【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢は追跡される(side黒田健)

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 「……、パーキングエリアに寄ろうか」

 高速を走り出してすぐ、親父がそう言った。

「なに? まだ高速乗ったばかりじゃない」

 母さんは不服顔だ。そもそも親父、ナビ無視で少し迷ったし。

「華ちゃん乗せてるんだからあまり遅くならないでよね」
「ああ」
「あ、じゃ、私お手洗いに」

 設楽は笑って言った。多分気を使って、だろう。
 パーキングエリアに駐車してすぐ、親父は何かを母さんに小さく言っていた。
 母さんは少しだけ目を見開いたあと、小さく頷いて微笑む。

「一緒にお手洗いいこうか、華ちゃん」
「あ、はい」

 4人で車を降りて、2人がトイレに入ったのを確認してから、親父は女子トイレと男子トイレの間の壁近くに立った。

「便所行かねーの」
「…….体育館の駐車場を出てしばらく走ってから」
「は?」
「2台後……要は1台挟んで後ろということだが、その車がずっと同じだった。気づいてたか?」
「……いや」
「都内は混んでたし、高速に入っても常に、だ。おそらく尾けられている」

 俺は驚いて親父を見た。

「……どれかな」
「どれ?」
「いや、尾けられる心当たりがありすぎて」
「マジかよ」

 普段どんな仕事してんだこのオヤジ。

「……設楽かもしんねー」
「なぜ」
「勘」

 そう答えておきながら、脳裏に浮かんだのは、さがらん。それから、久保。
 久保はもういないけど、似たようなやつはいるかもしんねーと思う。
 さがらんも、なんかな。

(何か裏がある)

 何か悪さしようって訳でもなさそうではある、が。

「そうか」

 親父は腕を組んで考えた。

「じゃあ飯を食おう」
「あ?」
「尾行に気づいているのを気取られるのが一番マズイ」
「そういうもんか」
「尾けてきた車もそこに止まっている。しばらく様子を見よう」
「分かった」

 そう返事をした時、2人がトイレから出てきた。

「おまたせしました」

 微笑む設楽。

「いや、……ところで華さん、夕食良ければここで食べていきませんか。少し早いですが」
「え? あ、はい大丈夫です。家に電話だけしていいでしょうか?」
「もちろん」

 設楽は相変わらずのお子様ケータイで通話を始めた。

「あ、敦子さん? 今お友達のご家族といるんだけど、お夕飯に誘われてて。うん。また帰るときに連絡します」

 通話を切って「大丈夫でした」と言う設楽に、母さんが尋ねた。

「敦子さん?」
「あ、おばあちゃんなんですけど、おばあちゃんって言うと怒るんです」

 少し面白そうに言う設楽。

「あ、なるほどね~。あたし孫になんて呼んでもらおうかな」
「ふふふ気が早いな、でも俺はじいじがいいかな」
「じゃあ、ばあば」
「なんの話してんだあんたらは。飯食うんだろうが」

 俺は少しいらついて突っ込んだ。

「いいじゃないの」
「腹が減っているんだろう、まったく成長期ってやつは」
「そうだよね、お腹すいてるよね。黒田くんなに食べる?」

 三者三様の答え。
 俺は両親を無視して設楽に答えた。

「設楽は何食いたい?」

 和食レストランと、フードコートと併設してある。

「私、なんでも」

 設楽の腹が、ぐうとなる。

「……あは」
「フードコートでいいか」
「うん」

 両親も異存はないようで「何にしよう」とすっかり通常モードだ。

(尾けられてるかも、ってんのに)

 親父はものすごくリラックスしているように見える。もしかしたらこれでも警戒してんのか。

「華さんと同じ店のメニューにしろ、会計も離れるな」

 ぽそり、と耳元で言われる。やはり警戒モードではあるらしい。
 返事はせず、頷くだけに留めた。3千円渡される。

「華さんのぶんも」
「……足りるかな」
「そんなに腹減ってるのか健」
「いや、設楽。あいつクソほど食うよ」
「はっはっは、冗談が上手くなったな」

 結局。

「おやじー、やっぱ足んねぇー!」
「いやいやいや黒田くん、私自分の分は出すからっ」
「はっはっはっいいさいいさ、どうせ健がとんでもない量を食べてるんだろう、成長期はそれでいいんだ」

 親父はすぐに寄ってきて差額を払う。

「す、すみません、奢っていただけるなんて思ってなくて、私欲望のままに注文を」

 番号札を握りしめて、設楽は申し訳なさそうに言う。

「なにを言うんです、たくさん食べなさい」

 にこにこ笑う親父。

(こいつ、設楽の食欲が底なしだって知らねーからな)

 俺は少し面白くなる。どんな反応すんのかな親父。
 ニヤリとしたとき、俺と設楽の番号が呼ばれて、受け取り口へ向かう。

「うう……食欲しかない人間だと思われちゃう……」
「いや他に何があんだ設楽に」
「うう……」

 冗談だったのだが、まじめに受け取られてしまった。

「アホか。他にも色々あんだろ、良いとこ」
「例えばあ?」

 ちょっと拗ね顔だ。いちいち可愛くて腹がたつ。

「食いもん美味そうに食う」
「一緒じゃない!?」
「良いことだろが」
「そうかなぁ」

 まぁ悪くはないよね、と設楽。

「あとはまぁ、……優しい、とか」
「優しいかなぁ」

 不思議そうな顔。

「割と周り見てる」
「あは、ほんと?」
「話してて、楽しい。俺は」
「あ」

 設楽は笑う。

「私もそれ思う、黒田くんに」
「お前俺を殺す気か」
「え!? なぜに!?」
「知るか」

 俺はぶっきらぼうに言いながら番号札を受付のおばさんに渡す。設楽も不思議そうにしながら続いて、お盆を受け取る。

「すげーな」
「……うん……」

 親父たちが待つテーブルに戻ると、親父と母さんは「……、ほんとに入るの?」と訝しげに言った。

「……ハイ」
「こいつヨユーだよこんくらい」
「うう」

 設楽のお盆には、チャーシューメン(大)餃子定食(ミニチャーハン付き)に単品の唐揚げと杏仁豆腐。
 ちなみに俺は醤油ラーメン(大)の唐揚げ定食、チャーハン大盛り。試合後の俺と同じくらいか、それ以上食べるってすげえ。まぁ食ってる時の表情可愛いのでいいと思う。

(こないだのアイス、やばかったな)

 新幹線で俺が食わせたアイス。
 
(俺って変な性癖でもあんのかな)

 好きな子がモノ食ってるの見るのが好きって、どうなんだ。よくわからん。

「小さい頃からそんな感じ?」

 親子丼を食べながら、母さんは面白そうに聞く。

「あ、はい……どうなのかな、多分」

 設楽は笑いながら答えた。開き直ることにしたらしく、もりもり食っている。いいことだ。

「この子もね、昔から良く食べる子でね」

 母さんは笑う。

「1歳くらいだったかなぁ」
「はい」
「おばーちゃんちに行っててね、ちょっと目を離した隙に、お仏壇の花、もしゃもしゃ食べてて」
「えー!?」

 楽しそうに設楽は俺を見た。

「何だよその話、やめろよなんか」

 俺は少し眉を寄せる。
 なんで好きなヤツに俺の小さい頃のやらかしたエピソードを聞かせねぇといけねーんだ。

「いいじゃない」
「お花とか焦りますね」
「そうなのよ、もう何食べてるか分かんなくて慌てて病院連れてって」
「大変でしたね」

 設楽はちらりと俺を見た。からかうように笑う。

「覚えてねーし」
「そりゃそうでしょ。ほら、他にもさ、アンタ3歳くらいだったかな、チーズ食べたすぎて、野菜室と冷凍室の引き出し階段みたいにして上がって、冷蔵庫の扉開けてチーズむさぼり食べてたことも」
「だからなんなんだよその俺のほんわかエピソードは」
「この子にも知恵あんのね、と感心した記憶がね」
「バカにしてんだろ」
「アンタにも可愛い頃あったんですアピールよ」
「何のためだよ」

 俺ははぁ、とため息をつきながらラーメンをすすった。
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