【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢はカピバラに似ている

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 屋上にはふれあいスペースがあって、私のテンションはちょっと上がってしまう。いやかなり、かも。

「カピバラ!?」
「せやねん可愛いよな」
「うん」
「ちょっと華に似てるわ」
「……!?」

 わ、私、本格的に怪しくなってきたぞ、悪役令嬢顔面スペック。

(中身が中身だから、外見にも影響を及ぼし始めた……!?)

 ちょっとショックを受けつつも、可愛らしく餌を食むカピバラを見ているとホンワカした気分になってくる。

「かわいー、癒される」
「癒されるて、なんか疲れてんの」
「いやほらさ、」

 私はうふふ、と笑う。

(ちょっとからかってみようかな、なんて)

「アキラくんにはカピバラに似てるとか言われちゃうし?」
「は!? いやちゃうねん雰囲気が! このなんかホワホワした雰囲気がやな!」
「いーの。どうせ私はネズミ目テンジクネズミ科」

 看板を見つつそう答えてみる。

「ちゃうねん~、可愛らしいいう意味やん、ほんまに」
「あは」

 思わず吹き出す。そんな必死にフォローしなくても。

「からかったんかいな!」
「うん」
「やっぱこうしたる、こうや!」

 アキラくんはまたもや私の髪に手を突っ込んで、思いっきりかき回す。

「あはは、やめてよ」
「その上にこうや」

 ほっぺたを軽くつねられる。びよーん、って。

「ひゃめてよう」
「こんなしても可愛いんやから反則やで」
「あは」

 まぁカピバラだからね。美人的可愛さは私には求められてないんだろうなぁ。いいけど。悪役令嬢顔面スペックが勿体ない気もするけど、中身が中身だからなぁ。

「あ、コーチさん」
「ほんまや」

 屋上に併設されているカフェで、のんびりしている奥さんとコーチ、コーチに抱っこされたまま寝ちゃったお子さん。

「いいよねぇ、ああいうの。憧れちゃうなぁ」

 髪をなんとなく整えつつ、呟く。

(小学生女子が憧れるには早いかな?)

 ちらりとアキラくんを見上げると、あまり見たことのない表情をしていた。

(? どうしたのかな)

「……俺なぁ」

 ぽつり、と口を開くアキラくん。

「うん? どうかした?」

 私は急に自信なさげな口調になったアキラくんに、そう返事をした。

「おとんがな、あんま家おらんねん」
「? そうなの?」
「仕事めっちゃ忙しくてな、まぁおかんも姉ちゃんらも弟もおるし、じいちゃんばあちゃんとも一緒に住んでるからな、寂しいなんか思ったことないねんけど。休みの日大体ずっとバスケしとるし」
「うん」
「やから……俺、将来結婚して子供できても多分、どう接したらええか分からん」
「そっかぁ……」
「俺のイメージの父親て、寝てるか、スーツやわ」

 少し困ったように私を見るアキラくん。
 私は首を傾げた。

「そのままのアキラくんでいいんじゃない?」
「そのまま?」
「うん、私とかと接してくれてる、素のままのアキラくん」
「素なぁ」
「うん、いいパパになれそうって思うけど」
「……ほんま?」
「うん」

 私が微笑むと、アキラくんは少し安心したように笑う。

「華にそう言ってもらえると、めっちゃ自信つくわ」
「ほんと?」

 これでも中身はアラサー、いろんな男を見てきたからね! アキラくんは太鼓判押しちゃう!

「ちなみに、お父さん何してる人?」

 そんなに忙しいなんて。

「おとんは公務員」
「公務員なのに?」

 イメージ的には定時退社、って感じだけど。

「いっそがしい時は深夜の2時退勤とからしいわ。朝はフツーに出勤してく」
「嘘でしょ」

 私なら睡眠不足で死んじゃう……!

「えと、ごめん、公務員って……差し障りなければ」
「ああ、すまん、差し障りなんかないねん。検事してるわおとん」
「検事」
「刑事ちゃうで、検察のほう」
「うわー」

 お、お忙しそう……!

「でもカッコいいお仕事だよね?」
「よう分からんわ」

 アキラくんは肩をすくめた。

「ま、おとんはどうでもええねん。イルカ見に行こ、イルカ」

 気分を変えるように言うアキラくんに、私も明るい声で答える。

「イルカ見たい!」
「ここのショー結構楽しいんや」

 アキラくんのその言葉通り、イルカショー、かなり楽しかった……!
 イルカたちの頑張りはもちろん、だけど。

「ふんふんふーん」

 鼻歌が止まらない。

「めっちゃハマってるやん」

 爆笑するアキラくん。

「ハマってもらえて良かったわ」
「あの歌止まらないね」

 ショーの冒頭で流れる歌がすっかり気に入った私です。
 ご機嫌な私たちは、手を繋いでその歌を歌いながら水族園を次々見ていく。ペンギン、アザラシ、なんかよく分からない淡水魚、それから。

「ピラニア?」
「今から餌落とすらしいで」
「えええどうなるのっ」
「食べるんちゃう」
「そりゃそうだけどっ」
「うおー」
「うわぁ」
「え、あんな群がる?」
「うわぁ。歯」
「俺アマゾン生まれやなくて良かったわ」
「ね……」

 ただ現地では美味しくいただくとの噂も聞いたことがある。たしかに美味しそうなんだよな、ピラニア……。塩焼きとか美味しそう。

「あ」

 と、唐突にアキラくん。

「なに?」
「そういや、浜にイルカおるらしいわ」
「え? 野生?」

 私は少しびっくりして聞き返した。

「ちゃうちゃう、なんか海にプール作ってあるんやって、イルカ用の。ほんで泳がせとるみたいやわ。みる?」
「え、見たい」
「ほないこ。浜行くかな思てサンダル持って来てるで、華のぶん」

 アキラくんと手を繋いで、水族園を出る。再入場のスタンプを手に押してもらった。ブラックライトで光るらしい。

「あ」
「どないしたん?」
「忘れないうちにお土産見とこうかなって」

 私は水族園の入り口を振り向いて言う。帰りはバタバタして忘れそうだ。新幹線の時間もあるし。

「ほな戻る?」
「ううん、すぐ済むから先行ってて」
「ほな場所確保しとくわ」

 手のスタンプを見せて、再入場する。
 すぐ近くのお土産やさんで、いくつかお土産を買った。樹くんにはリュウグウノツカイの小さなぬいぐるみ(喜ぶかなぁ?)、ひよりちゃんと秋月くんには色違いのイルカストラップ(露骨すぎ?)、黒田くんにはサメのタオル(タオルもらっちゃったし)。それからアキラくんにも、ご家族で分けられるように缶に入ったクッキー。
 大きめの籠バッグに押し込んで、早足で浜に向かう。

「……んんん?」

 私は遠目でアキラくんを発見して、首を傾げた。

「お姫様だっこ?」
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