出てきた神崎を見つけ、そう声をかけた。
 彼女の名は麻宮麗華あさみやれいか。神崎の経営する【神崎法律事務所】の事務員である。スーツを綺麗に着こなし、サラサラと美しい髪は肩ほどまで伸びたセミロングヘア―。切れ目に高い鼻と、美人であると言われれば誰もが首を縦に振るであろう容姿を持ち合わせていた。
 今まで事務員は何人もいたが、神崎の奇人っぷりや、世間からのバッシングに耐えかねて、一年続けば長い方、という状況であった。
 そんな中現れたこの麻宮は、ダイヤモンドのように硬いメンタルを有し、神崎に引けを取らないほどの変人ぷりを見せ、すぐさま神崎法律事務所になくてはならない存在となった。
 もっとも、事務所のメンバーは二人しかいないのだが。

「あぁ、悪かったね。検察側が喚く喚くで大変だったんだ。やれ犯罪者を世に放つあなたも犯罪者だーだの、善良な人々を怖がらせるなーだの。黙らせるのも苦労したんだ」
「まぁ、検察側の気持ちもわかりますよ。神崎先生が出てくるとどれだけ証拠が揃っていようと無罪にしてしまうんですから。担当弁護士に神崎って書かれていたら、どんな気持ちなんでしょうね」
「その証拠が不十分だから無罪になるんだろう。それに、俺は別に犯罪者を守っている訳ではないよ。しっかりと被疑者と対話をした上で、冤罪だと確信した人しか救ってないんだから」

 そう。彼は決して犯罪者を放つ悪人などではない。冤罪により法廷に立たされた人間を救うこと。それが神崎のポリシーだ。しかし、一度罪人として報道されてしまえば、汚れてしまった名前を浄化することは非常に難しい。世間からの風当たりは厳しく、彼を犯罪者の仲間であると批判する声も決して少なくはない。
 だが、彼にとってはそんなことはどうだってよかった。彼は、罪の無い人を救う事が出来れば、それでよかったのである。

「そうだ、神崎先生が法廷で屁理屈こねてる間に新しい情報を入手しましたよ」
「君、雇い主の弁論を屁理屈だなんて言っていいと思っているのか? まぁいいや。それで、その情報っていうのは?」

 麻宮の無礼な振る舞いはいつものことだと諦めたのか、神崎は新しいニュースについて問いかけた。

「えぇ、それが中々奇妙な事件なんですよ。なんでも、ある男の死体が発見されて、犯人として捕まったのは妻。ですが、その女性は一貫して容疑を否認しています」
「それは普通に妻が殺したんじゃないのかい? アリバイが無かったり、何かしらの証拠が揃っていたから逮捕されたんだろう? 別段不思議なところは見当たらないが」
「ふっふっふ。私を誰だと思ってるんです?」

 腕を組み、偉そうに神崎に言った。

「生粋のミステリーバカ」

 早くしてくれ、と思っていた神崎は、ついうっかり本音を漏らす。しまった、と思った時にはもう遅かったが、意外にも麻宮は怒っていないようだった。それほど今回の事件のミステリー性に興奮しているのだろうか。

「し、失礼ですね。ミステリーに造詣が深い事務員と言ってください」
「はいはい。悪かったよ。それで、不思議な点っていうのは?」
「聞いて驚かないでくださいよ?」

 そう言って麻宮は大きく息を吸う。

「その男性は、自宅のリビングにいながら川の水を多量に飲み込んだ水死体で発見されたんですよ」
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