77億の異世界は俺が支配した~西高異世界探索部奇譚~

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第1章

4話:スカベンジャー

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 一行は、けたたましく鳴り響くサイレンから逃げ出し、どこか落ち着いて話すことができそうな場所はないかと、近所の公園へと歩みを進めていた。

「うーん、まさかパトカーと消防車と救急車が一緒に来るとは思わなかったねー虎太郎くん。思った? 乃乃佳は思いませんでした」

「誰かが教室に来る前に退散してよかったわ。でも普通あんな騒ぎ起こしたら本来すぐ誰か駆け付けるよな。ウチの高校がビビリってことなのかな……」

 答えのない虎太郎の疑問を尻目に、コウはダフネと話し続けていた。

「アンタ人間の姿にもなれるんだ」

 夕暮れが黒みを帯びてきてなお、コウの追求は止まらない。

「変身する能力だからな。貴様らにとってはこうして歩いた方が自然だろう?」

「まぁ。その言い方だと、あたしたちは人魚に殺される訳ではないんだ」

「……人魚はそれほど無粋な生き物ではない。それに、人魚か人間かと言うのは世界線によって異なる。貴様も別世界では別の生物として生きていたはずだ。と言うか、そもそも既にその記憶は持っているだろう?」

「まぁ……ね」

 そう言われた途端、コウの口ぶりが鈍った。彼女もほかの仲間たちも、この状況について感情が追い付かない部分があった。

 コウは話を逸らすように、自らが知っている公園へ一行を誘導した。



「で、あたしたちが死ぬって?」

 公園に辿り着いた。空に赤々と輝く丸い光源が街との境界線に落ち、影は膨らむようになった。

 街頭が明かりがぽつりぽつり灯りはじめて、スポットライトのようにダフネが座るベンチを照らす。

「とっとと続きを話せよ。俺まだ死にたくないんだけど」

「五月蠅い。虎太郎は黙ってて。話には順序ってのがあるの」

「は、はい……」

 再びコウが虎太郎を黙らせると、ダフネは先ほど語り損ねた話の続きを述べはじめた。

「先ほどすこし触れたが、魔法・魔術には魔力マナが必要だ。魔力マナは各世界のなかに満ち溢れ、ジグコード・ザグコードで記述した式によって自由に使うことができる。貴様たちは既にあの男からそれを用いた恩恵を受けているが、問題はだ」

「……スカベンジャー?」

 一行にとって聞き馴染みのない言葉だった。

「要するに死霊どもだ。人間は死ぬと死霊と化すが、それが魔力マナを求め世界線の垣根を越えて飛び回る。奴らは全身が魔力マナで構成されているが、人間からしか魔力マナを取り込むことができない。コードへの理解がなく、自分と親和性の高いものにしか干渉できないからだ」

 人間が世界から魔力マナを引く場合、膨大な知識が必要となる。

 しかし、スカベンジャーそのものは魔力マナとの親和性が高く、自らの魔力マナを感覚的に使うことができる。そうして魔術に近い能力を用いることができる。そうダフネは続けた。

「スカベンジャーは自らが元いた世界の魔力マナを原動力に動き回り、濃密な魔力マナを求める習性を持つ」

「つまり、あたしたちは会長になにかされた所為で、魔力マナを集めるようになってしまった。だからスカベンジャーに狙われるようになった。そんなとこか」

 ……面食らうほど反応を示した訳ではないが、ダフネはこの黒髪の女子高生に驚いていた。

 ダフネはコウへ魔力マナの説明をしていない。ザグコードとジグコードの違いについても、おおまかな話しかしていない。

 それだと言うのに正確な仮説を提示してきた。自分が死ぬと宣告されたにも関わらず、この勇敢さと客観性である。

 それも、ただ当てずっぽうで言っている訳ではない。コウはダフネがなにを話したいのかを即座に理解し、頭のなかで話題を組み立てている。

「……」

 魔法・魔術を使う者にとって、頭の良い者は脅威になり得た。先ほどの聡とダフネのやり取りからもあるように、ザグコードには人間の知識や感情、行動、思慮までもが自動記述される。

 しかし既にダフネは、日向聡からその解読の速度を越えられている。それはダフネからすれば本来、目覚めたばかりのルーキー相手にはあり得ないことだ。

 ダフネは既に聡だけでも手を焼いているが、コウまでもが聡と同等の度合いの脅威として自らに挑んで来るのではと思うと、正直聡だけ気にしたものではいられないと感じたものだった。

「……あぁ。先の影響で貴様たちは無意識に魔力マナを大きく吸い込んでいる。魔力マナを嗅ぎ付けたスカベンジャーは貴様たちを殺すことなど造作もない。だからあの男は私が面倒を見るように仕向けている。正直なところ私は部外者で責任を負う必要はないが、先ほど私とあの男日向聡の戦いで、異世界のスカベンジャーたちが私たちの存在に気付いた。私がいなければ貴様たちはたちまち殺されるだろう。こんなところだ、わからなければ更に深く説明してやるが」

「質問ある人いる? あたしは大丈夫だけど。あ、大丈夫だって。じゃあ次にみるちゃんのメールの内容について……」

 乃乃佳と虎太郎は手を挙げていたが無視された。

「無視すんな!」

「そうだ! 乃乃佳にちゃんと教えろ! ベベベンザーってなんだ! 便座のお化けか! 竜巻う〇ちして飛んでくんのか!」

 コウとダフネが「スカベンジャー」と訂正するも、乃乃佳にはまだ理解できなかった。

「大体魔法とか魔術とか言われたって乃乃佳が信じられる訳ないだろ! そんなのあるかー! 嘘吐き人魚! ベベベンザーってなんだよ! 大体聡くんがそんな危ないことする訳な……」

「糸田!」

 これまで寡黙さを貫いて同行していた糸田志朗が空を切り、十メートル先の滑り台に叩きつけられた。

「ちょっとまだ乃乃佳が喋ってるんだ……け、ど……?」

「ぐがッ……!」

 志朗は巨漢だ。身長百七十五センチの長身を誇って西高に入学して来た虎太郎が、それほど接点が多くないにも関わらず入学当初から絶対に喧嘩をしたくないと感じていた人物であった。
 人柄も頭もよく優しい性格だが、あまりにも体格が良すぎて近寄りがたい。

 その志朗が宙を舞った。体重は百キロに近い。それを容易に吹き飛ばすと言う事態を信じられない虎太郎は、思わずその名を叫んでいた。

「な、なにアレ……!」

「みる、動かすぞ。手すり掴まれ」

 よくはわからないが、とにかく距離を取る必要があった。

 みるを気遣い、虎太郎は急いでその車椅子を押す。虎太郎は急いで逃げることができない彼女のことを守ってあげたかった。
 
 化物が現れた、比喩ではない。人間を型取った人間のようななにかだ。

 黒いローブを身に纏いその容姿を隠してこそいるが、隠し切れていないところから現れるのは骨の体躯。





 これだけ見れば死神のようだが、腕が多く、足も多い。右手、左手、右足、左足が二本ずつその身体から伸びており、そして二重の両手にそれぞれ古びた剣を握る。

「雑魚は下がってろ、狙いは私だ」

 ダフネが前に出た。相手は一体。

「ダフネさん! 危ないですよ! 逃げましょう!」

 車椅子からみるが心配そうな声を上げる。ただ、ひとり立ち向かうダフネは、全くその死霊に怯んでいない。寧ろ向かうところ敵なしと言わんばかりだ。

 彼女が右手をぎゅっと握り締めると、その手は水色の光を放ち、光は一本の棒を形作る。

 それをきっかけに人間のものであった下半身は繊維のようにほどけ、たちまち元の人魚の姿を取り戻した。

「逃げる? 馬鹿を言うな、此処で逃げては人魚が廃る」

 ダフネが言ったときには、棒は三又の槍となっており、死霊へと向いていた。

「逃げてッ!」

 みるの叫びに反し、ダフネはスカベンジャーと衝突した。

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