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【高校編】分岐・相良仁
白鳥はガアと鳴く(side仁)
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ロンドンから約155キロ、俺の生まれ故郷、ストラットフォード・アポン・エイヴォンの街は相変わらずなんかのんびりしていた。
ロンドンから電車で2時間。梅雨時の日本と違う爽やかな風。時差ボケの目も少し覚めた。
エイヴォン川には白鳥が相変わらずガァガァ言ってて優雅なんだかなんなんだか。水面はきらきら輝いててきれい。
(華、どう思うかな)
もしこの街につれてきたら、なんて考える。
俺がこの街でいちばん美味いと思っている飯屋の前を通り過ぎる。ちなみに某世界的ハンバーガーチェーン店だ。
(プロテスタントの国だからなぁ)
カトリックの国、イタリアやスペイン、フランスと比べてプロテスタントの国の食文化の質素さといったら。
いや暮らしてる間はどうとも思ってなかったけどさ、いざ日本で色々食べまくるとなんていうか、298円であのドリア食べられる国はほんとすごいと思う。
「あー、帰ってきちゃったなぁ」
俺は門扉を潜りながら日本語でつぶやく。
(親父は休暇でしばらくここにいるはずだ)
アリソン情報。
玄関はやたらと重厚な木製の両開き扉。ぎいっと開くと、玄関に親父は立っていた。
「やぁジーン! 待ってたよ!」
「そうですか」
熱烈なハグ。
「可愛いジーン! うん特に痩せたとかはないね! うふふふふ!」
「わかった、わかったから離れて、離れろ」
三十路の息子にそこまで愛情ふりまかんでも良かろうに。
べりりと親父を引き離す。
「ひどい、12年と1ヶ月ぶりなのに」
「細かいよ怖いよ」
だから会いたくなかったんだ。めんどくさいから。
「こっちでの仕事は決めたのかいジーン。良ければ僕の知り合いが商社をしていて」
「いや辞めてないから、日本の仕事」
「は?」
親父は眉をしかめた。
「僕と暮らすんじゃないの」
「ねーよ、くそおやじ。こっち戻ってくるにしてもロンドンあたりで家探すわ」
親父はショックを受けた顔をした。
「じゃあなんで戻ってきたの」
「単刀直入にいうと、好きな女が困ってるから」
「アリソンちゃん?」
「違ーよ。つか部下をちゃん付けすんな。訴えられんぞ」
「あの子はそういうの平気でするから」
ならやめとけよ。俺は心で強くそう思った。
「日本の子かい? 連れてきたらいいのに」
「まぁそれが難しくてですね、というのもそいつまで学生で」
「大学生?」
「高校生」
親父はぽかんとした後、リビングに飛び込んで行く。後を追うと、洋風の部屋に似つかわしくない、立派な仏壇が置いてある。
忙しくおりんを鳴らしながら、親父は「どうしようどうしよう母さん、ジーンがロリコンになっちゃったよカウンセリングとかいる? 通報したほうがいいよね」とブツブツ早口で喋っていた。うるせえよ。
「手は出してない」
「そういう問題じゃない! いいか今はあどけなくて可愛いかもしれないがその子だって大人になるんだぞそれでもちゃんと一生愛せますか!?」
人をロリコン前提で話すなよ。
つかなんだ、それ、ペット飼うみたいな言い方やめろや。
「愛せるよ」
「わかんないぞー」
意地の悪い顔をして言う親父。
「わかるよ。愛せるよ。死ぬまでそいつが好きだよ」
死んでも好きだったんだから。
親父は今日初めて真剣な顔をした。それから立ち上がる。
表情が違う。
「じゃああれかな、ジンくんはどんなお願いをしにわざわざ帰国したのかな」
「常盤コンツェルンが関わろうとしてる原発、あれ、常盤を切ってくれ」
「は?」
「どーせ常盤かもう一社か、ってなって古くから付き合いのある常盤にしただけだろ。調べた感じじゃもう一社のほうがコスパも実績もあるじゃねーか」
「うん、まぁ、ねぇ。ただ政治家の先生たちがね」
含み笑いをする親父。要は先生方が抱き込まれただけなんだろう。
「第一、僕にはそんな権限ないよ」
「あんたが掴んでる政治家さんたちの"秘密"いくつか使って脅してくれたらいいんじゃないの」
「あのねえ」
親父は呆れた顔をした。
「そういうのは、いざという時のためにとってあるの! 可愛いジーンのためだからってそうそう使えないの」
俺は無言でスマホを突き出した。
「なぁに」
「俺の好きな子」
「……、可愛いね」
「結婚式見たくないの、一人息子の」
「結婚式」
親父はぽつりと言った。
「俺、こいつ以外と結婚する気ないから」
「本気なの」
「ガチの本気」
親父はしばらく迷って、それからスマホを取り出した。
「私情を仕事に挟みたくはないんだけどさぁ」
「アリソン送り込んどいて今更何を」
「あ、あれは単にお前まだスパイ疑惑あったからだよ」
きょとんとして親父は言う。
「まぁついでに帰国させたいのはあったけど」
「は!? いつまで疑われてんの俺」
除隊して何年経つと思ってるんだ。
「まぁゲリラのアジトでほぼ無傷で丸一日寝てたら疑われると思うよ」
「不可抗力だ!」
なにも情報局直々に捜査しなくたって!
「大丈夫、シロだって報告あがってるし。女のケツばっか追いかけてます、って報告あったけど、あれ、女子高生のお尻だったんだね」
「人聞きの悪いことを……」
つかなんなんだその報告は。税金の無駄だと思わないのか?
俺は呆れて窓の外を見た。伝統的英国ガーデンには今が盛りといわんばかりにバラが咲き乱れていた。
ロンドンから電車で2時間。梅雨時の日本と違う爽やかな風。時差ボケの目も少し覚めた。
エイヴォン川には白鳥が相変わらずガァガァ言ってて優雅なんだかなんなんだか。水面はきらきら輝いててきれい。
(華、どう思うかな)
もしこの街につれてきたら、なんて考える。
俺がこの街でいちばん美味いと思っている飯屋の前を通り過ぎる。ちなみに某世界的ハンバーガーチェーン店だ。
(プロテスタントの国だからなぁ)
カトリックの国、イタリアやスペイン、フランスと比べてプロテスタントの国の食文化の質素さといったら。
いや暮らしてる間はどうとも思ってなかったけどさ、いざ日本で色々食べまくるとなんていうか、298円であのドリア食べられる国はほんとすごいと思う。
「あー、帰ってきちゃったなぁ」
俺は門扉を潜りながら日本語でつぶやく。
(親父は休暇でしばらくここにいるはずだ)
アリソン情報。
玄関はやたらと重厚な木製の両開き扉。ぎいっと開くと、玄関に親父は立っていた。
「やぁジーン! 待ってたよ!」
「そうですか」
熱烈なハグ。
「可愛いジーン! うん特に痩せたとかはないね! うふふふふ!」
「わかった、わかったから離れて、離れろ」
三十路の息子にそこまで愛情ふりまかんでも良かろうに。
べりりと親父を引き離す。
「ひどい、12年と1ヶ月ぶりなのに」
「細かいよ怖いよ」
だから会いたくなかったんだ。めんどくさいから。
「こっちでの仕事は決めたのかいジーン。良ければ僕の知り合いが商社をしていて」
「いや辞めてないから、日本の仕事」
「は?」
親父は眉をしかめた。
「僕と暮らすんじゃないの」
「ねーよ、くそおやじ。こっち戻ってくるにしてもロンドンあたりで家探すわ」
親父はショックを受けた顔をした。
「じゃあなんで戻ってきたの」
「単刀直入にいうと、好きな女が困ってるから」
「アリソンちゃん?」
「違ーよ。つか部下をちゃん付けすんな。訴えられんぞ」
「あの子はそういうの平気でするから」
ならやめとけよ。俺は心で強くそう思った。
「日本の子かい? 連れてきたらいいのに」
「まぁそれが難しくてですね、というのもそいつまで学生で」
「大学生?」
「高校生」
親父はぽかんとした後、リビングに飛び込んで行く。後を追うと、洋風の部屋に似つかわしくない、立派な仏壇が置いてある。
忙しくおりんを鳴らしながら、親父は「どうしようどうしよう母さん、ジーンがロリコンになっちゃったよカウンセリングとかいる? 通報したほうがいいよね」とブツブツ早口で喋っていた。うるせえよ。
「手は出してない」
「そういう問題じゃない! いいか今はあどけなくて可愛いかもしれないがその子だって大人になるんだぞそれでもちゃんと一生愛せますか!?」
人をロリコン前提で話すなよ。
つかなんだ、それ、ペット飼うみたいな言い方やめろや。
「愛せるよ」
「わかんないぞー」
意地の悪い顔をして言う親父。
「わかるよ。愛せるよ。死ぬまでそいつが好きだよ」
死んでも好きだったんだから。
親父は今日初めて真剣な顔をした。それから立ち上がる。
表情が違う。
「じゃああれかな、ジンくんはどんなお願いをしにわざわざ帰国したのかな」
「常盤コンツェルンが関わろうとしてる原発、あれ、常盤を切ってくれ」
「は?」
「どーせ常盤かもう一社か、ってなって古くから付き合いのある常盤にしただけだろ。調べた感じじゃもう一社のほうがコスパも実績もあるじゃねーか」
「うん、まぁ、ねぇ。ただ政治家の先生たちがね」
含み笑いをする親父。要は先生方が抱き込まれただけなんだろう。
「第一、僕にはそんな権限ないよ」
「あんたが掴んでる政治家さんたちの"秘密"いくつか使って脅してくれたらいいんじゃないの」
「あのねえ」
親父は呆れた顔をした。
「そういうのは、いざという時のためにとってあるの! 可愛いジーンのためだからってそうそう使えないの」
俺は無言でスマホを突き出した。
「なぁに」
「俺の好きな子」
「……、可愛いね」
「結婚式見たくないの、一人息子の」
「結婚式」
親父はぽつりと言った。
「俺、こいつ以外と結婚する気ないから」
「本気なの」
「ガチの本気」
親父はしばらく迷って、それからスマホを取り出した。
「私情を仕事に挟みたくはないんだけどさぁ」
「アリソン送り込んどいて今更何を」
「あ、あれは単にお前まだスパイ疑惑あったからだよ」
きょとんとして親父は言う。
「まぁついでに帰国させたいのはあったけど」
「は!? いつまで疑われてんの俺」
除隊して何年経つと思ってるんだ。
「まぁゲリラのアジトでほぼ無傷で丸一日寝てたら疑われると思うよ」
「不可抗力だ!」
なにも情報局直々に捜査しなくたって!
「大丈夫、シロだって報告あがってるし。女のケツばっか追いかけてます、って報告あったけど、あれ、女子高生のお尻だったんだね」
「人聞きの悪いことを……」
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