468 / 702
【高校編】分岐・黒田健
女子校の文化祭
しおりを挟む
黒田くんは思いっきり不機嫌だった。
ウチの学校の文化祭。私のクラスは「コスプレカフェ」って出し物で、生徒がそれぞれ色んな格好をして、飲み物とケーキを提供する、まぁ学祭とかで良くあるやつです。
(っていっても、メニューはパウンドケーキとコーヒーしかないんですけどね~)
それでもなかなか好評を頂いてる、この企画なのでしたが。
「……黒田くん?」
「設楽に怒ってるわけじゃねーから」
むすっとした顔で言われる。こんなカオで接されるの初めてで、私は思い切り戸惑ってしまった。
「やっぱさぁ」
松井さんがひょこ、と顔を出す。ロングの青のチャイナドレスは、大人っぽい雰囲気の松井さんによく似合っていた。
「やりすぎたかな」
「そうかな」
返事をしたのは、大村さん。子供向け映画のキャラクターのコスプレで、これも可愛くて似合う。
(私も一緒にこれがいいって言ったんだけどなぁ……)
私は自分の衣装を見下ろす。
(……露出が多い気がする)
気のせいかなぁ。
「やりすぎたかも。ミニスカポリスはやりすぎたかも」
松井さんは繰り返す。
「ぱつんぱつんだもんね」
「うっ」
そ、それは太ってるということ……!?
「す、好きで太ってるわけじゃ」
「いや太ってはないよ設楽ちゃん。たださあ、おっぱいがぱつんぱつん」
「でもそれに伴ってお肉も色んな箇所にっ」
なぜ!?
なぜなの!?
(ゲームの華と体格が違いすぎない!?)
事あるごとに思うんだけど……え、食べても太らないスペックとかは悪役令嬢に付属してないんですか!?
「お肉? ま、それはそうだけども」
呆れたように松井さんは笑った。私の腰のお肉をつまむ。ううっ、や、やめて……!
「だ、ダイエットしなきゃ」
「それほどじゃないよ。ふつーふつー」
「……ダイエットの必要はねーけども」
黒田くんが口を開いた。
「少しやりすぎじゃねーのか」
じろり、と全身を見られた。
「そうでもないよ」
大村さんはくすくす笑う。
「黒田くんが過保護ー。ま、もう連れてってもらって大丈夫だよ」
「え、当番は?」
私は時計をちらりと見上げた。
休憩まであと30分はあるはずなんだけれど。
「あのさぁ」
大村さんは思いっきり笑って、黒田くんを指さす。
「そんなカオした番犬が店内にいたら来るお客さんも来ませーん」
「悪かったな人相悪くて」
「さーさー、さっさと学祭デートでもなんでもしてらして!」
よくわかんない口調で言う大村さんに、松井さんが首を傾げた。
「あのね大村ちゃん」
「なぁに?」
「わたしも少し抜けていいかなぁ」
えへへ、と笑う視線の先には根岸くん。スマホで一生懸命に松井さんのチャイナドレス姿を撮影していた。
「……どいつもこいつもリア充ばっか!」
口を尖らせた大村さんだけど「えーいさっさと行ってこい!」と私たちは教室から追い出された。
「大丈夫かなぁ」
「他の当番の子もたくさんいるし」
えへへ、と根岸くんとお手手繋いでホンワリ笑う松井さんはすっごい幸せそう。
「わたしたち、このままお化け屋敷行ってくるから」
「またなー」
しあわせオーラを撒き散らしつつ、2人は人ごみに消えていく。
「付き合いたてだからかなぁ」
イチャイチャぶりがハンパない。
「らぶらぶだよねー」
言ってる私たちもきっちり手を繋いでるし、人のことは言えないかもしれないなぁ。
「どこいく?」
「とりあえずな」
黒田くんは淡々と言った。
「個人的には」
「うん」
「それ、着替える気、ねー?」
思い切り眉を寄せてた。私はしゅんとする。
「設楽?」
「そ、そんなに似合わない?」
「似合うに合わねーじゃねーし、なんなら似合ってる」
淡々と言われた。
「けど、しょーじきそんな格好の設楽を俺以外が見てるのがムカつく」
「む、ムカつく?」
「おう」
堂々と黒田くんは言った。
「すっげー嫉妬してる」
「嫉妬?」
「俺のなのに」
軽い溜め息。
「ただでさえ、設楽目立つのに」
「それはどうかな……」
視線をあげた黒田くんが、ほんとにキツそうだったから、私はこくりと頷いた。
「……でも」
「ん?」
ちょっとニヤニヤしながら、黒田くんの腕に抱きつく。
「"俺以外の"ってことは、黒田くんの前だけならいーんだ?」
ちょっとからかい気味に言ってみると、黒田くんは少し考えてから「そーかもな」と答えた。
「へ!?」
「どこで着替えんの?」
更衣室? と聞かれて慌てて頷く。
(えー……)
私はなぜだか赤面してしまう。見上げた先で、黒田くんはフツーっぼくて堂々としてて、なんだかズルイなぁなんて思うのでした。
「で、何食う?」
「食べ物限定なの?」
着替え終わった私に、黒田くんは聞いてくる。校舎裏の部活棟が、指定の更衣室になっていて、制服にきっちり着替え終わったところ。
人気のない渡り廊下を、てくてくと歩く。少し遠くから、お祭りのざわめきが静かに響いて聞こえた。
「クレープ? ポテト?」
「ちょっと待ってカロリーが」
さっきダイエット決めたばっかなのに!
「だから別に痩せなくていーだろ」
「でもー」
口を尖らせて黒田くんを見上げた次の瞬間には、ぎゅうっと抱きしめられていた。
「抱き心地いーし」
「……そっかな」
遠くから聞こえるざわめきとか、ぼんやり聞きながら考える。そんくらいでダイエットする気なくなっちゃうんだから、不思議なものです。……決して自分に甘いわけでは、ないですよ。多分。
ウチの学校の文化祭。私のクラスは「コスプレカフェ」って出し物で、生徒がそれぞれ色んな格好をして、飲み物とケーキを提供する、まぁ学祭とかで良くあるやつです。
(っていっても、メニューはパウンドケーキとコーヒーしかないんですけどね~)
それでもなかなか好評を頂いてる、この企画なのでしたが。
「……黒田くん?」
「設楽に怒ってるわけじゃねーから」
むすっとした顔で言われる。こんなカオで接されるの初めてで、私は思い切り戸惑ってしまった。
「やっぱさぁ」
松井さんがひょこ、と顔を出す。ロングの青のチャイナドレスは、大人っぽい雰囲気の松井さんによく似合っていた。
「やりすぎたかな」
「そうかな」
返事をしたのは、大村さん。子供向け映画のキャラクターのコスプレで、これも可愛くて似合う。
(私も一緒にこれがいいって言ったんだけどなぁ……)
私は自分の衣装を見下ろす。
(……露出が多い気がする)
気のせいかなぁ。
「やりすぎたかも。ミニスカポリスはやりすぎたかも」
松井さんは繰り返す。
「ぱつんぱつんだもんね」
「うっ」
そ、それは太ってるということ……!?
「す、好きで太ってるわけじゃ」
「いや太ってはないよ設楽ちゃん。たださあ、おっぱいがぱつんぱつん」
「でもそれに伴ってお肉も色んな箇所にっ」
なぜ!?
なぜなの!?
(ゲームの華と体格が違いすぎない!?)
事あるごとに思うんだけど……え、食べても太らないスペックとかは悪役令嬢に付属してないんですか!?
「お肉? ま、それはそうだけども」
呆れたように松井さんは笑った。私の腰のお肉をつまむ。ううっ、や、やめて……!
「だ、ダイエットしなきゃ」
「それほどじゃないよ。ふつーふつー」
「……ダイエットの必要はねーけども」
黒田くんが口を開いた。
「少しやりすぎじゃねーのか」
じろり、と全身を見られた。
「そうでもないよ」
大村さんはくすくす笑う。
「黒田くんが過保護ー。ま、もう連れてってもらって大丈夫だよ」
「え、当番は?」
私は時計をちらりと見上げた。
休憩まであと30分はあるはずなんだけれど。
「あのさぁ」
大村さんは思いっきり笑って、黒田くんを指さす。
「そんなカオした番犬が店内にいたら来るお客さんも来ませーん」
「悪かったな人相悪くて」
「さーさー、さっさと学祭デートでもなんでもしてらして!」
よくわかんない口調で言う大村さんに、松井さんが首を傾げた。
「あのね大村ちゃん」
「なぁに?」
「わたしも少し抜けていいかなぁ」
えへへ、と笑う視線の先には根岸くん。スマホで一生懸命に松井さんのチャイナドレス姿を撮影していた。
「……どいつもこいつもリア充ばっか!」
口を尖らせた大村さんだけど「えーいさっさと行ってこい!」と私たちは教室から追い出された。
「大丈夫かなぁ」
「他の当番の子もたくさんいるし」
えへへ、と根岸くんとお手手繋いでホンワリ笑う松井さんはすっごい幸せそう。
「わたしたち、このままお化け屋敷行ってくるから」
「またなー」
しあわせオーラを撒き散らしつつ、2人は人ごみに消えていく。
「付き合いたてだからかなぁ」
イチャイチャぶりがハンパない。
「らぶらぶだよねー」
言ってる私たちもきっちり手を繋いでるし、人のことは言えないかもしれないなぁ。
「どこいく?」
「とりあえずな」
黒田くんは淡々と言った。
「個人的には」
「うん」
「それ、着替える気、ねー?」
思い切り眉を寄せてた。私はしゅんとする。
「設楽?」
「そ、そんなに似合わない?」
「似合うに合わねーじゃねーし、なんなら似合ってる」
淡々と言われた。
「けど、しょーじきそんな格好の設楽を俺以外が見てるのがムカつく」
「む、ムカつく?」
「おう」
堂々と黒田くんは言った。
「すっげー嫉妬してる」
「嫉妬?」
「俺のなのに」
軽い溜め息。
「ただでさえ、設楽目立つのに」
「それはどうかな……」
視線をあげた黒田くんが、ほんとにキツそうだったから、私はこくりと頷いた。
「……でも」
「ん?」
ちょっとニヤニヤしながら、黒田くんの腕に抱きつく。
「"俺以外の"ってことは、黒田くんの前だけならいーんだ?」
ちょっとからかい気味に言ってみると、黒田くんは少し考えてから「そーかもな」と答えた。
「へ!?」
「どこで着替えんの?」
更衣室? と聞かれて慌てて頷く。
(えー……)
私はなぜだか赤面してしまう。見上げた先で、黒田くんはフツーっぼくて堂々としてて、なんだかズルイなぁなんて思うのでした。
「で、何食う?」
「食べ物限定なの?」
着替え終わった私に、黒田くんは聞いてくる。校舎裏の部活棟が、指定の更衣室になっていて、制服にきっちり着替え終わったところ。
人気のない渡り廊下を、てくてくと歩く。少し遠くから、お祭りのざわめきが静かに響いて聞こえた。
「クレープ? ポテト?」
「ちょっと待ってカロリーが」
さっきダイエット決めたばっかなのに!
「だから別に痩せなくていーだろ」
「でもー」
口を尖らせて黒田くんを見上げた次の瞬間には、ぎゅうっと抱きしめられていた。
「抱き心地いーし」
「……そっかな」
遠くから聞こえるざわめきとか、ぼんやり聞きながら考える。そんくらいでダイエットする気なくなっちゃうんだから、不思議なものです。……決して自分に甘いわけでは、ないですよ。多分。
0
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる