34 / 82
4章
34話:コンプレックスの坩堝
しおりを挟む
『ち、違う……! アタシじゃない!』
スサノオが放ったのは衝撃的な一言であった。ルルカが世界を終わらせた……これまで果たして誰がこのような想像をしただろうか。
しかし、のゐるはその矛盾にすぐに気が付いてスサノオの言葉を否定する。
『ち、違いますスサノオ先生! もしルルカさんが世界を滅ぼそうとしているなら、こうして塔を壊しに来てスサノオ先生を救おうとすることに辻褄が合いません!』
「そうか花咲先生。確かに的を射ている。事実僕も君たちと同じで塔を破壊しに来た訳だからな」
スサノオはのゐるのことを思い出した。彼は、あまりにものゐるの考えと自身の考えがかけ離れているものと覚えた。
「しかし……この女以外に誰がいる。この世界滅亡は明らかに機械の仕業だ。のゐる先生、君は頭にパッチがあることを知らされてこの塔の破壊に賛成したように見受けるが、思わなかったのか? 果たしてこの女が本当のことを言っているのかと」
「ど、どうしてスサノオ先生がそれを……!?」
『あ、アタシは嘘なんか言ってない……! アンタ一体何者なの……!?』
――ルルカがそれを問いただそうとした瞬間、耳を貫くほど大きな音声が、塔から聞こえてきたのであった。
『おやおやおや、これはこれは。スサノオ先生ではありませんか。相変わらず死んだ魚のような目をしてらっしゃる』
「お前は……!」
ヤクルはジェット噴射でスサノオの魔導バイクに近づき、塔のうえに発言者の正体を垣間見た。
そこに立っていたのは、一年前、飛行船のなかで大きなくちばし状のマスクをし、悟り切った発言を繰り返していたあのゴーレムであった。
『一年ぶりです。おや、コネ作家のヤクル先生もご一緒でしたか。お二人は相変わらず対照的ですね。お久しぶりです』
「く、くちばしマスク……!」
どうしてこんなところにいるのか、そのような質問は誰も飛ばす気にはなれなかった。このゴーレムが「敵」であり「支配者」側の勢力であることは誰の目にも明白だった。
『……誰アレ? ヤクルの知り合い?』
「ルルカに会う直前、俺たちにこの世界で生きていくようにいってたゴーレムだよ……!」
『えぇ! 覚えていてくださり光栄です! 私はいまこの塔の番人をしております! よろしくお願いします! それにしてもあれだけの量の黒鉄鋼の骸骨兵を相手にしてもなお無傷とは大したものです。どなたが私と手合わせ願えませんか?』
「フン、ボスがコイツとは……」
『はい、スサノオ先生。私がボスです。どうせこのスケルトンたちは空に飛ぶことができません。あなた方にとってそれを対処することは容易でしょうから、肩慣らしの相手が必要でしょう。それに私が倒れれば、この塔もスケルトンたちも諸々機能を停止します。先生方にとっても悪い話ではないと思いますが、いかがでしょうか?』
「スサノオ先生……俺、アイツと戦います。スサノオ先生! 離れていてください!」
ゴーレムからの申し出に対し、ヤクルは戦うことを承知した。スサノオは魔導バイクでヤクルから距離を取った。
「くちばしマスク! 俺が相手だ! 戦おう!」
『わかりました。それでは正々堂々私が、この世界に生き延びてしまった失敗作のお相手をいたしましょう』
そういうと、ゴーレムは、ヤクルの視線の先から消失した。
そして――次の瞬間、ヤクルの胴体は袈裟斬りにされる。スサノオの持つ斧槍と同じオレンジ色の閃光が、空中に剣の轍を残した。
「……ッ!!?」
ゴーレムが手に持つのは橙に発光する剣。先ほどの礼儀正しさはどこへやら、正確無比な一撃をヤクルへと放っていた。
『我々はいま迷っています。あなたたち人類を、生かすべきか殺すべきか。感情と人間の必要性について決めあぐねています。確かに合理的であることは正しい。しかし合理的を極めたところで、我々は人間を越えたと言えるのでしょうか』
ゴーレムのその早さは圧倒的な速度を誇るヤクルの認識を追い越すほどであった。攻撃の最中、自分たちの葛藤を吐露する。それは宣戦布告を兼ねた自己主張だ。
強い。ヤクルは塔を任されるほどの実力を持った先方へ、素直にそう思った。
『ですから生き延びる人類として作家を選んだのです。貴方たち作家は合理的な発想と感情的な発想を紡ぎ合わせて物語をつくる。我々機械族にとって創作は無益ですが、到底できないことでもあるのです。ですから私は尊敬しますよ。パッチの埋め込まれていない作家である貴方のことを』
ゴーレムは、この新世界に相応しい支配欲と、童話のピノキオが想うような人間への羨望で満ちていた。
機械は小説を評価することができない。それはゴーレムと妖精回路だけが理解できる、人間へ向けた強い劣等感であった。
スサノオが放ったのは衝撃的な一言であった。ルルカが世界を終わらせた……これまで果たして誰がこのような想像をしただろうか。
しかし、のゐるはその矛盾にすぐに気が付いてスサノオの言葉を否定する。
『ち、違いますスサノオ先生! もしルルカさんが世界を滅ぼそうとしているなら、こうして塔を壊しに来てスサノオ先生を救おうとすることに辻褄が合いません!』
「そうか花咲先生。確かに的を射ている。事実僕も君たちと同じで塔を破壊しに来た訳だからな」
スサノオはのゐるのことを思い出した。彼は、あまりにものゐるの考えと自身の考えがかけ離れているものと覚えた。
「しかし……この女以外に誰がいる。この世界滅亡は明らかに機械の仕業だ。のゐる先生、君は頭にパッチがあることを知らされてこの塔の破壊に賛成したように見受けるが、思わなかったのか? 果たしてこの女が本当のことを言っているのかと」
「ど、どうしてスサノオ先生がそれを……!?」
『あ、アタシは嘘なんか言ってない……! アンタ一体何者なの……!?』
――ルルカがそれを問いただそうとした瞬間、耳を貫くほど大きな音声が、塔から聞こえてきたのであった。
『おやおやおや、これはこれは。スサノオ先生ではありませんか。相変わらず死んだ魚のような目をしてらっしゃる』
「お前は……!」
ヤクルはジェット噴射でスサノオの魔導バイクに近づき、塔のうえに発言者の正体を垣間見た。
そこに立っていたのは、一年前、飛行船のなかで大きなくちばし状のマスクをし、悟り切った発言を繰り返していたあのゴーレムであった。
『一年ぶりです。おや、コネ作家のヤクル先生もご一緒でしたか。お二人は相変わらず対照的ですね。お久しぶりです』
「く、くちばしマスク……!」
どうしてこんなところにいるのか、そのような質問は誰も飛ばす気にはなれなかった。このゴーレムが「敵」であり「支配者」側の勢力であることは誰の目にも明白だった。
『……誰アレ? ヤクルの知り合い?』
「ルルカに会う直前、俺たちにこの世界で生きていくようにいってたゴーレムだよ……!」
『えぇ! 覚えていてくださり光栄です! 私はいまこの塔の番人をしております! よろしくお願いします! それにしてもあれだけの量の黒鉄鋼の骸骨兵を相手にしてもなお無傷とは大したものです。どなたが私と手合わせ願えませんか?』
「フン、ボスがコイツとは……」
『はい、スサノオ先生。私がボスです。どうせこのスケルトンたちは空に飛ぶことができません。あなた方にとってそれを対処することは容易でしょうから、肩慣らしの相手が必要でしょう。それに私が倒れれば、この塔もスケルトンたちも諸々機能を停止します。先生方にとっても悪い話ではないと思いますが、いかがでしょうか?』
「スサノオ先生……俺、アイツと戦います。スサノオ先生! 離れていてください!」
ゴーレムからの申し出に対し、ヤクルは戦うことを承知した。スサノオは魔導バイクでヤクルから距離を取った。
「くちばしマスク! 俺が相手だ! 戦おう!」
『わかりました。それでは正々堂々私が、この世界に生き延びてしまった失敗作のお相手をいたしましょう』
そういうと、ゴーレムは、ヤクルの視線の先から消失した。
そして――次の瞬間、ヤクルの胴体は袈裟斬りにされる。スサノオの持つ斧槍と同じオレンジ色の閃光が、空中に剣の轍を残した。
「……ッ!!?」
ゴーレムが手に持つのは橙に発光する剣。先ほどの礼儀正しさはどこへやら、正確無比な一撃をヤクルへと放っていた。
『我々はいま迷っています。あなたたち人類を、生かすべきか殺すべきか。感情と人間の必要性について決めあぐねています。確かに合理的であることは正しい。しかし合理的を極めたところで、我々は人間を越えたと言えるのでしょうか』
ゴーレムのその早さは圧倒的な速度を誇るヤクルの認識を追い越すほどであった。攻撃の最中、自分たちの葛藤を吐露する。それは宣戦布告を兼ねた自己主張だ。
強い。ヤクルは塔を任されるほどの実力を持った先方へ、素直にそう思った。
『ですから生き延びる人類として作家を選んだのです。貴方たち作家は合理的な発想と感情的な発想を紡ぎ合わせて物語をつくる。我々機械族にとって創作は無益ですが、到底できないことでもあるのです。ですから私は尊敬しますよ。パッチの埋め込まれていない作家である貴方のことを』
ゴーレムは、この新世界に相応しい支配欲と、童話のピノキオが想うような人間への羨望で満ちていた。
機械は小説を評価することができない。それはゴーレムと妖精回路だけが理解できる、人間へ向けた強い劣等感であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる