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【高校編】分岐・鹿王院樹

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 ソファに座る樹くんの膝の間に、私は立膝立ちで、樹くんと向かい合わせになっていた。少し下に樹くんの整ったかんばせ。
 そして樹くんの胸元を握りしめているーーっていうか、ちょっと締め上げてるみたいな、睨みつけて言う。

「もう隠し事はない!?」
「ちょっと待てなんでこんな感じなんだ」
「脅迫!」

 いっそ堂々と、私は答えた。
 あの後、樹くんを私の部屋に連れ込んで(言い方は悪いけれど!)脅迫しているのです。

(小6から!?)

 ずうっと見張られてて、樹くんはそれを知ってたって言う!
 じとりと睨む私に、樹くんは両手を上げた。

「……すまなかった。華が誘拐されて、そのあと敦子さんと話し合って」
「ほーへーん」
「……気の抜ける返事を」
「抜かないでっ」

 私は口を尖らせてみせる。

「超怒ってるんだよ私は」
「しかし、華」

 樹くんは私の頬を掴んだ。

「もし華になにかあったらどうするんだ」
「なにかって」
「今日のことも、だ。もし俺もあの人たちも来なかったら」
「……そ、だけど」
「俺はそれが恐ろしい」

 樹くんは、私を抱きしめる。

「華が傷つくことが一番怖い」

 私は樹くんの頭を見下ろした。

(あ、うずまき2つ……)

 ゆるゆると髪を撫でる。怖かったなら仕方ないなあ、なんて思ってしまうのは甘いのでしょうか? 勝手に護衛なんかつけられてて?

「……わかった」

 納得はあんまりしてないけれど、とりあえずは了承してうなずく。

「私がトラブル体質だってのはまだ納得いかないけれど」
「納得してくれ」
「できないもんね」

 樹くんは苦笑して、私を見上げてきた。重なる唇、仲直りのちゅーだ。

「なぁ華」
「なぁに?」
「華は、……俺に隠してることはないのか」

 私はきょとんと樹くんを見つめた。

「? あんな見張りつけられてたら、隠しようもなくない?」
「いや、見張りではないのだが。……たとえば、」

 樹くんの目。ほんの少し、私を責めるその視線。こんな目線は、初めてかもしれない。
 私はびくりと肩をゆらすけれど、がっちり身体をホールドされてて動けない。
 くるりと身体を回転させられて、後ろから抱きしめられるような姿勢で、膝に乗せられた。耳元に、いつもより低い声で樹くんの言葉が続く。

「たとえば、相良さん」
「?」
「どういう関係だ?」
「え、」
「呼び捨てにしていた」

 私は「あ」と思わず口に出してしまった。そういや、驚きすぎて色々忘れてた!

「何かあるのか」
「え、と、違って。友達、なの」

 少し慌てて弁明する。っていっても、ホントのことだ! 友達。ただ「前世からの」がつくけれど!

「俺と華のような?」

 むっとして、私はなんとか振り向く。私と樹くんは「特別なお友達」。……忘れがちだけど。

「そんなわけないじゃん!」

 樹くんはじっと私を見たあと、ふと眉を下げた。

「……済まない。悋気をおこした」
「りんきだか何だか知らないけど、でも、今のは酷いよ」

 樹くんをにらむ。ちょっと涙目、かも……。疑われるのってキツイんだね。

「済まない、華」

 ぎゅう、と力を込められて私は俯く。

「……私こそ、嫌な気持ちにさせてごめんなさい」
「いや」

 樹くんの少し気が抜けた声。

「今、華の顔を見て落ち着いた。華と相良さんにどういう友情があろうと、」
「私には樹くんだけだよ!」

 被せるように言った。

(どうしよう)

 嘘はつきたくない。じゃあ、言うべき? ずっと隠してたこと。「前世」の記憶があるんだってこと。

「……頭おかしいと思われたくなかったから、言ってなかったことがあるの」

 私はぽつり、と言った。前世の話。

「? 華の話ならなんでも信じる」
「……いつも思うんだけどさ、樹くんのその私に対する信頼って、どっからきてるの?」
「さあ」

 樹くんは笑った。

「華が華だからかな」
「意味わかんないなぁ」

 答えながら、ヨシ、と気合をいれた。話しちゃうぞ! このまま変に誤解? されてるのもヤダ!

(前世とか、痛い子だと思われるかな)

 むしろ、仁との話を変な嘘で糊塗したとか思われないかな。
 眉を下げた私のこめかみに、樹くんはキスをしてくれる。

「無理に言わなくていい」
「このまま変に思われてる方がヤダ」

 私は身体をひねって、樹くんの顔を見て口を開く。ええい、女は度胸よ!

「私ね、前世の記憶があるの!」
「そうか」

 樹くんは頷いた。いたってフツー、に。

「……へ?」
「で、相良さんは」
「あ、ええと、前世からの、友達、です……」
「そうか」

 樹くんはもう一度うなずく。

「なるほどな。妙な親密さがあると思っていた」
「……あの」

 私は樹くんの肩あたりの服をきゅっと掴む。

「変だと思わない? ヤバイこと言ってると思わない? コイツ痛いな厨二だなって思わないの?」
「なぜだ?」

 樹くんは心底不思議そうに私を見て、穏やかに笑った。

「華以外が言えば信じてないぞ。けれど、華だから」

 なんだかやっぱり、普通の感じで言われた。明日は晴れるみたいですね、みたいな。天気のことを話すくらいの普通のトーン。
 私は樹くんに向き直り、ぎゅうっと樹くんに抱きついた。もう、なんなのこの人、なんなのこの人!

「樹くん」
「なんだ」
「大好き!」

 樹くんは思いっきりぽかんとした顔してるけど、私は構わずぎゅーぎゅー樹くんを抱きしめた。なんでこのひと、こんなに私のこと受け入れてくれるんだろうね?
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