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分岐・鍋島真
新幹線
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当然のように窓側に座らせてくれた真さんだけど、名古屋を過ぎたあたりでスヤッと眠ってしまった。私の手を握ったまま。
(ふふふ)
にやりと私は笑う。これはチャンスですよ奥さん(誰)!
(ヒトの寝顔を撮りおったからにはお返しせねばなりますまい!)
こっそり手をほどき、お子様スマホで真さんの寝顔を何枚か写真に収める。パシャリ。
「……虚しい」
何枚か撮ったところで、私はぽつり、そう呟いた。
スマホの画面にうつる真さんは何ていつか、とても綺麗だった。
(というよりは、可愛い?)
ちょっと普段よりあどけない。まぁ高校生だもんなぁ。スヤスヤ眠る男の子。
しかし、うーん。この写真は撮られても恥ずかしくないやつだ。くそう。私はヨダレまで垂らしていた(らしい)のに……。ちぇ。
(ま、いいか)
私は飲み終わったフラペチーノの容器片手に立ち上がる。真さんを起こさないようになんとか跨いで、ゴミ箱のあるデッキに向かった。ついでにトイレ行こう。
デッキで、中年の男の人にぶつかりそうになる。
「すみません」
謝りながら、顔をしかめたくなる。
(うっわ、お酒くさっ)
何杯飲んでるんだろ? 見たところ出張帰りかなにかのサラリーマンっぽいけれど。
ゴミ箱に容器をすてると、すぐ背後にヒトの気配がして振り向く。
「わ、えと」
さっきの酔っ払いサラリーマンだ。ニヤニヤしてる。
「あの?」
「おねーちゃんさ」
「はぁ」
「いくらで相手してくれる?」
「……は?」
「いや、ほら、お金なら持ってるからさ」
財布からお金を取り出そうとする。
「いえそういう問題でなくて」
酔っ払って、自制心をなくしているのだろうか。
(つか幾ら何でも新幹線ですよ!?)
いや、新幹線だからとかじゃなくて、そういうのしない人間なんですけど私!
手首を掴まれる。払いのけようとしたけれど、強い力で、ーー悲鳴を上げようとして、できなかった。
(こわい)
この人の、理性をなくした、どろりとした目を見てしまったから。お酒くさい息。
「な? ほら、そこでいいから」
カーテンがある洗面台を指さされた。
びくりと身体が固まった。
(もし、抵抗したらーー殴られる? それとも、殺される?)
そんな風に思ってしまった。
冷たい汗がどっと吹き出す。身体が小刻みに震えているのが分かった。目線が定まらない。
もう痛くないはずの足がまた痛み出したような感覚。息がうまくできない。怖い。怖い。怖い。
(たすけて)
平日の新幹線、人はひどく少ない。誰も通り掛からない。
目を閉じた。
「ねえ誰の女に手ぇ出してるか理解できてる?」
どこか飄々とした声。
恐る恐る目を開ける。
「ま、ことさん」
「殺さなきゃいけない対象が増えて真くんったら大忙し」
真さんは笑いながら言うけど目は笑ってない。
「なんだ、お前」
真さんは男の人の胸ぐらを掴み上げた。ほっそいのに、どこにそんな筋力がって感じで。
そのまま壁におしつける。
「新幹線の先頭車両に緩めにくくりつけて函館鹿児島間をノンストップで走るとかどう?」
「は?」
「無理か、東京駅で乗り換えだ」
真さんはにこりと、やっぱり優雅に笑った。
「まぁその前に落下して肉片かな」
そこからは、急展開すぎてよく覚えていないーー男の人は車掌さんらしき人に連れていかれて、私は話を聞かれた。
後日、静岡県警の人が(どうやら男の人は静岡県警に引き渡されたらしい)家まで来てくれるとのことだ。
「あの、ですが、なにもなかったし」
「何もなくないよ華」
真さんは落ち着いた声で言った。
「華は嫌な思いをしたし、それに性犯罪の再犯率は高い。あのクソ野郎をほっとけば次の被害者が出るよ? それでいいの」
「だめ、です」
消え入りそうになりながら、私が言ったときーー新幹線は、新横浜のホームに滑り込んだ。
真さんは私を連れて、つまり手をしっかり握って、スタスタ降りる。
(怒ってる?)
なんか、そんな感じだ。
(あ、やっぱり)
足の痛みがぶり返してきた。
「……少し休もうか」
「いえ、あの」
「いいから」
真さんはスマホでどこかへ電話をしたかと思うと、ひょいっと私を抱き上げた。
「ななななにを」
「ごめんね足」
真さんは淡々と言う。
「歩かせすぎたね」
「いえ、朝はほんとに治ってて」
痛くなったのは、多分あの人に手首を掴まれて抵抗しようとして、変に力が入ったから。
真さんは人の目も気にせず、私を抱いたままスイスイ歩く。
迷うことなく向かったのは、駅直結のホテル。
「あのー?」
「部屋押さえたから。少し休んで行って」
ロビーを歩きながら、真さんは言う。
「車、地下に待たせてる。何時でもいいから乗って帰って。明日でもいいし」
「えと、あの?」
「僕は今からご挨拶に行かなきゃだからさ」
見上げると、キレイな笑顔。うわぁ、なんて言うか、満面の笑み。
「いや。そのですね?」
休むほどでもない気がするんだけれど。
真さんは、問答無用でエレベーターで18のボタンを押す。
「ほんとにごめん」
「なにがですか」
「楽しすぎてさぁ、歩かせちゃったなぁと」
「あ、いえその、大丈夫です」
私は素直に答えた。
「私も普通に、楽しかったので」
「……君ってさぁ、ほんと意地悪だよね」
「は!?」
なぜこの流れで意地悪なんて言葉が出てくるのでしょうか!?
私が「心外です」って顔をして真さんを見つめると、真さんは軽く笑った。
「こちらこそ心外ですって感じなんだけどな」
「はぁ」
エレベーターを降りると、ボーイさんが待っていて鍵を開けてくれた。会釈をする。いやお姫様抱っこされて会釈ってのも格好つかないんだけれども!
(ふふふ)
にやりと私は笑う。これはチャンスですよ奥さん(誰)!
(ヒトの寝顔を撮りおったからにはお返しせねばなりますまい!)
こっそり手をほどき、お子様スマホで真さんの寝顔を何枚か写真に収める。パシャリ。
「……虚しい」
何枚か撮ったところで、私はぽつり、そう呟いた。
スマホの画面にうつる真さんは何ていつか、とても綺麗だった。
(というよりは、可愛い?)
ちょっと普段よりあどけない。まぁ高校生だもんなぁ。スヤスヤ眠る男の子。
しかし、うーん。この写真は撮られても恥ずかしくないやつだ。くそう。私はヨダレまで垂らしていた(らしい)のに……。ちぇ。
(ま、いいか)
私は飲み終わったフラペチーノの容器片手に立ち上がる。真さんを起こさないようになんとか跨いで、ゴミ箱のあるデッキに向かった。ついでにトイレ行こう。
デッキで、中年の男の人にぶつかりそうになる。
「すみません」
謝りながら、顔をしかめたくなる。
(うっわ、お酒くさっ)
何杯飲んでるんだろ? 見たところ出張帰りかなにかのサラリーマンっぽいけれど。
ゴミ箱に容器をすてると、すぐ背後にヒトの気配がして振り向く。
「わ、えと」
さっきの酔っ払いサラリーマンだ。ニヤニヤしてる。
「あの?」
「おねーちゃんさ」
「はぁ」
「いくらで相手してくれる?」
「……は?」
「いや、ほら、お金なら持ってるからさ」
財布からお金を取り出そうとする。
「いえそういう問題でなくて」
酔っ払って、自制心をなくしているのだろうか。
(つか幾ら何でも新幹線ですよ!?)
いや、新幹線だからとかじゃなくて、そういうのしない人間なんですけど私!
手首を掴まれる。払いのけようとしたけれど、強い力で、ーー悲鳴を上げようとして、できなかった。
(こわい)
この人の、理性をなくした、どろりとした目を見てしまったから。お酒くさい息。
「な? ほら、そこでいいから」
カーテンがある洗面台を指さされた。
びくりと身体が固まった。
(もし、抵抗したらーー殴られる? それとも、殺される?)
そんな風に思ってしまった。
冷たい汗がどっと吹き出す。身体が小刻みに震えているのが分かった。目線が定まらない。
もう痛くないはずの足がまた痛み出したような感覚。息がうまくできない。怖い。怖い。怖い。
(たすけて)
平日の新幹線、人はひどく少ない。誰も通り掛からない。
目を閉じた。
「ねえ誰の女に手ぇ出してるか理解できてる?」
どこか飄々とした声。
恐る恐る目を開ける。
「ま、ことさん」
「殺さなきゃいけない対象が増えて真くんったら大忙し」
真さんは笑いながら言うけど目は笑ってない。
「なんだ、お前」
真さんは男の人の胸ぐらを掴み上げた。ほっそいのに、どこにそんな筋力がって感じで。
そのまま壁におしつける。
「新幹線の先頭車両に緩めにくくりつけて函館鹿児島間をノンストップで走るとかどう?」
「は?」
「無理か、東京駅で乗り換えだ」
真さんはにこりと、やっぱり優雅に笑った。
「まぁその前に落下して肉片かな」
そこからは、急展開すぎてよく覚えていないーー男の人は車掌さんらしき人に連れていかれて、私は話を聞かれた。
後日、静岡県警の人が(どうやら男の人は静岡県警に引き渡されたらしい)家まで来てくれるとのことだ。
「あの、ですが、なにもなかったし」
「何もなくないよ華」
真さんは落ち着いた声で言った。
「華は嫌な思いをしたし、それに性犯罪の再犯率は高い。あのクソ野郎をほっとけば次の被害者が出るよ? それでいいの」
「だめ、です」
消え入りそうになりながら、私が言ったときーー新幹線は、新横浜のホームに滑り込んだ。
真さんは私を連れて、つまり手をしっかり握って、スタスタ降りる。
(怒ってる?)
なんか、そんな感じだ。
(あ、やっぱり)
足の痛みがぶり返してきた。
「……少し休もうか」
「いえ、あの」
「いいから」
真さんはスマホでどこかへ電話をしたかと思うと、ひょいっと私を抱き上げた。
「ななななにを」
「ごめんね足」
真さんは淡々と言う。
「歩かせすぎたね」
「いえ、朝はほんとに治ってて」
痛くなったのは、多分あの人に手首を掴まれて抵抗しようとして、変に力が入ったから。
真さんは人の目も気にせず、私を抱いたままスイスイ歩く。
迷うことなく向かったのは、駅直結のホテル。
「あのー?」
「部屋押さえたから。少し休んで行って」
ロビーを歩きながら、真さんは言う。
「車、地下に待たせてる。何時でもいいから乗って帰って。明日でもいいし」
「えと、あの?」
「僕は今からご挨拶に行かなきゃだからさ」
見上げると、キレイな笑顔。うわぁ、なんて言うか、満面の笑み。
「いや。そのですね?」
休むほどでもない気がするんだけれど。
真さんは、問答無用でエレベーターで18のボタンを押す。
「ほんとにごめん」
「なにがですか」
「楽しすぎてさぁ、歩かせちゃったなぁと」
「あ、いえその、大丈夫です」
私は素直に答えた。
「私も普通に、楽しかったので」
「……君ってさぁ、ほんと意地悪だよね」
「は!?」
なぜこの流れで意地悪なんて言葉が出てくるのでしょうか!?
私が「心外です」って顔をして真さんを見つめると、真さんは軽く笑った。
「こちらこそ心外ですって感じなんだけどな」
「はぁ」
エレベーターを降りると、ボーイさんが待っていて鍵を開けてくれた。会釈をする。いやお姫様抱っこされて会釈ってのも格好つかないんだけれども!
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