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【高校編】分岐・鹿王院樹
鳩と豆鉄砲
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これから忙しくなるぞ、って樹くんは言ったけどそもそもあのヒト、超忙しいヒトなんでした。
部活もあれば代表にも呼ばれてる。週明けには合宿で、大会があるイギリスへ飛び立つ。来月半ばからは、U20の大会……。
お仕事もあるし、すっごい忙しい。
合間合間には魚のお世話。まぁそれに関しては、好きでやってるらしいけど。よく私に構う暇と体力があるよなぁ。
うーん、私の暇っぷりが際立つよね。いや勉強もあるしそんなに暇暇してる訳ではないんだけど。
でもまぁ、とにかくその忙しい合間に、樹くんは家に外商さんを呼んでくれた。
「このサイズですと、既製品ではデザインが限られます。オーダーにされて良かったと思います」
外商さんが連れてきた、指輪のデザイナーさんが私の指のサイズを測りながら言った。
「7号からのことが多いですね。華様は5号ですので」
そう言われて頷いた。
そういや前世では7号でした……誰にも買ってもらえなかったけどさ! いや、一回ゆるゆるな指輪もらったな……あれ、本命に「イラナイ」って言われたやつの再利用だったな、そういえば。発覚したときに投げつけてやったんだった……せめて売れば良かった!
あの指輪、今なら更にゆるゆるなんだろう。なんの未練もないけど!
(まだ高校生だもんなぁ)
細いというより、小さいのかもしれない。
「あの、サイズを将来的に調整できるようにお願いしたいのですが」
デザイナーさんはうなずく。
「ではそうできるデザインにしましょう」
いくつか希望をきいてくれて、また案をお持ちします、と2人は帰っていった。
「ふー」
私は応接室のソファに座り込んだ。革張りの、茶色いやつ。
「どうした? 疲れたか」
「ええと、いいの?」
「何がだ」
「あんなフルオーダーの指輪、相当なお値段なんじゃ」
「大丈夫だ、どうせ俺の貯金は大して使い途がない」
樹くんは笑って言う。
お仕事でもらうお給料、そこそこの額(本人いわく)らしいけど、使わないから貯まる一方らしい。
(まー、あれだけ忙しければ)
サッカー用品と、アクアリウム用品くらいにしか使ってるとこ見たことない。たまに私を旅行に連れてってくれるくらい。
「でもなー、悪いなー」
外商さんも、デザイナーさんも、値段のことなんて一言も口に出さなかった。そういうものかもしれないんだけど、でもそれだけ凄い値段になってそうで……。
「悪い?」
「え、あ、うん」
樹くんは隣に座りながら、少し不思議そうな顔をした。
「俺が贈りたくて贈っているのに?」
「うん、でもさ」
「華は何も気にしないで欲しい」
「えー」
でもなぁ。気持ちの証明見せろ、みたいなこと言って脅したみたいになってるし? うん。
「もっと我儘になっていいのに」
「じゅうぶん、ワガママだと思うけどな」
私。
樹くんは、そっと私のおでこに口付けた。
「なら、……そうだな、ばーさんに書斎の整理を頼まれていて」
「うん」
「それを手伝ってもらおうかな」
「そんなんでいいの?」
「何もこのクソ忙しい時に言わなくてもいいと思わないか?」
樹くんは少し憮然とした。相変わらずちょっと静子さんには反抗的で、ちゃんと男子高校生っぽくて可愛い。
「ふふ、分かった。手伝う」
立ち上がると、樹くんは少し残念そうな顔をした。
「? どうしたの」
「いや。もう少しいちゃつきたかった」
「いちゃ!?」
私は目を丸くした。丸かったと思う。衝撃でーー。え、樹くんの口から「いちゃつく」って単語が出るんですか!?
「なんだその顔」
樹くんは少し楽しそうに言う。
「鳩が豆鉄砲を食ったような、の見本みたいな顔をしてる」
「だって、樹くんがそんなこと言うと思わないもん」
「そうだろうか」
腕を引かれて、樹くんの腕の中にぽすりと収まった。
首元に鼻をよせられて、少しくすぐったい。
「いいい樹くん」
「自分はヒトの鎖骨噛むくせに」
「それとこれとは話が別、」
むぐう、なんて色気のない声が出た。急なキス。
「待って樹くん、私たちとってもお友達だし」
「日本語が変だぞ華」
「でもでもでも」
「華は可愛い、なにをもってして神はこんな存在を創造したんだ」
「褒め言葉が過ぎる!」
もう一度キスをして、樹くんは「さて」と立ち上がった。私をお姫様抱っこして。
「? 樹くん」
「理性がお出かけしている」
「ダメダメダメ今家ヒトいるからっ」
静子さんも圭くんもいる! バレたら気まずいどころの騒ぎじゃない。ソッコー渡米かもしれない。
「……そうだった」
樹くんはため息をついて私をそっと下ろした。それから、ふと思いついたように私の左手をそっととる。
「俺はキーパーだから」
「?」
唐突にサッカーの話だ。
「チャンスはほぼないのだが」
「なにが?」
「まぁ、もしかしたらの話だ」
そして私の左手薬指に、キスをする。
「試合、ちゃんと観ておけよ」
「う、うんっ」
私は大きく返事をしてうなずく。
なにがなんだか分かんないけど、とにかく約束だ。てか絶対観るし。
「てか、私、行こうかな。現地観戦」
「来てもいいが1人はダメだぞ。圭か鍋島あたりの海外慣れしてるやつと来い」
「む、大丈夫だよ」
「大丈夫なものか、ろくに飛行機にも乗ったことがないのに」
「こないだ乗ったし」
「国内線とは全然違う」
そうだっけなぁ?
前世での乏しい海外体験を思い出しつつ、私は小さく頷いたのでした。
部活もあれば代表にも呼ばれてる。週明けには合宿で、大会があるイギリスへ飛び立つ。来月半ばからは、U20の大会……。
お仕事もあるし、すっごい忙しい。
合間合間には魚のお世話。まぁそれに関しては、好きでやってるらしいけど。よく私に構う暇と体力があるよなぁ。
うーん、私の暇っぷりが際立つよね。いや勉強もあるしそんなに暇暇してる訳ではないんだけど。
でもまぁ、とにかくその忙しい合間に、樹くんは家に外商さんを呼んでくれた。
「このサイズですと、既製品ではデザインが限られます。オーダーにされて良かったと思います」
外商さんが連れてきた、指輪のデザイナーさんが私の指のサイズを測りながら言った。
「7号からのことが多いですね。華様は5号ですので」
そう言われて頷いた。
そういや前世では7号でした……誰にも買ってもらえなかったけどさ! いや、一回ゆるゆるな指輪もらったな……あれ、本命に「イラナイ」って言われたやつの再利用だったな、そういえば。発覚したときに投げつけてやったんだった……せめて売れば良かった!
あの指輪、今なら更にゆるゆるなんだろう。なんの未練もないけど!
(まだ高校生だもんなぁ)
細いというより、小さいのかもしれない。
「あの、サイズを将来的に調整できるようにお願いしたいのですが」
デザイナーさんはうなずく。
「ではそうできるデザインにしましょう」
いくつか希望をきいてくれて、また案をお持ちします、と2人は帰っていった。
「ふー」
私は応接室のソファに座り込んだ。革張りの、茶色いやつ。
「どうした? 疲れたか」
「ええと、いいの?」
「何がだ」
「あんなフルオーダーの指輪、相当なお値段なんじゃ」
「大丈夫だ、どうせ俺の貯金は大して使い途がない」
樹くんは笑って言う。
お仕事でもらうお給料、そこそこの額(本人いわく)らしいけど、使わないから貯まる一方らしい。
(まー、あれだけ忙しければ)
サッカー用品と、アクアリウム用品くらいにしか使ってるとこ見たことない。たまに私を旅行に連れてってくれるくらい。
「でもなー、悪いなー」
外商さんも、デザイナーさんも、値段のことなんて一言も口に出さなかった。そういうものかもしれないんだけど、でもそれだけ凄い値段になってそうで……。
「悪い?」
「え、あ、うん」
樹くんは隣に座りながら、少し不思議そうな顔をした。
「俺が贈りたくて贈っているのに?」
「うん、でもさ」
「華は何も気にしないで欲しい」
「えー」
でもなぁ。気持ちの証明見せろ、みたいなこと言って脅したみたいになってるし? うん。
「もっと我儘になっていいのに」
「じゅうぶん、ワガママだと思うけどな」
私。
樹くんは、そっと私のおでこに口付けた。
「なら、……そうだな、ばーさんに書斎の整理を頼まれていて」
「うん」
「それを手伝ってもらおうかな」
「そんなんでいいの?」
「何もこのクソ忙しい時に言わなくてもいいと思わないか?」
樹くんは少し憮然とした。相変わらずちょっと静子さんには反抗的で、ちゃんと男子高校生っぽくて可愛い。
「ふふ、分かった。手伝う」
立ち上がると、樹くんは少し残念そうな顔をした。
「? どうしたの」
「いや。もう少しいちゃつきたかった」
「いちゃ!?」
私は目を丸くした。丸かったと思う。衝撃でーー。え、樹くんの口から「いちゃつく」って単語が出るんですか!?
「なんだその顔」
樹くんは少し楽しそうに言う。
「鳩が豆鉄砲を食ったような、の見本みたいな顔をしてる」
「だって、樹くんがそんなこと言うと思わないもん」
「そうだろうか」
腕を引かれて、樹くんの腕の中にぽすりと収まった。
首元に鼻をよせられて、少しくすぐったい。
「いいい樹くん」
「自分はヒトの鎖骨噛むくせに」
「それとこれとは話が別、」
むぐう、なんて色気のない声が出た。急なキス。
「待って樹くん、私たちとってもお友達だし」
「日本語が変だぞ華」
「でもでもでも」
「華は可愛い、なにをもってして神はこんな存在を創造したんだ」
「褒め言葉が過ぎる!」
もう一度キスをして、樹くんは「さて」と立ち上がった。私をお姫様抱っこして。
「? 樹くん」
「理性がお出かけしている」
「ダメダメダメ今家ヒトいるからっ」
静子さんも圭くんもいる! バレたら気まずいどころの騒ぎじゃない。ソッコー渡米かもしれない。
「……そうだった」
樹くんはため息をついて私をそっと下ろした。それから、ふと思いついたように私の左手をそっととる。
「俺はキーパーだから」
「?」
唐突にサッカーの話だ。
「チャンスはほぼないのだが」
「なにが?」
「まぁ、もしかしたらの話だ」
そして私の左手薬指に、キスをする。
「試合、ちゃんと観ておけよ」
「う、うんっ」
私は大きく返事をしてうなずく。
なにがなんだか分かんないけど、とにかく約束だ。てか絶対観るし。
「てか、私、行こうかな。現地観戦」
「来てもいいが1人はダメだぞ。圭か鍋島あたりの海外慣れしてるやつと来い」
「む、大丈夫だよ」
「大丈夫なものか、ろくに飛行機にも乗ったことがないのに」
「こないだ乗ったし」
「国内線とは全然違う」
そうだっけなぁ?
前世での乏しい海外体験を思い出しつつ、私は小さく頷いたのでした。
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