【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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その15分前(side黒田健)

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 俺があのクソガキにスニーカーをぶん投げた、その15分くらい前、俺はさがらんと合流していた。

「いなかったッスか?」
「うーん、どうやらね」

 1番上にある、という一ノ峰上社までの道はここから二手に分かれている。一ノ峰上社で交わり、ぐるりと円を描くような道になっているのだ。
 なので、俺とさがらんは二手に分かれて登って行き、一ノ峰上社合流後も念のため二手に分かれて降りてきたのだが。

(いない、か)

 さっきのオッサンどころか、人っ子ひとり、みかけない。

「うーん、やっぱ下、かな?」
「ですかね」

 俺はスマホを確認するが、秋月たちからの連絡はない。

「とりあえず、降りようかぁ」

 その、のんびりした声に少し気が抜ける。

「…….うっす」
「ところでさ」
「はい」
「黒田くんって設楽さん好きだよね?」

 唐突にそう言って、さがらんは少しだけ微笑んだ。

「はい」

 良く見てんなこの先生、と思いながらそう返事をする。

「え、あ、その辺フツーなんだ?」
「はい?」
「慌てたりしないなって」
「別に隠してないッス」
「へえ」

 階段を下りながら、会話を続ける。

「その割に、告白したりはしないんだ?」
「自信ないんで」
「ないの?」
「全然」
「でもアピールはしてる?」
「気づかれてないっすけど」
「鈍感だよねぇ」
「鈍感ッスね」
「アピールして気づかれるのはいいの?」
「多分ズルい考え方なんすけど」

 俺は一息、置いた。

「きちんと告んねぇ限り、断られたりしねーじゃないっすか」

 さがらんは一瞬、首を傾げて「ああ」と言った。

「振られたくないけど、気持ちには気づいて欲しい?」
「……ッス」

 はっきり言われると、自分でもなんとウジウジした考え方だ、と情けなくなる。

(俺らしくねー)

 分かってはいるが、どうしたらいいか分からなくなって。

「……なんか」

 つい、口を開いたのは誰かに聞いて欲しかったからだろう。

「好きになればなるほど、もう訳わかんなくなってて」
「うん」
「初めてなんで、こういうの」
「へぇ」

 さがらんは少し、目を細めた。
 その感情はうまく読めない。

(このヒト、なんかつかみどころねーんだよな)

 いい先生には、違いないんだろうけども。

「さっきの」
「はい?」
「自信ない、ってどうして? 黒田くんってさ、こういう言い方は生徒に対して適切か分かんないけど、クラスの中心格だし、けっこーイケメンだと先生は思うし、背も高いし、空手もこないだ関東で準優勝してたでしょ? 自信持っていいと思うけど」
「……あいつの、結構仲良い、その、友達、に」

 許婚、なんて言っていいものかどうか。

「相当男前で俺より背ぇ高くて金持ちでサッカー日本代表候補のやつがいるんす、もちろん小学生のですけど」

 設楽が以前、言っていた。嬉しそうに、樹くんナショナルトレセン行くんだよって。

「え、まじ」
「まじっす」
「そうかぁ……」

 さがらんは腕を組んだ。

「比べちゃってる?」
「バリバリっす」
「敵わないなぁって?」
「……そっすね」

(そもそも、許婚って時点で諦めなきゃなんかもしんねーけど)

 無理だ。
 俺はふう、と息を吐いた。

(つか、あの小5もなぁ)

 甘え上手っぽいし。ホイホイ設楽もほだされそうな感じもする。

(今頃手ぇ出してねーだろうな)

 ちょっと不安になる。

「Who dares wins、って言葉があって」

 さがらんはまた唐突に言った。

「ふー?」

 自慢じゃないが英語は苦手だ。

「うんとね、"敢えて挑んだ者が勝つ"かな」
「挑んだ者だけが」
「そ」

 さがらんは笑った。

「逆転ホームランは、バット振らなきゃ生まれないよ」
「……うっす」
「まぁ、あの鈍感ちゃん相手だからねぇ。まずは意識してもらって、なのかな」
「は、ですね」

 少しニヤリと笑ってしまう。

「頑張ってアピール続けて、でもそれでも気付かないようなら一度告白してみなよ」
「うー、あー、はい、そっスね」
「僕ねぇ」

 さがらんは寂しそうな目をした。

「それしなくて、後悔したことあったから」
「……? 好きだった人、結婚しちゃったとかですか?」
「ううん、死んじゃった」

 ざぁ、っと強い風が吹いた。
 新緑がきらきらと揺れた。

「告白しとけばよかったなーって」
「…….すんません、なんか」
「ううん、僕こそ暗い話してごめんね。なんか設楽さんさ、その人に雰囲気似てるんだよね。特に鈍感なとことか」

 さがらんはにこっ、と笑うと「あ、あれ設楽さんたち?」と言った。
 見ると、少し下に設楽と小5の姿が。

(予想通りのことしてくれてんじやねぇぞ)

「あんのクソガキ」

 そして俺は靴をぶん投げたのである。
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