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悪役令嬢はブチ切れる
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要は「自分の許婚はもう華で決定なのでアナタたちの入る隙はないですよ」というのを宣言しに来てくれていたようだ。
(どうなるか分からないけどね?)
青井さんのことは、私の勘違いだったとはいえ。
「何かあったら言え、華」
旅館のロビーで樹くんは言った。
「いつかみたいに、黙っているのとかは本当にナシだ。分かったか?」
「う、うん」
久保のことだと思う。
その件に関しては反省しているので、素直に頷いた。
「じゃあ、華、また。そうだ、1日の新年会は何時までだ?」
「多分お昼の2時とか、かな?」
「では迎えに来るから、一緒に初詣へ行こう」
「うん!」
そう約束をして、ロビーで別れる。外までは暗いし寒いから来るなと言われた。相変わらず優しい。
ガラス越しに車を見送って、踵を返す。
(すぐに戻りたくないなぁ……)
さすがにシュリちゃんの口撃、ちょっと辟易してたのだ。別に傷つくとかはないんだけど。
ちょっとお散歩して戻ろう、とひんやりした館内を、ぺたぺたと歩く。
バーやカフェも入っているみたいだが、閉まっていた。
(貸し切りだもんね)
カフェの前でぼうっとしていると、従業員の方が寄ってきて声をかけてくれた。
「お開けしましょうか」
「あ、いえ、大丈夫です。すみません」
ぺこりと頭を下げて、さらに奥へ進んでみる。
「わぁ」
大露天風呂へ続く、長い廊下。床以外が全て格子状の木枠に嵌った窓ガラス。日本庭園が眺められるようになっていて、庭で松明がぱちぱちと燃えているのが見えた。
その手前の休憩スペース、昔ながらの囲炉裏がすえられたそこの、木製のベンチに、小柄な男の子がぽつんと座っていた。
(……?)
不思議に思いながら近づくと、男の子はぴくり、と顔を上げる。
(……、圭くん)
間違いない、"ゲーム"の攻略対象で華の"義弟"、常盤圭くんがそこにいた。
(……食事会の名簿に名前は無かったけど)
私は首を傾げながら近づく。
「えと、こんばんは?」
圭くんは、びくりとして肩を引く。
「えぇと」
(もしかして、日本語話せない!?)
イギリス生まれだもんね。
「えーとえーと、あいむ、はな・したら! ないすとぅーみーちゅー」
こんなことなら、英語勉強しておけば良かった、と悔やんでいると、静かな声が返ってきた。
「……知ってるの? おれのこと」
(しまった!)
いきなり英語(あれは英語と呼べるのか?)で話しかけたら、事情を知ってると言わんばかりではないか!
仕方ないのでうなずく。
「圭くんでしょ」
「……うん」
「食事会にいなかったから、来てないのかと思ってたけど」
「部屋で食べたよ」
「そうなの?」
まだ不慣れだから、皆の前に出たくないとかだろうか?
私はぽすん、と彼の横に座った。
圭くんは驚いた目で私を見つめる。
「? なに?」
「……おれが怖くないの?」
「へ?」
圭くんは淡々と言う。
「おれといると、呪われるらしいよ」
綺麗な翡翠のような瞳が、じっと私の目を射るように見つめていた。
ぱちり、と炭が赤く光って小さく爆ぜる。
「呪われる、ってなあに」
「そのままの意味よ!」
大きな声に振り向くと、そこにはシュリちゃんがいた。長い髪、煌びやかな朱色の振袖。
(え、なんで? というか、)
「そのまま、って」
「知らないの!? そいつといると、周りの人が死んでいくの! そいつ自体が呪われてるの!」
シュリちゃんは声高に言う。笑いながら。
「お母様が言ってた! ……あ、でもアンタもか」
シュリちゃんの口が嗜虐的に歪む。
「だってそうじゃなきゃアンタの母親、殺されたりしないでしょ」
私は動けずに、ただシュリちゃんを眺めた。
(いま、何て?)
圭くんが息を飲んで、それから無言で私を見つめた。きれいな翠色の目。
ふう、と息をつく。
(こういうのって、親の受け売りなんだよね、大抵)
私は自分でも驚くほどに落ち着いていた。脳が冷えていく。
(この子に何言っても無駄だ)
だってこの子は、きっとなんの悪意もない。正しいことをしてる、と思っている。親に言われるがままに。親の言う通りに。それが誰かを傷つける、なんて考えもせずに。
(この子は、コドモだ)
だから、傷ついてなんかやらない。
私は微笑む。
「行こう圭くん」
「え?」
戸惑う圭くんの手を取り、立ち上がる。小柄な私より、まだ小さな背の男の子。
「私ね、ここの人に頼んで、部屋に食事持ってきてもらおうかなって。1人だとつまんないから、おしゃべり相手、して?」
「え、えっと」
「ちょっと、アタシの話聞いてるの」
シュリちゃんの苛ついた声。
「デザートは食べた?」
「あ、うん」
「無視? ねぇ、本当のこと言われてムカついたんでしょ?」
私は圭くんの手を引く。
「なんだった? デザート」
「あ、えっと、ココナッツミルクにフルーツが」
「うっそ、楽しみ!」
それはめちゃくちゃ美味しそうだ。
「聞きなさいよ」
シュリちゃんの声が、少し低くなる。
私は無視をして足を進める。
「そういえば、さっき樹様だって、アンタに触れるとき怖い顔してた! ほんとはアンタなんかに触れたくないんだ!」
急に勝ち誇ったような声で、少し裏返ったような声で、シュリちゃんは叫んだ。
「樹様だって、本当はアタシがいいに決まってる!」
何も知らないコドモ。
自分が正しいと、信じているコドモ。
私の脳裏に、松影ルナが浮かんで、消えた。
「ねぇ、返事は!?」
シュリちゃんは早足でついてくる。苛つきで、声が完全に裏返っていた。
(こんな簡単に煽られなくても)
こっちに相手をする気がない、と分かるのだから、シュリちゃんだって無視すればいいのに。
苛つく相手に、わざわざ絡んでいく気持ちが分からないのは、私の中身が大人だからだろうか?
「そういえばお刺身、大丈夫だった?」
「え?」
「イギリスでもお刺身食べれるの?」
「あまり食べたことはないけど、時々お寿司食べに行ってた、とうさんと」
「そっかぁ」
ジャパニーズスシ。流行ってるのかな、イギリスでも。
「ねぇ、ほんとのことじゃない! アンタたちは死神!」
なおも背後から聞こえる、ヒステリックな声。
私は振り向いた。
「誰も聞いてないよ、アナタの話なんか」
シュリちゃんは目を見開いて、唇をわななかせた。
「き、聞いてるじゃない」
私はその声を完全に無視して、早足で圭くんの手を引いた。ロビーまで戻り、さてどうしたものか、と考える。
(少なくとも圭くんが健やかに育つ環境じゃない、ことは確か)
私は一瞬立ち止まった。
(結局敦子さんが引き取ってくれるのよね、でも……この子をあのヒトたちがいる家に戻していいものか)
私はちょっと低いところにある、その綺麗な翠色の目を見つめた。
「部屋ってさ、シュリちゃんたちと同じ?」
「え? ひとり」
「……そか」
あのヒトたちと同じ、よりはマシだろうけど。
(父親を亡くしてひと月も経ってないのに)
胸に詰まるものがある。
「目がきれいだよね、お母さんと同じ?」
「あ」
圭くんは手でまぶたに触れるようにして、ほんの少し、はにかむように笑った。
「うん、あんまり覚えてないんだけど」
「素敵な色だね」
「ほんと?」
「うん」
「あの子には、気持ち悪いって言われたから、日本ではあんまりいい色じゃないのかなって思ってた」
「え、そんなことない」
シュリちゃんの口撃、あれずうっと受けてたら精神的に来るよなぁ……。
「うん」
私はひとつ決めて、頷いた。
「なに?」
「圭くん、ウチ来よっか」
「え?」
どうせ義弟になるなら、予定が少々早まろうと大して変わんないよね! そーだそーだ。脳内会議満場一致。
「おいでおいで」
戸惑う圭くんをグイグイと引っ張って、会食会場へ入る。
私が圭くんと現れると、ほんの少しだけ、場がざわめいた。アカネさんなんか露骨に嫌な顔をしてるし。腹立つなぁもう。
「どうしたの華、……その子は」
「敦子さん、この子、私の弟にします」
私がそう言うと、圭くんと敦子さんが同時に声を上げた。
「……え」
「え!?」
私は首をかしげる。
「だめ?」
「ダメ、って、あなたね、そんなイヌネコ飼うようなものじゃ」
「"お前は呪われている"なんて、そんなこと言うようなヒトのところに置いておけません」
「……、そんなことを?」
敦子さんは大伯父様とアカネさんを見た。
「本当のことではありませんか……あら、華様も同じね。ふふ、だって」
「それ以上その口を開いてみなさい」
敦子さんはアカネさんの言葉を遮り、睨みつけた。
「全力で貴女を潰すわ」
「や、やれるものならやってみなさいよ」
「そこまでにしておけ、アカネ。敦子を怒らせると後々面倒くさいんだ」
「そんな、あなた」
「それで、圭だが」
大伯父様はチラリと私と圭くんを見た。
「桂男というものがいる」
「……は?」
「圭の名前に、木をつけたら桂になるだろう」
何を当然のことを、と言わんばかりの大伯父様。
「はぁ」
生返事になる。なに言い出すんだろ、このヒト。
「コレは月に住んでおってな、月から手を招いてヒトの寿命を縮めるという」
「……はぁ」
「名は体を表すという。そこの圭もまた、その宿命を背負っているのではないかとな、まぁそういう話だ」
「……あの、大伯父様?」
私は首をかしげた。
「月に生物は住んでおりませんよ」
「そんなことは分かっとる、単に」
遮るように続けた。
「まぁ、将来的に微生物くらいは発見されるかもしれませんが」
「だから」
少し眉を寄せる大伯父様に、にっこりと微笑んでみせる。
「大伯父様ったら、夢見がち」
語尾に星マークつけちゃう口調。
(あ、私。怒ってる)
シュリちゃんには感じなかった怒りが、このヒトたちにははっきりとそれを感じた。
(大人なのに)
圭くんが、どんな環境にいるのか分かっているはずなのに。大伯父様なんて、圭くんは自分の孫なのに。一番ケアしなきゃいけない立場の人間が、こんなことでは。
だから思いっきり右手を手を握りしめ、親指だけピンと立てて地面に向ける。サムズダウン。満面の笑みで、見下すようにこう言った。
「寝言は寝て言えクソジジイ」
(どうなるか分からないけどね?)
青井さんのことは、私の勘違いだったとはいえ。
「何かあったら言え、華」
旅館のロビーで樹くんは言った。
「いつかみたいに、黙っているのとかは本当にナシだ。分かったか?」
「う、うん」
久保のことだと思う。
その件に関しては反省しているので、素直に頷いた。
「じゃあ、華、また。そうだ、1日の新年会は何時までだ?」
「多分お昼の2時とか、かな?」
「では迎えに来るから、一緒に初詣へ行こう」
「うん!」
そう約束をして、ロビーで別れる。外までは暗いし寒いから来るなと言われた。相変わらず優しい。
ガラス越しに車を見送って、踵を返す。
(すぐに戻りたくないなぁ……)
さすがにシュリちゃんの口撃、ちょっと辟易してたのだ。別に傷つくとかはないんだけど。
ちょっとお散歩して戻ろう、とひんやりした館内を、ぺたぺたと歩く。
バーやカフェも入っているみたいだが、閉まっていた。
(貸し切りだもんね)
カフェの前でぼうっとしていると、従業員の方が寄ってきて声をかけてくれた。
「お開けしましょうか」
「あ、いえ、大丈夫です。すみません」
ぺこりと頭を下げて、さらに奥へ進んでみる。
「わぁ」
大露天風呂へ続く、長い廊下。床以外が全て格子状の木枠に嵌った窓ガラス。日本庭園が眺められるようになっていて、庭で松明がぱちぱちと燃えているのが見えた。
その手前の休憩スペース、昔ながらの囲炉裏がすえられたそこの、木製のベンチに、小柄な男の子がぽつんと座っていた。
(……?)
不思議に思いながら近づくと、男の子はぴくり、と顔を上げる。
(……、圭くん)
間違いない、"ゲーム"の攻略対象で華の"義弟"、常盤圭くんがそこにいた。
(……食事会の名簿に名前は無かったけど)
私は首を傾げながら近づく。
「えと、こんばんは?」
圭くんは、びくりとして肩を引く。
「えぇと」
(もしかして、日本語話せない!?)
イギリス生まれだもんね。
「えーとえーと、あいむ、はな・したら! ないすとぅーみーちゅー」
こんなことなら、英語勉強しておけば良かった、と悔やんでいると、静かな声が返ってきた。
「……知ってるの? おれのこと」
(しまった!)
いきなり英語(あれは英語と呼べるのか?)で話しかけたら、事情を知ってると言わんばかりではないか!
仕方ないのでうなずく。
「圭くんでしょ」
「……うん」
「食事会にいなかったから、来てないのかと思ってたけど」
「部屋で食べたよ」
「そうなの?」
まだ不慣れだから、皆の前に出たくないとかだろうか?
私はぽすん、と彼の横に座った。
圭くんは驚いた目で私を見つめる。
「? なに?」
「……おれが怖くないの?」
「へ?」
圭くんは淡々と言う。
「おれといると、呪われるらしいよ」
綺麗な翡翠のような瞳が、じっと私の目を射るように見つめていた。
ぱちり、と炭が赤く光って小さく爆ぜる。
「呪われる、ってなあに」
「そのままの意味よ!」
大きな声に振り向くと、そこにはシュリちゃんがいた。長い髪、煌びやかな朱色の振袖。
(え、なんで? というか、)
「そのまま、って」
「知らないの!? そいつといると、周りの人が死んでいくの! そいつ自体が呪われてるの!」
シュリちゃんは声高に言う。笑いながら。
「お母様が言ってた! ……あ、でもアンタもか」
シュリちゃんの口が嗜虐的に歪む。
「だってそうじゃなきゃアンタの母親、殺されたりしないでしょ」
私は動けずに、ただシュリちゃんを眺めた。
(いま、何て?)
圭くんが息を飲んで、それから無言で私を見つめた。きれいな翠色の目。
ふう、と息をつく。
(こういうのって、親の受け売りなんだよね、大抵)
私は自分でも驚くほどに落ち着いていた。脳が冷えていく。
(この子に何言っても無駄だ)
だってこの子は、きっとなんの悪意もない。正しいことをしてる、と思っている。親に言われるがままに。親の言う通りに。それが誰かを傷つける、なんて考えもせずに。
(この子は、コドモだ)
だから、傷ついてなんかやらない。
私は微笑む。
「行こう圭くん」
「え?」
戸惑う圭くんの手を取り、立ち上がる。小柄な私より、まだ小さな背の男の子。
「私ね、ここの人に頼んで、部屋に食事持ってきてもらおうかなって。1人だとつまんないから、おしゃべり相手、して?」
「え、えっと」
「ちょっと、アタシの話聞いてるの」
シュリちゃんの苛ついた声。
「デザートは食べた?」
「あ、うん」
「無視? ねぇ、本当のこと言われてムカついたんでしょ?」
私は圭くんの手を引く。
「なんだった? デザート」
「あ、えっと、ココナッツミルクにフルーツが」
「うっそ、楽しみ!」
それはめちゃくちゃ美味しそうだ。
「聞きなさいよ」
シュリちゃんの声が、少し低くなる。
私は無視をして足を進める。
「そういえば、さっき樹様だって、アンタに触れるとき怖い顔してた! ほんとはアンタなんかに触れたくないんだ!」
急に勝ち誇ったような声で、少し裏返ったような声で、シュリちゃんは叫んだ。
「樹様だって、本当はアタシがいいに決まってる!」
何も知らないコドモ。
自分が正しいと、信じているコドモ。
私の脳裏に、松影ルナが浮かんで、消えた。
「ねぇ、返事は!?」
シュリちゃんは早足でついてくる。苛つきで、声が完全に裏返っていた。
(こんな簡単に煽られなくても)
こっちに相手をする気がない、と分かるのだから、シュリちゃんだって無視すればいいのに。
苛つく相手に、わざわざ絡んでいく気持ちが分からないのは、私の中身が大人だからだろうか?
「そういえばお刺身、大丈夫だった?」
「え?」
「イギリスでもお刺身食べれるの?」
「あまり食べたことはないけど、時々お寿司食べに行ってた、とうさんと」
「そっかぁ」
ジャパニーズスシ。流行ってるのかな、イギリスでも。
「ねぇ、ほんとのことじゃない! アンタたちは死神!」
なおも背後から聞こえる、ヒステリックな声。
私は振り向いた。
「誰も聞いてないよ、アナタの話なんか」
シュリちゃんは目を見開いて、唇をわななかせた。
「き、聞いてるじゃない」
私はその声を完全に無視して、早足で圭くんの手を引いた。ロビーまで戻り、さてどうしたものか、と考える。
(少なくとも圭くんが健やかに育つ環境じゃない、ことは確か)
私は一瞬立ち止まった。
(結局敦子さんが引き取ってくれるのよね、でも……この子をあのヒトたちがいる家に戻していいものか)
私はちょっと低いところにある、その綺麗な翠色の目を見つめた。
「部屋ってさ、シュリちゃんたちと同じ?」
「え? ひとり」
「……そか」
あのヒトたちと同じ、よりはマシだろうけど。
(父親を亡くしてひと月も経ってないのに)
胸に詰まるものがある。
「目がきれいだよね、お母さんと同じ?」
「あ」
圭くんは手でまぶたに触れるようにして、ほんの少し、はにかむように笑った。
「うん、あんまり覚えてないんだけど」
「素敵な色だね」
「ほんと?」
「うん」
「あの子には、気持ち悪いって言われたから、日本ではあんまりいい色じゃないのかなって思ってた」
「え、そんなことない」
シュリちゃんの口撃、あれずうっと受けてたら精神的に来るよなぁ……。
「うん」
私はひとつ決めて、頷いた。
「なに?」
「圭くん、ウチ来よっか」
「え?」
どうせ義弟になるなら、予定が少々早まろうと大して変わんないよね! そーだそーだ。脳内会議満場一致。
「おいでおいで」
戸惑う圭くんをグイグイと引っ張って、会食会場へ入る。
私が圭くんと現れると、ほんの少しだけ、場がざわめいた。アカネさんなんか露骨に嫌な顔をしてるし。腹立つなぁもう。
「どうしたの華、……その子は」
「敦子さん、この子、私の弟にします」
私がそう言うと、圭くんと敦子さんが同時に声を上げた。
「……え」
「え!?」
私は首をかしげる。
「だめ?」
「ダメ、って、あなたね、そんなイヌネコ飼うようなものじゃ」
「"お前は呪われている"なんて、そんなこと言うようなヒトのところに置いておけません」
「……、そんなことを?」
敦子さんは大伯父様とアカネさんを見た。
「本当のことではありませんか……あら、華様も同じね。ふふ、だって」
「それ以上その口を開いてみなさい」
敦子さんはアカネさんの言葉を遮り、睨みつけた。
「全力で貴女を潰すわ」
「や、やれるものならやってみなさいよ」
「そこまでにしておけ、アカネ。敦子を怒らせると後々面倒くさいんだ」
「そんな、あなた」
「それで、圭だが」
大伯父様はチラリと私と圭くんを見た。
「桂男というものがいる」
「……は?」
「圭の名前に、木をつけたら桂になるだろう」
何を当然のことを、と言わんばかりの大伯父様。
「はぁ」
生返事になる。なに言い出すんだろ、このヒト。
「コレは月に住んでおってな、月から手を招いてヒトの寿命を縮めるという」
「……はぁ」
「名は体を表すという。そこの圭もまた、その宿命を背負っているのではないかとな、まぁそういう話だ」
「……あの、大伯父様?」
私は首をかしげた。
「月に生物は住んでおりませんよ」
「そんなことは分かっとる、単に」
遮るように続けた。
「まぁ、将来的に微生物くらいは発見されるかもしれませんが」
「だから」
少し眉を寄せる大伯父様に、にっこりと微笑んでみせる。
「大伯父様ったら、夢見がち」
語尾に星マークつけちゃう口調。
(あ、私。怒ってる)
シュリちゃんには感じなかった怒りが、このヒトたちにははっきりとそれを感じた。
(大人なのに)
圭くんが、どんな環境にいるのか分かっているはずなのに。大伯父様なんて、圭くんは自分の孫なのに。一番ケアしなきゃいけない立場の人間が、こんなことでは。
だから思いっきり右手を手を握りしめ、親指だけピンと立てて地面に向ける。サムズダウン。満面の笑みで、見下すようにこう言った。
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