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【高校編】分岐・山ノ内瑛
ケーキ
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「なんなんやこの状況は」
少し拗ねたようにアキラくんが言って、私は笑った。
アキラくんの家のダイニングテーブルには、横のデパートでアキラくんのお父さんが買ってくれたケーキと、チキン。
「ええやんか」
お父さんは少し嬉しそうにケーキにロウソクをさして、火をつけた。……クリスマスケーキって誕生日みたいにするっけ?
「あ、なんかノリでつけてもた」
なんか付いてたからやな、とお父さんは言う。
「せやけど変やんな? ふー、せんよな」
「責任持ってオトンが火ぃ消してや」
「なんや気まずいなそれ」
「ほら歌ったるから。ハッピバースデーおーとんー」
「俺は9月生まれや」
言いながら吹き消されるロウソクの火。
「なんで付いてたんやローソク」
「つける人もおるんやろ」
「謎やな……さて」
アキラくんのお父さんは立ち上がる。
「ほなオレ、カイシャ戻るわ」
「え、ケーキは」
私は反射的に、美味しそうなケーキを前に去ろうとするお父さんの服の裾を掴む。
「少し残しておいてくれたらそれで。ほな、……アキラ、避妊は気ぃつけーよ」
思わず服から手を離す。またもや赤面。
「せえへんわ! ほんまアホか!」
「はっはっ」
アキラくんのお父さんは片手を上げて去っていく。ぱたり、とリビングのドアが閉まった。
「……すまん、華、あんな父親で。セクハラやで」
「え、いや、気にしてくれてるんだと」
「せやけどな~……まぁ、俺らにケーキ買いたかっただけやな、あれは」
「あ、そーいうことか」
おかげさまでちょっと高級目のクリスマスケーキ、それにチキン。ありがたやありがたや。
「お礼、伝えてもらっておいていい?」
ちゃんと言えてないや。
「おう。まーせっかくやし、食お食お」
「いっただきまーす!」
お言葉に甘えて、まずはチキンから! 塩味と甘辛味と二種類。
「わ、おいし」
「さすが老舗……」
アキラくんがうなる。
「この味は出せへんな」
「そーなの?」
「横にデパート入ってるやん」
アキラくんは窓の方を軽く示した。
「あっこの惣菜売り場に入ってる、老舗総菜屋でなぜかクリスマスチキン売ってんねん。和食総菜やのに」
「あは、そーなの? でも美味しー!」
「悔しいな、レシピ研究したろかな」
アキラくんは口を尖らせる。
「ていうか、」
私は軽く首を傾げた。
「アキラくん、料理するの?」
「するで?」
当然、みたいにサラリと答えられた。
「一応俺スポーツ特待やしな、食事管理っつうか栄養も考えなあかんしなー」
そう言って立ち上がり、キッチンから持ってきたのは料理本。それも普通のじゃなくて「スポーツ栄養管理」とかがタイトルにつくやつ。本格的!
「ま、こんなん読んでも、ウチのコーチやらはやたらとコメ食えコメ食えって感じなんやけど」
なんなんやあの米信仰は、とアキラくんは呆れたように言う。
「寮生なんかは白米強制やからな。どんぶり何杯とか」
「お、おかず無しに……?」
「せやで」
なんでもない事のようにアキラくんは頷く。
き、強豪運動部、食事も大変なんだなぁ……。
私はアキラくんがテーブルにおいたその本をパラパラと眺めた。
(ふむふむ)
練習前には糖質と水分、とか、捕食はあくまで捕食、とか。本の後半はレシピ集だった。なるほどなぁ。
「……こーいうの、勉強しようかなぁ」
「ん?」
アキラくんは首を傾げた。
「進学先。まだ先だけど、栄養学とか、なんかそういうの。だってアキラくんプロになるんでしょ、ご飯、作ったり、とか……」
言いながら照れてしまった。
(わー!)
ひとりで突っ走ってない!? 私、勝手に、なんていうか、結婚なんかしちゃったあとの話してなかった!?
ひとりで照れて、俯いて本を眺める。文字の上を目が滑って、いまいち内容が入ってこない……。
がたり、と椅子を立つ音がして顔を上げると、ぽすりと抱きしめられた。
「華」
甘い声。ちょっと甘えるみたいな。
「嬉しいんやけど、でも、華は華のしたい将来のこと、あるんやないの」
「アキラくんといる、以外に特にないよ」
言いながら思う。つまんないヒトかもな、私。
(でも)
私も甘えるようにアキラくんの胸に頬を寄せる。
(このヒトを支えていたい、以外にないんだ)
さらり、と私の髪をアキラくんが優しく梳いた。
「それに約束したでしょ、私、アキラくんの勝手にちゃんと巻き込まれます、って」
「ほんなら、……お願いしよかな」
アキラくんはゆっくりと屈んだ。少し上目遣いで私を見る。
「プロなったら、食事の管理とか、お願いしてもええ?」
「うん」
アキラくんは私の手を取る。真剣な瞳に、すこしどきりとした。
「その前に、結婚してくれますか」
「アキラくん」
「言うてなかったな、思うて」
アキラくんはにかっ、と笑った。
「駆け落ちは、もうせんでも良さげにはなりつつある、と思うんやけど」
「うん」
「せやけど、でも……それやったら、なんかフツーに。結婚して、ずうっと一緒におってくれる?」
私は半分、椅子から飛び降りるみたいにアキラくんにしがみつく。アキラくんは私を抱きとめて、強く抱きしめてくれた。
「いる」
「こんなガキの言うことやし、約束果たせるんずっと先やけど」
「うん」
「めっちゃ好き。愛しとーし、華以外って死んでも考えられへんから」
「……ん」
「なんや今日、俺、華泣かせてばっかやな」
「んーん」
申し訳ないような、からかうような、そんな声音のアキラくんの声に、私はゆっくりと首を振った。
少し拗ねたようにアキラくんが言って、私は笑った。
アキラくんの家のダイニングテーブルには、横のデパートでアキラくんのお父さんが買ってくれたケーキと、チキン。
「ええやんか」
お父さんは少し嬉しそうにケーキにロウソクをさして、火をつけた。……クリスマスケーキって誕生日みたいにするっけ?
「あ、なんかノリでつけてもた」
なんか付いてたからやな、とお父さんは言う。
「せやけど変やんな? ふー、せんよな」
「責任持ってオトンが火ぃ消してや」
「なんや気まずいなそれ」
「ほら歌ったるから。ハッピバースデーおーとんー」
「俺は9月生まれや」
言いながら吹き消されるロウソクの火。
「なんで付いてたんやローソク」
「つける人もおるんやろ」
「謎やな……さて」
アキラくんのお父さんは立ち上がる。
「ほなオレ、カイシャ戻るわ」
「え、ケーキは」
私は反射的に、美味しそうなケーキを前に去ろうとするお父さんの服の裾を掴む。
「少し残しておいてくれたらそれで。ほな、……アキラ、避妊は気ぃつけーよ」
思わず服から手を離す。またもや赤面。
「せえへんわ! ほんまアホか!」
「はっはっ」
アキラくんのお父さんは片手を上げて去っていく。ぱたり、とリビングのドアが閉まった。
「……すまん、華、あんな父親で。セクハラやで」
「え、いや、気にしてくれてるんだと」
「せやけどな~……まぁ、俺らにケーキ買いたかっただけやな、あれは」
「あ、そーいうことか」
おかげさまでちょっと高級目のクリスマスケーキ、それにチキン。ありがたやありがたや。
「お礼、伝えてもらっておいていい?」
ちゃんと言えてないや。
「おう。まーせっかくやし、食お食お」
「いっただきまーす!」
お言葉に甘えて、まずはチキンから! 塩味と甘辛味と二種類。
「わ、おいし」
「さすが老舗……」
アキラくんがうなる。
「この味は出せへんな」
「そーなの?」
「横にデパート入ってるやん」
アキラくんは窓の方を軽く示した。
「あっこの惣菜売り場に入ってる、老舗総菜屋でなぜかクリスマスチキン売ってんねん。和食総菜やのに」
「あは、そーなの? でも美味しー!」
「悔しいな、レシピ研究したろかな」
アキラくんは口を尖らせる。
「ていうか、」
私は軽く首を傾げた。
「アキラくん、料理するの?」
「するで?」
当然、みたいにサラリと答えられた。
「一応俺スポーツ特待やしな、食事管理っつうか栄養も考えなあかんしなー」
そう言って立ち上がり、キッチンから持ってきたのは料理本。それも普通のじゃなくて「スポーツ栄養管理」とかがタイトルにつくやつ。本格的!
「ま、こんなん読んでも、ウチのコーチやらはやたらとコメ食えコメ食えって感じなんやけど」
なんなんやあの米信仰は、とアキラくんは呆れたように言う。
「寮生なんかは白米強制やからな。どんぶり何杯とか」
「お、おかず無しに……?」
「せやで」
なんでもない事のようにアキラくんは頷く。
き、強豪運動部、食事も大変なんだなぁ……。
私はアキラくんがテーブルにおいたその本をパラパラと眺めた。
(ふむふむ)
練習前には糖質と水分、とか、捕食はあくまで捕食、とか。本の後半はレシピ集だった。なるほどなぁ。
「……こーいうの、勉強しようかなぁ」
「ん?」
アキラくんは首を傾げた。
「進学先。まだ先だけど、栄養学とか、なんかそういうの。だってアキラくんプロになるんでしょ、ご飯、作ったり、とか……」
言いながら照れてしまった。
(わー!)
ひとりで突っ走ってない!? 私、勝手に、なんていうか、結婚なんかしちゃったあとの話してなかった!?
ひとりで照れて、俯いて本を眺める。文字の上を目が滑って、いまいち内容が入ってこない……。
がたり、と椅子を立つ音がして顔を上げると、ぽすりと抱きしめられた。
「華」
甘い声。ちょっと甘えるみたいな。
「嬉しいんやけど、でも、華は華のしたい将来のこと、あるんやないの」
「アキラくんといる、以外に特にないよ」
言いながら思う。つまんないヒトかもな、私。
(でも)
私も甘えるようにアキラくんの胸に頬を寄せる。
(このヒトを支えていたい、以外にないんだ)
さらり、と私の髪をアキラくんが優しく梳いた。
「それに約束したでしょ、私、アキラくんの勝手にちゃんと巻き込まれます、って」
「ほんなら、……お願いしよかな」
アキラくんはゆっくりと屈んだ。少し上目遣いで私を見る。
「プロなったら、食事の管理とか、お願いしてもええ?」
「うん」
アキラくんは私の手を取る。真剣な瞳に、すこしどきりとした。
「その前に、結婚してくれますか」
「アキラくん」
「言うてなかったな、思うて」
アキラくんはにかっ、と笑った。
「駆け落ちは、もうせんでも良さげにはなりつつある、と思うんやけど」
「うん」
「せやけど、でも……それやったら、なんかフツーに。結婚して、ずうっと一緒におってくれる?」
私は半分、椅子から飛び降りるみたいにアキラくんにしがみつく。アキラくんは私を抱きとめて、強く抱きしめてくれた。
「いる」
「こんなガキの言うことやし、約束果たせるんずっと先やけど」
「うん」
「めっちゃ好き。愛しとーし、華以外って死んでも考えられへんから」
「……ん」
「なんや今日、俺、華泣かせてばっかやな」
「んーん」
申し訳ないような、からかうような、そんな声音のアキラくんの声に、私はゆっくりと首を振った。
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