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【高校編】分岐・鹿王院樹
ざわつき(side樹)
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「樹様のおっしゃる通り、防犯カメラの映像から、あの男ーー家永涼星という名前なのですが、ヤツが桜澤青花と一緒に店内に入ったのが確認されました」
相良さんの部下の男性は、淡々と続ける。あの時、華の護衛についていたヒトだ。
俺と華はそれを、ウチの客間で並んで聞いていた。津軽塗の座卓。向かい側にその人が座って説明を続けてた。
華は「誰これ」って顔をしてその人を見つめていた。その手はこっそり俺の服を掴んでいて、そっと俺はその手を握り直す。
(怖かっただろうに)
ずいぶん気丈に振る舞っている、と思った。しかし握った手は冷たくて、俺は胸が痛んだ。
(あんな目にあわせてしまった)
その痛みは、同時に怒りに変わる。あの男に対する、そしてなにより、誰であろう桜澤青花への怒りに。
「それでーー」
「以降の説明は俺から」
すっと開いた障子のむこうには、相良さんの姿。華がびくりと反応した。
顔を窺えば、ひどく驚いた、訝しげな表情で。
「じ、じゃない、相良先生?」
首を傾げつつ、華は言う。
「なんでここに?」
「それはですね設楽さん」
どこか飄々とした顔で、相良さんは言う。
「僕たちが、あなたの護衛さんだからです」
「は?」
ぽかん、とした華の声と表情。
「……何言ってんの?」
あまりにフランクな態度の、その声と口調。俺はじっと2人を見つめた。
「だからな、俺、お前のボディーガードしてたの。ずっと。お前のばーさんに依頼されて」
華のフランクな態度に合わせて、相良さんも態度を変える。しかし華はなんとも思っていないようだった。まるで、それが当たり前かのように。
「なにそれっ!?」
華の素っ頓狂な声。
「え!? いつから!?」
「小6」
「嘘でしょ!?」
「そうじゃなきゃさ、そっからずーっと担任とかあり得なくない?」
「はっ」
華は手を口に当てて、それから俺を見上げた。
「……知ってたの?」
じとりとした目線。ややたじろぎながら、俺は頷く。華は軽く俺をにらむ。
「教えてよ!」
「言えば、華は嫌がるだろうと、敦子さんが。そうなれば護衛がつけられなくなる」
「つけなくていいよっ」
「良くない」
俺はじっと華を見た。
「ただでさえトラブル体質なんだ。何かあってからでは遅い」
「そんな変な体質、してないよっ」
「している」
「あー、はいはい、いちゃつくのしゅーりょー」
どかり、と座卓の向こうに腰を下ろして机を指で叩きながら相良さんは言う。
「いっつもいっつも目の前でいちゃついてくれちゃって」
「ぎゃー」
華は俺から手を離し、両手で頭を抱えた。
「見てたのっ」
「見てましたとも……ってのはちょっとウソ。お前のばーさんがあんまり締め付けるとバレるかもってーんで、お前のことちゃんと見てんのは主に室外。建物内では出入りのチェックくらい、もちろん外からな」
「そー、なんだ。それなら……って良くない。それでも良くないっ」
華はぷんすか、と拳を握る。
「まぁ鹿王院のお坊ちゃんが言う通り、お前トラブル体質なんだから諦めろ」
俺は軽く眉をひそめた。まぁ相良さんみたいな大人からしたら、まだまだ俺は「お坊ちゃん」なのかもしれないが。
「だから、そんな変な体質してないっ」
「ま、見張ってない建物内でだったから、だとか。それでも、言い訳にはならん」
相良さんは頭を下げた。横で直接に護衛についていた彼も頭を下げる。
「怖い目に遭わせた。もっと早く動くべきだった」
「申し訳ございませんでした」
「え、えと、仁?」
俺はぴくり、と肩を揺らした。ファーストネームで、華は相良さんを呼んだ。それが当たり前であるように。
「今後は護衛体制を見直す」
「い、いいよそんなのっ! そもそも見張られてたくないし」
「違う、華。二度と」
相良さんからでた「華」という呼び方に、やはり俺は身を硬くする。
相良さんはまっすぐに華を見つめていた。
「お前を"うしないたく"ないから」
華は固まったように動かない。軽く下げられた眉は申し訳なさをたたえていて、俺は混乱する。
(なにがあった?)
華の手を取り、握り、考える。
(この2人に、かつて、なにが)
華の手はもう冷たくなくて、俺は心がかき乱されるのを感じた。
「まぁそれでだな、家永は警察署までドナドナさせていただいたわけですが」
「……なにも喋りませんでしたか」
「水責めか何かしていいなら、吐いたかもですけど」
「な、なに物騒なコト言ってんのよ」
華は口を尖らせる。
「水責めて、あれでしょ、バケツに水張って顔つける!」
映画とかでやるやつ! と華は言う。
「あー、ちょっと違う」
相良さんはサラリと言った。
「逆立ちさせてな、鼻と口に水直接いれんの」
「は?」
「その状態で水いれるとさ、気管の反射でさ、肺から空気が出てくから。速攻で溺水状態を味わえるってワケ。ふつうに爪剥がしたりよりよっぽど効果あるよ、死ぬ感覚味わえるもん」
「ななななんつう拷問しようとしてんのよ!」
「華」
諭すように相良さんは言う。
「これな、拷問じゃねーの。身体傷つけないだろ? いちおう条約違反じゃないってことに」
「条約がどうの知らないけどっ、ダメなものはダメ」
「……はいはい、分かりましたよお嬢様。つか、やってねーよ」
相良さんは笑いながら続けた。
「やっぱ、変わんねーな、お前」
相良さんの部下の男性は、淡々と続ける。あの時、華の護衛についていたヒトだ。
俺と華はそれを、ウチの客間で並んで聞いていた。津軽塗の座卓。向かい側にその人が座って説明を続けてた。
華は「誰これ」って顔をしてその人を見つめていた。その手はこっそり俺の服を掴んでいて、そっと俺はその手を握り直す。
(怖かっただろうに)
ずいぶん気丈に振る舞っている、と思った。しかし握った手は冷たくて、俺は胸が痛んだ。
(あんな目にあわせてしまった)
その痛みは、同時に怒りに変わる。あの男に対する、そしてなにより、誰であろう桜澤青花への怒りに。
「それでーー」
「以降の説明は俺から」
すっと開いた障子のむこうには、相良さんの姿。華がびくりと反応した。
顔を窺えば、ひどく驚いた、訝しげな表情で。
「じ、じゃない、相良先生?」
首を傾げつつ、華は言う。
「なんでここに?」
「それはですね設楽さん」
どこか飄々とした顔で、相良さんは言う。
「僕たちが、あなたの護衛さんだからです」
「は?」
ぽかん、とした華の声と表情。
「……何言ってんの?」
あまりにフランクな態度の、その声と口調。俺はじっと2人を見つめた。
「だからな、俺、お前のボディーガードしてたの。ずっと。お前のばーさんに依頼されて」
華のフランクな態度に合わせて、相良さんも態度を変える。しかし華はなんとも思っていないようだった。まるで、それが当たり前かのように。
「なにそれっ!?」
華の素っ頓狂な声。
「え!? いつから!?」
「小6」
「嘘でしょ!?」
「そうじゃなきゃさ、そっからずーっと担任とかあり得なくない?」
「はっ」
華は手を口に当てて、それから俺を見上げた。
「……知ってたの?」
じとりとした目線。ややたじろぎながら、俺は頷く。華は軽く俺をにらむ。
「教えてよ!」
「言えば、華は嫌がるだろうと、敦子さんが。そうなれば護衛がつけられなくなる」
「つけなくていいよっ」
「良くない」
俺はじっと華を見た。
「ただでさえトラブル体質なんだ。何かあってからでは遅い」
「そんな変な体質、してないよっ」
「している」
「あー、はいはい、いちゃつくのしゅーりょー」
どかり、と座卓の向こうに腰を下ろして机を指で叩きながら相良さんは言う。
「いっつもいっつも目の前でいちゃついてくれちゃって」
「ぎゃー」
華は俺から手を離し、両手で頭を抱えた。
「見てたのっ」
「見てましたとも……ってのはちょっとウソ。お前のばーさんがあんまり締め付けるとバレるかもってーんで、お前のことちゃんと見てんのは主に室外。建物内では出入りのチェックくらい、もちろん外からな」
「そー、なんだ。それなら……って良くない。それでも良くないっ」
華はぷんすか、と拳を握る。
「まぁ鹿王院のお坊ちゃんが言う通り、お前トラブル体質なんだから諦めろ」
俺は軽く眉をひそめた。まぁ相良さんみたいな大人からしたら、まだまだ俺は「お坊ちゃん」なのかもしれないが。
「だから、そんな変な体質してないっ」
「ま、見張ってない建物内でだったから、だとか。それでも、言い訳にはならん」
相良さんは頭を下げた。横で直接に護衛についていた彼も頭を下げる。
「怖い目に遭わせた。もっと早く動くべきだった」
「申し訳ございませんでした」
「え、えと、仁?」
俺はぴくり、と肩を揺らした。ファーストネームで、華は相良さんを呼んだ。それが当たり前であるように。
「今後は護衛体制を見直す」
「い、いいよそんなのっ! そもそも見張られてたくないし」
「違う、華。二度と」
相良さんからでた「華」という呼び方に、やはり俺は身を硬くする。
相良さんはまっすぐに華を見つめていた。
「お前を"うしないたく"ないから」
華は固まったように動かない。軽く下げられた眉は申し訳なさをたたえていて、俺は混乱する。
(なにがあった?)
華の手を取り、握り、考える。
(この2人に、かつて、なにが)
華の手はもう冷たくなくて、俺は心がかき乱されるのを感じた。
「まぁそれでだな、家永は警察署までドナドナさせていただいたわけですが」
「……なにも喋りませんでしたか」
「水責めか何かしていいなら、吐いたかもですけど」
「な、なに物騒なコト言ってんのよ」
華は口を尖らせる。
「水責めて、あれでしょ、バケツに水張って顔つける!」
映画とかでやるやつ! と華は言う。
「あー、ちょっと違う」
相良さんはサラリと言った。
「逆立ちさせてな、鼻と口に水直接いれんの」
「は?」
「その状態で水いれるとさ、気管の反射でさ、肺から空気が出てくから。速攻で溺水状態を味わえるってワケ。ふつうに爪剥がしたりよりよっぽど効果あるよ、死ぬ感覚味わえるもん」
「ななななんつう拷問しようとしてんのよ!」
「華」
諭すように相良さんは言う。
「これな、拷問じゃねーの。身体傷つけないだろ? いちおう条約違反じゃないってことに」
「条約がどうの知らないけどっ、ダメなものはダメ」
「……はいはい、分かりましたよお嬢様。つか、やってねーよ」
相良さんは笑いながら続けた。
「やっぱ、変わんねーな、お前」
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