【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

いやもうほんと無理なんで心臓こんなんなの

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 試合後、私は体育館を出てすぐの木陰にあるベンチに、ずるずると座り込んだ。

(えー? なにこれなにこれなにこれ)

 真さんたち(団体戦だったから)は何試合目かで負けてしまった。惜しかった。真さんは先鋒(って書いてあった)で最初に試合する人でなんか勢いがある試合してた。初めて見たから、勝ち負けはよく分からないけど……。

(でも、)

 なんていうか、なんというのでしょうか、ふつうに。普通に普通に、かっこよかった。

(……カオが良いと、何してもかっこよく見えるから)

 つまり、カッコいい人がカッコいいことをすると倍々にかっこよく見えるわけで、なんなら二乗で、うん、単にそういうことだろう。特別な意味はないはずだ!

「…….帰らなきゃ」

 後で来るとかなんとか言ってたけど、これはダメだ。帰らなきゃ。会えない。こんな状態では会えません。

(というか、心臓が変だ!)

 ほんとうに、変。どっどっどっどって鳴ってるし、頬も熱い気がするし、……風邪? 帰って寝なきゃ。
 ふらりと立ち上がる。
 
「あれ、帰るの」

 少し遠くから声をかけてきたのは、さっき話してた真さんの先輩さん。女の人と立っていた。

(あ)

 あの人だ。さっき、ロビーで真さんと話してた。
 私は少し身構えるーー、って、その必要はないはずなんだけど。
 ていうか、先輩さんが私と微妙に距離があるのは、真さんが言ってたのを少し気にしてるから、かもしれない。

「叫びませんよ?」

 私は苦笑して言った。先輩さんも苦笑いしながら、近づいてきた。女の人も。にこにこしてて、綺麗な人で、胸がぎゅっとなる。変なの……。

「そうしてもらえるとありがたいな。てか、鍋島は? もう会ったの」
「いえ、先に帰ろうかなと」
「ふーん?」

 先輩さんは、少し考え顔をする。

「あのさ」
「はい?」
「鍋島さ、こないだ誕生日だっただろ?」
「あ、はい」
「でね、今からサプライズパーティをするんだけど、来ない?」

 先輩さんは、女の人に目をやる。女の人はなぜだかにやりと笑った。

「いえ、今日は」

 私は遠慮した。だって会えませんもの……。

「サプライズゲストでお願いしたいんだよねー」
「だめ?」

 女の人も参加してきた。

「美味しいケーキとかもあるよ」
「美味しいケーキ」

 ごくり、と喉を鳴らす。ちょうどお腹空いてきたとこでして……いや、でも、うーん!?

「マカロンとか好き?」

 はい陥落。

「好きです参加します」

 私は手を上げた。

(2人きりじゃないなら、大丈夫だよね?)

 うんうん、と頷く。多分大丈夫だよ!

「あのさぁ」

 先輩さんが言った。

「オレらが言えることじゃないけどさ、誘拐とか気をつけた方がいいよ」
「? あ、はい」

 女の人はにやにやしている。そして、私の手を取った。

「よーし、行こう行こう」
「あ、はい」

 すっかり楽しげな女の人に手を引かれるように、私は歩き出した。

 先輩さんの車に乗ってしばらく走って、先輩さんの家だっていう結構お高めそうなマンションに到着する。15階建くらい?

(……23区内でこのマンションかぁ)

 おいくら万円するんでしょうかね……なんて考えてしまう。根がど庶民です。

「さー入って入って」

 先輩さん、もとい秋田さんが言った。車内で自己紹介してくれたのだ。女の人は岩手さん。岩手さんはまだ学生だけど、この2人はお付き合いしてるそうで……ちょっと安心してしまう。

(?)

 なんで安心? なぜか安心。よくわからない。
 入るなり、岩手さんが「ごめんね華ちゃん、ちょっとそこのソファ座ってくれる?」とニコニコとソファを指差した。

「少しだけ目隠しするけど、すぐに外すから心配しないでね」
「? なんでですか?」
「いーからいーから。ごめん、手足も縛るね~」

 ソファで混乱してる間に、秋田さんのネクタイと思われるものでさっさと縛られてしまった。目隠しもされてしまう。

「え、なんですかこれ、外してください」
「ごめんね華ちゃん、真くん助けて的なこと言ってもらえる?」
「え、え、え、なんですかなんですか」

 いやいや、結構、本気で怖いですよ!?

「やだやだ、怖いです、助けて」

 真さん、と素で名前を呼んでしまった。
 次の瞬間には、ぱっと目隠しを外された。

「ごめんごめんっ」

 少し申し訳なさそうだけど、すっごく楽しそうな岩手さん。両手足もすぐに外してくれた。

「なんなんですか!?」
「ごめんごめん涙目だね」

 なぜかぱしゃり、とスマホで撮影される。何が起きてるのー!?

「やり過ぎだってサオリ」
「だってさー、リョウヘイさん、これくらい迫真じゃないと真くん焦らなくない?」
「まぁ、それは」
「???」

 首を傾げていると、岩手さんは笑った。

「パーティーのサプライズなイベントだよ! 華ちゃんを探せ! をしてるの」
「な、なんですかその企画……?」
「ま、気にしないで気にしないで! なんかあの万年クソ笑顔クソ野郎の困った顔が見たいだけだから!」

 クソって2回言ったなこの人……。

「え、誕生日パーティーなのでは……?」
「うふふふふ」

 岩手さんは笑って「ケーキがあるのは本当だよ」と冷蔵庫からケーキを出してきてくれた。誕生日のお祝いなのは、本当らしい。

「もーちょっとしたら、ほかのメンバーも来るからね」
「はぁ」
「さーて、紅茶でも淹れようかな。手伝ってもらえる?」
「あ、はい!」

 返事をして、ソファから立ち上がった。

(よくわかんないけど、オツムの良き方々の高尚な遊びなのかもしれませぬ)

 うんうん、と思う。なんか探偵ゲーム的な?
 そう思いながら、ふとさっきの自分を思い出してひとり赤面する。

(なんで、真さんの名前、呼んじゃったんだろう?)

 首をひねる。
 答えはまだ、出そうにない。
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