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【高校編】分岐・黒田健
理由
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「だっかっらね! お紅茶のミルクをあっためておくなんてあり得ないからっ」
シュリちゃんはブチ切れていた。
「お紅茶が乳臭くなるでしょ!? なんなのこの日本特有の牛乳あっためる文化!? おもてなし!? おもてなしなの!? 紅茶が冷めませんように!? よ、け、い、な、お、せ、わっ」
「し、シュリちゃん落ち着いて」
思わず声をかけた私に、シュリちゃんは勢いよく振り向いて言った。
「華は黙ってて!」
「はぁ」
「……ちなみにどっち派?」
「あの、気にしたことなかったです」
「この味オンチオンナっ」
ぷんすか、ってシュリちゃんを、圭くんはめんどくさそうに、黒田くんは物珍しいものを見る目で眺めていた。いや、だれか止めてよ……。
ことは1時間ほど前に遡る。
圭くんが敦子さんから連絡を受けた直後に、シュリちゃんはやってきた。少しヘコんでる気がしないでもなかったけれど、まぁすごくすぐに復活した。そして、いつも通りな、……なんといいますか、元気なシュリちゃんになったんだけれど。
ちょうど紅茶もはいったし、とお茶にしようと提案したところ、シュリちゃんは言い放った。
「あたし、ミルクティー派なの」
「……さいですか」
そんなわけで、コンシェルジュさんに「紅茶用ミルク」をお願いしたところ、厨房の方が届けてくれたのだ。
ところがそれを見てシュリちゃんがブチ切れた。シュリちゃんは紅茶のミルク、あっためちゃダメだったらしい。
「も、申しわけございませんっ」
ミルクを持ってきた人とは別の人が、冷たい牛乳をうやうやしくシュリちゃんに差し出しながら言った。
「別室に、ミルクを温めてお飲みになられるお客様がいらっしゃいましてっ、そちらの方と厨房で入れ違いがっ」
「は!? 鼻と舌がどうにかしてんのね、その客。っていうか、あなたがた、あり得ないミスねっ!」
びしり、とシュリちゃんは従業員さんを指差す。
「このホテルもレベルが落ちたことっ」
「そこまでにしといたらどうだ、ええと、常盤?」
黒田くんが怯える従業員さんを見かねてか、口を挟む。
「自分だって百パー間違えねえ生き方してる訳じゃねーだろ。もう新しい牛乳も持ってきてもらったんだからいいじゃねーか」
「フン、これはこの人たちがもうこんなミスをしないようにという教育的指導をね……っていうか、誰?」
きょとん、とシュリちゃんは黒田くんを見つめつつ言った。その隙に圭くんが「もう大丈夫ですよ」と従業員さんたちを帰す。
「今気づいた。誰?」
「いや遅くねーか」
「こっちだって色々あんのよ」
じとりと睨みつけてくる。
(なんで私!?)
黒田くんは淡々と「コイツの彼氏」と私を指差した。
「ふーん。彼氏? 華、アンタ付き合ってる人いたのね~カオだけはいいもんね……って、彼氏!?」
シュリちゃんは私と黒田くんを右手と左手でそれぞれ指差した。……器用だなぁ。
「い、いいいいい樹さまは!?」
「だ、だから!」
私はびっくりしすぎて変な顔になってるシュリちゃんに言う。
「カタチだけの許婚なんだよって何回も」
聞いてなかったなこの子……。
「は? ……まぁ、ふーん。そ」
呆れたようにシュリちゃんは手を腰に当てて首を傾げた。
「どー考えても樹さまのが良くない?」
「そんなことないもんっ」
慌てて黒田くんを見ると「そりゃそーだ」と笑っていた。
「なんでコイツが俺といんのか未だにわかんねーもん」
「えっ」
私はぽかんとして言う。分かってなかったの!?
「好きだからだよ?」
黒田くんは、少し虚をつかれたような顔をして私を見て、それからふい、と目線をそらした。
(えっ、うそっ)
……珍しい、照れてるよ!? ちょっと嬉しい。
「アンタ男の趣味変なのねぇ!」
シュリちゃんは感心したように言った。
「じゃーアタシが樹さまにアタックしてもいいのよね!?」
「い、いいけど」
樹くん、シュリちゃん苦手っぽいけどな……。
「ムダだと思うよシュリ」
「あんたは黙ってて圭!」
シュリちゃんはきっ、と圭くんを睨む。
「だって、シュリ、別にイツキのこと好きじゃないでしょ?」
「は?」
「単に母親ーーアカネさんに言われてたから、じゃん。しかももうあのジーサンも失脚してんじゃん。無理に家とかオヤの見栄のために自分作らなくていいんじゃないの」
シュリちゃんは、ぽかんと圭くんを見た。それから首を傾げて「作る?」と心底不思議そうに小さく言った。
「だってシュリ、子供の頃からそうじゃん。親が言ってること、親がやる通り、そうやってたじゃん」
圭くんはシュリちゃんから目を逸らさない。
「好きにしていいんじゃない」
そう言って、圭くんはふ、と持っていた画集に目を落とした。
「好きに?」
シュリちゃんは軽く眉を寄せて、それからすとん、とソファに座った。
「……イミわかんない」
シュリちゃんは紅茶のカップを手に取り(あんなに主張してたミルクを入れずに)一口、口にした。
「……美味しい」
「そ」
圭くんの淹れた紅茶は、ストレートでもシュリちゃんのお口に合ったらしい。
「ママが」
ぽつりとシュリちゃんは言った。
「ママが、ミルクティーが好きなの」
呟く視線の先は、濃い琥珀色の紅茶の水面。
どんな気持ちでそう言ったのかは、私には分からなかった。
シュリちゃんはブチ切れていた。
「お紅茶が乳臭くなるでしょ!? なんなのこの日本特有の牛乳あっためる文化!? おもてなし!? おもてなしなの!? 紅茶が冷めませんように!? よ、け、い、な、お、せ、わっ」
「し、シュリちゃん落ち着いて」
思わず声をかけた私に、シュリちゃんは勢いよく振り向いて言った。
「華は黙ってて!」
「はぁ」
「……ちなみにどっち派?」
「あの、気にしたことなかったです」
「この味オンチオンナっ」
ぷんすか、ってシュリちゃんを、圭くんはめんどくさそうに、黒田くんは物珍しいものを見る目で眺めていた。いや、だれか止めてよ……。
ことは1時間ほど前に遡る。
圭くんが敦子さんから連絡を受けた直後に、シュリちゃんはやってきた。少しヘコんでる気がしないでもなかったけれど、まぁすごくすぐに復活した。そして、いつも通りな、……なんといいますか、元気なシュリちゃんになったんだけれど。
ちょうど紅茶もはいったし、とお茶にしようと提案したところ、シュリちゃんは言い放った。
「あたし、ミルクティー派なの」
「……さいですか」
そんなわけで、コンシェルジュさんに「紅茶用ミルク」をお願いしたところ、厨房の方が届けてくれたのだ。
ところがそれを見てシュリちゃんがブチ切れた。シュリちゃんは紅茶のミルク、あっためちゃダメだったらしい。
「も、申しわけございませんっ」
ミルクを持ってきた人とは別の人が、冷たい牛乳をうやうやしくシュリちゃんに差し出しながら言った。
「別室に、ミルクを温めてお飲みになられるお客様がいらっしゃいましてっ、そちらの方と厨房で入れ違いがっ」
「は!? 鼻と舌がどうにかしてんのね、その客。っていうか、あなたがた、あり得ないミスねっ!」
びしり、とシュリちゃんは従業員さんを指差す。
「このホテルもレベルが落ちたことっ」
「そこまでにしといたらどうだ、ええと、常盤?」
黒田くんが怯える従業員さんを見かねてか、口を挟む。
「自分だって百パー間違えねえ生き方してる訳じゃねーだろ。もう新しい牛乳も持ってきてもらったんだからいいじゃねーか」
「フン、これはこの人たちがもうこんなミスをしないようにという教育的指導をね……っていうか、誰?」
きょとん、とシュリちゃんは黒田くんを見つめつつ言った。その隙に圭くんが「もう大丈夫ですよ」と従業員さんたちを帰す。
「今気づいた。誰?」
「いや遅くねーか」
「こっちだって色々あんのよ」
じとりと睨みつけてくる。
(なんで私!?)
黒田くんは淡々と「コイツの彼氏」と私を指差した。
「ふーん。彼氏? 華、アンタ付き合ってる人いたのね~カオだけはいいもんね……って、彼氏!?」
シュリちゃんは私と黒田くんを右手と左手でそれぞれ指差した。……器用だなぁ。
「い、いいいいい樹さまは!?」
「だ、だから!」
私はびっくりしすぎて変な顔になってるシュリちゃんに言う。
「カタチだけの許婚なんだよって何回も」
聞いてなかったなこの子……。
「は? ……まぁ、ふーん。そ」
呆れたようにシュリちゃんは手を腰に当てて首を傾げた。
「どー考えても樹さまのが良くない?」
「そんなことないもんっ」
慌てて黒田くんを見ると「そりゃそーだ」と笑っていた。
「なんでコイツが俺といんのか未だにわかんねーもん」
「えっ」
私はぽかんとして言う。分かってなかったの!?
「好きだからだよ?」
黒田くんは、少し虚をつかれたような顔をして私を見て、それからふい、と目線をそらした。
(えっ、うそっ)
……珍しい、照れてるよ!? ちょっと嬉しい。
「アンタ男の趣味変なのねぇ!」
シュリちゃんは感心したように言った。
「じゃーアタシが樹さまにアタックしてもいいのよね!?」
「い、いいけど」
樹くん、シュリちゃん苦手っぽいけどな……。
「ムダだと思うよシュリ」
「あんたは黙ってて圭!」
シュリちゃんはきっ、と圭くんを睨む。
「だって、シュリ、別にイツキのこと好きじゃないでしょ?」
「は?」
「単に母親ーーアカネさんに言われてたから、じゃん。しかももうあのジーサンも失脚してんじゃん。無理に家とかオヤの見栄のために自分作らなくていいんじゃないの」
シュリちゃんは、ぽかんと圭くんを見た。それから首を傾げて「作る?」と心底不思議そうに小さく言った。
「だってシュリ、子供の頃からそうじゃん。親が言ってること、親がやる通り、そうやってたじゃん」
圭くんはシュリちゃんから目を逸らさない。
「好きにしていいんじゃない」
そう言って、圭くんはふ、と持っていた画集に目を落とした。
「好きに?」
シュリちゃんは軽く眉を寄せて、それからすとん、とソファに座った。
「……イミわかんない」
シュリちゃんは紅茶のカップを手に取り(あんなに主張してたミルクを入れずに)一口、口にした。
「……美味しい」
「そ」
圭くんの淹れた紅茶は、ストレートでもシュリちゃんのお口に合ったらしい。
「ママが」
ぽつりとシュリちゃんは言った。
「ママが、ミルクティーが好きなの」
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