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悪役令嬢は美味しそうなお魚が好き
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夏。海。水族館。
「やから園やって」
「水族園」
なんとなく「館」のほうがいい慣れているので「水族園」って言いにくい。
「まぁどっちでもええねんけど」
「まぁね」
私とアキラくんは、神戸の水族園はいってすぐの大水槽の前に立っていた。
分厚いアクリル版の向こうの、薄い水色の綺麗な水の中を、大きな美味しそうな魚や、よく分からない亀、エイのようでエイじゃなさそうな……魚……? が泳いでいる。
(樹くんなら分かるかな?)
さすがに全部は分かるまい……えっ分かるかな?
「俺結構こういうの、美味そうって思ってまうタイプなんよな」
アキラくんが笑いながら言う。
「あは、私も」
「お、気ぃあうな」
「あれとか絶対美味しい」
「分かるわ」
のんびりと美味しそうなお魚を眺める。
今日はアキラくんと遊ぶ日。
朝から新神戸まで迎えに来てくれたアキラくんと、一日水族園で遊ぶのだ。
ぶらぶらと順路に沿って移動する。ふと手を繋がれて、見上げるとにこっと笑われた。笑い返す。相変わらず女の子扱いしてくれる。小学生にして既に慣れてるよなぁ、なんか。
「お姉さん元気?」
「おう、クッソ元気。腹立つわ」
「腹立つの?」
「朝からうるさかったで、あーだこーだなんやかんや」
「なにそれ」
ぼんやり光る水槽に囲まれた、薄暗い通路。そこで魚を覗きながら、ふふ、と笑うと、アキラくんは困ったような顔をした。
「あいつだけやないねん、まだアイツの上に2人おんねん」
「え、三人兄弟だと思ってた」
弟がいる、ってのは病院いる時から聞いてたし。
「5人。姉姉姉俺弟や」
「おお、賑やかそう。こないだのお姉さんは何番め?」
「サツキな。あいつ3番目。ミツキ、イツキ、サツキ。弟ユウキで俺だけキの位置ちゃうねん、画数がどうので」
「あ、友達と同じ名前。イツキ」
「ほんま? 伊勢エビの伊に希望の希?」
「あ、漢字は違うかな」
「まぁ珍しい読み方よな。普通はお月様の月やんなぁ。あ、つか、賑やかいうかなぁ、あいつらは」
アキラくんははぁ、とため息をついた。
「……強いんや」
「強い」
「ひとりひとり、やったらそうでもないねん。3人揃ったらヤバイねん」
「そうなの?」
「お陰で女子の扱い方慣れてもーた……、華はちゃうで? 華は特別やで?」
「あは、ありがと」
真剣な目で言ってくれるアキラくんにお礼を言いつつ、アキラくんの女子あしらい(?)が上手な訳が分かってちょっと納得した。
「てっきり女の子とお付き合いとか、たくさんしてるのかと」
「は」
アキラくんは呆然と私を見つめた。
「ないで、俺。華、俺小5やで、女子と手ぇ繋ぐんも華が幼稚園以来やし」
「え、あ、そうなの? 友達とか普通に彼氏いたりしたから」
今時の小学生はお付き合いとか普通にしてるもんかと。
「や、おるやつもおるし、俺も欲しいけど」
「彼女欲しいんだ?」
アキラくんが可愛らしくて、つい悪戯っぽく笑う。
「当たり前やん、好きな子と付き合いたい思うんは普通やろ?」
「いるの?」
「気付いとらんのは奇跡やで」
「うっそヒントあった?」
「自信無くすわ」
「えっ」
私はアキラくんに向き合って目を見る。
「自信持っていいとおもう!」
「そういうとこやで華」
アキラくんは私に手を伸ばそうとして、それからはぁ、とため息をついて「せやけどセンセに怒られたからなぁ」とブツブツ言っていた。
「なに?」
「とりあえず頑張るいうことや」
伸ばしかけて戻していた手を、私の頭に乗せて、髪をぐちゃぐちゃにする。
「きゃーー」
「華なんかブサイクになってまえ、そしたら」
「うう、なぁに?」
「そしたら、俺以外に華のこと、」
「あれ山ノ内」
後ろから声をかけられて、振り向く。
40代手前くらいの背が高い男の人が、2歳くらいの子を抱っこして立っていた。
「うげ、コーチ」
「何してんねんお前騒ぐなや。つか女子の頭ぐちゃぐちゃにすんな」
「なんでいるんすか」
「家族サービスや」
「山ノ内くんこんにちは、デート?」
コーチの後ろから、女の人も歩いてくる。お腹が大きい。奥さんだろう。
「あ、うっす。てかだいぶ大きくなったっすね」
「もう産まれてもいいんだけどね~」
そう言って奥さんはお腹を撫でた。それから私を見て「こんにちは」と笑ってくれた。
「こんにちは」
私もぺこりと頭を下げて言う。
「あれ、この辺の子ちゃうね?」
「あ、はい、神奈川です」
「神奈川ぁ?」
コーチが反応する。
「なんで来とんの?」
「え、あ、遊びに?」
「ははーん」
意味深にコーチはアキラくんを見た。
「騒がれても何されてもキツイ反応せんと笑って穏便に済ませてた山ノ内が、何でもキッパリ断るようになった原因はもしやキミやろか?」
「キッパリ断る?」
私はつい首を傾げた。
(ゲームでのアキラくんは、少なくとも最初の段階では、来るもの拒まずって感じだったけど)
「せやねん。前は付き合って~とか言われてもそのうちな、みたいな感じやってスカしててんけど、今は無理! の一点張りや」
「そらそでしょ。好きちゃうやつにキャーキャー言われても嬉しいタイプちゃいますやん、俺」
「他のやつにお前殺されるぞ、しかもそれがクールでいいとか言われとるやん」
コーチは呆れたように笑った。
(アキラくん、何があったか分からないけど……、ゲームでの性格とちょっと変わってきてる?)
だとすれば、それはいいことなのかな。悪いことじゃなさそうではあるけど。
(嫌なことは嫌ってハッキリ言わなきゃね)
「ま、あんまハメ外さんようにな」
コーチたちは手を振りながら先に進んでいく。抱っこされてた2歳くらいの子が、にこっと笑って手を振ってくれた。
(か、可愛い~っ)
つい頰が緩んで、にやにやと締まりのない顔で手を振り返す。
「華、子供好きなん?」
「すっごい好き」
前世では姪っ子とよく遊んだ。友達の子供とかとも。
(みんな元気に成長してるかしら……)
なんとなく、遠く前世へ想いを馳せたりしてみた。
水族園の、仄暗い雰囲気がそんな気分にさせたのかもしれないなぁと思う。
「やから園やって」
「水族園」
なんとなく「館」のほうがいい慣れているので「水族園」って言いにくい。
「まぁどっちでもええねんけど」
「まぁね」
私とアキラくんは、神戸の水族園はいってすぐの大水槽の前に立っていた。
分厚いアクリル版の向こうの、薄い水色の綺麗な水の中を、大きな美味しそうな魚や、よく分からない亀、エイのようでエイじゃなさそうな……魚……? が泳いでいる。
(樹くんなら分かるかな?)
さすがに全部は分かるまい……えっ分かるかな?
「俺結構こういうの、美味そうって思ってまうタイプなんよな」
アキラくんが笑いながら言う。
「あは、私も」
「お、気ぃあうな」
「あれとか絶対美味しい」
「分かるわ」
のんびりと美味しそうなお魚を眺める。
今日はアキラくんと遊ぶ日。
朝から新神戸まで迎えに来てくれたアキラくんと、一日水族園で遊ぶのだ。
ぶらぶらと順路に沿って移動する。ふと手を繋がれて、見上げるとにこっと笑われた。笑い返す。相変わらず女の子扱いしてくれる。小学生にして既に慣れてるよなぁ、なんか。
「お姉さん元気?」
「おう、クッソ元気。腹立つわ」
「腹立つの?」
「朝からうるさかったで、あーだこーだなんやかんや」
「なにそれ」
ぼんやり光る水槽に囲まれた、薄暗い通路。そこで魚を覗きながら、ふふ、と笑うと、アキラくんは困ったような顔をした。
「あいつだけやないねん、まだアイツの上に2人おんねん」
「え、三人兄弟だと思ってた」
弟がいる、ってのは病院いる時から聞いてたし。
「5人。姉姉姉俺弟や」
「おお、賑やかそう。こないだのお姉さんは何番め?」
「サツキな。あいつ3番目。ミツキ、イツキ、サツキ。弟ユウキで俺だけキの位置ちゃうねん、画数がどうので」
「あ、友達と同じ名前。イツキ」
「ほんま? 伊勢エビの伊に希望の希?」
「あ、漢字は違うかな」
「まぁ珍しい読み方よな。普通はお月様の月やんなぁ。あ、つか、賑やかいうかなぁ、あいつらは」
アキラくんははぁ、とため息をついた。
「……強いんや」
「強い」
「ひとりひとり、やったらそうでもないねん。3人揃ったらヤバイねん」
「そうなの?」
「お陰で女子の扱い方慣れてもーた……、華はちゃうで? 華は特別やで?」
「あは、ありがと」
真剣な目で言ってくれるアキラくんにお礼を言いつつ、アキラくんの女子あしらい(?)が上手な訳が分かってちょっと納得した。
「てっきり女の子とお付き合いとか、たくさんしてるのかと」
「は」
アキラくんは呆然と私を見つめた。
「ないで、俺。華、俺小5やで、女子と手ぇ繋ぐんも華が幼稚園以来やし」
「え、あ、そうなの? 友達とか普通に彼氏いたりしたから」
今時の小学生はお付き合いとか普通にしてるもんかと。
「や、おるやつもおるし、俺も欲しいけど」
「彼女欲しいんだ?」
アキラくんが可愛らしくて、つい悪戯っぽく笑う。
「当たり前やん、好きな子と付き合いたい思うんは普通やろ?」
「いるの?」
「気付いとらんのは奇跡やで」
「うっそヒントあった?」
「自信無くすわ」
「えっ」
私はアキラくんに向き合って目を見る。
「自信持っていいとおもう!」
「そういうとこやで華」
アキラくんは私に手を伸ばそうとして、それからはぁ、とため息をついて「せやけどセンセに怒られたからなぁ」とブツブツ言っていた。
「なに?」
「とりあえず頑張るいうことや」
伸ばしかけて戻していた手を、私の頭に乗せて、髪をぐちゃぐちゃにする。
「きゃーー」
「華なんかブサイクになってまえ、そしたら」
「うう、なぁに?」
「そしたら、俺以外に華のこと、」
「あれ山ノ内」
後ろから声をかけられて、振り向く。
40代手前くらいの背が高い男の人が、2歳くらいの子を抱っこして立っていた。
「うげ、コーチ」
「何してんねんお前騒ぐなや。つか女子の頭ぐちゃぐちゃにすんな」
「なんでいるんすか」
「家族サービスや」
「山ノ内くんこんにちは、デート?」
コーチの後ろから、女の人も歩いてくる。お腹が大きい。奥さんだろう。
「あ、うっす。てかだいぶ大きくなったっすね」
「もう産まれてもいいんだけどね~」
そう言って奥さんはお腹を撫でた。それから私を見て「こんにちは」と笑ってくれた。
「こんにちは」
私もぺこりと頭を下げて言う。
「あれ、この辺の子ちゃうね?」
「あ、はい、神奈川です」
「神奈川ぁ?」
コーチが反応する。
「なんで来とんの?」
「え、あ、遊びに?」
「ははーん」
意味深にコーチはアキラくんを見た。
「騒がれても何されてもキツイ反応せんと笑って穏便に済ませてた山ノ内が、何でもキッパリ断るようになった原因はもしやキミやろか?」
「キッパリ断る?」
私はつい首を傾げた。
(ゲームでのアキラくんは、少なくとも最初の段階では、来るもの拒まずって感じだったけど)
「せやねん。前は付き合って~とか言われてもそのうちな、みたいな感じやってスカしててんけど、今は無理! の一点張りや」
「そらそでしょ。好きちゃうやつにキャーキャー言われても嬉しいタイプちゃいますやん、俺」
「他のやつにお前殺されるぞ、しかもそれがクールでいいとか言われとるやん」
コーチは呆れたように笑った。
(アキラくん、何があったか分からないけど……、ゲームでの性格とちょっと変わってきてる?)
だとすれば、それはいいことなのかな。悪いことじゃなさそうではあるけど。
(嫌なことは嫌ってハッキリ言わなきゃね)
「ま、あんまハメ外さんようにな」
コーチたちは手を振りながら先に進んでいく。抱っこされてた2歳くらいの子が、にこっと笑って手を振ってくれた。
(か、可愛い~っ)
つい頰が緩んで、にやにやと締まりのない顔で手を振り返す。
「華、子供好きなん?」
「すっごい好き」
前世では姪っ子とよく遊んだ。友達の子供とかとも。
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