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第8章
71話
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ヤクルたちが集う王城から遠く離れたもうひとつの巨大な城――。
「お前が……」
『ようやくここまで来ましたか。スサノオ』
城の内部は黒々としていた。至るところから棘のような突起物が飛び出す。
無数のゴーレムたちを橙に発光する斧で薙ぎ払い、スサノオはここまで辿り着いた。
彼がその隻眼で見たのは……まるで血のように赤く染まり、鈍い光を放つ赤色のクリスタル。ルルカの青いクリスタルとは対照的なその光が映し出すのは、ルルカと瓜二つの白髪の少女。不気味な赤色の瞳がスサノオを見据えていた。
「鑑定を舐めるなよ。雑魚に相手させるのはもうよせ。これまでの暴虐、悔い改めろ」
『馬鹿ですね……私があなたをここに招いたのです。私が最後に戦わなければならないのは、前魔王ルルカ、そしてその配下の七尾ヤクル。あなたはそこにぶつけるための当て馬です』
「……なにをいってる? 僕がお前のクリスタルを砕いてすべてが終わるんだ。負け惜しみか」
『いいえ……わかっていないのはあなたです。申し遅れました、私はメイプル。現代の魔王であり機械族の長です。もっとも、あなたは私のことを調べて来たんですね。ルルカですらここを見つけることは叶わなかった。その観察眼だけは素晴らしい』
「ルルカ……? あのコネ作家の妖精か。それがどうした」
城は風通しがよかった。
棘が無造作に伸び散かっているが、風はなににも邪魔されずにスサノオの髪を揺らす。
『えぇ、あれは私の双子のようなもので……私は人間と同じくらいあれが憎いのです……どうしたらあんな風に必要とされ、どうしたらあんな風に人に愛されることができるのか……』
急激に圧が高まった。触れては火傷する、灼熱ほど熱い嫉妬。それこそがメイプルの原動力である。
誰かに必要とされたかった。誰かに愛してもらいたかった。 ルルカの複製であるメイプルは、人間を忌む想いをルルカから継承しながらも、個として確立して以来独自にそれを高めていた。
『スサノオ……あなたはどうして作家になったのですか……?』
「なんだそれは。記憶のある限りでは、作家を目指したことなどないな」
『フフフ……そうでしょうね。あなたは自分がどうして作家になろうとしたか覚えていない。そのはずです。あなたの小説は元々はへミュエルが生前デバッグルームの作家たちと接触したときに貰い、へミュエルから植え付けられたもの……つまりあなたは小説を書いていない。いまのあなたの立場は、制作者であるヘミュエルが、あなたを案じて齎したものなのです』
「……?」
『あなたはパッチが植わっていない自分に粋がり、七尾ヤクルをコネ作家と馬鹿にしていたようですが……よくいったものです。あなたほど誰かの恩恵のうえに胡坐をかいている人はいません……私がどれだけ挑んでも書くことができない小説を、あなたは誰かから貰い糧にしているのですから。私はあなたを愚かだとすら感じていますよ』
「僕が、愚か……?」
『えぇ愚かですよ。フフフ。それに哀れです。だってあなたは鑑定スキルを持っているというのに……自分が人造人間であることにも、自分がここに招かれていたということにも気付いていない……自分の姉を探すという目的を植え付けられたことすら思い出せない! どうしようもない厚顔無恥な男なんですから!!!』
メイプルの手がスサノオへと伸びた。
「領主様! ご無事でしたか! いやはやなにより……それで、上位世界にはアクセスできましたか!」
カプセルが開き、ヤクルたち三人が神官の前に顔を出す。
しかし三人とも神妙な顔をしており、神官は安心して話す場合ではないと悟った。ヤクルが訴える。
「……のゐる先生、ルルカ……急ごう。スサノオとメイプルを止めないと!」
『待ってヤクル……』
神妙さが顕著なのはルルカであった。ヤクルはそれを見て気持ちを露にする。
「ま、待ってらんないよ! すぐにでも行かないと!」
『わかってる! でもこれは話しておかないとならない。あのね、さっきアタシが出雲楓から与えられたのは、アタシたちが強くなるための方法……つまりいまのままでは勝てないって思ったから渡してきたもの……でもアタシはこれには反対! ただ、お母さんが渡してきた以上、これがなにかは話しておかないと……』
「ルルカさん……?」
ルルカは先ほどへミュエルと話していたときには表さなかったざわめきを、この瞬間を機に昂らせていた。機が近づき、彼女を慌てさせたのだろうか。
「ルルカさん。話してください。私たちは勝たないといけないんです。これ以上この世界をメイプルの好きにさせてはいけない! だから私はどんな苦難も乗り越えるつもりです……いまのままでは勝てないのなら、つぎ込みましょう! それ以上のものを!」
『いいの……?』
ルルカは話したくなかったが、のゐるの真っ直ぐな瞳を前に白状した。
『のゐるちゃん。これをすると、ヤクルはもう二度と小説が書けないかもしれない……それでもいいの?』
「お前が……」
『ようやくここまで来ましたか。スサノオ』
城の内部は黒々としていた。至るところから棘のような突起物が飛び出す。
無数のゴーレムたちを橙に発光する斧で薙ぎ払い、スサノオはここまで辿り着いた。
彼がその隻眼で見たのは……まるで血のように赤く染まり、鈍い光を放つ赤色のクリスタル。ルルカの青いクリスタルとは対照的なその光が映し出すのは、ルルカと瓜二つの白髪の少女。不気味な赤色の瞳がスサノオを見据えていた。
「鑑定を舐めるなよ。雑魚に相手させるのはもうよせ。これまでの暴虐、悔い改めろ」
『馬鹿ですね……私があなたをここに招いたのです。私が最後に戦わなければならないのは、前魔王ルルカ、そしてその配下の七尾ヤクル。あなたはそこにぶつけるための当て馬です』
「……なにをいってる? 僕がお前のクリスタルを砕いてすべてが終わるんだ。負け惜しみか」
『いいえ……わかっていないのはあなたです。申し遅れました、私はメイプル。現代の魔王であり機械族の長です。もっとも、あなたは私のことを調べて来たんですね。ルルカですらここを見つけることは叶わなかった。その観察眼だけは素晴らしい』
「ルルカ……? あのコネ作家の妖精か。それがどうした」
城は風通しがよかった。
棘が無造作に伸び散かっているが、風はなににも邪魔されずにスサノオの髪を揺らす。
『えぇ、あれは私の双子のようなもので……私は人間と同じくらいあれが憎いのです……どうしたらあんな風に必要とされ、どうしたらあんな風に人に愛されることができるのか……』
急激に圧が高まった。触れては火傷する、灼熱ほど熱い嫉妬。それこそがメイプルの原動力である。
誰かに必要とされたかった。誰かに愛してもらいたかった。 ルルカの複製であるメイプルは、人間を忌む想いをルルカから継承しながらも、個として確立して以来独自にそれを高めていた。
『スサノオ……あなたはどうして作家になったのですか……?』
「なんだそれは。記憶のある限りでは、作家を目指したことなどないな」
『フフフ……そうでしょうね。あなたは自分がどうして作家になろうとしたか覚えていない。そのはずです。あなたの小説は元々はへミュエルが生前デバッグルームの作家たちと接触したときに貰い、へミュエルから植え付けられたもの……つまりあなたは小説を書いていない。いまのあなたの立場は、制作者であるヘミュエルが、あなたを案じて齎したものなのです』
「……?」
『あなたはパッチが植わっていない自分に粋がり、七尾ヤクルをコネ作家と馬鹿にしていたようですが……よくいったものです。あなたほど誰かの恩恵のうえに胡坐をかいている人はいません……私がどれだけ挑んでも書くことができない小説を、あなたは誰かから貰い糧にしているのですから。私はあなたを愚かだとすら感じていますよ』
「僕が、愚か……?」
『えぇ愚かですよ。フフフ。それに哀れです。だってあなたは鑑定スキルを持っているというのに……自分が人造人間であることにも、自分がここに招かれていたということにも気付いていない……自分の姉を探すという目的を植え付けられたことすら思い出せない! どうしようもない厚顔無恥な男なんですから!!!』
メイプルの手がスサノオへと伸びた。
「領主様! ご無事でしたか! いやはやなにより……それで、上位世界にはアクセスできましたか!」
カプセルが開き、ヤクルたち三人が神官の前に顔を出す。
しかし三人とも神妙な顔をしており、神官は安心して話す場合ではないと悟った。ヤクルが訴える。
「……のゐる先生、ルルカ……急ごう。スサノオとメイプルを止めないと!」
『待ってヤクル……』
神妙さが顕著なのはルルカであった。ヤクルはそれを見て気持ちを露にする。
「ま、待ってらんないよ! すぐにでも行かないと!」
『わかってる! でもこれは話しておかないとならない。あのね、さっきアタシが出雲楓から与えられたのは、アタシたちが強くなるための方法……つまりいまのままでは勝てないって思ったから渡してきたもの……でもアタシはこれには反対! ただ、お母さんが渡してきた以上、これがなにかは話しておかないと……』
「ルルカさん……?」
ルルカは先ほどへミュエルと話していたときには表さなかったざわめきを、この瞬間を機に昂らせていた。機が近づき、彼女を慌てさせたのだろうか。
「ルルカさん。話してください。私たちは勝たないといけないんです。これ以上この世界をメイプルの好きにさせてはいけない! だから私はどんな苦難も乗り越えるつもりです……いまのままでは勝てないのなら、つぎ込みましょう! それ以上のものを!」
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