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7章
70話
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「三人とも待ってよ。まだ伝えたいことがあるんだ」
三人は楓の屋敷から出てきたところを、追いかけてきたヘミュエルによって止められた。
「ごめんね結局楓ちゃん、いいたいことしかいわなくってさ。まだ君たちも聞きたいことがあるよね。遠回りな説明だけど聞いてくれるかい?」
『伝えたいこと……?』
へミュエルの切り出した言葉にルルカが応じた。
「そうそう。まずね、このワンワールドで作家のヒエラルキーが高い理由を教えておくよ。っていっても、君たちにとってはライターズワールドのほうが聞きなじみがあるよね。ワンワールドっていうのはこの世界の総称のこと。そのうちの娯楽要素のひとつがライターズワールドっていうんだ。あとふたつが、キングダムワールドとギルドワールド」
『なるほど……それがどうして作家のヒエラルキーに繋がってくるの?』
「この世界で名前を挙げる方法が主に三つあることは知っているよね? 王政に従うか、ギルドに勤めるか、小説を書くか。どうしてそのなかに小説を書くことが選ばれたかというと、この世界が内部干渉によって拡張化されていることに、深い繋がりがあるんだ」
『あぁ、そうか……外から新要素を作り出すんじゃなくて、なかから作り出す必要がある世界観だから、新要素の依り代を小説にしてるんだ。誰かが思いついたことを、世界が汲み取っているってことでしょ』
「そうそう。さすがルルカちゃん。ただそれはみんなが思考汚染されてるみたいに、書かれた小説に従って生きているって訳じゃないよ。あくまで世界観にバリエーションを持たせるためにこんな風になっているんだけど、だからこそ、この世界で最初に遊ぶ人からいま遊んでいる人にまで、ずっと小説は慕われ続けているんだ。この世界の奥行きは小説家の頭脳によって構成されているといっても過言ではない。そして奥行きを維持するために、ヘミュエル四世とメイプルは小説家を匿ってきた」
ルルカの後ろで聞いていた二人は、驚愕の表情であった。
のゐるは、世界が小説を吸い上げていると聞き、まるで世界が妖精回路のように自律して考えているようだと捉えていた。
『……でも、たしかにそうでもなければ、小説がここまで慕われるような文化は形成されないよね。グジパン国以外の国では、小説家が王様よりも権力を持っているところもあるみたいだし、グジパンだってプロ作家になるだけで蔵が建つっていわれているからね……ヘミュエル四世が羨むのもわかるよ』
「そのヘミュエル四世だけれども、彼女はこのデバッグルームに来たかったんだ。だからシミュレーターとして、いま君たちが入っているカプセルを造った。なにせ彼女はスサノオの頭を覗いたときに、この世界の仕組みやデバッグルームの存在について知ったからね。まぁその知識は、俺がスサノオに生前デバッグルームについて勘付いた際に植え付けた知識なんだけれども」
へミュエルは時折褒めてほしそうに話すが、いまが緊急事態であるからか、恐らく控え目であっただろう。話を進めることを優先していた。
『そういえばここに来る前ヘミュエル四世が、自分の手柄みたいにステータスやメッセージウィンドウについて知ってるとか、そんな風に話してたのをアタシも聞いたよ。でも、なに? その、スサノオの頭を覗いたって……?』
「それなんだ。ヘミュエル四世は、スサノオと自分の教団員を戦わせて勝利し、スサノオをカプセルのなかに閉じ込めていたんだよ。そりゃあヘミュエル四世からすれば僕がつくった人造人間であるスサノオだし、ほしいだろうからね。ただ、スサノオは自我が強いのと鑑定のスキルを持っていたこともあって、自分でシミュレーターから出てヘミュエル四世を殺してしまったんだ」
スサノオが記憶を消されてもなおへミュエル四世をその場の判断で殺した、この信じられない事実にルルカは驚いた。
「へミュエル四世は、教団員たちの洗脳を、彼らが城から地上に降りたときにあえて解けるようにして、そのうえで復活の機会を待っていたんだよ。そうすれば洗脳の尾ひれが出ないからね。復活したことが悟られにくいし……流石に僕の四世を名乗るだけのことはあるよね。ただ、狡猾で自慢げだけど、案外そういうところ慎重だよね。あっさりスサノオに殺された癖に、死ぬ準備はしていたみたいでさ。元々人体改造に興味あったんだろうけど」
『……そっか、でもわかった。そこでスサノオはリルちゃんと面識を持った訳か』
「そう、ヘミュエル四世はリルとスサノオをシミュレーターのなかで戦わせて、データを取っていたみたいだよ。そしてスサノオがへミュエル四世に捕まる前に、このデバッグルームにアクセスする方法を書いた、物語調の備忘録が、呪文の載っているその小説だったという訳だよ。もっとも彼はそんなこと、ヘミュエル四世によって忘れさせられてしまったみたいだけどね」
『やっぱり。スサノオはアタシに、お前が世界を滅ぼしたんじゃないかってふっかけてきたんだよ……それは記憶が操作されていたからだったんだ』
「話を戻すよ。スサノオはいま自分が人造人間であるということを知らない。それどころか、妖精回路とゴーレムを一緒くたに憎んでいる。君たちも鉄塔を壊すときにスサノオに会ったよね? それはつまり、機械族殲滅のために彼なりに考えての行動だったってことなのさ。ちなみにいま、なにも知らないスサノオはメイプルを探している」
『……! 探しているってまさか……』
「スサノオは既に一度ヘミュエル四世に記憶を操作されていて、その操作の方法は、ヘミュエル四世からメイプルへと伝わってしまっている……ここでスサノオとメイプルが出会えば……わかるよね」
『メイプルに捕まるか……あるいは操られて、メイプルの手駒にされる……!』
「そう、メイプルは最後の仕上げにスサノオを使って生き残った作家たちを根絶やしにするつもりなんだ。そうして彼女は、自分は人間にも作家にも優った存在なんだと証明したがってる。だから君たちがこれから戦わなければならないのは、メイプルだけじゃない。メイプルとスサノオ。このふたりなんだよ」
「そんな……メイプルに並んでスサノオ先生までが相手なんて……ヘミュエルさん、私たちはどうすれば……!」
「そこで。実は君たちに会わせたい人がいるんだけど……」
三人は楓の屋敷から出てきたところを、追いかけてきたヘミュエルによって止められた。
「ごめんね結局楓ちゃん、いいたいことしかいわなくってさ。まだ君たちも聞きたいことがあるよね。遠回りな説明だけど聞いてくれるかい?」
『伝えたいこと……?』
へミュエルの切り出した言葉にルルカが応じた。
「そうそう。まずね、このワンワールドで作家のヒエラルキーが高い理由を教えておくよ。っていっても、君たちにとってはライターズワールドのほうが聞きなじみがあるよね。ワンワールドっていうのはこの世界の総称のこと。そのうちの娯楽要素のひとつがライターズワールドっていうんだ。あとふたつが、キングダムワールドとギルドワールド」
『なるほど……それがどうして作家のヒエラルキーに繋がってくるの?』
「この世界で名前を挙げる方法が主に三つあることは知っているよね? 王政に従うか、ギルドに勤めるか、小説を書くか。どうしてそのなかに小説を書くことが選ばれたかというと、この世界が内部干渉によって拡張化されていることに、深い繋がりがあるんだ」
『あぁ、そうか……外から新要素を作り出すんじゃなくて、なかから作り出す必要がある世界観だから、新要素の依り代を小説にしてるんだ。誰かが思いついたことを、世界が汲み取っているってことでしょ』
「そうそう。さすがルルカちゃん。ただそれはみんなが思考汚染されてるみたいに、書かれた小説に従って生きているって訳じゃないよ。あくまで世界観にバリエーションを持たせるためにこんな風になっているんだけど、だからこそ、この世界で最初に遊ぶ人からいま遊んでいる人にまで、ずっと小説は慕われ続けているんだ。この世界の奥行きは小説家の頭脳によって構成されているといっても過言ではない。そして奥行きを維持するために、ヘミュエル四世とメイプルは小説家を匿ってきた」
ルルカの後ろで聞いていた二人は、驚愕の表情であった。
のゐるは、世界が小説を吸い上げていると聞き、まるで世界が妖精回路のように自律して考えているようだと捉えていた。
『……でも、たしかにそうでもなければ、小説がここまで慕われるような文化は形成されないよね。グジパン国以外の国では、小説家が王様よりも権力を持っているところもあるみたいだし、グジパンだってプロ作家になるだけで蔵が建つっていわれているからね……ヘミュエル四世が羨むのもわかるよ』
「そのヘミュエル四世だけれども、彼女はこのデバッグルームに来たかったんだ。だからシミュレーターとして、いま君たちが入っているカプセルを造った。なにせ彼女はスサノオの頭を覗いたときに、この世界の仕組みやデバッグルームの存在について知ったからね。まぁその知識は、俺がスサノオに生前デバッグルームについて勘付いた際に植え付けた知識なんだけれども」
へミュエルは時折褒めてほしそうに話すが、いまが緊急事態であるからか、恐らく控え目であっただろう。話を進めることを優先していた。
『そういえばここに来る前ヘミュエル四世が、自分の手柄みたいにステータスやメッセージウィンドウについて知ってるとか、そんな風に話してたのをアタシも聞いたよ。でも、なに? その、スサノオの頭を覗いたって……?』
「それなんだ。ヘミュエル四世は、スサノオと自分の教団員を戦わせて勝利し、スサノオをカプセルのなかに閉じ込めていたんだよ。そりゃあヘミュエル四世からすれば僕がつくった人造人間であるスサノオだし、ほしいだろうからね。ただ、スサノオは自我が強いのと鑑定のスキルを持っていたこともあって、自分でシミュレーターから出てヘミュエル四世を殺してしまったんだ」
スサノオが記憶を消されてもなおへミュエル四世をその場の判断で殺した、この信じられない事実にルルカは驚いた。
「へミュエル四世は、教団員たちの洗脳を、彼らが城から地上に降りたときにあえて解けるようにして、そのうえで復活の機会を待っていたんだよ。そうすれば洗脳の尾ひれが出ないからね。復活したことが悟られにくいし……流石に僕の四世を名乗るだけのことはあるよね。ただ、狡猾で自慢げだけど、案外そういうところ慎重だよね。あっさりスサノオに殺された癖に、死ぬ準備はしていたみたいでさ。元々人体改造に興味あったんだろうけど」
『……そっか、でもわかった。そこでスサノオはリルちゃんと面識を持った訳か』
「そう、ヘミュエル四世はリルとスサノオをシミュレーターのなかで戦わせて、データを取っていたみたいだよ。そしてスサノオがへミュエル四世に捕まる前に、このデバッグルームにアクセスする方法を書いた、物語調の備忘録が、呪文の載っているその小説だったという訳だよ。もっとも彼はそんなこと、ヘミュエル四世によって忘れさせられてしまったみたいだけどね」
『やっぱり。スサノオはアタシに、お前が世界を滅ぼしたんじゃないかってふっかけてきたんだよ……それは記憶が操作されていたからだったんだ』
「話を戻すよ。スサノオはいま自分が人造人間であるということを知らない。それどころか、妖精回路とゴーレムを一緒くたに憎んでいる。君たちも鉄塔を壊すときにスサノオに会ったよね? それはつまり、機械族殲滅のために彼なりに考えての行動だったってことなのさ。ちなみにいま、なにも知らないスサノオはメイプルを探している」
『……! 探しているってまさか……』
「スサノオは既に一度ヘミュエル四世に記憶を操作されていて、その操作の方法は、ヘミュエル四世からメイプルへと伝わってしまっている……ここでスサノオとメイプルが出会えば……わかるよね」
『メイプルに捕まるか……あるいは操られて、メイプルの手駒にされる……!』
「そう、メイプルは最後の仕上げにスサノオを使って生き残った作家たちを根絶やしにするつもりなんだ。そうして彼女は、自分は人間にも作家にも優った存在なんだと証明したがってる。だから君たちがこれから戦わなければならないのは、メイプルだけじゃない。メイプルとスサノオ。このふたりなんだよ」
「そんな……メイプルに並んでスサノオ先生までが相手なんて……ヘミュエルさん、私たちはどうすれば……!」
「そこで。実は君たちに会わせたい人がいるんだけど……」
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