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【高校編】分岐・黒田健
カンヅメ
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何が何だか分からないうちに、私はホテルに連れ込まれた。いや、変な意味じゃないです。普通の、ちゃんとしたーーというか、高級なホテルのスイートルームにカンヅメにされております。
「なぜに」
「だからセツメーしたデショ、ハナ」
圭くんがメインルームのソファでのんびり画集を見ながら言う。
「マスコミ対策」
「マスコミの意味が分からないよ」
私は大きな嵌め込みガラスから、眼下の景色を眺めた。あんまり綺麗じゃない横浜の海。くるくる回る観覧車。
「敦子さんが出世したのは分かったよ」
「だからさ、……御前が失脚したんだよ。失脚どころか、……逮捕まで」
「へっ」
「ついでに防衛省のエライさんも逮捕されたんだよ」
「防衛省?」
首をかしげる。
「なんか、事務官のリークらしいんだけど……護衛艦の装備品に関する収賄容疑」
「護衛艦? 大伯父様ってそんな仕事してたの?」
「常盤って、重工がかなりの比率をしめてるらしいから」
重工ってそんなモノも作ってるんですねぇ、と私は頷いた。ちょっと現実感がない。
「シューワイ、シューワイねぇ」
「それで敦子さんがあそこのトップに立ったワケ」
「はー」
「……ハナ、理解してる?」
「うん、まぁ」
私はゆるゆると頷いた。いや、なんかでかい出来事すぎてよく分かんないですよ。
「ちなみに護衛艦って英語だと」
「うん」
「デストロイヤー」
「なんでやねん!」
思わず突っ込んだ。和訳と英訳全然イメージ違うんですけど!
(まぁ、運用する国の違いなのかなぁ)
そんなこんなで、まぁ敦子さんはバタバタしてるんだろうけれど、私と圭くんはのんびりと過ごさせてもらっていた。
ランチもお部屋に運んでもらう。
「わ、美味しそう」
メニューにはなかったんだけど、夏バテ気味だしおかずサラダとか出来ませんか~って聞いたらホントに作ってくれた。有り難いー! ドレッシングもさっぱり系。ローストビーフも乗ってて、お肉食べたい欲も満たされちゃう。
「これなら食べられそうですー!」
「ハナはなんだかんだ言って、食べ始めたら何でも食べると思うけどね」
可愛げのないことを言う圭くんをじとりと睨むと、コンシェルジュさんは少し楽しそうに笑った。
「それから、お夕食もこちらにお運びいたしますので」
「え、レストランとか、は……」
無言で微笑まれた。これは完全に否定の笑みだよね……。というか、ほんとに落ち着くまでカンヅメ? どこにも行けないとかだったらどうしよう……。
(息が詰まっちゃう気がするよ……)
美味しくサラダを完食して、とりあえず学校のテキストを開く。
私はテキストと問題集、それから数日分の着替えだけを持ち込んでいた。圭くんは着替えのほかは画集とスケッチ帳だけ。でもなんだか充実してそう。
その日の夕方に、黒田くんが訪ねてきた。制服だから、部活があったんだと思う。夏休みなのに……って、本当は私も夏課外があったはずなんだけれど!
(サボっちゃったやぁ)
や、厳密にはサボりとは違うかもなんだけれど。
「え、なんで!?」
「親父に場所聞いて」
私は首を傾げた。お父さんって、……神奈川県警? なんでそこまで話が回ってるんだろう?
「とりあえず土産」
「……!!!」
私は戦慄した。どうしても食べたくて食べたくて、でもなかなか手に入らなかったリンゴのケーキ!
「リンゴの形になってるとこが尊い……」
「いやその感覚はよくわかんねーけど」
少し面白そうに、黒田くんは言う。
「設楽に話聞いて、ちょっと俺も食べてみたかったから」
ついでだよ、と黒田くんは普通っぽく言うけれど、ほんとに並ぶのに、このお店。
「えへへ、ありがとう」
「……座ったら?」
ずっと無言だった圭くんがぽつりと言った。黒田くんはぺこり、と頭を下げてソファに座る。私はウッキウキで紅茶を淹れようと立ち上がる。ケーキには紅茶派です。
「ちょっと待ってハナ、ここの置いてある紅茶、そんな風にテキトーに淹れないでバチが当たる」
「え、そんないいお茶なの……!?」
慌てて銘柄を確認する。するけど、よくわからない。
「おれ淹れるから」
圭くんは軽く笑って立ち上がる。黒田くんは妙な顔をしていた。
「こだわるんだな、弟」
「オトートじゃない」
電気ケトルを持って、圭くんは黒田くんの前に立った。ゆっくりと目を細める。
「遠い親戚。……結婚できるくらいにね」
「……へぇ」
黒田くんは片眉を上げた。私はお皿を準備しながら、2人の会話をなんとなく聞いていた。
「ねえねぇ、なんでケーキよっつあるの?」
私はケーキの箱を開けて首をかしげる。黒田くんは不思議そうな顔をした。
(私と、圭くんと、黒田くんと)
敦子さんのぶん?
「あとひとり、いるんだろ? 親戚だかイトコだか」
「え?」
ぽかん、と圭くんと顔を見合わせた瞬間に、圭くんのスマホが鳴る。
「……嫌な予感がするよ」
圭くんは呟いて、その通話に出た。二言三言、会話したあと、軽く眉を寄せる。
「ハナ」
「なぁに?」
「あの子も一緒、なんだってさ」
「あの子?」
ふと聞き返して、黒田くんを見る。黒田くんは「逮捕されたオッサンだかジーサンだかのコドモだって聞いたけど」と不思議そうに返してくれた。
私はちょっとぽかん、と考えてから圭くんを見る。
圭くんは肩をすくめた。
「ハナの考えてる通り。……シュリ、しばらく一緒にここで過ごすみたい」
「……えええっ」
年に一回、年末年始の親戚の集まりでしか会わない、あの口攻撃が年々キツくなるあの、御前のお嬢さん、シュリちゃんでしょうか……!?
「なぜに」
「だからセツメーしたデショ、ハナ」
圭くんがメインルームのソファでのんびり画集を見ながら言う。
「マスコミ対策」
「マスコミの意味が分からないよ」
私は大きな嵌め込みガラスから、眼下の景色を眺めた。あんまり綺麗じゃない横浜の海。くるくる回る観覧車。
「敦子さんが出世したのは分かったよ」
「だからさ、……御前が失脚したんだよ。失脚どころか、……逮捕まで」
「へっ」
「ついでに防衛省のエライさんも逮捕されたんだよ」
「防衛省?」
首をかしげる。
「なんか、事務官のリークらしいんだけど……護衛艦の装備品に関する収賄容疑」
「護衛艦? 大伯父様ってそんな仕事してたの?」
「常盤って、重工がかなりの比率をしめてるらしいから」
重工ってそんなモノも作ってるんですねぇ、と私は頷いた。ちょっと現実感がない。
「シューワイ、シューワイねぇ」
「それで敦子さんがあそこのトップに立ったワケ」
「はー」
「……ハナ、理解してる?」
「うん、まぁ」
私はゆるゆると頷いた。いや、なんかでかい出来事すぎてよく分かんないですよ。
「ちなみに護衛艦って英語だと」
「うん」
「デストロイヤー」
「なんでやねん!」
思わず突っ込んだ。和訳と英訳全然イメージ違うんですけど!
(まぁ、運用する国の違いなのかなぁ)
そんなこんなで、まぁ敦子さんはバタバタしてるんだろうけれど、私と圭くんはのんびりと過ごさせてもらっていた。
ランチもお部屋に運んでもらう。
「わ、美味しそう」
メニューにはなかったんだけど、夏バテ気味だしおかずサラダとか出来ませんか~って聞いたらホントに作ってくれた。有り難いー! ドレッシングもさっぱり系。ローストビーフも乗ってて、お肉食べたい欲も満たされちゃう。
「これなら食べられそうですー!」
「ハナはなんだかんだ言って、食べ始めたら何でも食べると思うけどね」
可愛げのないことを言う圭くんをじとりと睨むと、コンシェルジュさんは少し楽しそうに笑った。
「それから、お夕食もこちらにお運びいたしますので」
「え、レストランとか、は……」
無言で微笑まれた。これは完全に否定の笑みだよね……。というか、ほんとに落ち着くまでカンヅメ? どこにも行けないとかだったらどうしよう……。
(息が詰まっちゃう気がするよ……)
美味しくサラダを完食して、とりあえず学校のテキストを開く。
私はテキストと問題集、それから数日分の着替えだけを持ち込んでいた。圭くんは着替えのほかは画集とスケッチ帳だけ。でもなんだか充実してそう。
その日の夕方に、黒田くんが訪ねてきた。制服だから、部活があったんだと思う。夏休みなのに……って、本当は私も夏課外があったはずなんだけれど!
(サボっちゃったやぁ)
や、厳密にはサボりとは違うかもなんだけれど。
「え、なんで!?」
「親父に場所聞いて」
私は首を傾げた。お父さんって、……神奈川県警? なんでそこまで話が回ってるんだろう?
「とりあえず土産」
「……!!!」
私は戦慄した。どうしても食べたくて食べたくて、でもなかなか手に入らなかったリンゴのケーキ!
「リンゴの形になってるとこが尊い……」
「いやその感覚はよくわかんねーけど」
少し面白そうに、黒田くんは言う。
「設楽に話聞いて、ちょっと俺も食べてみたかったから」
ついでだよ、と黒田くんは普通っぽく言うけれど、ほんとに並ぶのに、このお店。
「えへへ、ありがとう」
「……座ったら?」
ずっと無言だった圭くんがぽつりと言った。黒田くんはぺこり、と頭を下げてソファに座る。私はウッキウキで紅茶を淹れようと立ち上がる。ケーキには紅茶派です。
「ちょっと待ってハナ、ここの置いてある紅茶、そんな風にテキトーに淹れないでバチが当たる」
「え、そんないいお茶なの……!?」
慌てて銘柄を確認する。するけど、よくわからない。
「おれ淹れるから」
圭くんは軽く笑って立ち上がる。黒田くんは妙な顔をしていた。
「こだわるんだな、弟」
「オトートじゃない」
電気ケトルを持って、圭くんは黒田くんの前に立った。ゆっくりと目を細める。
「遠い親戚。……結婚できるくらいにね」
「……へぇ」
黒田くんは片眉を上げた。私はお皿を準備しながら、2人の会話をなんとなく聞いていた。
「ねえねぇ、なんでケーキよっつあるの?」
私はケーキの箱を開けて首をかしげる。黒田くんは不思議そうな顔をした。
(私と、圭くんと、黒田くんと)
敦子さんのぶん?
「あとひとり、いるんだろ? 親戚だかイトコだか」
「え?」
ぽかん、と圭くんと顔を見合わせた瞬間に、圭くんのスマホが鳴る。
「……嫌な予感がするよ」
圭くんは呟いて、その通話に出た。二言三言、会話したあと、軽く眉を寄せる。
「ハナ」
「なぁに?」
「あの子も一緒、なんだってさ」
「あの子?」
ふと聞き返して、黒田くんを見る。黒田くんは「逮捕されたオッサンだかジーサンだかのコドモだって聞いたけど」と不思議そうに返してくれた。
私はちょっとぽかん、と考えてから圭くんを見る。
圭くんは肩をすくめた。
「ハナの考えてる通り。……シュリ、しばらく一緒にここで過ごすみたい」
「……えええっ」
年に一回、年末年始の親戚の集まりでしか会わない、あの口攻撃が年々キツくなるあの、御前のお嬢さん、シュリちゃんでしょうか……!?
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