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厄介ごとの火種
燻り
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パチパチ パチパチ パチッ……
黒い焚き火の中で、薪が小さく音を立てて跳ねる。
薪といっても燃えているのは木ではなく、鉄で出来た缶だ。食べ終わった缶詰の缶を、プロミの物質を燃やす炎で燃やせば無駄が無い。
それに気づいてからは空き缶の焚き火が私達の夜の基本スタイルになっていた。
プロミの炎は引火したものが燃え尽きるまで消えない為、途中で焚き火を止められないのが欠点だが、燃料を別に持ち歩く必要のないという利点は大きい。
それに、これはこれで風情があって悪く無いものだ。
「まぁ、少し見飽きている節はあるがな……」
「? なんの話? 」
「いや、何でもない」
「そう。なら良いけど」
別にそれほど気になってはいなかったのかそれ以上聞いてくることもなくプロミがまた空き缶の焚き火を見つめる。
プロミのすぐ隣に座ったカナタは缶詰の中身で空腹が満たされて満足したのか、プロミにもたれかかり小さく寝息を立て始めていた。
カナタを拾ってから5日目の夜。
灰の荒野での夜が穏やかに更けていく。
「はぁー」
カナタを寝袋に運ぶと、プロミは焚き火の前にまた腰を下ろし、ため息を吐いた。
「いやー、見つからないもんだね。次の街」
「意外と前の街が最後の街だったのかもしれんな」
「世界でってこと? ナチャは良いかもしれないけど私はやだなー、寂しいし」
「私はプロミが居れば寂しく無いぞ? 」
「……ふふっ、そうだね。やっぱり、私も人はいた方が良いけど、ナチャたちが居れば寂しくはないや」
プロミがマフラーに半分顔を埋めて笑う。
その顔を見ると、もし終わりの時が実際に来ても案外私達は変わらず笑っているのかもしれない、と思えた。
「まあでも。寂しくなくても補給は必要なんだよね」
「そうだな…… そろそろ食糧も尽きるが、何か妙案はあるのか? 」
当初の想定より抑えられてはいるが、既に手持ちの食糧は4日分程度しか残っていない。
このままではカナタが家に帰る前に、私達全員が灰に還ってしまう。
「……アルヨ? 」
プロミが思いっきり私から顔を逸らす。
「無策なんだな」
「……はい」
「やはり地道にカナタの思いの炎を辿る他無いか 」
背後の火柱を見やる。
着火した時から昼夜を通して燃え続けた火柱は、もう半分ほどの大きさになってしまっていた。
足跡に残った残留思念程度ではやはりこんなものだろう。
「……やっぱり変だよね」
「変……カナタの足跡のことか」
「そう」
プロミがすっくと立ち上がった。
一瞬バランスを崩してプロミの肩から落ちそうになるが、どうにか踏みとどまる。
「ここまで5日間ほとんど休まなく火柱を辿ってきたはずなのに、まだここからあんなにある」
プロミが私達の進行方向を指差す。
そちらにもやはり、これまでの道のりと同じように、火柱が気の遠くなるほど並んでいた。
「殆ど手ぶらのカナタが何故この距離を歩いて来れたのか。ミステリーだな」
「長期間食事にありつけなかった体には見えなかったしね。実は本気を出すとめちゃくちゃ足が速いとか? 」
「それなら平和で良いんだがな」
あの短い足を使い、カナタが私達の何倍もの速度で走り回っている姿を想像しクックッ、と笑いが少し溢れた。
似たような事を想像したのか、プロミもフフ、と笑う。
「……ん、んむぅ」
焚き火の側の寝袋で寝るカナタが、小さくうめいた。
「あ、まずい」
言ってからプロミが両手で自分の口を塞ぐ。
どうやら少しうるさくし過ぎてしまったようだ。
ここしばらく2人旅だっただけに、ついついそこら辺の意識は緩んでしまいがちだな。
「仕方ない、寝るか」
「そうだね。カナタちゃんが寝不足になったら困るし」
ナレットブーツと分厚いコートを脱ぎ、プロミが私を肩に乗せたまま、カナタの寝袋の横に並べておいた寝袋にもぐずり込む。
焚き火の燃える音色を聴きながら、プロミの体温に包まれ、私はゆっくりと目をつぶった。
●
ようやく眠ったか。
カラスなんて珍しい鳥を持ってるぐらいだ。物資の方も期待できるな。
「……楽しみだぜ」
自分のことながら、言葉に反し自分の口から出た声が予想以上に冷たく沈んだものだった事に驚く。違う。もっと明るく言うんだ。
俺は今から物資を手に入れられる。最高だろうが。
でないと、押し潰されてしまう。
「楽しみだ」
もう1度噛み締めるように呟く。
心の底から湧き上がる冷たいヘドロのような感情に、薄っぺらい喜びがコーティングされるのが分かった。
そして、いつもの如く足跡をひそめ、俺は旅人たちの元への接近を開始した。
黒い焚き火の中で、薪が小さく音を立てて跳ねる。
薪といっても燃えているのは木ではなく、鉄で出来た缶だ。食べ終わった缶詰の缶を、プロミの物質を燃やす炎で燃やせば無駄が無い。
それに気づいてからは空き缶の焚き火が私達の夜の基本スタイルになっていた。
プロミの炎は引火したものが燃え尽きるまで消えない為、途中で焚き火を止められないのが欠点だが、燃料を別に持ち歩く必要のないという利点は大きい。
それに、これはこれで風情があって悪く無いものだ。
「まぁ、少し見飽きている節はあるがな……」
「? なんの話? 」
「いや、何でもない」
「そう。なら良いけど」
別にそれほど気になってはいなかったのかそれ以上聞いてくることもなくプロミがまた空き缶の焚き火を見つめる。
プロミのすぐ隣に座ったカナタは缶詰の中身で空腹が満たされて満足したのか、プロミにもたれかかり小さく寝息を立て始めていた。
カナタを拾ってから5日目の夜。
灰の荒野での夜が穏やかに更けていく。
「はぁー」
カナタを寝袋に運ぶと、プロミは焚き火の前にまた腰を下ろし、ため息を吐いた。
「いやー、見つからないもんだね。次の街」
「意外と前の街が最後の街だったのかもしれんな」
「世界でってこと? ナチャは良いかもしれないけど私はやだなー、寂しいし」
「私はプロミが居れば寂しく無いぞ? 」
「……ふふっ、そうだね。やっぱり、私も人はいた方が良いけど、ナチャたちが居れば寂しくはないや」
プロミがマフラーに半分顔を埋めて笑う。
その顔を見ると、もし終わりの時が実際に来ても案外私達は変わらず笑っているのかもしれない、と思えた。
「まあでも。寂しくなくても補給は必要なんだよね」
「そうだな…… そろそろ食糧も尽きるが、何か妙案はあるのか? 」
当初の想定より抑えられてはいるが、既に手持ちの食糧は4日分程度しか残っていない。
このままではカナタが家に帰る前に、私達全員が灰に還ってしまう。
「……アルヨ? 」
プロミが思いっきり私から顔を逸らす。
「無策なんだな」
「……はい」
「やはり地道にカナタの思いの炎を辿る他無いか 」
背後の火柱を見やる。
着火した時から昼夜を通して燃え続けた火柱は、もう半分ほどの大きさになってしまっていた。
足跡に残った残留思念程度ではやはりこんなものだろう。
「……やっぱり変だよね」
「変……カナタの足跡のことか」
「そう」
プロミがすっくと立ち上がった。
一瞬バランスを崩してプロミの肩から落ちそうになるが、どうにか踏みとどまる。
「ここまで5日間ほとんど休まなく火柱を辿ってきたはずなのに、まだここからあんなにある」
プロミが私達の進行方向を指差す。
そちらにもやはり、これまでの道のりと同じように、火柱が気の遠くなるほど並んでいた。
「殆ど手ぶらのカナタが何故この距離を歩いて来れたのか。ミステリーだな」
「長期間食事にありつけなかった体には見えなかったしね。実は本気を出すとめちゃくちゃ足が速いとか? 」
「それなら平和で良いんだがな」
あの短い足を使い、カナタが私達の何倍もの速度で走り回っている姿を想像しクックッ、と笑いが少し溢れた。
似たような事を想像したのか、プロミもフフ、と笑う。
「……ん、んむぅ」
焚き火の側の寝袋で寝るカナタが、小さくうめいた。
「あ、まずい」
言ってからプロミが両手で自分の口を塞ぐ。
どうやら少しうるさくし過ぎてしまったようだ。
ここしばらく2人旅だっただけに、ついついそこら辺の意識は緩んでしまいがちだな。
「仕方ない、寝るか」
「そうだね。カナタちゃんが寝不足になったら困るし」
ナレットブーツと分厚いコートを脱ぎ、プロミが私を肩に乗せたまま、カナタの寝袋の横に並べておいた寝袋にもぐずり込む。
焚き火の燃える音色を聴きながら、プロミの体温に包まれ、私はゆっくりと目をつぶった。
●
ようやく眠ったか。
カラスなんて珍しい鳥を持ってるぐらいだ。物資の方も期待できるな。
「……楽しみだぜ」
自分のことながら、言葉に反し自分の口から出た声が予想以上に冷たく沈んだものだった事に驚く。違う。もっと明るく言うんだ。
俺は今から物資を手に入れられる。最高だろうが。
でないと、押し潰されてしまう。
「楽しみだ」
もう1度噛み締めるように呟く。
心の底から湧き上がる冷たいヘドロのような感情に、薄っぺらい喜びがコーティングされるのが分かった。
そして、いつもの如く足跡をひそめ、俺は旅人たちの元への接近を開始した。
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