次の街に行きたい旅人は、街一番の女商人に執着されて永遠に旅立てない

やまなみ

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9.新しい旅へ

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その後、俺とコロネは、とんとん拍子に結婚の準備を進めることになった。


俺の本意ではなかったとはいえ、コロネの覚悟を見せられ、コロネの貞淑を奪い、傷つけた俺には、もはや断る理由がなかった。


結婚が決まってからのコロネの行動力は凄まじく、あっという間にカペレイア商会の関係者や街の有力者たちへの挨拶が済み、結婚式の準備も着々と進んでいった。

挨拶の度に、「やっと結婚するのか」と言う様なリアクションばかりされるので、街の人間からすると、俺達の関係は公然の事実ということになっていたらしい。

それはコロネの根回しもあるのだろうが、今までの俺達の関わりを、案外街の連中がしっかり見ていたこともあるのかもしれない。



渦中の俺はというと、言われるがままに衣装合わせをしたり、式の段取りの説明を受けたりするばかりで、どこか他人事のような気分だった。


まさか自分が、このアイオニオン・ニュクスの街で、街一番の女主人と夫婦になることは、つい数週間前までは完全に諦めていたからな。



結婚式当日、街は大いに賑わった。

カペレイア商会の影響力の大きさもあって、領主をはじめ、多くの人々が俺たちの門出を祝ってくれた。


純白のウェディングドレスに身を包んだコロネは、息をのむほど美しかった。


強気で、いくつもの困難な修羅場をくぐり抜けてきた彼女が、緊張した面持ちで俺の隣に立っているのを見ると、不思議な感慨があった。




立会人の前で誓いの言葉を交わし、指輪を交換する時、初めて実感が湧いた。




ああ、本当に俺は、この女性と人生を共にするんだと。






新婚生活は、予想していた以上に甘美で、そして刺激的なものだった。


朝、隣で眠るコロネの柔らかな髪に触れる瞬間が、何よりも幸せだった。



朝食は二人で食卓を囲み、その日の仕事の予定を話したり、たわいのない会話を楽しんだりする。


コロネは朝から元気に満ちていて、商会の仕事へと出かけていく。


俺はというと、数カ月町を出るためにあがいていたり、結婚の準備やらで、しばらく中断していた遺跡調査を再開することにした。


もちろん、このアイオニュオン・ニュクスの町周辺の遺跡はあらかた調査し終えたから、今は国全体に調査範囲を広げている。



遺跡調査は危険が多い。

古代遺跡の調査とは、実質的に魔物や古代魔術がひしめいている、高難易度ダンジョンの調査にほかならない。

ほんの少しの油断が、自分も仲間も即死するような危険な状況への片道切符になりうる。


俺は以前と同じように、この危険な仕事を続けている。




以前と違うのは、コロネの存在が常に頭の片隅にあることだった。



危険な場所へ行くときは、必ず彼女に報告する義務があるし、彼女が手配してくれた熟練の護衛も同行する。

いざというときのために、緊急で遺跡から退避できるような特殊な魔導具(目を疑うような高級品)をいくつも渡された。


最初は「過保護すぎるんじゃないか?」と思ったけれど、彼女の心配そうな顔を見ると、さすがに何も言えなくなった。


彼女にとって、俺の安全は自分の命と同じくらい大切なのだと、ひしひしと感じている。



調査は町から随分と離れたところで行われるが、移動手段もコロネが用意してくれた。

首都から一流の魔術師を呼び寄せて、アイオニュオン・ニュクスの町に直結された魔法陣を、わざわざ作成してくれたのだ。


おかげで、遠くの調査でも、当日中にコロネの下に帰ることができる。


1日の調査から帰ると、コロネが温かい食事を用意して待っていてくれる。その日常が、何よりも心地よかった。



もちろん、夫婦生活は全てが平穏というわけではなかった。


コロネは商会の長として、常に多くの問題を抱えている。


他の町のライバル商人との駆け引きや、自然災害や魔物の襲撃で輸送中の商品が破壊されるような、予期せぬトラブルに見舞われることも少なくない。


そんな時、当然俺もコロネのピンチが乗り越えることができるように全力で解決にあたる。

だが、最近はコロネ一人で解決できて、俺の出る幕じゃない場面も増えた。



そんな時にできることは、静かに話を聞いて、彼女の不安を少しでも和らげることくらいだった。

時折、俺はコロネの役に立っているのだろうかと不安になるときがあるが、それでも彼女は「リベル様がいてくれるだけで心強い」と言ってくれた。




大きな組織の長として、彼女は強い心を持っている。

しかしそれでも俺は彼女の強さの裏にある孤独を知っている。

コロネは、本当はとても寂しがり屋なのだ。


だから、少しでも彼女の支えになりたいと、心から思っている。

俺の遺跡調査も、以前よりも大きな進展を見せていた。

コロネが全面的に後押しをしてくれて、以前はそれぞれの町に着いたら、都度面倒な許可を得る必要があったのだが、今では国内の遺跡はほぼフリーパスで立ち入る特権を手に入れた。


おかげで町をまたいだ大規模な遺跡の調査も、スムーズに進むようになった。



発掘現場では様々な発見があり、古代の遺物や文字を解読する日々は、世界の滅亡を防ぐ使命感だけでなく、本来の旅人としての俺の探求心を大いに満たしてくれた。


時折、俺が見つけた奇妙な紋様や古代の呪文についてコロネに話すと、彼女は目を輝かせて興味を示し、商会のネットワークを駆使して関連する情報を集めてきてくれる。

それだけでなく、遺跡調査の際に見つけた貴重品を見繕って、商品として交易ルートに載せることもあった。

この商品は、どれも高い価値を認められ、やがて商会の主要な販売品目の一つになった。




俺たちは、お互いに忙しい日常の合間にも、時折ただ2人で一緒に過ごす時間を取った。

コロネとは何をするわけでもなく、ただ一緒に時間を過ごすだけでも心が安らいだ。


彼女は、俺の使命の危険さを理解しつつも、「あなた一人で背負う必要はありません。私も共に戦います」と力強く言ってくれた。

その言葉は、コロネに会うまで、ずっと孤独に戦ってきた俺にとって、何よりも心強いものだった。



街の住人たちとの交流も、以前より増えた。


コロネの妻として紹介されることが多くなり、その夫として、厳しくも温かい言葉をかけてもらうたびに、この街が俺の第二の故郷になったのだと感じた。

時には、コロネと共に街の慈善活動に参加したり、商会の催しを手伝ったりすることもあった。

かつては孤独な旅をしていた俺が、今は多くの人々に囲まれて生きている。


その変化は、コロネがもたらしてくれたものにほかならない。




もちろん、『厄災』の影が完全に消えたわけではない。


高難易度のダンジョンを何とか探索し、その報酬としての古代の文献や遺跡から、その存在を暗示するような記述が見つかることもあった。

時間と金をかけて、探索した古代遺跡の深部が、まったくのもぬけの殻で、探索が完全に無駄に終わることもあった。



そんな時、やはり「もっと急がないと」というふうに、どうしても俺は焦燥感に駆られてしまう。


だが、今はもう一人じゃない。

隣には、共に困難に立ち向かう覚悟を持ったコロネがいる。



彼女となら、どんな困難も乗り越えられると信じている。




さらに数年が過ぎ、俺とコロネの間には、言葉では言い表せないほどの深い絆が結ばれていた。


それは、新しい家族が増えるという形で現れた。



「リベル様」

ある朝、俺がコロネに呼びかけられると、彼女の表情はいつもと違っていた。

不安と期待が入り混じったような表情で、俺の名を呼ぶ。


「どうした?」

彼女の声色に何かを感じた俺は、急いで彼女の側へと駆け寄った。


「あの……実は……」

コロネは照れくさそうに目を伏せた後、ゆっくりと口を開いた。


「妊娠…したみたいなんです」


彼女の言葉に、一瞬言葉を失う。

新しい命が、俺とコロネの間に芽生えている。


「まじか……」


俺は驚きと喜びが入り混じった感情に浸りながら、そっと彼女の肩を抱き寄せた。


「ありがとう」


コロネの頬に手を添え、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。

もう、俺も覚悟を決めた。


彼女とこの新しい命のために。

もう、逃げることはない。


「これからは、俺もこの子の父親として、お前たちを守っていくよ」


俺の言葉に、コロネは涙ぐみながらも微笑んだ。



その笑顔は、まるで満開の花のように美しかった。



俺が街から逃げようとしたことで、コロネには、寂しい思いをさせてしまった。

それは確かに彼女を想っての判断ではあった。

だが、今振り返ると、俺は楽な道を選んだのだろう。



コロネから逃げずとも、彼女と一緒にこの街にとどまり続け、苦楽を共にすることはできたのだ。



それをしなかったのは、ただ、失うことを恐れた俺の弱さだ。

彼女と一緒にいることよりも、彼女を失う可能性に怯えた。

だが、コロネは恐れながらも、俺と一緒にいることを受け入れた。


俺がしっかりしないでどうする。



「リベル様、私はあなたに出会えて本当に幸せです」


コロネは優しく俺の手を握りしめた。

その手は温かく、そして力強かった。


「どんな困難があっても、私たちなら乗り越えられます。

これまでも、これからも。

今度は、もう一人守る子ができました。

一緒に、この子を守り育てましょう」

「ああ、そうだな」


俺はその手をしっかりと握り返した。

コロネの瞳に映る未来は、希望に満ち溢れていた。


それは、ただの楽観ではない。

この先の試練を知った上で、それでも俺との未来を望んでいる目だった。


彼女と共に歩むこの道が、どんな試練をもたらそうとも、俺たちならば乗り越えられる。


「コロネ」

「はい」

「愛している。

これからもずっと、俺の側にいてくれ」


俺の言葉に、彼女は嬉しそうに頷いた。

「もちろん。

私はあなたと共に歩みます。

ずっと、ずっと、ずっと…」




彼女との未来には、まだまだ多くの困難が待ち受けていることだろう。

古代の厄災も、まだまだ解決には遠い。


だが、俺はもう一人ではない。


コロネと一緒にいる限り、どんな困難も乗り越えてみせる。



俺達の旅は、これからも続いていくのだ。











======
※あとがき


9話目。
最終話です。

結局結婚して、末永く幸せに暮らしたそうです。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

今後も愛の重い系女子を小説・イラストで作っていくので、
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