【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢、お祭りに誘われる

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「おひゃえりひゃな、さきにひただひふぇふぞ」

 帰宅すると、焼きそばを口に詰め込んだ樹くんが、至極真面目そうな顔でそう言った。

(お帰り華、先にいただいてるぞ、かな……)

「今日は焼きそばかー」
「ごめんね華ちゃん、なんだかウチの子供が小学生だった頃の癖で、気がついたら夏休み期間は焼きそばか素麺作ってるのよ」
とは八重子さん。なるほど。

「あは、でも私、焼きそば好きだから大丈夫です」
「今日は海鮮だぞ!」

 嬉しそうな樹くん。
 私はキッチンで手を洗って、樹くんの前に座った。
 八重子さんが焼きそばのお皿を出してくれる。まだアツアツだ。

「いただきまーすっ」

 早速口に運ぶ。

「このソースっ、いつものと違う! イカによく絡むっ」

 私が思わずそう言うと、八重子さんは「ごめん、いつもと同じよ」と笑った。

 食後にメロンクリームソーダを、お庭で海を眺めながらいただくことにした。
 太陽を反射してキラキラ輝く湘南の海は、今が盛りと言わんばかりだ。

 八重子さんがクリームソーダを用意してくれている間に、私たちはサンルームの前の芝生にパラソルを開いて、椅子を並べ、足元には水を張ったタライを設置した。

「おいしー」
「うむ」

 八重子さんのメロンクリームソーダには、きっちりサクランボが乗っている。
 もちろん缶詰の、真っ赤なサクランボだ。バニラアイスは手作りらしい。ちょうど良い甘さ。古き良きメロンクリームソーダ。

「やっぱり、サクランボがなくちゃね……」
「うむ」
「サクランボがないクリームソーダなんて、生卵の乗ってないローストビーフ丼のごとしよね」
「正にその通りだ、華。素晴らしい例えだ。古代中国なら石に刻み石碑としていただろうな」
「えへ、そんなぁ……」

 なんとなく、樹くんに褒められるのが気持ちよくなってきた昨今である。危ない危ない。変な関係になっちゃう。

「ところで、華」
「なぁに?」

 横に座る樹くんを見る。
 心なしか、さっきまでより、少し真剣な目をしていた。

「来週なのだが、縁日に行かないか」
「縁日? ……お祭り?」
「そうだ。ウチの近くの神社のお祭りで、なかなか賑やかで楽しい。……その、華さえ良ければ、なのだが」
「あー……それって夕方から?」
「? ああ」
「うーん、じゃあ難しい、かも」

(照明で明るいだろうから大丈夫かなぁ、そういう問題でもないだろうなぁ)

 夜道歩けない問題である。

「夜間の送迎なら、うちの運転手に頼めそうだが」

(運転手さんとかやっぱいるんだ、あの家)

 なんせ1000万する錦鯉がいる(予想)ようなご家庭だからな……。運転手の1人や2人。

「や、ううん、えっとね、私夜道が怖いんだよね」
「夜道?」

 樹くんは軽く首を傾げた。

「うん、多分。てかね、夜の室外に出るのがそもそも苦手……っぽい、かな」
「……そうなのか」
「ごめんね?」
「いや、構わない。苦手なものを強要したくはない」
「……ありがとう」

(こういうとこ、ほんと小学生離れしてるっていうか)

 ワガママを言わない、というより、言えない、のだろう。

(多分、ゲームでも言及されてた、あの不安感のせいで)

 ワガママを言えば、嫌われてしまうのではないか、という不安があるんじゃないだろうか、と予想してみる。

(うーん)

 とはいえ、無理してお祭りに行っても気を使わせるだけだろうしなぁ、などと考えていると、樹くんが口を開いた。

「じゃあ、その代わり……その日の夜、遊びに来てもいいか?」
「え、それは構わないけど」

 私はまじまじと樹くんを見つめた。

「お祭り行けなくて、つまらなくない?」

 樹くんは微笑んだ。

「華といる方が楽しいし、……ちょっと考えがあるんだ」
「考え?」

 そう聞き返すと、樹くんは少し悪戯っぽく微笑んだ。

「まだ秘密だ」
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